七話 謝罪とストーカー魔法
不快だ、いつ以来だったかな……呪いその物になったのは……ああ、不快だ。とても不快だ。不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ……全ての負の感情が俺の心にのし掛かり、不快だ不快だ不快だ……また、一つ何か大事な心が消失した気がする、不快だ不快だ不快だ不快だ……だから使いたくなかったんだよ、自業自得だけど。ああ、今日も一日とても不快だ。
今日も朝早くから学校にきて自分の席で読書をしている、誰にも話しかけられる事もなく。ただ今日は珍しく話しかけられてきた。
「あ、あの、刺されたお腹、もう大丈夫なんですか!?」
顔を上げるとそこには一人の女子生徒が顔を赤くし落ち着かない様子で立っていた。
誰だろう?同じクラスの生徒かな……刺されたお腹って何だっけ?、、、あ、思い出した。屋上で陸道に刺された所か。と言うか刺された事は知っているのに灯日さんに燃やされた事は知らないのか?魔道士連盟に記憶処理されている感じかな。
「ああ、もう大丈夫ですよ」
適当な返事をしてすぐに目線を本に向ける。
「えっと、具合悪くなったら、言ってね、それじゃま、またね」
言うだけ言ったら自分の席に戻っていき顔を伏せ続ける。ちらりと見える耳は真っ赤に燃え上がっている様だった。
同じクラスの人みたいだけど誰だろう……まぁ、魔力も無いみたいだしどうでも良いか。
いつもの様に兄が二人の女子生徒を連れ誘いに来るが、なんだか食事する場所が違い気がする。と言うか職員室に入り、秘密のエレベーターから地下へと降りる。
「ごめんね、なにか理事長が魔道士としての話があるみたいでいつもの屋上じゃなくて地下の会議室でお昼ご飯食べることになったの、嫌だった?」
水乃木さんが戸惑っている俺に説明してくる。
「いえ、気にしてないです。珍しい物みて驚いてるだけです」
「そういえば、不士君は地下来るの初めてだったわね。後で案内してあげようかしら」
と灯日さんが言ってきたので丁重にお断りを入れている間に会議室に着き兄がノックせずに入ると同時に固まる。
兄が固まるほどの光景に興味を引かれ横から除くと、知らない60代ぐらいの女性とどこかで見た男子生徒が見てとれた、、、後ろから小さな悲鳴が聞こえる。灯日さんの悲鳴だった。
ああ……思い出した。こいつ陸道だ、すると陸道もこちらに気づき顔を青ざめさせる。女性の方も失敗したと言いかねない表情で「あちゃー」とか言ってる。
どうなるのだろうと見守っていると陸道が土下座をする。
「ご、ごめんなさいぃぃ!!!!フ、と、灯日さんを襲いかけたあげく、森薙技君を刺してしまい、誠に!申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
見事な土下座であった。頭を強く床に叩きつけ額から血がにじみ出る。何よりもその速度と土下座までの非常に熟練された動きだろう、それは明らか何十回も何百回も何千回も練習してきた者の動きだった。ここまでの熟練された動きに尊敬の念を抱くほどに、、、故に……
「おお!すっげー……あっ」と感嘆の声が上がるのも仕方ないことだろう。
「謝って済むと思ってんのか、お前は俺の弟の不士とフレアを殺そうとしたんだろ!?許されるとでも思ってんのか!」
兄がキレ気味に突っかかる。
「思ってなんか居ません!どんな罰でも受ける覚悟があります!!」
土下座したまま兄の言葉に一切の動揺を見せずに言い切る。
ああ、こいつ本気だ。呪いと同化した後遺症で一週間から一ヶ月程度の間、負の感情に機敏になっているからわかる。こいつの罪悪感は本物だ、今なら何でもしかねないな。
「ふざけ「落ち着いてよ、兄さん。反省して謝罪しているのだから許してよ、みっともないよ」っ!!……フレアはどうなんだ?」
掴み掛かろうとする兄を止めて落ち着かせる。兄は一歩ひいて灯日さんに話を聞く。
「え!?あたしは、別に、不士君が大丈夫なら、もう済んだ事ですし気にしないわ……ただ、やっぱりまだ少し怖いわね」
少しだけ怯えているのか、水乃木さんで半身隠しながら言う。……普通に戦っても灯日さんが勝ちそうな感じがするけど怖いんだな。
「……わかった、二人がそう言うなら俺からは何も言わないよ、おい、勘違いするなよ決して許した訳じゃないからな」
言ってるじゃないか。声に出してツッコまないけど。
「よかったですね、もうそろそろ立ってください」
陸道に手を差し出す。陸道は困惑しながら俺の手を取り立ち上がる。
「よ、良いのか?僕に何の罰も与えなくて?僕はとても許されないことしたのに……」
「もし、陸道さんが手早くきつい罰を貰って早く楽になりたいだけなら、幾らでも罰をあげますが?」
「なっ!!違う!」
「……違うと言うなら、人生をかけるべきですよ。謝罪した分だけ感謝されるように、傷つけた分だけ人を救えるように、、、一時の苦悩に逃げないでください」
俺には絶対無理な考え方だが、こいつにはお似合いの考えだろうさ
「ううぅ……その通りですた、う゛ん゛!う゛ん゛!」
途端に泣きじゃくる。俺の差し出した手を両手握りながら、うんうん言いながら泣きじゃくる、、、うわぁ、手に鼻水が落ちてきた。
「うう、さすが俺の弟だ!良いこというな」
ついでに兄も泣く。ああ……この考え方は兄にも合いそうだもんな。
何度も言うが俺には絶対無理な考え方だがな。
二人が落ち着くのを待ってから話が再開される。
「陸道君の転校の話ですけど、このまま転校すると言う考え方で変わりないかしら?」
理事長が口を開く。待ってる間に聞いたらどうやら60代ぐらいの女性この人がこの学校の理事長だそうだ。不思議な人だ
「すみません。やっぱりこの学校に残りたいと思います。きっちりと罪を償わければいけないので、人生をかけて!」
なんかキラキラしながら言ってる。
「そう、よかったわ、今の貴方なら沢山の人を助けられる立派な魔道士になれるでしょう。これからも精一杯励みなさい」
とても優しく、暖かく尚且つ力強く言葉を放つ。まるで聖母の様な人だ。とても不思議だ。この言葉に陸道も力強く返事をする。
この理事長が何よりも不思議な点が一切の負の感情が見られないと言う事だろうか、人は多かれ少なかれ負の感情を抱えているはずなのにこの人には無い。先ほど俺達と陸道が会ってしまった時には焦燥感がごくわずかだけ出たがすぐに消えてしまっている。何者なのだろう?
「さて、待たせてしまったわね、ごめんなさいね」
待ったのは陸道がわんわん泣いたからなのだが、軽く謝ってくる。
「話の内容なのだけれどその前に、貴方たちも感じたわね、昨日の魔力の波動を」
兄が代表して感じたと答える。俺は知らんふりだ。
「あれは、森薙技勇進君と水乃木さんが廃工場で見たという女の子の魔道士と魔王級の魔物が衝突した際に放たれた波動なのよ……そうね、詳しくは直接見た子から話して貰いましょうか。出てきてくれるかしら?深影さん」
理事長が名前を呼ぶと理事長の影から廃ビルで会った少女が出てくる、前と同じ全身黒尽くめの格好で。誰も気づいて無かった様で皆驚いている、俺も横に習い驚いた振りをする。
「……はい、わかりました」
「何度もごめんなさいね、では、お願いするわ」
その後深影が見た一連の流れが説明される。
「特訓の為に人殺しだなんて、、、助けてくれて優しい方だと思っていたのに」
水乃木さんがショックを受けているが、勝手に持ち上げて勝手に失望しているだけだろうが。
「下手すればこの町が無くなってたかも知れないことを、、、それで、魔王との戦いはどうなったんです?」
兄が衝撃を受けながらも続きを促す。
「……それ以上先は見てない、両方共々魔力は消えた。……ただ、魔王の脅威は無くなったと見て良い……生きて、自由の身ならこの町はとうに滅んでる」
「それで、お願いなのだけれどね、貴方たちに問題の女の子の捜索を依頼したいの」
深影が説明を終えると理事長が話し出す。兄、水乃木さん、灯日さんを見ながら。
「俺達がですか?」
「ええ、貴方たちは女の子を一度会っているもの他の方より見つけられる可能性はあるわ、女の子も私たち、魔道士連盟とは敵対の意思は無いようですから、そこまでの危険な依頼では無いはずです。……駄目かしら?」
「聖とフレアはどう思う?」
兄が二人に意思確認を行った。
「相手が悪人だからと言って、殺していい理由にはならないわ、それもあたし達と同じぐらいの娘が止めてあげたい!」
「私も同意見よ。きっとこの娘は家族や友達がいないのよ、だから一人で生きる方法しか知らないのよ、私たちで助けてあげないと」
灯日さんさんが先に意思表示してそれに水乃木さんが続いて言った。二人とも意思の強い真っ直ぐな目で理事長を見ながら。
間違った事は言ってないし、正論だと思うけど勝手に俺のキャラ付けと自分の理念の押しつけは止めていただきたい物だな、、、前から負の感情が溢れてくる。
どうやら、深影が怒っている様だ、タイミング的に二人のどちらかの発言だろう。何かしら自分の信条との齟齬があったのだろうか?見ていると目が合ってしまったので、すぐに目をそらす。
「俺も二人に同意見です!何より今回はたまたま無事だったから良かった物の、このまま放置していたら、また魔王級の魔物を呼び出すかも知れないからな」
「……そう、引き受けてくれてありがとうね……それとね、貴方たちさえ大丈夫なら今回の依頼に陸道君も連れて行って貰えないかしら?」
「「「え?」」」
三人がハモる。一方の陸道は覚悟していたかの様にじっとしている。
「今回の依頼に彼に発現した魔法は大いに役立つと思うのよ……貴方達にはとても深い溝がある事はわかるわ、それを差し引いても彼の力は捜し物と観察に役立つわ、、、百聞は一見にしかずと言いますし、一度、試して見ましょうか……陸道君、頼めるかしら?」
陸道の緊張を解くために優しく微笑みかける。
「はい!申し訳ないが森薙技君に試させて貰って良いか?――ありがとう【付け纏い】魔法」
陸道の魔法の試し打ちに了承すると陸道から一本の細い糸が伸びてき首に絡みつく。すると、極微弱な魔力で見られている様な違和感を覚える。
何も気づいて無い振りをしながら何をしたのか説いてみる。
「僕の魔法はとても細い魔法の糸を狙った相手に巻き付けて、遠くからでも位置の把握と監視ができる魔法なんです。この糸は僕にしか見えないですし相手は魔法で監視されている事には気づかないです」
見えるし、気づいてるぞ、、、おそらくとても高い魔力感知能力持ちには効かないゴミ魔法だな
とりあえず、解いて貰おうと頼むと、突然兄が立ち上がり陸道を連れて廊下に出てすぐに戻ってくる。なんだかとても嫌な予感がする。とりあえずもう一度頼むが……
「は、はい!と、解きましたよ!はっはは」
解いてない。糸はそのまま。不快な視線もそのまま。監視は続いている。陸道は乾いた笑いを声を上げている。これは……………こいつ殺す方法以外詰みじゃね。
「フレア次第だな、どうする?」
兄は謎の達成感を出しながら灯日さんに問う。
「……勇進が一緒だから大丈夫よ」
「わかった、ありがとうフレア……わかりました、陸道と協力して俺勇進、聖、フレアの四人で現在所在不明の女魔道士の捜索に当たります」
兄が代表としてまとめ挙げる。
不快だ兄の一言一言が非常に不快だ
「ええ、では、頼みましたよ。皆さんの活躍を期待しています、では、お開きにしましょうか昼休みも、もうすぐ終わりですからね。はい、解散」
理事長の号令でこの話し合いも終わる。
「ああ、そうだ!不士もう心配する事はないぞ。これからは不士が何処に居てもお兄ちゃんが見つけて助けてやれるからな」
兄がそう一言残して去って行く。
いや、終われねぇよ、このくそったれな糸を解いてから終わりやがれよ!