十三話 毒華朔の話と囮作戦
私、毒華朔はまだ高校生でお父さんはサラリーマンお母さんは専業主婦で妹の咲はまだ中学生で、四人で普通に暮らしていた――
父さん母さんはとても仲が良く、優しくていつも笑っていてくれた。休みの日は旅行にもたくさん連れて行ってくれた。
咲は元気で明るい子でよく夜遅くまで外で遊ぶ子だった。ゲームセンターに入れば閉店までゲームを続けて帰ってくるように迎えに行ったりした、服飾店に入れば数々に服を試着して延々と感想を言い続けた。
そんな日がずっと続くと思って居た。
でも、違った。
数日前、咲がテスト勉強の息抜きと言って、何処かに遊びに行って、そして帰ってこなかった。
帰ってくるのが遅いときはたくさんあったけど帰ってこない時は無かったから、だからものすごく心配したし父さんが警察に捜索願を頼んだ。
次の日に血みどろの咲が帰って来て、父さん母さんに短く謝ってお礼を言ってから私の手を握って、お姉ちゃんもごめんねもっともっと一緒に遊びたかったけど今までありがとう、そう言ってその場で死んだ。私は現実を受け入れられなくてその場で立ち尽くして母さんが泣きながら救急車を呼び、父さんが警察を呼んだ、でもどちらも来なくて代わりに二人の男女が家に来た。
その二人は家に押し入ってくるなり、女の人が咲の体をまさぐり何かを探して、男の人が父さんに咲から受け取った物を寄こせと脅してきて、その二人の態度にいつも笑っていた父さんが見たこと無いほど怒って二人にまくし立てて、その反応に不機嫌そうに男は腕を縦に振って父さんを両断した。
その男は次に母さんを見ながら、隣に居る私を殺されたくなかったら奪った物を返せと言ってきた。
母さんは返しますからと言って、すぐに私に小声で裏口から逃げなさいと言った。
私はわからなくて、知りたくなくて、認めたくなくてその場から逃げ出した。
その後、全力で走って走れなくなるまで走って、誰にも見つからない場所でずっと泣いた。
何時間も泣いてから、わかって、知って、認めた。
あれは、咲が盗んだとされている何かを求めて私の家に来て咲も父さんも母さんも殺した。
それから、見つからないように服を着込んで正体を隠し咲との思い出の場所を回りながら生活していたの、その一つのゲームセンターで不士さんと出会った。
その際に、魔法に覚醒してあいつらに見つかって追われたの、なんとか逃げれたけどその時に魔法の事を知った。あいつらは私以外全員殺したと言った、だから私が持ってないとおかしいと言ってその魔法と盗んだ物を寄こせ言ってきた。逃げながら思ったの彼奴らは絶対に許さないって。
それから不士さんに見つかって助けて貰って今になるの。
「…………わかった……けど、森薙技不士を呪い続ける理由にならない……」
深影がキツく言い切る。同情物だと思うが、何がそこまで深影を駆り立てるのだろうか。連盟に所属していればこれぐらい日常茶飯事だったりするのだろうか?
話が進まなくなるので毒華さんの話の追記を入れる。
「その事ですけど、この呪いは毒華さんの魔法では無いかもしれませんよ」
「……え?」
「よく思い出してください。毒華さんが覚醒したとき彼女が何をしたのかを」
「……それは……君に呪いを掛けた」
「それだけでは無いですよ、深影さん以外気絶させる絶叫を上げましたよ……私は魔法には詳しくないですが、これも魔法なのではないのですか?」
「…………魔法じゃなく……魔力の衝撃かも……」
自信なさげに下を見ながら答える。それを魔女が鼻で笑う。
「……なに?……違うって言うの」
「こいつにそれほどの魔力が有るように見えるのか?」
深影が少しばかり怒気をこめた声で魔女に問うが、小馬鹿にするように問い返される
「……それは……見えない…………なら、二つ持ち」
気絶させたのを魔法と認めるが、すぐに別の可能性を上げる。どうにも認めたくないらしい、冤罪で殺そうとした事を。だが、これも魔女に否定される。
「覚醒と共に二つの魔法を手に入れられる者は、総じて何かが狂った特殊な人間だ。こいつは狂ってないし二つ同時に魔法を使うには魔力量が少なすぎる」
「…………なら、呪いはどこから来たの」
「はぁ、まだわからないか」
「…………魔女さんが……前話した時と違う……それが素なんだ」
ため息をついている魔女を見て、深影が落ち込む。どんな印象を持っていたんだ?まぁ、正体は魔王が影武者しているのだが、、、そこまで違うだろうか?
「深影さん、もしかしたら私が持っている呪いこそが毒華さんを追っている者たちが探している物なのではないでしょうか?
毒華さんの話を聞く限り、咲さんからは物を受け取ってない様ですし家にくる前に何処かに隠せる物と考えるなら、咲さんを殺めるのは悪手であり、二度と見つからなくなる可能性が出てきますから隠せない物で有るはずです。
そもそも人から物を盗む様な人では無いそうですから、そんな優しい人が家族に危険な物を渡したりしません、なら私のように誤って取ってしまった物、姉に渡す気は無いのに誤って渡してしまった物、、、それがこの呪い」
「……それなら……呪いを治すにはそいつらを見つけないと」
やっと本題に入れそうになった。
「……なら、魔道士連盟に応援を呼んで……森薙技不士は帰って」
「いえ、魔道士連盟が出てきたら相手は隠れて出てこなくなります、私がおとりになり相手をおびき出します。その後は、せっかく魔女さんが居るのだから協力して貰って終わらせましょう……深影さんは戻ってください」
深影の仕事は偶然を装って俺と魔女を引き合わせる事までだし、もう帰っていいよ
「……だめ……そんなの駄目……おとりならそっちの女がする」
「毒華さんは無理です、一度追っ手に私と毒華さんが接触した所を見られたので釣れない可能性が有ります」
「……その呪いを女に返せば良い」
「それは、出来ないです。連盟地下支部で何人かの魔道士がこの腕を触りましたが呪いが誰にも渡りませんでした、呪いの渡し方がわからないのです」
「…………わかった……でも、魔女は信用できない……貴方はわたしが守る」
仕事熱心な人だな……妥協点としては十分だし次に進むか。
「では、そうしましょうか……腕を出しながら人気のない所を歩くので付いてきてください」
「はい」
「……うん」
毒華さんと深影が返事をして魔女が無言で動き出し、おとり作戦が始まった。
夜の街を不士の姿で歩くのは新鮮で少しワクワクする、後ろから影に潜りながら深影と魔力を絶ちながら魔王が付いてくる。毒華さんは魔力を抑える事が出来ないので普通に隣を震えながら歩いて貰っている、実質もう一人のおとりで有る。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「心配要らないですよ、深影さんは信用できますし、魔女の強さは本物ですよ、不安なら何か話しでもしてましょう」
「……深影さんとはどの様な関係なんですか?」
「友人、、、だと思いますよ」
「思う?なぜそこまで信用できるのですか?」
「無駄に責任感が強く、それから逃げないからですかね」
「そうですか……」
毒華さんが何かを考え込み始めた、少しは不安が取り除かれた様で震えは消えている。
そんな話をしていると、近づいてくる魔力を感じた。それはショッピングモールで追ってきた魔道士の二人組だった。
その魔道士二人はすぐに殺気を立てて攻撃を仕掛けてきたが、影が俺達の足を食らい転ばせ回避させる。考え込んでいた毒華さんはきれいに顔面から転ける。
同時に影から出てきた深影は影を付着させた矢を飛ばして襲ってきた相手の腕を射貫く。
「がっ!痛ぇ!別の魔道士、まさか魔道士連盟か!!」
「なに!!魔道士連盟が出張ってきたのか!くそ、ここは退いて――」
射貫かれた男がすぐに深影の正体に気づくき隣の男が退くように判断するが、直後に上から魔力物体で頭を殴られ気絶し魔女が射貫かれた男に静かに声を掛けた。
「貴様らの住処を言え、それ以外の言葉は要らない」
何というか、普通に強いな。魔王と呼ばれるにふさわしい魔力量と魔力技術がある並の魔道士では相手にならない。深影も相手が回復魔法を使えなければ、一撃必殺の魔法だろうから不意打ちを決めればまず負けないよな。
「てめぇは!呪詛の魔女じゃねぇか!魔道士連盟の飼い犬に成り下がったのか!!」
「私を知っているのか?」
男は魔女の質問には答えずに魔法を連打しまくるが全て魔力物体の障壁に防がれる。と言うか、呪詛の魔女って結構有名なのか?
余計な事を考えている内に影がじわじわと男の体を塗りつぶしていき腕を喰らった。男は突然の腕の喪失に絶叫をあげ、その場にうずくまり勝敗を決した。
その後、少しばかり痛い目に遭わせたらベラベラと喋ってくれた。
「……貴方はここまで……あとは魔道士連盟に任せて」
深影が俺に向けて喋る、まぁこうなるよな。対策は万全だがな。
「そうも、行かないよ私も付いていきます」
「……だめ……これ以上危険にさらせない」
「そう言う意味では無いです、もう魔女が一人で行ってしまったので、もたもたしていたら呪いの解き方を知っている人達が皆殺しにされてしまいます」
「!!……いつの間に」
「さぁ、急いで追いかけましょう」
「……仕方ない……」
「わ、私も付いていって良いですか!?」
「……何で?……」
「それは、、、仇を撃ちたい咲に父さん母さんを殺した男の死を見たいから!」
「……そう」
それ以上は何も言わずに深影は走り出した。復讐する気持ちはよくわからないが、駄目だと否定するきにもなれない感情なので俺もそれ以上は何も言わずに深影の後を追いかける、それに続いて毒華さんも付いてきた。
途中でタクシーを拾い敵の住処の近くまでたどり着いた。
後はここの奴等に呪いを解かせて終わりだ、せいぜいサンドバッグとして頑張って頂こうか。