四話 巻き込まれる二つの告白
後日、俺はほくほく顔で学校へ向かっていた。何故なら、昨日廃工場に居た大男からアジトの場所を聞き出す事ができたからだ。
正直、勝ち目の薄い勝負だと思ったがグチャグチャに潰れたサンダーの死体を見せたらペラペラとなんでも喋ってくれた。その後は、情報の消費期限を少しでも延ばすために苦しまないようにサクッと殺した。
それで次の土日に攻め込もうと計画中なのだ。
しかし、自分で思うのも何だが、昨日が初めての殺人なのに反応が薄すぎではないだろうか?人を殺したらもっと動揺すると思っていたから、少し拍子抜けだな。
魔物を殺しまくったから死に鈍感になったのか?いや、この仮定は無いな。人と魔物は違うし仮定通りなら牛や豚を殺しまくって出荷する畜産農家の方々は皆サイコパスになってしまう。
なら何故、俺は人を殺せたのだろう?まぁ、生まれた瞬間から魔力に覚醒していたのだから、思考が普通とは違うのも不思議ではないか。
そんな、どうでも良いことを考えながら学校へ通学する。
何事もないまま、誰にも話しかけられる事のないまま朝のHRが始まり教師が出席確認をとっていく。
「え~とっ次、森薙技~」
「はい」
「次、陸道~…………ん?陸道はいないのか?遅刻か?真面目なあいつが珍しいな。じゃあ次~」
まだ出席番号順の机の並びのなっており、なんとなく、ちらりと後ろの真面目だと言われる人の席を見るとそこは空席になっていた。といっても同じクラスメートの顔も名前も覚えてないので、居てもわからないが。
一応、クラスメート全員の魔力の有無ぐらいは調べているが、俺の様に完全に魔力を絶てる者は調べようがないが、おそらく後ろの席の奴は魔力を持たない普通の人間のはず。
いつもの昼休み今日は珍しく兄と水乃木さんは来なくて、何故か灯日フレアさんが一人で水乃木さんが作っている弁当を持って来たので、何故か屋上で二人で昼食をとっている
「ありがとうございます。
今日は兄と水乃木さんは一緒ではないのですか?」
「良いわよ、このくらい。不士君は勇進の弟君だし。
……それと、勇進と聖は先生に呼ばれて職員室に行ってるわ……だから後から来るそうよ」
少し不機嫌そうに言う。
あー、そうか魔法使える様になったから魔道士兼業の教師から呼び出しをくらったのか。
じゃあ今頃、俺にした質問を教師にしてお勉強会中かな。二人がいない理由はわかったが、なんで灯日さんは不機嫌なんだ?
「なんだか、不機嫌そうですね」
直接聞いてみた。
「ふぅー、ごめんなね。でもね、聞いてよ。なんだか朝から二人の様子がおかしいの。妙に距離も近い気がするし。聞いても答えてくれないし、まるで……二人だけの秘密を抱えたみたいになっててね
で、朝のHRが終った後先生によびだされてね。帰ってきた時にはなんだか憑き物が落ちたみたいになってて二人とも安心した顔をしてたの、なんだか納得いかないけど、もう大丈夫なんだろうなって思って聞いても困った顔して答えてくれないしなんだか仲間外れにされた気分になっちゃうわ、ひどいと思わない?……二人だけで内緒話もよくするし」
語り出す、すべての不満とストレスを吐き出すように。愚痴である。事情を知ってる身としては、同情するが、世の中そんなもんだろう。水乃木と一緒に誘拐してくれなかった大男達を恨むといい……もう、死んでるけど。
灯日さんから溢れ出す愚痴を聞き流しながら昼食を食っていると、近づいてくる魔力を感じ取る。
突然だが、魔力は指紋の様に微妙に違う個人差がありまったく同じ魔力は存在しないと言われている。だから、今、近づいてる魔力が兄のではない、俺が知る誰のでもないという事がすぐにわかった。
学校の生徒の誰かが魔道士の才能に目覚めたか、魔力を絶っていた魔道士が魔力を出したかのどちらかだろう。
ただ、重要なのはそこじゃない。この魔力に殺気が含まれている事が重要だろう。
屋上には、俺と灯日さん以外にも数人の生徒がいるが、いったい誰が狙いなんだろうな。俺じゃないといいな。
ついに、殺気を放っている人が扉の前まで着き、扉を蹴破って屋上に入ってきた。
屋上に居た全員が喋るのを止め、扉を蹴り壊す大きな音ともに現れた男に視線をむけた。視線をむけられた男は何か探すように屋上を見渡してすぐに真っ直ぐに動き出す…………こちらに向かって。
どうやら狙いは俺か灯日さんの様だ。しかし、どこかで見たことがある気がするな。
男はポケットから包丁を取り出し、灯日さんにむけると震えながらしゃべり出す。
「あ、あの、ぼ、いや、わ、私の!、名前は、り、陸道って、い、言います!えっと、あの、その、好きです!で、えっと、毎日僕の、あっ、私の教室まで来て好きになって、えっと、えっと、一生!僕のになってください!!!!」
「ひっ、、、いっいやああぁぁぁぁぁ!!!!!」
陸道の意味不明な告白と包丁に灯日さんが悲鳴をあげ、顔を青ざめさせ震え出す。
陸道?どこかで……あ!後ろの席の奴か、そうか毎日兄と一緒にくる灯日さんに惚れていたのか。
それで、魔力が覚醒したさいに起こる極度の興奮状態(個人差あり)になり今回の奇行に走ったわけか。……かわいそうに、一生の黒歴史確定だな。まぁ、母親殺した俺よりかはましだろうが。
それより、これは朝考えていた実験に使えそうなイベントだな。
死について、人を殺すのに抵抗が無いのはわかったが、なら自分の死はどうだろうと。昔は怖かったと思う……多分。だが、今はどうか?不快な事に小学生の頃とは大きく考え方が変わってしまっている。
昨日の大男のアジトへの襲撃を行うに当たって、不利になって命が惜しくなったから逃げましょうでは締まらないからな。
「え?、え?、え?、え?、え?、え?な、なんで、断るのですか??い、意味わかりません、断られる方の悲しみが理解できないのですか?貴方はそんな非情な女性ではないでしょう?貴方はとても優しい人です。僕を振ったら僕はとても傷つきますそんな僕を見て貴方はもっと傷つきます、ね?あと告白するのはとても勇気がいるのです。すごいでしょ!こんな勇気に溢れている人、そうそう居ませんよ。あと僕、結構、賢いんですよ。あと、えっとあと、、、、、、え????なんで振られるの???、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、はい。わかりました。貴方の様に人を傷つけまわる悪人は死刑です。」
そう言って陸道は包丁を突き刺そうと灯日さんに襲いかかる。
俺はその間に体を滑り込ませ、わざと包丁を腹で受け止める。ブスリと腹の中を異物が突き破る感覚がする。痛みで頭が真っ白になる中、包丁を持っている相手の腕を両手でつかみ逃げられない様にしてから、全力で金的をくらわした。
陸道は股間を押さえながら悶絶する。
「っぅぅ!、ははっ!お前、と、付き合う方が、、、たっくさん傷ついちまうわ!バカ野郎が!」
(っっぅぅぅぅぅぅぅ!!ま、だ、だ!後は、、、包丁を、、、ぬ、け、ばぁぁ!これで、死ぬ、かも、しれ、、、な、、、)
捨て台詞とともに最後の力を振り絞り包丁を抜くと大量の血が止めどなく溢れ出す。この時点で死を恐れないだろうと証明する実験は成功だと判断し気を失った。
実際、周りの人達は応急処置のやり方など、授業で少し習った程度のうろ覚えの知識しかなくどれだけ教師が速く駆けつけられるかで決まり、助かるかは五分五分だったであろう、後ろにいた女子生徒が魔法を使わなければ。
俺は目を覚まし、知らない天井を見上げている。周りはカーテンで閉ざされており、ここが何処だかわからない。
どうやら、死ななかったみたいだ。なかなかの悪運を俺は持っている様でまだまだ沢山の人や魔物を殺せと言うことかな?
起き上がろうとすると、腹から激痛が走る。頭だけ動かして腹を見ると火傷と思われる大きな傷があった。
あれ??なんで、刺し傷ではなくて火傷跡なんだ?理解ができないが刺し傷が火傷に変わった事を受け入れよう。
落ち着くと隣で話している人達がいることに気づく、その人達は四人おり全員が魔力を放っていた。その内三人は知っている魔力であり、兄の勇進と水乃木さんとあと一人は多分学校の保健室の先生の人だと思う。
とりあえず動けないのでその人達の会話を盗み聞くことにした。
「不士は、不士は大丈夫なんですか!」
「えぇ心配ないわ、火傷のおかげで刺し傷はふさがっているもの、だから大きな声を出さないで。問題はなんて、あの火傷を説明するかよ」
「うぅ、ごめんなさい。気が動転しててなんでも良いから血を止めないとって思って」
「別に攻めている訳ではなのよ、灯日さん。貴方が魔法に覚醒したおかげで彼は生き残れたのだもの」
「麗芽先生の言う通りだよ。フレアのおかげで不士は助かったんだ。礼を言わせてくれ、ありがとう、フレア」
「そうよ、フレアさんが謝ることじゃないわ、だから元気だして」
「みんな、ありがとう!そうね、落ち込んでるなんて私らしくないわよね」
……なに、この茶番……話を聞いた感じでは俺が気を失ってから、俺が失血死する前に灯日さんが魔法に覚醒した力で俺の腹を焼いて傷口をくっつけたと言うところか……なんつぅ荒技だよ。
これ以上寝たふりも意味ないし、起きるか。どうやって魔法の事を伏せながら火傷の説明してくれんだろうな。多少無理があっても、信じたふりをしないとな。
うめき声と共に物音を立てる。
「不士!麗芽先生、不士が起きたみたいですよ!」
「えぇ、わかってるわ。だからいちいち騒がないの」
おそらく、保健室の先生であろう麗芽先生が兄を落ち着かせてからカーテンを開ける。
「おはようなさい、森薙技君。私は麗芽 治結香、この学校の保健室の先生よ。知っていたかしら。さて、具合のほうはどうかしら?」
「……さぁ?よくわからないです」
「そうねぇ、最後の記憶は何処まで覚えているのかしら?」
「刺されて、倒れた所までです……あの、なんで私の腹焼けているのです?」
俺は自分の腹を見ながら説明を求めてみた。
「応急処置よ。血を止めるために焼いたのよ、痛むかしら?」
「そ、そうですか。少しヒリヒリしますけどたいしたこと無いです、ありがとうございます」
刺し傷塞ぐためにこんな広範囲を?なんて話をややこしくする質問はしてはいけない。絶対にだ。
ふと、ソワソワしている兄が視界に入る。
「あの、麗芽先生やっぱり――「駄目よ、大事な弟を巻き込みたくは無いでしょう」それは、わかってます。けど、だからこそ不士に隠し事をしたくないんです!」
なにかを言おうとする兄を遮るように麗芽先生が言葉を被せるが、それでも話すのを止めずにそのまま言葉を話す、訴えかける様な目で真っ直ぐ麗芽先生を見ながら。
「そう……覚悟はできているようね、いいわ。全てを話してあげなさい。……全く、最近の若い子は強いわねぇ」
「はい!ありがとうございます!……不士、落ち着いて聞いてくれ……俺は、俺達は魔道士になったんだ」
強い覚悟に満ちた目で真っ直ぐ俺を見ながら語った。
はぁ?なに言ってんの?
「はぁ?なに言ってんの?」
つい心の声が出てしまった。だから、俺は兄が嫌いなんだよ。