十七話 魔物退治ついでに励ましてみる
「……何の用です?」
深影が副理事長に呼ばれた理由を尋ねた。部屋に戻り帰宅の準備を進めていたら、何故か副理事長に俺と深影墨が集められたのである。
「ああ、用件は毒華朔君の事なんだがな、彼女は部屋に引きこもったまま食事も取っていないそうなんだ。君たちは短い間とはいえ、一緒に行動していただろう、なんとか最低限食事は取るように話をしてきてくれないか」
要するに毒華さんを励まして来いと言っている様だ、苦手なジャンルだし断りたいが……理事長の聖蘇の力では駄目なのだろうか。
「理事長の聖蘇には心の傷も治すと聞きましたが、それは出来ないのですか?」
「マ、ゴホン、理事長も忙しい、それに聖蘇は何でも治せる万能の力では無いのだよ、何かきっかけがないとな」
聖蘇つっかえね。
「わかりました、成功するかはわかりませんが話してきます」
「うむ、助かるよ。深影君もよいな」
「……はい」
「ああ、それともう一つ――」
なんか言ってるけど関係無さそうなので聞き流す。
「ここが、毒華さんの部屋ですか?」
「……そう」
あまり乗り気じゃない深影を横目にドアをノックしてみる
「毒華さん、すこしお話しませんか?」
「……」
「……」
「……」
ガチャ・・・
あ、開いた。入れって事でいいのかな?
「失礼します」
「……お邪魔する」
「……不士さんに深影さん……どういった用でしょうか」
「食事、一緒に取りましょうか」
毒華さんがか細い声を出しながら聞いてくる。一日程度でここまで衰弱はしない、なら精神的な影響だろう。励まし方とか知らないので取りあえず食事を食わせようとしてみる。
「……そう言う事ですか、すみませんご迷惑かけてしまい」
「迷惑なんてかけてませんよ、はい、食事です」
「いえ、結構です。食欲が無いので……」
そう言われてもご迷惑なんだがな。仕方なし、ずるい事を言ってみよう。
「でも食わなきゃ死んでしまいますよ……それではせっかく命がけで守った家族達も死に損ですよ」
「それは……そうですけど、私は人殺しになってしまいました。母さん父さんに会わせる顔がありません、母さんは私を人殺しにするために助けた訳ではないのです」
死んだら会うことになるのでは?なんて言おうか考えていると深影が話す。
「……わたしがこの年で働いているのは……親が殺されたから……ここに住んでいる子供、皆親がいない……でもわたしも人殺し」
「へーそうなんですか」
「……」
毒華さんが押し黙る
まぁ、親が生きてればこんな危ない所では働かせないよな、ムカデと黒霧も親が居ないんだろうな、ここに住んでいるって事は。そういえば兄はここに住み込みだけど、水乃木さん灯日さんは自宅通いだっけかな。
「……殺してでも生きる……普通……」
「私は生きる為に殺した訳では無いです!」
「……心を生かすために殺しただけ……」
「……」
「ごはん食ってくれますか」
なんか知らないけどクリティカルヒットした感じがするから、飯を食うように言ってみる。これで駄目だったら仕方ない……
「私には食えないでモガッ!!」
まだ断りそうだったから口開けた瞬間スプーンを突っ込んでみた。励ますとか苦手なんだよ、一言二言話して無理なら強硬手段だろ。
「何をモガッ!!」
「何度も言わせないでください知らないですよ、貴方の事情なんか、今は毒華さんを生かす事だけが目的なんですよ。親には別の方法で償ってください、取りあえず私の為にごはん食ってください」
「!!……わかモガッ!!、自分モガッ!!食いモガッ!!まっモガッ!!……あーモグッ」
あまり抵抗してこないな、抵抗してくるなら深影に押さえつけて貰おうと思ったがその必要は無さそうだな。と言うか最後は食わせて貰うの受け入れていた様に見えたが、気のせいだろな。
このまま全部食わせられると思ったが横から待ったがかかる。
「……駄目……わたしがやる」
「え、あ、はい。ではお願いします」
なんだか怒っている様に感じるが、もしかして説得の邪魔してしまったのだろうか……ほんと責任感強いな。
「……いえ、自分で食いますのでいいです」
「あ、そうですか、良かったです」
「……」
「……」パクパク モグモグ
「……」
「……これから私はどうしたらいいのでしょうか?」
食事の途中で毒華さんが話し始める。
「今までの幸せな生活では?」
「幸せな生活?」
「幸せな生活と言いましょうか……ほら、私の腕が切り落とされたときの応急処置とか、医者にでもなりたいのかなって思うほど手際良かったですし、将来の為に勉強頑張って居たのでは?」
「いえ、ただ真面目だっただけです」
「あ、そうですか。取りあえず親に通わせて貰っていた学校に通う……それだけで償いになりますよ」
「どうしてですか?」
「それは、自分で気づかなければ駄目ですよ、人に教えて貰うのは駄目です」
なんたって、適当に言っただけで理由なんて無いからな……
「わかりました、学校に通って勉強します」
「……もう一つ……魔道士連盟に所属する方法……」
「連盟に所属ですか?」
「……そう……ここで貴方が持つ魔法を振るう……人を傷つけた分だけ人を助ければいい……そう森薙技不士もいってた」
え!?言ってたっけ?覚えてないけど言ったことがあるのだろう。しかし、この流れもしかして深影は励ますついでに勧誘に来たのか?そういえば、副理事長がなんか言ってたな。
「……所属しながら学校に通う事は?」
「……出来る」
「考えさせてください」
「……そう」
勧誘の方は微妙だが食事はちゃんと食ってくれそうだし、これで十分だろうし今度こそ家に帰ろうかな。
食事を食べ終えたあたりを見計らって話しかける
「もう大丈夫そうですし、私はこれで失礼します」
「あ、まって、ありがとうございます。この前はちゃんとお礼言えなかったから」
「お礼言われる程の事してませんよ」
「ううん、そんなことありません、今日だってありがとうございました。また今度お礼させてください」
そう言いながら手を差し出してくる。
まぁ、いいか、毒華さんがそれでいいなら。
そう思い毒華さんの手を握り握手する……
「ぐっ!!」
手に何かが巻き付き締め付けてくる――草だ!
「え!?どうして!」
毒華さんが慌て出す
「!!……魔法が発動して、手を離して……【影景侵食】」
慌てて毒華さんが手を離して深影の魔法が毒華さんの魔法を喰らって行く。
草は消えたが音が直接、頭に響く。絶叫が鳴り止まない。
【狂花繚乱】なるほど、その名の通り狂気の花だ。俺でなかったら狂ってたな。覚醒するときどんな思いだったのだろうか、言い方は悪いが親が死んだ程度でこんな魔法を発現させるとか正気を疑うな。更に、これを繚乱させるのだろう……
「不士さん!」
「はぁ!はぁ!大丈夫だ……俺は問題ない、いや、問題ないです」
毒華さんの叫びが聞こえる、返事をしようと思ったら心の声がそのまま出る。
「……俺……取りあえず、麗芽先生呼ぶ……狂花繚乱は何もしない」
俺の一人称が俺呼びに驚きながら深影は、麗芽先生を呼びに行った。
その後、麗芽先生が来て、草に締め付けられた時に出来た怪我は治して貰い、今日はゆっくり休む様に言われた。毒華さんは魔法の制御が出来るまで、一切の接触を断つように言われ会った時同様の長袖長ズボンの不審者スタイルになった。
その後、特に何の問題も無く自宅に帰り、夜になり魔女の姿で街に飛び出した。
休めと言われたが全ての負の感情を受けた事のある身としてはあの程度なら直ぐに治る。それより……
確か、ここら辺のはずだが。
深影から得た魔道士連盟が情報だけ持っているが手は出さない魔物や反逆魔道士の情報を魔王から聞きながら、あたりを探ると複数の魔物の魔力を感知する。
サンドバッグを見つけた。
何時もなら、魔力超濃縮物体を試すが今回は血精吸呪を試そうと思っている。
「まずは、【呪羅万象顕現】」
呪羅万象顕現を使いこの呪いについて詳しく調べる、この魔法なら確実に血精吸呪を殺せるがまだ、その時では無いだろう。
なるほど、この呪いもとい血精吸呪の魔法はかなり強力な様で緑に変色した部分を切り落とし焼却しても宿主の血肉を使い切り落とされた部分ごと再生するようだ、殺すなら魂に根を張った本体を叩かなければいけないが、普通に叩いても俺の魂と一緒にご臨終してしまう。
殺すなら血精吸呪だけを叩ける技術をもった者でないとな、俺の技術と呪羅万象顕現なら問題無いだろうが、理事長や麗芽先生が下手な奴連れてきたら全力で阻止しないとな。
使い方もわかった。
「【血精吸呪】と【超自己再生】」
二つの魔法を使う。
ほくろ程度の緑が体全体に細い線として広がっていく。これは体全体を強化するのでは無く、筋肉繊維や血管だけを強化する感じだろうか、同時に吸われていく血を超自己再生で補充していく。これでリスク無しの呪いじゃない魔法になる。
しかし超自己再生様々だ、これが無かったらもうすでに十回は死んでるよ。
軽くはねたり、走ったりしてみる。うん。わかっていた事だがこの程度の強化なら魔力だけで出来る。なんなら血精吸呪以上の強化だってできる。扱えきれないが。普通の魔道士ならリスク無しの血精吸呪は魅力的だろうが……俺の膨大な魔力量の前じゃゴミだ。
しいて言うなら、森薙技不士としての俺でも戦う術が出来たぐらいだろうか。だが、森薙技不士としては普通の平和な日常を送るためにこの姿、呪詛の魔女がいるんだ。日常は不士として非日常は魔女として、だから不士に戦う術など要らない。……つまり、やっぱりゴミだ。
まぁ、だけど新しい魔法には変わりない、これで少し魔物相手に使って見ようじゃないか。
数は十五体……数もだが一体一体の魔力が高い、これだけの数を同時に相手するのは初めてだが魔王ほどでは無いだろう、肉弾戦なんて久しぶりだから上手く戦えるかが心配だな。
全速力で駆けていきその勢いを殺さないまま魔物の一体を跳び蹴りで屠る。
周りの魔物達が気づくが、さすがに遅すぎる。近くの魔物に飛びかかり力任せに首をへし折り殺す。殺した魔物の体を担ぎ上げ魔物の一体に投げ飛ばし倒れさして、高くジャンプして倒れている魔物にのし掛かり圧殺する。
これで三体……同時に三体の魔物が魔法を纏いかかってくる、全身に隙間無く緑の部分を広げる。血がドクンと3リットル以上吸われるが超自己再生で死ぬ前に血を補充していく。血精吸呪の限界まで強化された身体で殴打して吹き飛ばして刈る。これで六体。
魔力超濃縮物体ではこんな事は出来ないだろうな。
四体の魔物が四方から魔法を放ってくる。それを避けつつ接近して連打で殴打して一体を殺す、次に向かおうとするが二体の大型の魔物が飛び降りてき、でかい拳でこちらを潰そうとしてくるのを後ろに後退して避ける。拳は空振り地面にぶつかると地面を抉り衝撃波を放つ、これはまともに食らえば一撃で死ぬな。
二体の殴打と三体の魔法攻撃を紙一重で避けて隙をうかがう、血精吸呪ではここらが限界か?いや、違う。もっともっと吸えよ……6リットル近い血液を吸われる。
やばいな……これは。魔物達の動きがえらく遅く見える。振りかぶったでかい腕に飛び乗りその上を走り魔物の頭に近づき頭を蹴飛ばす。そのままもう一体のでかい魔物に飛び移り、頭を何度も殴打する。これで九体。
遠距離で魔法攻撃していた魔物に目をやるが、明らかこちらの速さについて来れてない。地を蹴り飛び出し魔物に肉薄する、下から拳を打ち上げて魔物を空に飛ばす。直ぐに移動して他の二体の魔物も同様に飛ばす。飛ばした魔物達が同じ場所に落ちて積まれていく。これで十二体
これがギリギリだな、扱えるギリギリの身体能力だろう。それでも大抵の相手はこの動きについて来られずいつの間にか死んでましたとなるだろうが。
後の三体は何処だ?下に二体と空に一体か。
地面が盛り上がってくると下からミミズ型の魔物が二体飛び出してくる、その勢いで空中に飛ばされる。肉弾戦縛りの弱点として空じゃ身動きとれない事だろうか。ミミズに片方がその身を振りかぶって体当たりしてくる。踏ん張りが効かない、、、そのまま体当たりしてきたミミズを殴り飛ばして屠るがその反動で俺も地面に打ち付けられる事になった。
「ぐっあ、はぁ!」
間違いなく一瞬、背骨が折れたな。もう治ってるけど。もう一体のミミズが追い打ちを掛けてくる、怪我は治ってるが体が地面に埋まっているので腕だけ何とか掘り起こしてミミズを受け止める。ブチブチ、バキバキ、グチャグチャ、腕が壊れる音がするが超自己再生で即座に回復させる、ほんの一瞬だけ片腕でミミズを押さえてもう一つの腕でミミズを殴る、殺せる程の力は無かったが怯ませることには成功し直ぐにその場を退避する。
「はぁ!はぁ!今のはやばかったな、だけどこっちのターンだなくそミミズ」
ミミズの胴体の真ん中あたりに移動する、ミミズのでかい図体ではこちらを捕らえきれはしない。ここからは制御出来ない領域だ、魔力で体を強化する。蹴るだけ、ただ蹴るだけの動作を行いミミズの巨体を空に飛ばし上げる。直ぐに魔力の強化を解く、このまま飛んだらミミズを飛び越えてしまうだろうしな。
飛んでミミズの腹を殴打殴打殴打、何度も全力の一撃で殴打して腹を貫く――
これで十四体、あと一体
そいつは翼をはやした人型の魔物で腰に一本の刀を差していた。ここに居た魔物の中で一番の実力者だと直ぐにわかった。場所がわからなかったのもこいつは魔力を絶つ事が出来たからだ、まぁ、感情を感じとれるから生きている以上は見つけられるがな。
そんな事を考えていると向こうから話しかけてくる。
「その容姿、もしやおぬしが魔王を討った者か!」
「驚いたな、言語を返す知能があるのか。ああ、そうだ私が魔王を倒した呪詛の魔女だ」
「驚いたはこちらの言葉であろう、ミミズを飛ばした一撃を見る限り本気は出してない様子。降参する!見逃して欲しい!!」
「は?……知能があるのに私がここに来た理由がわからないのか?この世界に迷い込んだ魔物を殺す為だ」
「それは、わかる!が拙者は迷い込んだ者ではあらず!自分の意思でこちらに参ったものなり!」
「なお酷いわ!」
「は、話を最後まで聞いて欲しい!!拙者は人間に危害加えぬ!探しているモノがあるのだ!モノが手に入れば直ぐに帰る!」
「……なるほど、で?」
「で、とは?」
「そっちの言い分はわかったが、私が貴様を見逃して何になる?人間に危害を加えない保証もないし、得るものがなければ、今ここで殺した方がこっちとしては良くないか?」
「うっ!!それは……で、ではこう言うのはどうだろうか!探しモノが見つかるまで魔女殿の代わりに魔物を屠って回ろう、魔女殿も楽ができて良いのでは?」
「ふぅ、、、交渉決裂だな」
「なっ!!」
地を蹴り、高く飛び上がり魔物に飛びかかるが躱されてしまう、さすがに空にいる相手に肉弾戦縛りは無理か。
「【魔力超濃縮物体】変形・足場」
魔力物体で足場を作りそこに立つ。これで五分だろう。こいつはかなり強い油断は出来ないだろう。
「変形・棘」
棘を飛ばしながら近づこうと走るが魔物は一つの魔道具を取り出した。
「致し方なし!!魔道具、転移晶!」
手のひらにすっぽり収まるサイズの水晶を取り出してそれを割って魔法を発動させる
「不味い!この魔法は!【魔王の粒子線】!!」
「その様な魔法まで、魔王を倒したのは誠の様だな、人間に危害は加えぬ、約束しよう、では御免!」
魔物は消え去り、逃げられてしまう。
迷い込む奴等だけではなく向こうから来る者も居るよな、普通に考えれば。そしてそいつらは総じて、世界を渡れる程の実力者。
逃がすよりかは、あの交渉飲んだ方が良かったかもな……もう遅いけど。
不士「深影さんも支部に住んでるの?十話で私がゲーセンに行くのが見えたとか言ってたけど地下から?」
深影「!!……そんな事言ってない」
不士「そうでしたか、私の勘違いですね」
深影「……ふぅ」