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孤高の魔道士は自分の不変を望む  作者: 最弱のあああ
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十八話 街中でサイに襲われてみた

 


 後日

「あれ?不士さんが居ない」

 毒華朔は不士が使っていた部屋の前まで来ていたが森薙技不士が居ない事に戸惑っていた。


「あら、何しているのかしら?」

 そこに麗芽治結香先生が通りかかる。


「えっと……不士さんが居ないんです」


「ああ、森薙技君ならお家に帰ったわよ。もともと連盟に所属している訳ではないものね、呪いの一件で一時的に保護していただけだもの」

「え!?そうだったのですか……では、もう会えないのですか」


「なに言っているの?同じ学校なのだから学校に行けば幾らでも会えるわよ」

「え!!」

「そう言えば知らないのね……この学校の本当の姿、魔道士に覚醒しそうな子供を集めている所なのよ」


「私、学校行ってきます!」

「行ってらっしゃい……う~ん、若いっていいわね」

 学校に向かう毒華さんを見送りながらつぶやく。









 久しぶりに登校しにきた学校、学校自体は地下支部の出入り口に使う為に来ていたが勉強しに来たのは久しぶりだ、まぁ真面目に授業なんて受けてないがな。

 関係無い話だが、いや関係はあるのだが、休んでいる間にテスト期間が終わってしまっている。事情が事情だけに理事長が配慮して幾つかの課題提出だけで許してくれるそうだ、コネも馬鹿にできんな。



「あ……お、おはよう!風邪治ったの?」

「あ、はい」

 未だに名前を知らないが挨拶だけはしてくる女子生徒が話しかけてくる。相変わらず顔は真っ赤で少しうつむき気味で来る。


「ほっ、そ、そう。よかった……じゃあ、またね」

「あ、はい」

 安心したように息を吐き、表情が柔らかくなる、彼女の真っ赤な顔以外の表情は初めてだな。


 その後は誰にも話しかけられずに過ぎていく、何時もの日常が戻ってきた感じだな。

 ただ、何時もより少し空腹になるのが早くなった様で3限目終了してから菓子パンを一つつまむ。血精吸呪の効果だろうな、ほくろ程度の大きさに押さえて合っても、結構吸われていく。食費がかさみそうだ。


 昼になり、何時もより空腹度合いが大きいので食堂に行くことにするが、できれば行きたくないものだな。人多いし、うるさいし、座る場所無いし、隣が開いてたら知らない集団が座るし、良いイメージがないんだよな。

 売店もあるが、昼休憩になって直ぐは込むうえ、それではけてしまい売れ残りがない。仕方無しとトボトボ歩いて行くと、後ろから話しかけられる。


「不士さん!お昼ですか?あの、、、よろしければ一緒にどうですか!」


 不審者か!と思ったら毒華さんだった、同じ学校だったのか……そういえばこの学校は魔法に覚醒しそうな人集める場所だったな、居てもおかしくはないか。


「はい、構いませんよ」

「ありがとうございます!……もしかして昼は食堂ですか?」

「そうですね、何時もは違いますが今日だけ食堂です」


 毒華さんは弁当を持っている、自分で作っているのだろうな。

「何時もはお弁当ですか?」

「え?いえ……あ、いえ弁当です」

 なんだろうか、、、なんとなく弁当と答えてしまった。まぁ、問題無いか。


 その後、二人で食堂に行き、少しだけ世間話をしながら食事を取った。そこまでベラベラと喋るタイプではない様で悪くないどころか、毒華さんの不審者スタイルのおかげで周りに人も近寄らなくて良かったと思うよ。その代わり視線は感じたが……良かったのだろうか?

 まぁ、もう二度と行くまい。


 食事も終わり午後は夜に次は何を狩ろうかと、魔王と主従念話で脳内会話しながら過ぎていく。









「……居ない」

 深影墨が森薙技不士が使っていた部屋の前に居た。


 そこに麗芽治結香先生が通りかかる。

「あら、どうしたのかしら?深影さん」


「……森薙技不士が居ない」

「ああ、森薙技君ならお家に帰ったわよ…………今頃、毒華さんと一緒に帰宅しているかも知れないわね……ふふ、な~んちゃて、、、あら、もう居ない」


 麗芽先生が冗談を言っている内に深影は影に潜り地下支部を出ていた。








「あ!不士さん今帰りですか?」


 校門に行くと毒華さんが待ち構えていた。

「はい、そうですよ」

「偶然ですね。では、途中まで一緒に帰りませんか?」


 ダウト、明らか待ち構えていただろ。

「ええ、構いませんが、支部住みではないのですか?」

「家に荷物を取りに戻ろうと思って」

「そう言う事ですか、では帰りましょうか」


「はい!」


 帰ろうと思って前を見ると、そこには影がぽつんと一つあった、その上には何もなく明らか魔法の産物だった、と言うか深影だろう。

 影の中からずずっと深影が出てくる。


「深影さんどうかしましたか?」

 取りあえず話しかけてみる。


「……出かける途中」

「ああ、そうですか、ではさよならですね、私達も行きましょう不士さん」

「…途中まで同じ」

 毒華さんが別れの挨拶をすると深影が素早く返す、もっとゆっくり話すタイプなんだがな。

「……」

「……」

 この人達、仲悪いのだろうか?

「では、途中まで一緒に行きましょうか」

「……うん」

「……そうしましょうか」





 ある程度、学校から距離が離れるとあることに気づいたがどうすればいいのかわからない。だが、それは真っ直ぐにこちらに向かってくる。魔物だ、三体の魔物が向かってくる。


 何故、向かってくるのだろうか?隣の二人が狙いか?動機が薄いな、なら俺が持つ血精吸呪が狙いか?何にせよ、とても不快で危機的状況だ。

 俺は今は不士だ、魔女じゃない。不士を非日常に巻き込まないでいただきたいね。毒華さんがニコニコしながら話している。深影は相変わらず顔が見えないが、ぼけーってしている感じがする。二人とも魔道士だが三体の魔物相手には少々頼りない。

 不士の日常を変えないために血精吸呪の使用は控えたい。あれこれ考えている内に直ぐ近くにまで接近してくる、さすがに深影は気づいたが、逃げるには少し遅いな。



「……警戒……来る」


「え!?」

 深影が警戒するように指示をだし、一足遅れて、毒華さんが反応する。


 一陣の風が吹くと俺だけが後ろに飛ばされる。


「ムハハ!こいつがターゲットだな!!えらくひょろい人間だな、この程度に俺様がかり出されるとは、不愉快極まるな!」


 飛ばされた俺の前に居る魔物が大きな声で喋る。言語を話す魔物、昨日に続き今日も会えるとは、実は珍しくないのかもしれないな。

 その魔物はサイの様な人型の魔物で腕足は短く、頭はでかく、鼻の所には大きな角が二本ある。何より、その首には何時だったか見た、魔物を従える首輪が付けられており、‘俺様’とか言ってるこいつより偉い人間がいることを証明していた。


 残りの二体が少し遅れて、やってくる。二体の魔物は目の前にいる魔物と同種の様だがグルルと鳴くだけで言語を話す程の知能と実力は持っていなさそうだ。


「こいつを持って帰ればいいだけの楽な仕事だぜ!」

 魔物は無造作に俺の頭を握る。


「……返せ【影景侵食】影付き矢」

 深影が何時もの影が付いた矢を飛ばしてくるが、知能の無い方の魔物が石をぶつけて落とす。そして悠然と深影の前に立ちふさがった。


「不士さん!深影さん!鳴きます!!【狂花繚乱】絶叫花」


 毒華さんが多数の花を咲かせ、その花が一斉に叫び出す。魔物達が怯む、頭を握っていた手も緩み脱出する事ができる。

 深影は怯んだ一瞬を見逃さずに影に潜り、俺の救出に来るが素早く立ち直った魔物に道を塞がれ、影を攻撃されそうになるが退いて回避する。


「むうぅ!驚いたが、二度は効かんぞ!……む?ターゲットが居ないぞ?」

 魔物が毒華さんに吠えるが、直ぐに俺が逃げている事に気づく。


 悪いな、不士は一般人なんだ、喧嘩は余所でやってくれ。迂回しながら深影達の下へ向かう。


「逃がすかぁ!!!」

 魔物が四足歩行になり障害物を角で蹴散らしながら、真っ直ぐ追ってくる。


「……させない……【影景侵食】影付き銃」

 影から拳銃を取り出して突進する魔物に発砲する。だが、当たらない、魔物が早いとかではなく、単純に命中率が低いのだろう。日本に引きこもってて本物の銃に触った事など無いので知らないが、深影は多分素人だ。


 のんきに観察していると、後ろから魔物に突き飛ばされる。魔力で何の強化もされていないごくごく普通の体が飛ばされアスファルトの上を二、三度跳ねてから塀にぶつかり止まる。

 吐血する。殺す気かよ、いや、血精吸呪が狙いなら生かす理由もないか……


「ムハハ!やはり、俺様は最強なり!」

 俺様様の高笑いが聞こえる。逃げたいが体が全く動かない。


「不士さん!!、、、あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!どいてぇぇ!!」

 毒華さんが叫ぶ、毒華さんを中心として草花が生え広がる。


 草花はら数本の蔓が伸びて立ちふさがっている二体の魔物に巻き付く、直ぐに蔓はちぎられ振り払われるが魔物の顔色がみるみる悪くなって行く。内一体は振り返り全速力で逃げ出す、言葉を喋れる魔物が逃げるなと叫ぶが止まらずに何処かに逃げていく。もう一体も振り返るが、逃げるのではなく吠えながらもう一体の魔物に飛びかかる。これは……


「むうぅ!!なぜ俺様に攻撃してくる!!」

「ムウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ!!!」

「なにぃ!!俺様がお前を殺そうとしただと!そんな事考えた事もないわ!」

「ムウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛!」

「なにぃ!俺様が友達を殺したのを見ただとぉ!バカ者!あいつなら先ほど猛ダッシュで逃げたではないか!くそっ!話が通じん!!むううぅぅ!」


 なんか話している様だが、話がかみ合ってない様子。仲間の対処に手をこまねいていると発狂している魔物の角が刺さり怪我を負う。


「ムウゥ!仕方なし!すまない、許せ!友よ!【颶風ぐふう】」


 風が吹く下から上へ。


 サイの体を持つ人型の魔物が空へと飛んだ。高く高く。そして落ちて死んだ。


 サイの重さは1トン以上あると聞いた事がある、それを高く飛ばす風を即座に出せるならかなり強い魔道士だろう、やはり言語を使う様な賢い魔物はかなり強いらしい。


「許さんぞ、許さんぞ!!小娘ぇぇぇ!!」


 魔物が毒華さんに突撃する。

 蔓が迎え撃つ、仲間の魔物をおかしくした蔓を警戒して魔法の風で弾く。蔓だけではなく地面に生える草花も増加していくため魔物は後退を余儀なくされる。深影も巻き込まれないように後退していく。風で花を散らすが、散らした花が至るところに種を蒔き花を咲かす為、逆に草花が広がってしまう。


「ムウウゥゥ!!これでは近寄れん!!む、ムウ゛ウ゛ゥゥゥゥウゥウ!!」

 魔物が突然苦しみだし首輪をガチャガチャと外そうとする。首輪は外れずないどころか、何らかの魔法で魔物を苦しめる。


「ムウウゥ!!俺様がこんな首輪一つで屈辱だ!友の仇すら取ることを許されぬとは!!だが、せめて俺様と同じ痛みを与えてくれる!」


 魔物が動けない俺の頭を握る。何をしようとしているかは言われなくてもわかる、殺そうとしているのだろう。

「むはは!肉体さえ持ち帰ればいいとの話だ!人間お前には恨みはないが死んでもらう!」

 手に力を込める。ミシミシと音が鳴る。


 急速に草花が広がってくるが、魔物の起こす風で近寄れないでいる。

 と言うか、毒華さんにこれほどの花を咲かす魔力は無い。魔力が尽きて倒れているはずなのに倒れずに魔法を酷使している、となると魔力ではなく自分の命、生命力を削りなら使っているのだろう。これは、その内死ぬな。

 命を削ってこの程度では助けは期待出来ないな。


 俺の命もここまでなのだろうか。死に恐怖は無い、抵抗も無い。死ぬ理由がなかっただけだ、恐怖も抵抗も呪羅万象顕現を使った時に壊れて消えた。助かる方法なら有るが、それは不士に日常を変えて、犠牲にしての話になるだろう、どうしようか……まぁいいか――






『主様、お話よろしいですか?』

 体の中の魔力に溶け込んでいる魔王が主従念話で話しかけてくる。


『周りに人が居るときは話しかけるなと言っただろう、で、なんだ?』

 念話で返す、普段は周りに人が居るときは話さないように言っているので話しかけてこないが、珍しく話しかけてくる。


『申し訳ございません主様……ですが主様の一大事、じっとしては居られず。主様はこのまま死なれる気ですか?』


『……流れに身を任そうと思っているよ』

『では、主様を助けるために体からでて、この物を殺しても?』


 何を言い出すのだ、こいつは。魔王が飛び出して来たら、呪詛の魔女が俺だと一発でバレてしまうじゃないか。

『駄目だ』

『そうですか、申し訳ございません主様。その命令は聞けません、主様を助ける為に体から出させていただきます』


『は?魔王は絶対の忠誠を誓ったのではないのか』

『そうでございます、死ねと言われれば即座に死にましょう。ですが何より優先すべきは主様だと考えております、故に命令を反故してでも主様を助けさせて貰います』


 なんと都合のいい忠誠だことで。正直、どう言う契約で魔王が下に付いているのか、よく知らないのだよな。魔方陣とかもろもろ魔王と戦った際に失ったし。

 命令無視出来るなら、本気で出てきて戦うだろうな。それなら、血精吸呪を使って戦う方がましか、呪詛の魔女だとバレるよりかは。


『魔王、自分で助かるから何もするな』

『承知しました、主様』






「貴方は名前なんと言うのですか?」

 今まさに頭を握り潰そうとしている魔物に話しかける。

「むぅ?俺様の名前が知りたいか、人間!では、特別に教えてやろう!俺様の名前はビューフォ・トぐぼぉぉ!!」


 生き生きと語っている頭を足で蹴り上げる。ビューフォは不意打ちを食らい俺から手を離す。


「すみません、やっぱり興味無いです」

「おまえぇぇぇぇ!!むう、なんだその体は!!」


「飼い主から何も聞いてないのですか?貴方が取りに来た【血精吸呪】ですよ」

 俺の体には緑の細い線が幾本も浮かび上がっている。


「俺様に飼い主などいない!!」

 飼い主の部分に激昂し突進してくる。


 それを躱し、横っ腹を蹴り上げる。痛い、非常に堅く蹴り上げた足が痛むがビューフォにもダメージを与えたはずだ。また突進してくる、それを躱しちまちまダメージを与える。言葉を使えてもそこまで頭は良くないようだ。


「ムウウゥゥゥ!!【颶風】」

 横から突風が吹く、それに抗わず風に流される。

 風で体勢が崩れた所を狙おうとしたのだろうが、俺が抗わなかった為に想像以上に流されビューフォの攻撃は横をすり抜ける。ついでに一撃入れておく。


 今度は下から風が吹く、仲間を殺した方法で狩りに来たのだろうサイを飛ばした魔法に抗えるはずもなく空高く飛ぶ、緑の肌を足に集中させる。狙いを定めて、超高所からの踵落としをビューフォに食らわす。

「ムグウウウゥゥゥゥ!!」


 大きく怯んだ隙に心臓部に平手で掌打する――


 堅く拳の骨が折れるが血精吸呪で血を使い治しつつ構わず掌打し続ける――


「ムバアァァ!!」

 ビューフォが息を吐き出し血を吐く、効いている。堅すぎて効いているかが少し不安だったが効いているようだ。そこで魔法の風が吹く、俺を引き離す様に正面から吹き飛ばされる。


「ゴホッ!ゴホッ!!ムウ、やるな人間!それほどの強さを持っていたとは俺様が呼び出されるだけはある!だが、俺様はこの首輪の力で本気ではない!勝ったと思うなよ!!ここからは持久戦と行かせて貰う!お前が戦えなくなるまでな!」


「ふぅ、、、いえ、勝ちですよ……私達の……」

「なにぃ!?」

 ビューフォが疑問の声を上げた瞬間に後ろから矢が刺さる、草花を避けながら背後に回り込んだ深影が矢を放ったのだ。


「……喰らえ【影景侵食】」


「む?矢が……ムア゛ア゛ァァァァ!!!」

 ビューフォの背中を喰らい削り取る。そこからおびただしい血が噴き出す。


「すみませんね、ビューフォさん。殺されてあげられなくて、私は生きさせていただきます」

 ビューフォにだけ聞こえる音量で言う。意味など無いが、決意表明の様な物だ。


 ビューフォが膝から倒れ落ち動かなくなる。




 貧血だな。戦いが終わり気が抜けて血精吸呪が解けると立っていられなくて膝を付く。


「!!……森薙技不士……」

 深影が駆け寄ってきて支えられる、まさか人生で誰かに支えられる日が来るとは思わなかったよ。


 頭を上げられずに下を見ていると草花が咲いている事に気づいた、直ぐに深影を振り払い触れない様に逃がす。

「……え……!!、草花」


 忘れてた訳ではないが、魔物がいなくなっても止まらないか……狂花繚乱。








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