51話 笑い者
「……ククッ……カレル兄さんたち、死んだかな?」
「ププッ……さすがに死んだんじゃない? もし懲りずにまたここに来てたら、少なくとも無事じゃ済まないよねぇ」
山麓の町グレルリンに隣接する初級ダンジョン『嘆きの壁』にて、ヨークとラシムはペア狩りを楽しみつつ、カレルたちに訪れたであろう悲惨な結末に思いを馳せている様子だった。
「《ゼロスターズ》自体には恨みなんてないけど……これでよかったんだよ。冷やかしでもあんな無能どもを入れてたらさ、輝かしい経歴に傷がつくところだっただろうし……」
「そうねぇ。アレと関わりを持ったことでぇ、今頃あいつの親みたいに後悔してそー……」
「「あははっ!」」
二人はモンスターを倒しつつ会話を弾ませていたが、しばらくして周りで狩りをする冒険者たちの視線が気になり出したのか、ヨークが怪訝そうな表情を浮かべた。
「……あれ。なんかさ、僕たち見られてない……?」
「えー? そんなわけないでしょ。アレじゃあるまいし……」
一度は呆れ顔で突き放したラシムだったが、まもなく彼女もヨーク同様視線が気になるのかキョロキョロと周りを見渡すようになる。
「……本当だ。あたしたちじっと見られてるみたい……」
「……なんでだろ? 別におかしな狩り方はしてないし、スタンダードそのものなのに……」
「「……」」
ついには、周辺にいる冒険者のほとんどから指を向けられて笑われるようになり、二人はとうとう我慢の限界に達した。
「お……おい、さっきから何見てるんだよ! 僕たちに何か恨みでもあるっていうのか!?」
「そうよ、失礼じゃないの!」
二人が怒鳴り声を上げてからまもなく、男だけの三人パーティーが一様に口を押さえつつ愉快そうにヨークとラシムの元へと近付いていく。
「「……」」
ヨークたちは剣を構えて警戒する仕草を見せたが、三人パーティーが一定の距離を置いて立ち止まったところで、そのうちの一人の男が笑顔で万歳しながら前に出てきて戦う意思がないことを示されたため、とりあえず武器を下ろした。
「お、お前、何をしにきた? 一体何がそんなにおかしいんだ!?」
「そうよ! 頭おかしいんじゃないの!?」
「……いやー、悪いね。だってあんたら、あんなおかしな広告を貼るもんだからさ……」
「「広告……?」」
「あんなの見たら、そりゃ誰だって笑うさ……プ、ププッ……」
「「「ブハッ……」」」
笑いは連鎖反応を引き起こし、三人パーティーはもとよりほかの冒険者たちにも広がり、まさにヨークとラシムは自分たちが笑いの的になっているという事実をこれでもかと思い知らされ、遠目でもわかるほど見る見る顔を赤くしていった。
「――あっ……」
しばらくして、精神状態が少し落ち着いたのかヨークがはっとした顔になる。
「どうしたの、ヨーク?」
「……カレルにやり返されたかも……」
「えぇー!? そ、そんなわけないよ。もしアレがやり返すとしても、その前にここでやられてて無事じゃ済まないはずだし、メンバーがあんなやつのために何かしてやるなんて、そんなのありえな――」
「――じゃあなんでこんなことになってるんだよ!」
「……そ、それはぁ……」
「なんとか言えよ!」
「……う、えぐっ……そんなに……そんなに怒らなくてもいいじゃない……」
「……ご、ごめん。僕もラシムと同じ考えだったけど、この状況はもうやり返されたとしか思えないよ。とにかくギルドへ行ってこの目で確かめてこよう!」
「うん!」
こうして二人は、すれ違う冒険者たちにことごとく笑われるという羞恥に耐えつつもダンジョンを出て、血眼で山麓の町の冒険者ギルドへと向かうのだった。
「――な、なんだよ、これえぇ……」
「……う、嘘おぉ……」
とある広告の前では人だかりができていて、ヨークとラシムが絡みつくような粘っこい視線を受けながら広告の前にようやくたどり着いた。そこにはこう書かれていた。
『刮目せよ! 天下無双のヨークとラシムのペアPT、今ここに爆誕! あらゆるダンジョンを制するのは《ゼロスターズ》ではなく僕たちだ! その鬼神の如き凄まじい戦いぶりを生で観戦したい場合、今すぐ初級ダンジョン『嘆きの壁』へ参りなさい! 壮絶すぎて目立ちまくりなのですぐにわかるだろう! 大いに震え、ひざまずくがいい! あ、ちなみに僕たちの容姿は――』
「そ、そんな……! こんなの捏造だ!」
「そうよ! これは何者かの陰謀だわ! それとも、あたしたちがこんなのを貼った証拠でもあるわけ!?」
弁明するヨークとラシムを強面の冒険者たちが次々と取り囲んでいく。
「な、なんだよ!」
「何よ!」
「……おう、ヨークとラシムとかいったな? オメーら、色んなパーティーからの誘いを蹴りまくってるから元々評判悪いの知ってたか?」
「何い!? そんなに尊大な性格ならこの貼り紙も納得できるぜ!
「うーし、これからたっぷり粘着させてもらうからよお?」
「覚悟しとけよ……」
「「……」」
ヨークとラシムの二人は、押し殺すような笑い声と侮蔑の視線に埋もれながら、へなへなとその場に座り込むのだった……。




