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12話 にわか雨


「あ、釣れました! これは……一体なんでしょう? ズ、ズボンです! ズボンが釣れちゃいましたっ!」

「うおっ、ズボンなんか釣れるのかよ! レアじゃね!?」

「……」


 俺たちの日常では、衣服系が釣れるのは割と普通なんだけどな……。


「次は……おおっと、イカさんです! 激しく動いておりますっ!」

「すげっ、こんな浅いところでイカなんて釣りやがった! ありえねー!」


 確かにこれは珍しい。出てよかった……。


「なんでも釣れるんじゃな!」

「今度は何が釣れるのか賭けようぜ!」

「……な、なんと賭けが始まってしまいましたが、賭けすぎて破産しないようにお願いしますね!?」

「「「わははっ!」」」

「「……」」


 俺とコレットは、顔を見合わせて目配せし合った。今のところ、投げ銭箱が半分ほどお金で埋まるほど釣りイベントは盛況していて、新しい客もどんどん集まっていた。これもコレットの明るいキャラクターのおかげだ。人間不信気味の俺が不愛想に淡々と【釣り】スキルでイベントを進行しても、決してここまでの成功はなかっただろう。


「――なんか、ぶっちゃけつまんなくね? これ……」


 唐突に投げかけられた男の一声で、それまでの和気藹々とした空気にヒビが入ったような気がした。まずいな。波紋が広がってるのかさざ波のようなざわめきが上がっていて、みんな困惑した様子を隠せない。


 正直焦るが、気にしちゃダメだ。こういう客だっているのは当然だろう。色んな考えの人間がいるんだから……。


「つ、釣りは我慢が基本です! 大物が釣れたらスッキリ爽快ですよ!」


 コレットが空気を戻そうとするが、ダメだ。コップから零れた水が二度と戻らないように、今まで作り上げたいい雰囲気が崩れ出しているのがわかった。


「騙されるなよ、お前ら。誰も言わないなら俺が言うわ。ゴミみたいなもんばっか釣れてさ、アホみてえ。子供騙しかよ。帰るわ、俺。時間損した」

「……ぼ、僕たちも帰ろうか」

「そうね、あたいもなんか飽きちゃった」

「帰ろ帰ろー」

「わしもそろそろ……」

「あたしもー」


 一人の発言がきっかけになったのか、溢れ返っていたはずの客は見る見る減っていった。もう、砂浜には両手で数えられるほどしか残っていない。


「ま、まだこれからですよー! お魚さんが釣れたら、みんなでその場で食べるのもよし! 安値で買うのもよし!」

「あっ……」


 思わず声が出る。コレットが言った側から、これ以上ないグッドタイミングで小魚が釣れたんだ。こういうのが出ること自体ほとんどないからラッキーだ。


「お、本当に釣れた! じゃあ買うよ」

「あ、はい!」


 コレットも、客の一声でやる気が上がったのか、素早い動きで魚を捕まえてくれて歓声が上がった。よしよし……。


「一リパスでいいよな?」

「……え? ちょっと安すぎますよお!」

「あっそう。じゃあいらねえよ、こんなゴミ」

「そ、そんな。お魚さんをゴミだなんて……」

「見てよ、こいつ、泣きそうだぜ。冷やかしただけなのにわかってないっぽい」

「見事に釣れたな」

「プッ……」

「「「あははっ!」」」

「「……」」


 俺たちは、客が嘲笑しながら帰っていく様子を呆然と見守るしかなかった。残っているのはほんの数名だが、なんとも気まずそうな顔だから申し訳なさすら感じた。


「……ひ、酷い客でしたねえ! カレルさん、それに残ってくれた神様のようなお客様、切り替えていきましょう!」

「……もういいよ、コレット」

「あ、あきらめないでください! まだ――」

「――もういいって言ってんだろ!」

「……ご、ごめんなさい……ひっく……私……」

「……悪い。泣かせるつもりはなかったんだ……。ただ、こんな状況で続けても惨めになるだけだと思って……」

「……えぐっ。だ、大丈夫、です。泣いてません、ほら……!」

「……目、真っ赤だぞ?」

「うぅ……。ギリギリで耐えた結果です!」

「バカ……辛いときは泣いたっていいのに……」

「泣きませんっ! ……って、あれ? お客さん、いなくなっちゃいましたね……」

「……そうだな。あ……!」


 気が付くと、投げ銭箱が消えてしまっていた。


「「盗られた!?」」


 二人で必死に探し回るが、どこにも見当たらない。しかも最悪なことに雨まで降り始めた。さっきまで晴れてたのに……泣きっ面ににわか雨だ……。


「――くしょんっ……」

「……はい、これ」


 雨宿りしようとして見つけた崖の下の小さな空洞で、俺はコレットに自分の服を一枚脱いでかけてやった。妙にここ冷えてるしな。といっても服はこれしかないから上半身裸になってしまうが。


「ダ、ダメですよ。それじゃカレルさんが風邪引いちゃいます……」

「俺は体力なんてほとんど使ってないけど、コレットはそうじゃないだろ。ずっと声張り上げて疲れただろうし……」

「……あ、ありがとうです……」

「耐えるなって。思いっ切り泣けよ」

「いいえ、泣きません……!」

「……」


 コレットはしぶといなあ。


「――ちょっといいかな?」

「「……え?」」


 突然だった。俺たちより少し年上くらいの男が声をかけてきた。客が遅れて来たのかと思ったが、どうも様子が違う。灰色の短髪を逆立てた黒尽くめの格好の青年で優しそうな感じだが、只者ではないオーラをこれ以上なく発していたのだ……。

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