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1話 重圧


「カレル兄さん、待ってよー。歩くの速すぎだよ……」

「もー! カレルったらあー」


 幼馴染二人――赤毛の少年と、薄茶色をした長髪の少女――が後ろから俺の名を呼ぶが、足は止まらなかった。


 俺を兄のように慕ってくれるヨークと、結婚の約束をしたこともあるくらい仲良しのラシム。ヨークは明るいが図々しいところがあるし、ラシムも同じくらい陽気でわがままな子だが、一緒にいて楽しいし振り回されるのも悪くないと思える二人だった。


「俺が速いんじゃなくて、ヨークとラシムが遅いんだよ!」


 俺は台詞だけを置き去りにして意気揚々と前進していく。


 今俺たちが向かっているのは念願のスキルを授与してくれる教会で、このためにみんなで田舎から王都へと上京してきたんだ。アルバイトで貯めたお金で薄手の革の胸当てや肩当てを購入し、リュックも背負ってきた。俺だけ気合いを入れすぎたのか籠手まで装備してゴテゴテだと笑われたが……。


 とにかくみんなでずっと前から決めていたことが、ついにもうすぐ実現する。スキルを受け取れる十六歳になったら一緒に王都の教会に行こうという夢が。俺が一足先にその年齢に達したんだが、ヨークやラシムと一緒に行きたいがためにかなり待たされた恰好なんだ。その分待ちわびていて歩幅も自然と大きくなる。




「――はい、どうぞー」


 背後に海が見える教会へ着き、入口でシスターに十リパスを渡して番号がついた札を受け取る。


 既に何人か器の乗った祭壇の前で並んでいたが、神父の手際がいいのかすぐに終わった。王都内には二つ教会があって、そのうち一つは丁寧なものの時間がかかって偉く混雑するみたいだからこっちを選んだんだ。もう一つの教会に比べると早い分手違いがたまにあるみたいだけど、それでも稀らしいしな。


 番号の札をみんなで見比べると、ヨーク、ラシム、俺の順番だった。なるべく早く結果を知りたかったのに、ついてない……。


「じゃー、まず僕から! カレル兄さん、ラシム、お先に失礼!」


 ヨークがニヤリと笑って祭壇の前に立ち、器を覗き込んだ。あれが洗礼、すなわちスキル授与の儀式なんだ。神父からいざ洗礼を受ける際には震えているのがわかったので、俺はラシムと顔を見合わせて小さく笑った。


「ヨークよ、お主のスキルは……【弱体化】だ」


 俺の弟分のスキルは【弱体化】か。なんとなくだが強そうだな。


「ぼ、僕のスキルは当たりですか? それとも外れ……?」

「ちょっと待っとれ……。効果は、半径五メンテル以内にいる相手の身体能力を大幅に弱体化させるとある。まあBってところじゃな」

「「「おおっ……」」」


 凄い。普通に使えそうなスキルだし当たり判定なのもうなずける。俺は自分のことのように嬉しかった。


「もー! 凄いけど、あたしもカレルもプレッシャーガンガン感じちゃうわよ!」

「へへっ……」


 ラシムが頬を膨らませて怒ってる。ヨークは当たりスキルなだけあって照れ笑いにも余裕あるな……。


「ドキドキ……」

「ラシムも僕みたいにきっと当たりだよ」

「あ、ありがと、ヨーク。ねぇねぇ、カレルはどう思う?」

「当たりに決まってるだろ?」

「そ、そうよね!」


 不安そうだったラシムの顔がパッと明るくなる。


 その間、ヨークがなんとも複雑そうな表情で彼女のほうを見ているのがわかって若干辛くなった。俺はヨークがラシムに密かに思いを寄せていることを知っていたんだ。元々あいつが俺と遊ぶようになったのも、ラシムと俺の仲が良かったからだからな。彼女のことについてよく聞かれたことを今でも覚えている。


『僕、カレル兄さんが羨ましいよ……』


 これがヨークの口癖だった。可愛い弟分だけど、さすがにラシムについては譲れない。最近自由奔放なところがさらに鼻につくようになったとはいえ、俺の大切な人だから……。


「ラシムよ、お前のスキルは……【武器強化】だ。あらゆる武器を強くできるし、隠された効果を発揮させることもできる。判定としては……Aってところじゃな。紛れもなく当たりじゃ」

「わあぁっ! すごーい、すごーい!」

「すごっ! ラシム凄いよ!」

「……凄いな、ヨークもラシムも。俺にかかるプレッシャー、半端ない……」

「「あははっ」」


 さすがにこれだけ当たり判定が続くと、そろそろ外れが来るんじゃないかと思えてしまう。


「大丈夫だって、カレル兄さんなら。なんたってラシムの将来のお婿さんだし?」

「もおー! ヨークったらあ……余計プレッシャーかけちゃうよ!?」

「まったくだ。D判定とかだったらどうしようか……」

「そのときはもちろん、僕がカレル兄さんを弄りまくる!」

「あたしもー!」

「……あはは……」


 余裕があるせいか二人とも言ってくれるなあ。スキルを貰うまではガクブルだったくせに。


「よし、それじゃカレルとやら、今度はお主へのスキル付与じゃ。前に出よ」

「はい」


 俺は祭壇の前に立ち、聖なる水で満たされた器――聖杯――を覗き込む形になる。やや癖のある黒髪の不安げな表情をした男が映し出された。もちろん俺だ。


「……ん、これは……」

「……」


 ヤバイ。めっちゃドキドキする。せめて普通判定のCランク以上であってくれ……。


「【釣り】とかいう珍しいスキルじゃな。効果は……充分な広さと深さのある水場であれば、手にした道具か体の一部を突っ込むかで色々釣れるらしいが、大したものは釣れにくいとある。んー、こりゃダメじゃ。残念ながらF判定の大外れじゃな」

「……えっ……?」


 それは、俺の予想を遥かに超えるほどの超外れスキルだった……。

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