21話 色眼鏡
とあるパーティーの宿舎内では、リーダーが連れてくる予定の新たなメンバーを迎えるにあたり、歓迎会の準備が行われているところだった。
「リーダー、遅いわねえ……。私、疲れちゃったわ……」
沢山の料理で溢れたテーブル前、金色のお下げ髪の少女が溜息をつく。
「ファリム、あんたね、さっきから疲れた疲れたってうるさいけどなーんにもしてないだろ? 疲れる要素なんて、椅子に座って足をばたつかせてることくらいじゃないか」
そんな彼女に文句を言い放ったのは、ポニーテールの快活そうな少女だった。
「ちゃんとお掃除くらいしたわよ。失礼ねっ……」
「どこをさ?」
「自分の部屋」
「まったく……それくらい当たり前じゃないか! お嬢様じゃあるまいし……」
「ルーネだって、ほとんどなーんにもしてないくせに……」
「……そっ、それはあの子があまりにも万能だから……」
「……まぁね」
「「……」」
二人の訝し気な視線は、自ずと同じ場所へと向かっていた。その先には、緑色の長髪の少女が微笑を浮かべながら黙々と準備作業を続ける姿があった。
「……マブカって相変わらず何考えてるかさっぱりわかんないよね」
「あの子なりに楽しみにしてるんじゃないかって、うちは思うよ」
「まぁ、新しいメンバーが今日来るかもしれないわけだしねぇ。ルーネはどんな人が来ると思う?」
「んー……どうせリーダーのことだし、また女の子を連れてくるだろうね。ファリムはどんな人に来てほしいのさ?」
「……できれば男の人がいいなあ。性格が良くて大人しくて、光属性の私が守ってあげたくなるような……」
「あんたは見た目が幼いから守られる立場だし、そもそも腹黒なんだから闇属性でしょ!」
「う、うるさいなぁ……。もしその人が心に深い傷を持ってたら、私がママになって心を開かせてあげるの……。素敵でしょ?」
「はいはい、そうでちゅねえ」
「子供扱いしないで! ルーネはどんな人がいいのよ?」
「んー……うちは……リーダーが選ぶんだし、別にねえ……」
「今はここにいないんだから正直に言ってよ」
「……そ、そうだね。あんまり陰気なのは嫌だけど、そこそこ陰のある人がいいかもだね。大体うちのリーダーがまぶしすぎるし……」
「あはっ。それ言えてる――」
「――お茶です」
「「はっ……」」
いつの間にかマブカがすぐ近くにいて、竦み上がるファリムとルーネ。
「……あ、ありがとね、マブカ」
「ちょいと心臓に悪かったけど、ありがとさん、マブカ」
「……」
コクコクとうなずき、また何事もなかったかのように作業に戻るマブカ。
「……ファリム、あんたそんなに心を開かせたいなら、まずマブカをなんとかしてやるのが筋じゃないの?」
「む、無理よ、そんなの!」
「あははっ。冗談だよ冗談。あれがあの子の普通なんだろうしね」
「まぁ、ここに来てからずっとあんな調子だしねぇ。というか、あの子って謎が多すぎなのよ……」
「リーダーは詮索するなって言ってたけど、さすがに気になるよねえ」
「うん……」
二人が言うようにマブカは謎の多い少女だったが、それもまた日常の一部として溶け込んでいたのだった。
「もう、考えてもわかんないからあの子の話はやめやめっ」
「あいあい」
「もし新メンバーが女の子だったら、私より年下がいいなあ」
「それってもう赤ちゃんでしょ……」
「い、いくらなんでも失礼だわ! 最近になって少しだけ背が伸びたんだからっ……」
「んー……ぜんっぜん変わってないように見えるけど……」
「レッテル! 色眼鏡!」
「はいはい――」
「――ただいまー!」
「「あっ……!」」
「……」
リーダーの声が聞こえてきた途端、会話と作業をやめる三人の少女たち。彼女たちはお互いにうなずき合うと、揃って物凄い勢いで玄関へと走っていくのだった。




