14話 虹
「「うわ……」」
雨がやんだこともあり、俺たちはすぐに釣り場に戻ったわけだが、イベントで釣った道具がほとんど流され、残った衣服類も水浸しになってしまっていた。元々ゴミだったものがさらに価値を失ってしまった格好だ。これじゃ乾くまで売り物にはならないだろうな。どうしよう。お金は全部使い果たしちゃったから、安いボロ宿に泊まれるお金すらない……。
「で、でもカレルさん、ちょうどよかったですね。私たちを拾ってくださる方がいて……」
「……コレットはあいつの言ってること本気で信じてるのか?」
「……ええ? でも、騙してる感じには見えなかったです……」
「俺も人のことは言えた義理じゃないけどさ……コレットはすぐ詐欺師に引っ掛かりそうだな」
「うー……じゃあ、行かないんですか……?」
「ああ、当然だ。あんなの、どうせ女目的だろ」
実際、雷が鳴って俺にコレットが抱き付いてきたときのあいつの顔、凄く冷たい感じだった。スカウトすると見せかけて、宿舎へ向かう途中で俺を片付けてコレットに乱暴するつもりなのかもしれない。
「私目的なんですか……?」
「わからないけど、その可能性もあるってこと。凄いパーティーのリーダーなのに気さくで面白い人って思わせてさ。悪いやつがたまにいいことしたらイメージがぐっと良くなるみたいに、印象操作で相手を信用させる詐欺師の手法。実際、話しやすいって思ったろ? 楽しそうにしてたし。本来の狙いはコレットにあるんじゃないか」
「……あの……」
「ん?」
「もしかして……私、カレルさんに嫉妬してもらえたんですか……?」
「……は、はあ? んなわけないだろ! 心配してるんだよ!」
「そ、そうなんですね……」
「あ、ああ。でも、俺のほうが間違ってる可能性もあるし、明日になったらあいつの使用人としてついていけばいい。俺としては、行かないでほしいけど……」
できれば行かせたくないが、どの道を選ぶかは本人の自由だからな。俺に縛る権利はない……。
「カレルさんが行かないなら私も行きません」
「……行きたいだろうに、ごめんな」
なんか、無性に罪悪感が湧き上がってきた。疑ってばかりで内側に閉じこもっていたら何も変わらないというのに、それに付き合わせるなんて奴隷と同じじゃないか……。
「……なんで謝るんですか……?」
「……俺、やっぱり嫉妬してたかもしれない……」
「カレルさん……?」
「コレットの前向きな心にもだけど、あいつの只者じゃないオーラにもな……」
「カレルさんはカレルさんで、ほかの人にはない素晴らしいものを持っていると思いますよ」
「……そうかもしれないけど、今のままじゃ何も変わらないからな」
コレットの将来のためにも、俺は変わるべきかもしれない。そうだ、無理矢理にでも変わろう。マイナスをプラスに。虚勢でもいいから、とにかく一歩前に踏み出すんだ。
「……俺、入るよ。《ゼロスターズ》に」
「ええっ!? カレルさん、無理してませんか……?」
「……少し。でも、たとえ騙されたとしても、コレットと一緒ならいいかなって……」
「それなら、ご安心を!」
「……ん、どういうこと? また涙をぐっと堪えるとか?」
「いえっ……釣りならこっちが本場ですって言い返します!」
「……なるほど。でも、こっちも結局釣られてるわけだし相手にはノーダメージだろうな」
「でも、それでも私たちの気が少しは晴れると思うので……!」
「……そうだな。少しは笑えるかもだ」
「でしょー!」
雨雲が消えてすっかり明るさを取り戻した砂浜で俺たちは笑い合った。
「――あっ……」
「どうしたんですか?」
何か使えるものがないかと、水浸しになったガラクタを漁っていたら、遠くに虹がかかっているのが見えた。
「ほら、虹」
「わあ……とっても綺麗です……」
「見飽きた光景だなんて思ってたけどさ、いざここを離れると思うと寂しくなるな……」
「ですねぇ……」
「我慢するな、泣けよ」
「泣きません!」
「ほら、もうここから離れるぞ。二度とは戻れないあの日……」
「……むー! カレルさんの意地悪……。泣かせようたって、そうはいきませんからね! むしろ泣いてください!」
「だったら……翼でもくすぐって無理矢理泣かしてやるか?」
「ひー! 逃げるが勝ちです!」
「待て!」
「「……あっ……」」
砂浜でコレットを追いかけてたら、彼女が転んだので押し倒してしまう形になった。
「……コ、コレット……」
「……カレル、さん……」
おいおい、なんだよこの妙な空気は。異常なくらい胸が高鳴ってる。というか、少しくらい抵抗しろよな……。
「――あのう……」
「「はっ!?」」
すぐ近くに、申し訳なさそうに覗き込んでくるガリガリの男がいた。
「釣りイベントは……まだやってるのかなあって……」
「「あっ……」」
すっかりイベントのこと忘れてた……。




