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5話 無邪気


「……」


 鳥と人の血が混ざった亜人の少女コレットは、俺が話している間じっと暗い表情で項垂れていた。あれだけ明るい子だったのが嘘みたいだ。


 きっと心底失望したんだろうな。どうしようもない外れスキル持ちの俺に。十年以上ずっと一緒だった幼馴染でさえああいう反応だったんだし驚かない。亜人好きで有能な人間なんていくらでもいるはずだし、ここで無能の俺をとっとと切って誰かに頼るのが賢明な判断だろう。国の決まりで亜人や獣人はスキルを授与してもらえないから、自分だけの力で状況を打開することは難しいんだ。


「酷いです……」


 コレットが苛立った顔で立ち上がるのがわかる。折角有能な主人と巡り合えたと思ったのに、無能だとわかってがっかりした上に怒りが込み上げてきたってところか。どんなに叩かれても失った時間は返せないし、俺のスキルランクは上がらないけどな。


「……悪かったな、無能で。短い間だったけど、俺は楽しかった。今までのことは忘れていいご主人様を見つけろよ、コレット」

「……え?」

「……ん?」

「ストレス発散しますっ!」

「……は?」


 コレットが砂浜を物凄い勢いで右往左往し始めたが、すぐにやめたかと思うと疲労困憊の様子で俺の近くで座り込んでしまった。なんなんだ、この謎行動は……。


「……ぜぇ、ぜぇ……。よく考えたら私、腹ペコでしたぁ……」

「……おいおい、なんで戻ってきたんだ? 無能の俺に嫌気が差したんじゃなかったのか?」

「……ええっ!? 何を言ってるんですか! ぜんっぜんそんなことないです! むしろ、ますますカレルさんのことが好きに……あっ、今のは聞かなかったことにしてください! てへっ……」

「……無能な俺には何もしてやれることなんてないのに、あんたも変わってるな……」

「それより、カレルさんに酷いことをした二人に腹が立ちましたし、【釣り】っていうスキルにも興味を持ちました……!」

「……嘘でも嬉しいよ」

「嘘じゃないですよ、もー……」

「……」


『もー』っていうコレットの発言を聞いて俺は我に返る。俺を捨てた幼馴染の一人、ラシムの口癖だったな……。


「どうしたんです? 浮かない顔ですよ……」

「あ、いや、なんでもない」

「むぅ、怪しい……」

「……」


 この少女はそれだけ現実を知らない無邪気な子なのかもしれないな。そういう風に見せてるだけかもしれないが、どうせ一度は死んだ身だし騙されたと思って接してみるか。いずれは俺から離れるだろうが、それまで一緒にいて現実を思い知るのもいい経験になるだろう。


「あの……ところで、【釣り】ってどうやるんです?」


 コレットが目を輝かせている。それがあまりにもまぶしくて俺は正視できなかった。


「べ……別に大したものは釣れないよ。なんせF判定の外れスキルだしな」

「やってみなきゃわかりませんよ? もしかしたら、最高のお魚さんが釣れるかもです! じゅるりっ……」

「……あはは。まあいいや、そんなに言うならとりあえずやってみるよ」

「わー! 楽しみですー……」


 というわけで、俺は早速釣りをするべく道具を適当に用意することにした。体の一部を海水に浸すだけでも釣れるみたいなんだが、それじゃ釣りの雰囲気が出そうにないからな。竿代わりの枝や糸代わりの草を探してきて、結んでから海辺に垂らしてみた。うん、こんなんでも釣りっぽい空気は出ている。


「どきどき、わくわく……」

「……」


 すぐ側でコレットが食い入るように見てくるせいで俺まで緊張してきた。いいものが釣れたらいいが、ダメだならダメでしょうがない。他人の期待に充分に応えてやれるには俺の外れスキルじゃ難しいだろうし、あまり感情を籠めないようにしようと思う。彼女の期待にどうしても応えたいとかそういう気持ちでいると、また裏切られたときに苦しい思いをするだけだしな。これからは楽に生きたいんだ……。

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