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孤高の魔道士は自分の不変を望む  作者: 最弱のあああ
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九話 誤解だけど初めての感謝

 


 後日、俺こと森薙技不士はしれっと家に帰って来ていた。


 念の為に兄の部屋を確認するが兄は居ない。一人しか居ない家は静かでとてもとても落ち着く。


 シャワーだけ浴びて学校への通学準備を整える。整えると言っても制服を着て財布と家の鍵を持つだけだが。教科書などは全部学校に置き勉しているので気にしない、せいぜい体操服ぐらいだろうか持ち歩くのは。


 いつもより少し遅めに学校に着く、今日はコンビニで昼食を買っていたからだ。そのままいつも通りと思ったが昨日傷の心配をしてきた女子生徒が挨拶をしてきた。

「おは、よう!」

「え?ああ、おはよう」

 顔を真っ赤にしてそのまま自分の席に戻って行った。


(なんだったんだ?負の感情は感じられないが……)

 あくまで呪羅万象顕現の力は負の感情の理解であってそれ以外は全く理解出来ないのが難点だな。まぁ普通は負の感情だって理解できないのだけれど。


 その後、誰にも話しかけられる事なく昼休みになる。もちろん陸道も休みだ、呪いの影響がわかるのは当分先の事になるだろう。ストーカー魔法野郎の事はいい、それより兄の取り巻きの二人だろう。兄という繋がりが無くなれば自然に疎遠になる物だろうと考えているが……



 来ることが無かったのでコンビニで買った菓子パンを教室で食べながらネット小説を読み耽っていた。周りに気を遣わず不快感無く今日の一日を終えた。








 夜になり、いつもの様に特訓に出かけるが……。


「なんだか?魔物が少なくね」

 周りを見渡すが何時もならウヨウヨいる魔物が明らかに少なくなっている。


 魔物がいない事は良いことだと割り切り原因不明の魔物減少を頭の片隅に追いやる、それよりサンドバッグになりそうな魔物を探していると、町中で人を襲える様になるまで成長した魔物が少年を襲っているのを見つける。

 助けようと動く、少年少女子犬子猫これらがひどい目に遭うのを見るのは不快で気分が悪くなるからな。



【魔力超濃縮物体】を出しながら少年と魔物の間に入り込み、攻撃を防ぐが一撃で魔力物体が砕け散る。

「ぐっ!以外と攻撃力が高いな、、、お前とっとと走って逃げろ!」

 再度、魔力物体を集めて障壁を形成しながら後ろの少年に声を掛ける。そこでやっと我に返った少年が逃げる。


 ほんの一瞬だが何かを守りながら戦うのは初めての経験だった。なかなか疲れる。だが、ここからは俺の独壇場だ。


 魔力物体を障壁と多数の棘に変形させて魔物と向き合う。魔物は人型で体長が3メートル近くあり、腕と足も丸太の様に太くまるで鬼の様だ。

 ただ、首に魔物を使役するための魔道具である首輪が付けられていた。


「誰かの飼い犬か?今、俺の周りには飼い主らしき魔道士はいないし?まぁいいか、特訓相手になれば」


 魔力の無い一般人を襲ってたのだからろくな飼い主では無いと判断して棘を飛ばす、魔物は棘など気にしない様子で棘を受けながら腕を振りかぶり殴打してきた、それを二枚の障壁を使い回して防ぐ。

 避けない、丈夫、壊して気にならない。サンドバッグにピッタリだな。


「変形・戦根メイス

 魔物が腕を振り上げると同時に駆けて魔物と肉薄する、そのままフルスイングで振るい太ももを潰す。その後、魔物の後ろまで駆け抜けて背後を取る。

「変形・槍」

 足が潰れ遅まきながらも振り向く魔物の胴体部に槍を突き刺す。

「変形・斧、これで止めだ!」

 刺さっている槍をそのまま斧に変形させ横に切り裂く。魔物は声にならない声を上げながら倒れ落ちた。



 魔物が完全に死に消滅するのを待ってから、途中から逃げずに隠れていた少年に振り向き声を掛ける。

「逃げろと言ったと思うが何で、まだ居るんだい?」


「!!あの、お礼をいいたくて、助けてくれてありがとうございました!」


「……そうか、どういたしまして……でも、わざわざ危険を冒してまで言う事ではないから次からは逃げろと言われてたらすぐに逃げなさい」


 少年は元気に返事をしてから去って行く。魔法を使って感謝されたのは初めてだろうか……魔道士連盟ならここで記憶処理をするのだろうが俺にはできないのでそのまま返す。連盟の拠点の一つでも教えておくべきだっただろうか。

 そんな事を考えていると、後ろから魔道士が接近してくる……よく知っている魔力だった。いつもならここでとっとと去るのだが、今回は待ってみる。


 間違えであると信じて……






「死んで無かったのだな、、、聖剣の使い手」

 後ろを振り向き兄を見据える。あの場に回復魔道士は居なかったと思うが誰か使い手がいたのだろうか?いや、今はどうでも良いことだ。目の前には兄勇進と水乃木さん灯日さんの三人がいる。


「ああ、奇跡的にな五大魔法の【聖蘇】の力で瀕死からよみがえったよ」

 兄が極めて冷静に答える。俺に対しての恨みや怒りの負の感情が感じられない。


 聖蘇の使い手が近くにいたのか運が悪いな、仕方ないまた次の機会に殺すとしよう。今は殺す理由がないしな。

「それは良かったよ……聖剣の無事が確認できたし私はもう行くよ」


「待ってくれ!礼を言わせてくれ!魔物に襲われている少年を助けてくれて、ありがとう……それと弟を怪我無く帰してくれて感謝する」



 何を言っているんだ?こいつは?少年の方は理解できるが、弟を攫った奴になぜ感謝できるんだ、しかも怪我無く返しただけで……死にかけて頭のネジがはずれたか?

「……誘拐犯に言う言葉では無いな、馬鹿なのか?」


「義理を果たしただけだ、貴方が不士を攫わなければもっと凶悪な魔道士に攫われていたかもしれない!」


(ん?どういう意味だ?)

 意味がわからないでいると兄が続けて話し出す。


「俺は不士の為にと陸道に魔法を使わせいつでも追跡できる様にしたつもりだったが、それは悪手だった。……魔法の糸は高い感知能力を持っている者には視認できる物だったため陸道や俺以外にも不士の場所がバレてしまう危険があったんだよ。

 そこから、不士と俺や魔道士連盟の繋がりがバレて、簡単に誘拐でき強力な人質になってしまう危険が生まれてしまった。そこで貴方が攫っていった。

 ……悪人からみたら人質は使い捨ての道具にすぎない、、、だから貴方に感謝するんだ、不士を無傷で帰してくれた事を」


 なるほどってなるな。確かにそう言った危険性が生まれるな、利用すれば強い魔道士を釣れたかもしれないと少し惜しくなる。関心しているとまだ兄が話を続ける。


「なあ……貴方は気づいていたんじゃないか?魔法の糸を見た瞬間にこの危険性を……貴方は俺の事を知っていた、なら弟不士の事も知っていても不思議じゃない。だから貴方は不士を攫った、いや、助けてくれた。そう思ったんだ」


(なにを言っているのコイツ?殺されかけた事忘れたのか?)

「……いや、買いかぶりすぎだ。気づいて無かったさ」


「そうか……そう言う事にしておくよ」


 いや、‘そう言う事にしておく’ってなに?何か勘違いしているな。

 そこからまだ話を続ける。


「おかげで俺は変わったよ」

「……変わった?」


「ああ、俺は舞い上がっていたんだよ、魔法を得て。その結果、不士を危険な目に会わせてしまった。俺のせいで!、、、だから弟離れしたんだ、それで俺は変わった、成長したんだ。

 不士を助けるのにたくさんの人が動いてくれたと知った、今まで不士を守れるのは俺しかいないと思ってたんだよ、でも違った。たくさんの人に支えられていると知った、不士だけじゃない俺だって支えられている

 支えられながら俺も支えたい!そう思える様になったよ」



「…………そうか、良かったな……」

「ああ!これも、貴方のおかげかもな!ははは!呼び止めて悪かったな、それじゃ俺達は次の任務に向かうよ」


 やっと話を終え三人は去って行き、俺一人残っていた。

 兄は弟離れと言った、おそらくこれが今日姿を見せなかった理由だろう。良い事だ、本気でそう思う。だか、何かが不快だ。何が不快なのだろう?不快だった兄が死に不快じゃない兄に生まれ変わった。そうだ、不快だった兄が死んだからだ。

 なぜ死んだら不快になるのだ?殺したかったのだから丁度良かったはずだ、いや、殺したかったのに殺せなかったからだ。


 兄は自殺して別の誰かに生まれ変わった、俺が殺したかったのに。


 自分で言うのもなんだか意味がわからない不快感だ、ああ、不快だ、こういう時はそこらに居る魔物でもサンドバッグにすれば良いのだが、あいにく周りには魔物は居ない。と言うか魔物の数が少ない。何時もならウヨウヨ居るのに。








 帰ってゲームでもして忘れよう。







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