10話 流れ星
「静かに……」
「……も、もごっ……」
コレットが苦しそうにうなずいたので、俺は慌てて彼女の口から手をどかした。
「ごめんな……。以前コレットに話したやつらがいたから……」
「……い、いるんですね……」
「ああ……」
やつら――ヨークとラシム――は楽しそうに手をつないでいて、とても仲睦まじい姿を見せつけてくれた。俺の存在なんてとっくに忘れてそうだ。
「よし、私が文句を……もごっ……!?」
「……その気持ちは嬉しいけど、ダメだ……。そりゃ腹は立つし納得できないところもあるけど、外れスキルを引き当てちゃったんだし仲間外れにされるのも仕方ない。俺が一番悪いんだ。それに……もし感情的になって喧嘩に発展しちゃったら、俺の力じゃコレットを守れない……」
「……カレルさん……自分をそこまで貶めないでください。あなたは何も悪くないですから……」
「あ……」
ヨークが俺に気付いたのか、さらに近くまで寄ってきた。すぐさま俺は背を向け、必死に自分の存在を隠そうとする。凄く惨めだが、どうしようもなかった……。
「ねえ、ラシム。今、アレがさ……カレルっぽいやつがこの辺にいると思ったんだけど、気のせいかな」
「もー……気のせいに決まってるでしょ。それか、アレに似たやつじゃない?」
……アレ、だと? ズキっと胸が痛む。俺は最早アレ扱いなのか……。
「まあ、そうだよね。えっと……【釣り】スキルだっけか……プッ。どうしようもない外れスキルだし、恥ずかしくてギルドまで来られるわけないよね……」
「うんうん……っていうか、アレの存在なんてヨークが言わなきゃ完全に忘れてたよ。あたしたちはあたしたちで、早く仲間を見つけてダンジョンへ行きましょ!」
「だねっ」
「……」
言いたい放題だな……。気付かれることはなくてよかったが、かなり精神を削られたような気がした。でも、なんでここまで傷つくんだろ。もう終わったことなのに。あいつらとはずっと一緒だったから、まだ未練が残っているんだろうか。
俺は一体何をやってるんだか。あんな薄情なやつらを惜しむほど純情だったなんて……無能なことも相俟って救いようがないな。
人間不信になったって思ってたけど、実は現実逃避してただけなのかもしれない。未練がましくあれは幻だったんだって……。でも、これが現実だ。いい加減認めろよ、俺。未練を断ち切るいい機会じゃないか。なのに、油断すると視界が涙で淀みそうになって、堪えるのに必死だった。人を信じたらダメだ。いや、誰も信じたらダメなんだ……。
「……うっ?」
急に、コレットに手を引っ張られる。
「コ、コレット……?」
「ここは空気が悪いです。お外へ行きましょう」
「お、おい……」
危うく何度かぶつかりそうになりながらも、俺たちは冒険者たちの間隙を縫うようにしてギルドから飛び出していく。
「「――はぁ、はぁ……」」
外へ出るだけのはずが、俺たちは暗闇の中を切り裂くようにどんどん走っていって、いつの間にか近くの河原で息を切らしてしゃがみ込んでいた。空気が悪いからって急に猛スピードで走り出すなんて、どうかしちゃったのか? コレットは……。
「……ごめん、なさい……」
「……コレット?」
「急にこんなことしちゃって……でも、怖かったんです……」
「……怖い?」
「……はい。あのままあそこにいたら、カレルさんがずっと遠くへ行っちゃうような気がして……」
月明かりに照らされたコレットの顔はとても青ざめていた。
「……だ、大丈夫だ」
「え……?」
「……ずっと、側に……」
「……」
「いられたら……なんて、今のはなかったことに……」
「ええー!?」
「ほら、見ろよ。凄く綺麗な星空……」
「あー! ごまかすつもりですね! ……でも、本当に綺麗です……あ、流れ星が……」
「あ……」
「「……」」
俺たちはしばらく、河原で寝そべって星空を見上げていた。ずっと側にいるから……そう言い切れない自分の無力さが、凄く歯痒かった……。