十一話 逃亡&逃走
「あら、不士君こんにちはね。定期検査させて貰うわよ」
どうしようかと考えていると麗芽治結香先生が部屋に入ってきて魔道具を用いて呪いの調査と進行具合を調べる。
「はい、終わりね、隔離中と言ってもこの魔道士連盟支部の地下内なら自由に歩き回って良いのだからね、あまり引きこもっていると体に悪いわよ。さぁ、私はこれで失礼するわ。困り事があったら気にせず相談してね」
お礼を言って定期検査を終える。
確かに、麗芽先生の言うとうりじっとしていても変わらないし、取りあえず魔道士連盟内を歩き回って脱出口の確保をしておこうかと思い廊下に出ると影の中から深影が近づいてきて前に現れる。
「……具合はどう?」
「さぁ、何ともないからわからないな」
「……そう……魔法には二つの種類があるの……術者が死ねば魔法も消えるモノと死んでも消えないモノ……早めにあの女を見つけて殺すから……」
殺意しか無いのか……後者だったらどうする気だよ、まぁ、でもこの頭を使わない考え方は嫌いじゃないな。
「そうですか、無理しない程度に頑張って下さい」
深影が話を続けようとするが俺の後ろからくる人物に気づき影の中に潜る。
「ひさしぶりだね、不士。体の具合はどうですか?」
「ああ、ひさしぶりです陸道さん、具合は何ともないですよ」
一月ぶりに陸道を見た、呪いの後遺症で学校に来られなくなったと聞いたが一体どうなったのだろうか?
「さん付けなんてよそよそしいですね。私の名前は陸道 津供です、ぜひ津供と呼び捨てで呼んで下さい、私も不士と呼び捨てで呼びたいので」
もう呼んでいるのでは?とは言わないが……
「そうですか、陸道さんは好きなように呼んでくれてかまいませんよ」
「さん付けのままですか、私はとても悲しいですよ不士。しかし災難でしたね不士も勇進君が距離を取ったのに、また魔道士がらみの事件に巻き込まれてしまって近くに魔道士連盟の魔道士が居たそうだけどそいつが無能なせいで呪いまで受けてしまって、かわいそうな不士ですね。いや、しかし緑色の腕というのは何とも気持ち悪いですね、良くそんな腕で部屋から出ようと思えますね。私には無理ですね、すごい精神力だと思いますよ。
それより聞いて下さいよ僕は不士に言われた通りに謝った分だけ感謝されるように頑張っているのですがなかなか上手く行かないのです、特にフレアにはとても迷惑を掛けたので私の魔法で困り事が無いかと一日中監視したんですが感謝では無く変態と罵倒されてしまったんです、酷いと思いませんか?いえ、フレアに罵倒されるのも嬉しいのですがね。他にも――」
「陸道さんってこんなだっけ?」
「……付き纏いは、呪詛の魔女の呪いを受けて……心に思った事が全部口から出るようになった……」
陸道の言葉を聞き流しながらつぶやくと俺の真後ろに隠れながら深影の声がかかる。なんとも酷い後遺症が残ったものだな。
これ以上付き合ってられないので放置して移動する。
一通りの散策を済ませ脱出口の確保も終わらせ帰ろうとすると、何故か着いてきていた深影から話しかけられる
「…………わたしに怒ってる?」
「?いえ、別に怒ってませんよ」
「……でも……わたし近くに居たのに君の事守れなかった……」
うつむきながら話す。
相変わらず顔は見えないが少し震えているので、近くに居たのに守れなかった事と怒られる事を気にしているのだろうと察する。淡々としているがまだ中学生だし必要の無い無駄な責任感と怒られる恐怖で辛いのだろう……暇つぶしかと思っていたが今日会いに来たのもこの為かもしれないな。
「興味が無いですね、守るとか守られるとか漫画の世界じゃないんだから今の時代基本一人で生き一人で死ぬのが大人の普通なんですよ、だから気にしなくて良いんです。それでも気になって辛いなら、深影さんが無駄に責任を抱えずに適当に‘すみません’の一言で全て放り捨てれば良いのですよ」
「……わたしはまだ子供……」
「私から見たら大人です」
「……ごめんなさい……」
かすかに見える頬から涙が見える。
言った言葉の意味が伝わってない気がする、それどころか高校生男子が中学生女子を泣かせたみたいになってしまった、ドラマやアニメで社会人が心のこもってない「すみません」を連打してるシーン見たこと無いのだろうか……
「はい、わかりました。もう大丈夫ですね、これで万事解決です。この話はここまでにしましょう、私は部屋に戻りますので失礼します」
強引に話を打ち切りそそくさとその場を離れようとするが、袖をつかまれ引き留められる。
「……」
「……」
「……その腕……必ず戻すから……」
「あ、はい、ほどほどにお願いします」
深影は来たときと同じように影の中に潜り去って行った。それを見送った後に部屋に帰り、、、脱出準備に取りかかった。
魔道士連盟の地下支部を抜け出し夜の街に紛れる。そもそも誰も俺が抜け出すとは思って居なかった様で警備らしい警備が無く昼間に調べた脱出口はほぼ無意味だった。
連盟に任せていると時間がかかりそうなので夜の内は魔女と呼ばれるこの灰色のコートと黒いマスクを付けた姿で呪いの元凶たる女を探し、昼間は不士の姿で探し早期解決を図ることにした。
魔力に覚醒したばかりなら魔力の絶てないだろうし、近づきさえすれば見つけ出せる。
魔力超濃縮物体で足場を作り、空高い位置から街を見下ろし人気の無い所を探す。
人の多い場所に隠れているとは思えないしな。
目星を幾つか立てて魔力物体を翼に変えて地上に急降下し地上の直前で翼を羽ばたかせ降りる。
そこで、少なくなった魔物を狩りながら捜索するがここはハズレの様で魔物はいても人は居ない。
場所を移動しようとすると一つの魔力が近づいてくる、深影の物だ、特に接触する必要性を感じないし不士と呪詛の魔女を似ているとか言い出すぐらいだし避けるぐらいのが良いだろう。
その後も目星を付けた場所を捜索するが、見つからずに夜が過ぎていく……今夜は引き上げようと考えていると、また深影が近づいてくる、何時もなら追いかけるのに疲れて追ってこなくなるのだが今日はしつこいな。
これでは、安全に不士の姿に戻れないし適当にあしらうか。
「ぜぇ!、はぁ、はぁ……魔女さん……話、いい?」
深影が息を切らしながら影から出てきて聞いてくる。
影を伝ってきても疲れるのだな、影の中で走ったりしているのだろうか?などと、どうでも良い事を考えながら話の続きを促す。
「……ありがとう……お願いがある……貴方の魔法で呪い治せない?」
ああ、なるほどな。なかなか良い感をしている。【呪羅万象顕現】なら呪い限定で治す事も可能だろうが、俺が俺の前に現れる事ができないのだよ。できるなら、金銭要求してちゃちゃっと治すんだがな。適当に誤魔化しながら断る。
しかし、魔女とか言われる相手に頼るとか意外と責任感が強い人だな。そんな人に昼間の言葉は悪手だったな。
「……なら……呪いを掛けた相手を探すのを手伝って……」
次は、探すのを手伝えか……こっちは少し迷うな、都合のいい誘いだけど協力する理由が無いよな、これも適当に断る。
「……わたしが持ってるお金……全部上げるから……どうしても助けたい人が居る……」
金か……たいした額持って無さそうだしな理由には弱いよな。そういや、気になってたけど【聖蘇】の使い手は駄目なのだろうか?試しに聞いてみる。
「……聖蘇は……今は別の場所……貴方ぐらいしか今頼れない」
粘るな、無理言って諦めさせよう。
「わかったよ、報酬として魔道士連盟が持っている逃亡中の魔道士の犯罪者リストの横流ししてくれるなら受けよう」
「……わかった……明日持ってくる」
「え!?もってこれるの?」
「……必ず、持ってくる」
堂々と捜索できて、尚且つサンドバッグリストが手に入るとか悪くないのでは、、、快く快諾しその場で別れる。
その後、適当なホテルに一泊して昼の街を探す。相手は人間だ、衣食住が必要だし何処かに顔を出しているはずだ。
軽く変装してから外に出る。今頃、連盟支部では俺が居なくなって軽い騒ぎになっていそうだし、連れ戻されないように気をつけて行動しないとな。
さて、探し方だが昨晩の様に考え無しに探しても無意味に終わりそうだし、少しは頭使わないとな。
まず、あの女性の特徴を思いだそう、と言っても特にないな。長袖長ズボンマスクニット帽で見た目の特徴は一切不明だった、まるで自分の正体がばれないようにしてるみたいだったな。
他には、とても深い悲しみの中にいたな。ゲーセンで気張らしと言う程の悲しみでは無かった、例えば家族や彼氏が死んだとかそんなレベルの悲しみだ……この仮定ならゲーセンに居たのは家族との思い出を振り返る為とかか。
なら、探すなら人気の無い所より思い出が作りやすい娯楽施設やデートスポットとかのが良いのかもしれない。可能性は低いが当てもなく探すよりかは良いだろう、取りあえずメジャーな遊園地あたりから巡って見るか。
遊園地、水族館、動物園全て居なかった。行なれてない所を三連続、なんだか疲れたよ。次はもっと日常的に行きそうな所がいいな、例えば買い物とか。次はショッピングモールに向かった。
ショッピングモールを散策しながら回る、ついでにパン屋で夕食の菓子パンを買っていく、服屋に近づくと一つとそこに近づく二つの魔力を感じた、、、間違いない探していた人物がそこに居る――
様子を見てみると、前と同じ服装で同じ悲しみを抱えながら物憂げに店の入り口前に立っていた。
問題はそこに近づく二人の魔道士だろう、魔道士連盟ならいいが……来たのは殺気を隠しもしない反逆魔道士だった。
訳ありの様だがあの女性を攫われる訳には行かないのでその間に入る。
「そこの人、逃げますよ。話は後です」
女性に端的に用件を告げる。
「え?、、、だめ!来ないで!」
女性がまた拒む、また絶叫で有耶無耶にする気だろうか……だが、今回はそうも行かないだろう相手は魔道士なのだがら。
女性の声で後ろの魔道士が逃げられると思い走り出す。
「叫ぶなら叫んで下さい、もう私には関係ないので」
女性の手を掴み、走ると同時に女性が絶叫を上げる。
店員や一般客はその絶叫を聞き気絶するが後ろの魔道士は少し怯むだけですぐに追いかけてくる。俺は耳栓で防いで、そのまま女性と逃げる。
「飛びますよ」
魔道士相手に普通に走っても追いつかれる為、女性を抱えて三階からエントランスへ飛び降りる。
「きぁ!」
少しだけ女性の魔力に紛れる形で魔力を使い足の耐久値を上げて一階に着地しすぐに走り出した。
ショッピングモールを出て車が走る道路を強引に横断しタクシーに乗り込もうとしていた人に割り込み、女性を後ろの乗せ運転手を蹴って追い出して車を奪い走り出した。
なんかあっても魔道士連盟が責任取ってくれるだろうと思っての行動だが、どうなるだろうな。
「貴方は、なんなのですか!貴方も私の魔法を奪いに来た一人ですか!」
「それは、こちらのセリフですよ、私の事覚えてないですか?私の名前は森薙技不士と言います、ゲームセンターで貴方に会っているのですが……見て下さい、この左腕、そちらの魔法でこうなったのですが治せないですか?
あと、私は魔道士では無いので奪いに来たとかでは無いですよ」
「っ!!その腕……ごめんなさい、私には治せないです」
「そうですか、まぁ、仕方ないですね。それで、そちらは何者なのですか?」
「私は……毒華 朔と言います、あの、下ろして貰えますか。腕はすみません、これ以上森薙技さんを危険に巻き込めないので」
「関係ないと言ったはずです、危険とか今更関係無いのです。腕が呪いに犯された時点でこれ以上も以下も無いですよ。毒華さん事情を話して貰えないですか、貴方には魔法の扱い方を覚えて貰い、この呪いを解いて貰いたいのです。そのために私は毒華さんの味方になりますよ」
「!!……ごめんなさい、わかりました事情を全て話します」
なんだか今から重い話をします的な感じで話さそうとする。
「あ、パン食います?」
途中で買った菓子パンを差し出す。
「え?はい、ありがとうございます」
毒華さんはパンを貰って少しほっとしたような感じがした。
それから、今までの苦悩を状況を語り始めた、車で彼女の家まで送りそこでこれからの対応を考える事にした。