十二話 深影墨の追跡法
わたしの名前は深影墨で魔法名は【影景侵食】これは、あらゆる物を影に食わせる事ができる魔法で食わせた物を消化し消すこともできれば、影の中に一時的に溜めておき簡易的な物を隠せる【道具箱】や姿を隠せる【避難所】として応用ができる。
深影はこの魔法を用いて呪詛の魔女との会話後、すぐに連盟地下支部に戻り犯罪者リストを盗み取っていた。
「……こんな物かな……あとは明日の夜まで……バレないように隠し持っていれば……」
ザワザワ……オイ、居なくなっているぞ!!
「!!……何?……バレた?」
無事盗み出すことができた深影は一息も着かぬまに、客部屋がある居住区あたりが騒がしい事に気づき警戒する。
すぐにリストと自分を影の中に潜らせ、周囲を伺うが見つかった訳では無いことに安心し、では何事かと騒ぎの場所に向かう。
向かうと騒ぎの場所が森薙技不士の部屋あたりであることを不審に思いいつつ近くにいた同い年で知り合いの女の子の紅実に話を聞くことにして足の一つを近くにあった棒で突いて話しかける。
「……紅実……なんの騒ぎ?」
「あ!、スミちゃん!大変なの、前にスミちゃんが話してた不士さんがいなくなってるの!なんでも、昨日の夜に外にでてったらしいの!」
「…………え?……」
言葉の意味が理解出来ずに一瞬だけ呆然とするが、すぐに不士の兄である聖剣の使い手の森薙技勇進の怒号が聞こえて情報を求めて聞き耳を立てる。
「くそっ!!不士が抜け出すなんて誰が考えるかよ!間違いなく呪いの効果だ!」
「だとしたら、不士君は呪いを掛けた女の人の所に行った可能性があるね」
聖剣の使い手の言葉に水成獣の水乃木が推測を立てる。
「慌てては駄目よ勇進、むしろ安心なさい。主人の為に何らかの行動を起こさせる魅了系の呪いなら死ぬ危険性は大きく下がるの、間違いなく不士君は女の下で生きているわ」
続けて炎獄支配の灯日が声を掛けて聖剣の使い手を落ち着かせる。
魅了系と聞き不思議と少し心がざわつく、わたしが守れなかったせいで誰かに良いように操られるかもしれないと思い罪悪感を感じたのだろうと決め、一刻も早く助けなければと思い直す。
「ああ、そうだな。おそらく魔法の使い方を覚え始めてきたんだ、俺達に出来るのはいままで通りに全力で女性を捜し出すことだけだ!不士が残した痕跡があるならそれを追えばすぐに見つけられるはずだ。へまをしたぜ呪いの女性は!」
聖剣の使い手が話をまとめて動き出した。
深影も何とか森薙技不士を追おうとするが、どうやって追えば良いのかわからず、どうしようか迷っていると紅実が話しかけてくる。
「スミちゃん、どうしたの?大丈夫なの?」
紅実の顔は普通とは違っているのでいまいち表情はわからないが、心配そうな声で聞いてくる。
紅実は深影に二人しかいない信用できる知り合いの一人であり、魔法名と名前は【百足態】百給 紅実、彼女の魔法は自分をムカデの姿にして強力な力を手に入れる事が出来る魔法だ。その力を使い主に連盟地下支部の防衛任務に当たっている。ただ、紅実は魔法のコントロールが苦手な様で常にムカデの姿をしている。
相談すれば簡単な協力ならしてくれると信じ、どうにか森薙技不士を追いたい旨を伝えてみた。
「う~ん、クミの脳みそは小っちゃいからそう言うのはよくわかんないの、でもウミちゃんに聞けばわかると思うの!」
紅実が自信満々と言った声で言い切る、でも同い年ながらとても頭のいい雨美なら良い答えが聞けるかもしれないが正直会いたくない、いや、雨美の周りを見たくない。紅実の見た目でさえギリギリなのに、だがそうも言ってられないし話すだけなら紅実と同様で信用できるもう一人の知り合いだ。
「……うん……雨美に聞いてみよう……そこら辺の隅にいるから、探すの手伝って」
「もう見つけてるの、はい、スミちゃん」
と言って、ある虫を手渡しで渡そうとしてくる。その虫に恐怖し直ぐさま影の中に逃げ込む。
「……紅実、ごめん…………雨美聞いてる?」
善意で渡そうとした紅実に謝りつつ、その虫に問いかける。
『ああ、聞いているよ、何か用?』
その虫から雨美の念話が聞こえてくる。
虫を直視しないように一定の距離を保ちつつ雨美に相談してみた。
雨美はわたしの二人しかいない知り合いの一人だ、彼女の魔法名と名前は【蜚蠊帝】【念話】黒霧 雨美、彼女は引きこもりで顔は一度しか見たこと無いが今回の様に雨美の支配下にある虫を通じて話すことはよくある。【蜚蠊帝】と【念話】の二つ持ちで両方とも文字通りの魔法である。雨美の主な仕事は敵の偵察と潜入、捜索である。
『ふーん、相談内容は理解出来たけど所詮素人の逃走なんだから、ほっといたら捕まるでしょ、大人しく待ってなよ』
「……でも……」
『はー、わかったよ。聖剣の使い手達が調べてる森薙技って人の追跡度合いを盗み聞きして墨に教えるから、それで我慢しな』
「……ありがとう雨美」
礼を言ってから、その夜はもう遅いのでお開きになり次の日に紅実、雨美と雑談しながら雨美の虫が調べ終わるのを待った。
『……うん?これは、以外に手こずってるみたいだ、ほとんど痕跡が残ってないらしいよ。森薙技って人はなかなか高スペックなんだな』
「……そんな……」
「ウミちゃんがほめるなんて、ふじさんってすごいの!」
紅実が無邪気にすごいすごい言ってるのは悪い気はしないが、手掛かりが無く呪いの女の捜索に一切進展が無いと言う事だ。
『一応、蜚蠊たちに森薙技の部屋を調査させるけどあまり期待しないように』
「…………うん、ありがとう……」
「元気だすの!スミちゃん、かならず見つかるの!」
「…………うん、ありがとう……」
その後、当てもなく外を探すが見つからずに夜になり、魔女との待ち合わせの時間になった。
昨日の夜に会った場所に向かうとすでに呪詛の魔女が来ていた。
「リストを渡せ」
魔女は世間話などする気は無いようで、すぐに目的の品を要求してきたが、なんだか昨日と雰囲気が違う気がし渡すのをためらう。ただの感だけど。
「……貴方……本物?」
「……本物だ」
「…………わかった」
偽物かどうかなど確かめようが無いのでリストを渡した。魔女はリストの内容を一枚一枚確かめていく、現段階で本物かどうかなど確かめようが無いと思うが何がしたいのだろう。
「報酬は確かに受け取った……もうこれは要らないな――今から案内してやる」
疑問に思って居るとリストをライターで燃やして捨てた、それより案内?もう見つけているの?
「今日中に見つけ出しておいた……さっさと行くぞ」
「!!」
驚きで声が出ないうちに話を進めて歩き出していく。
「……あの……そこにもう一人……男の人いた?」
「ああ、居たよ。聖剣の使い手の弟がな……特に怪我など負わずに一緒に居るよ」
「……そっか……良かった」
水成獣の言う通りに呪いの女と一緒に居たようだ、怪我の事も聞く前に教えて貰い少しだけ安心する。
その後は無言で魔女に付いていき、目的の場所に到着する
目的の場所を遠くから見てみると確かに呪いの女と森薙技不士が居た、相手は最近、覚醒したばかりの魔道士一人なので応援などは呼ばずに突入の準備をする。
ただ、何故か魔女が依頼を終えたのにまだ居るのに不審に思う。
「まだ、戦闘準備には早いだろ。確認したなら行くぞ」
「……は?」
魔女は質問する間もなく二人が居る部屋の前まで行き、インターホンを鳴らす。そこから森薙技不士が出てきて驚きの表情をする。一度は誘拐された相手なのだ恐れるのも無理は無い為、急ぎ後を追う。
「なんで、、、貴方がここに?」
「知り合いですか?不士さん」
「下がっていてください!知り合いですが、味方ではありません!」
森薙技不士を盾にしながら呪いの女が顔を出してくる。これでは、女を攻撃出来ないのでわたしも顔を出し森薙技不士を落ち着かせ離れさせようと模索する。
「……安心して……助けに来た……そこを退いて」
わたしは影を矢に付着して放てるように構える。
「なっ!深影さん!なんで呪詛の魔女と一緒に!?駄目です、彼女は敵ではありません!」
「ひっ!」
しまった、と後悔するがもう遅いだろう。呪いの女は小さな叫びを上げ後ろの引っ込む、何より森薙技不士から見たら呪詛の魔女は敵だ、それと一緒にいるわたしは信用できないはずだ。両腕を広げ自ら呪いの女の盾となる森薙技不士をみて腹が立つ、なんとか信じて貰い退いて貰わなければ。
「……信じて……わたしは味方……」
「信じてます、だからその矢を下ろしてください」
「……下ろせば……その女が逃げる」
「私は信じているので逃げません」
「……君は……騙されてる」
「正気です、深影さんと一緒に居るなら魔女さんも敵では無いのでしょう、私は信じています、だから貴方も信じてください!」
なかなか退いてくれない、そこまで呪いの女が大事なのだろうか……次の言葉を言おうとすると、隣から声がかかる。
「これでは、押し問答だな」
「!!……ぐっ!」
無言を貫いていた魔女が半透明の物体を出し、わたしに叩きつける。
油断していた真横から直撃を受け、動けなくなる。
(……不味い……魔女が裏切った)
「……逃げて……森薙技不士」
なんとか声を振り絞って出し気絶する。
……目が覚めると森薙技不士の横顔が視界に入った、あれ、、、生きてる――
「あ、起きましたか。おはようございます深影さん」
「…………おはよう……え?」
周りを見てみると、呪いの女と森薙技不士と呪詛の魔女がお茶をしている、いや、魔女はマスクがあるのでお茶には手を付けていない、、、そこじゃないな。
体を起こして自分の体を見るが、何処にも異常はなく魔女に殴打された横腹が少し痛むぐらいで何処にも変わりは無い。ただ、視界がクリアに見える……はっ、前髪が整えられ分けられ素顔がでている事に気づき横に居る森薙技不士を見る。
「ああ、すみません、横に寝かせる時に邪魔じゃないのかなと思い、つい」
慌てて髪で隠す。火傷の跡が残っているこの顔を醜いと思われなかっただろうか、何でも無いと言った顔をしているが、どう思ったのだろうか……
「取りあえず、落ち着いて話し聞いて貰えますか?」
傷についてはふれてこずに森薙技不士が問いかけてくる、相変わらず呪いの女は彼の背中に隠れながらこちらを伺ってくる。魔女は何故かこの女の肩を持つ様だし、森薙技不士は逃げる様子は無いし話を聞くしか無いだろう。
「……わかった」
「はい、じゃあお願いします毒華さん」
森薙技不士の一声と共に毒華と呼ばれた呪いの女が語りだす
わたしは彼の顔を見ながらきっと大丈夫だろうと、もう大丈夫だと思った――