20話 予想外
「……まさか……」
俺たちはまんまと騙されてしまったのかもしれない。もし彼が殺人鬼だったら……。
「……そう。僕たちが今向かっているところは――」
「……」
殺しても誰にも気付かれない場所、という言葉が脳裏をよぎる。実際、今向かっているのは山のほうだ。確かグレルデン山だっけかな。都からは大分離れてしまったし、今更逃げようとしても手遅れだろう。いくら暴れたところで俺たちがかなうような相手じゃないわけだし……。
「――普段通っているダンジョンとは真逆の、それも遠方にある宿舎さ……」
「「……えっ?」」
ジラルドの発言は予想の斜め上だった。やっぱり宿舎……?
「でも、なんでそんな遠くに……」
「ふっふっふ。今にわかるよ。あと、僕は君たちに危害を加えるどころか、騙す気もないから安心して」
「「……は、はい……」」
なるほど、確かに彼の勘が鋭いというのもわかる。
「しかし、女の子ってやつは……なんで僕に魅力を感じてくれないんだろうねえ……?」
「「……」」
「黙らないで! 余計に惨めになるからっ!」
「「あはは……」」
俺たちは笑うしかなかった。
「……あの、ジラルドさんって面白いので、いつかきっといい人が見つかりますよ!」
「……うう。なんか地味に傷つく。遠ざけられたみたいで……」
「大丈夫です! 私が保証します!」
「……片思いの人に保証されても……」
「ぐはっ……」
「……」
コレット、やり返されちゃったな。俺が態度をはっきりしないのが悪いんだけど、誰かを天秤にかけるつもりもなく、誰であれ依存しすぎたくないっていう気持ちがあるんだ。
もう既に都が小さく見えることに気付く。会話している間にここまで離れたんだな。でも、上級ダンジョンからそれだけ遠ざかっていることは間違いない。確かこのグレルデン山の麓には町があって、そこには初級ダンジョン『嘆きの壁』があると記憶しているんだが、俺たちは山麓じゃなく山頂のほうに向かってるしますます意味がわからなくなった。
俺たちを嵌めるつもりじゃないなら、意図は一体なんなんだろう? 戦闘力を飛躍的に高める謎の修練場とか別荘でもあるんだろうか? 俺をそこで一気に鍛えて戦力にするつもりとか……。初心者がいきなり強豪パーティーの一員となるわけだからその線もありえそうだが、確信は持てなかった。
「さー、ここからはさらに飛ばすから、しっかり掴まってて!」
「「わっ!?」」
ジラルドが勢いよく投石したかと思うと、俺たちの体はまさに鳥のように空高く浮き上がり、山を見下ろすような格好になっていた。な、なんてパワーだ……。
「うっ……」
「わあ、高いですー!」
俺は下を見て目がくらみそうになり、目を瞑った。コレットは鳥人間だからなのか平気みたいだが、俺はただでさえ高いところが苦手だからな。心臓に悪いっていうのはこのことだ……。
「……」
「カレルさん、もう目を開けても大丈夫ですよ!」
「……あ……」
俺たちは疎らな木々の中に立っているのがわかった。
「ここは……?」
「グレルデン山の中腹さ。カレル君、コレットさん、後ろを見てごらん」
「「……おおっ……」」
ジラルドに言われて振り返ると、王都は既に豆粒のように小さくなっているのがわかる。あっという間にここまで来ちゃったんだな……。
「あ……!」
「カレルさん?」
俺はわかってしまった。どうしてダンジョンからこんなに離れるのか。
「【投影】で一気にダンジョンまで行けるから、わざわざこんな遠くに宿舎が……?」
「うんうん、よくわかったね!」
「なるほどぉ、さすがカレルさん!」
「でも、それだけじゃあないんだ。僕たちがこんな遠くに宿舎を構えるのには、もっとちゃんとした理由がある」
「「もっとちゃんとした理由……?」」
「今にわかるよ」
「……」
またそれかぁ……。
「てか、僕たちの宿舎はもっと上のほうだけどね!」
「「えっ?」」
油断した……。俺たちは再び高く飛び上がり、緑の中を駆けあがっていた。どこまで飛ぶんだよというくらい。
「「――あっ……!」」
その先にはなんとも壮観な高原が広がり、幾重にも連なる美麗な山々を背景にして宿舎がぽつんと建っていた。
「あ、あれが……?」
「わ、私たちの宿舎なんですか……?」
「そうそう。あれが僕ら《ゼロスターズ》の宿舎さ!」
「……」
宿舎を含めた雄大な景色に思わず息を呑む。凄いな……。人為的なものを一切感じさせないくらい無駄がない。あんなところで暮らせるなんて、ありがたいけど上手くいきすぎてる気もする。これからあそこでどんなことが待ち受けているんだろうか。俺は期待と不安で胸がいっぱいになっていた……。




