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15話 昔話


「……コレット、起きてる?」

「……はい、起きてますよー」


《ゼロスターズ》にスカウトされた日の夜、俺たちは偶然見つけた崖の下の洞穴にいた。


「やっぱ眠れないよな」

「……ですねぇ。緊張しちゃって……」

「俺もだ。こういうところで寝るのに慣れてないってのもあるけど……眠気が来るまでちょっと話すか」

「そうですね! 私の波乱万丈の人生を、特別にカレルさんにだけ聞かせてあげます……」


 得意げに胸を張るコレット。胸自体はあまりないけど……。


「そういや詳しく聞いたことなかったな。奴隷だったっていうのは知ってるけど」

「……最初からそうだったわけじゃないですよ? 私、お母さんに手を引かれてずっと旅をしていたんです。色んなところを一緒に見て回りました。けど、旅先で倒れて、そのまま帰らぬ人になってしまって……」

「……」

「独りぼっちになって、お腹が空いて途方に暮れていたら奴隷商人さんに話しかけられて、ご飯をご馳走してもらったんですが……その代わりにって奴隷の刻印を押されちゃいました……」

「……そうか。なんか痛そうだな」

「それが、凄く怖かったんですけど不思議と痛みはなかったんです。首輪をした人に逆らうと痛みが出るそうですが……」

「どこに押されたんだ?」

「ここですっ!」

「え? ちょっ……!」


 コレットが唐突に上着の裾を勢いよく捲って背中を向けてきた。あー、心臓に悪い。背中なら大丈夫だと思ったのかもしれないが無防備な子だ……。


「翼の付け根から少し下のほうです!」

「あれ? 何もないぞ?」

「首輪をつけた人に逆らうと、痛みと一緒に刻印が浮かび上がってくるそうですよ。試してみます?」

「おいおい……」

「冗談です! さあ、次はカレルさんの番ですよ?」

「……あ、ああ」


 いざ自分の過去を話すとなると妙に緊張してくるな。別に大した人生を送ってきたわけじゃないんだけど……。


「俺はコレットほど波乱万丈じゃないけど、それでもいいなら……」

「大丈夫ですよ!」

「……俺はラダルカっていう田舎町で育ったんだけど、学長の偉そうな父親と見栄っ張りの母親がいて、いつも喧嘩ばかりだったからさっさと別れればいいって思ってたよ」

「……そうなんですね。両親が喧嘩ばかりなのは辛そうです……」

「居心地は凄く悪かったな。幼馴染たちと遊ぶことで気を紛らわせてたけど、結局はコレットに以前話したように最悪の形になったわけで……」

「……やりきれない話ですね」

「ああ。辛いからって依存しすぎるとこういう結末になるんだ。裏切られたら自分が傷つくだけだし、相手にしてみても依存されたら重いだろうしな」

「そんなことないですよ? 私が受け止めてあげます。まず手始めに頭をなでなでしてあげましょうねぇ……」

「……調子に乗らない」

「うふふ……」

「……思えば、おかしいことは幾つかあったんだ。家族に見放され、誰かに依存して盲目になっていく俺を、あいつらは陰で笑ってたんじゃないか。その間に、あいつらはできてたってわけさ……。バカだよな。何も知らずに俺は勝手に慕われてると思って、のほほんと生きて……コレット?」

「……くー……」

「……」


 コレットはいつの間にか眠ってしまっていた。俺の肩に顔を預けるようにして。


「……おやすみ、コレット」


 俺は彼女を横にすると、自分の服をかけてやった。また上半身裸になってしまうが、まあいっか……。




 ◇ ◇ ◇




「ラシム、寝る前にちょっと見せたいものがあるんだ」

「どしたの? ヨーク」

「ほら、見てこれ……」


 王都の中心地帯の一角にある高級宿にて、ヨークがベッド上で興奮気味にラシムに見せつけたのはとある広告だった。


「わおっ。アレってまだ王都にいたんだ……。【釣り】スキルを使ったイベント? 変なのー……」

「やっぱり、あのときアレはギルドにいたんだよ。故郷に逃げ帰ったとばかり思ってたけど、僕たちに叩きのめされたのがよっぽど悔しかったんだろうね」

「だねぇ……。でも驚いた。アレって実際は脆いやつって思ってたけど、本当にあきらめ悪いんだ。やっぱりストーカー気質なのかもね!」

「言えてるねっ。ふわあ……そうだ。明日さ、僕らでアレの元に遊びに行こうよ」


 ヨークが欠伸しつつ提案するも、ラシムが怪訝そうに眉をひそめる。


「えー? あんなのにもう会いたくないよー。あたしたちだって色んなパーティーから声かかってるし、やることがいくらでもあるのに……」

「アレと違ってさ、僕らの能力ならもっといいパーティー見つかるから変なので妥協することないって。それに、あんだけしつこいんだからこの先本物のストーカーになることだってあるかもしれないし、今のうちに僕たちの仲を見せつけて芽を摘んでやるんだよ……」


 ヨークの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。


「もー、ヨークたら意地悪ねっ……。それってつまり冷やかしってことでしょ?」

「……あはっ。バレバレか……」

「でも、面白そうね!」

「うんうん。アレの悔しがる顔、目に浮かぶだろ?」

「だねぇ。アレって散々親のことで愚痴ってたけど、出来の悪い息子に育ったことで親のほうがよっぽど嘆いてそうだよねぇ」

「だねぇ。それも【釣り】スキルだし……可哀想なアレル。僕だったらとっくに自殺してる……」

「アレルって……プッ……」

「「あははっ!」」

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