第1話
異世界に転生させられ、今いるのは…人間の腹の中だ。まあそうだろう。命が誕生したところからになるもんな。しっかし、人間に転生かぁ、考えたこともなかったなぁ。にしても目がないって不便だね。中々面倒だ。目がないから視界がなにもない真っ暗だ。しかも耳もない!鼻も!口も!まあ、からだが完全に出来てきていない状態だしな。寝るか。特に出来ることもないし。Zzz
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次に起きるともうすでに結構体が出来ていた。んー、後1ヶ月ぐらいかな?しっかしこんだけ体ができててもやることはないんだよなぁ。んじゃ、ちょっと思考するか。
まず外の世界についてだが、今すぐに絶滅!と言うわけでもなさそうで、現に僕に送られる栄養は良いものばかりだ。でも外の世界のことは産まれてからしかわからないこともあるので、これは保留。後は神様が言ってた勇者についてだが、これも産まれてからじゃないとわからないのでどうしようもない。結果、寝るか。そう思い、俺は眠りにつく。あーあ暇だなぁ。もうちょっと何かあってもいいんじゃないかってぐらい暇だ。本当に寝ることしかできない。そんじゃ、おやすみ。
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次に起きると出産されていた。俺は「おぎゃー、おぎゃー」と叫び、呼吸をしている。全く不便な体だ。叫ばないと呼吸ができないなんて。こんな体だと蚊でいる方がましに思えるね。うん。
そんなこんなで、俺は今2才の誕生日を迎える。ここまで来るのに苦労に苦労を重ねた。言語を喋るようにしたし、歩行方法も学んだりと色々やった。疲れが酷い。しかもそれで赤ん坊のフリだぞ。きついにも程がある。今度死んだときに神様に文句を言ってやろう。
「ヤアルちゃん。お誕生日おめでとー!」
「おめでとう」
僕の父と母。父はクギナサ・コウキ。仕事は軍人で結構良い役職に就いているらしい。
母はクギナサ・クヒメ。俺の面倒をしっかり見るいい人。しかし、甘やかすことが多い。元虫の俺にとっては十分すぎるほど良い親だ。神様、この親を選んでくれてありがとう。そこだけは感謝しています。しかし、いくら勇者に転生したからって2才じゃなぁ。もうちょっと成長してから訓練するか。まず言語も覚えないといけないし。
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「はっ!はっ!はっ!はっ!ふぅ、素振り千回終わり!」
「頑張ってるねぇ。はい、これ差し入れ」
彼女はメイネ・クサラ。俺が産まれた病院で産まれ、俺の産まれた日にちと同じで、親が仲良くなったので俺達に友好関係が築かれた。いわゆる幼なじみと言うやつだ。
「全く、今日は私達の10歳の誕生日だって言うのに、朝の素振りはやめないのね」
「そんなもん毎日続けなきゃ意味ねぇだろ」
「はいはいそうでしたねー」
俺は9歳(今日で10歳)になり、能力を三つ手に入れた。一つは『勇者』、何者にも臆せず突き進むことのできる能力。
二つ目は『魔力操作』、この世界の人間に流れている魔力を操作し、武器に流したりして強度や威力をあげることができる。他にも色々なことに使えるので便利。
そして3つ目は、この俺がもて余すほどの能力、『絶対的な力』。こればかりはどうにもできない。この能力を発動させると棒を軽く振るだけで木が軽く切れる。これを刀で使えばどうなるのか。これをするとやばすぎるので、使ったことはない。まあ、操作がしっかりできるときまで使わないでおこう。ったく神め、面倒な能力渡しやがって。使いこなすまで何年かかると思ってんだ。はあ、どうせここから喋りかけても聞いてねぇだろうなぁ。
「おーい、なにぼーっとしてんのー?」
「ぼーっとなんてしてねぇよ」
そう言い、俺は汗を拭く。ふう、よく汗をかくなぁ。そう思いながら差し入れを食べる。
「どう?美味しい?」
「ああ、美味い」
「そう、ならよかった」
メイネは満足そうな表情を浮かべる。なんだ?何があるんだ?
「今日の誕生日会、ヤアルん家でやるから。お母さん達に伝えといてねー」
そう言い、メイネは家に戻っていった。人間の考えてることは大抵わかるが、メイネの最近の行動はよくわからない。
「かーさん、今日の誕生日会うちでやるってさ」
「そう、それじゃ準備しないとね!」
「とびっきりを用意してやれよ?あと、ヤアル。こっちに来なさい」
俺ははい、と言って近くに行く。すると
「これ、今日の誕生日プレゼントだ」
そう言い、鞘に入った刀を渡してきた。
「誕生日会でこれを渡すのは、若干的外れな気がするから今渡しておく。俺はお前の頑張りをよく知ってる。大人になって、守るべきものが出来たとき、これで守れ」
俺は少し遅れてはい!と言った。心が痛かった。実を言うと俺は神様に人類を救うと言ったが、恨みは当然消えなかった。それで俺は神様を裏切り、人類を滅ぼすために毎日素振りをしている。そんな俺に「守るべきもの」と言われると、心に刺さる。俺は自分の部屋に刀を置き、布団に入った。
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一緒に生きようと彼は言う。俺もそれに賛成した。彼は優しく、そして良いやつだった。しかし、彼は俺の寿命の半分も生きぬまま人間に殺された。その死骸はとても無惨だった。その事を考えていると、後ろに彼がいるような気がした。彼は怖い口調でこう囁く。
「憎い人間なんか殺しちゃってさぁ。早く俺の敵をとってよ」
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はあ、はあ、はあ、夢か。久々に見たなこの夢は。でもいつもよりリアルだったような。気のせいか。「カーン!カーン!カーン!」なんだ?外がうるさい。俺は外に出た。外は日が暮れかけていたが、そんなことより母の顔が青ざめていた。何があったの?と俺は聞く。母はこう答えた。「この鐘はね…魔族の襲撃を知らせる鐘なの。そ、それで…あ…あ…あれを見て」そう言い母は指を指した。その方向にはメイネの家のある住宅街が燃えていた。
「ッ!」
考える間もなく僕は自分の部屋に入る。そして父からもらった刀を持ち、また外へ出た。母が泣き崩れていたが、お構いなしに能力を発動する。
「能力発動、『絶対的な力』」
俺は軽く飛び、メイネの家のある住宅街へ飛んだ。
「メイネ!メイネ!!メイネ!!!」
俺は必死にメイネを探す。すると、魔族に追い詰められているメイネを見つけた。
「んー、この女はどうしようかな。単純に斬殺しても面白くないし、そうだ!辱しめてから殺してやろう。そうした方が面白い!」
メイネは怯えていた。体をプルプル震わせながら。俺は最初魔族を見てひるんでいたが、魔族のあの発言で俺の何かが「ブチッ」とちぎれた。
「能力発動、『勇者』、『魔力操作』、『絶対的な力』」
そう言い俺は俺の持つ全ての能力を発動させ、持っていた刀の鞘を抜き、魔力操作で刀に魔力を込め、絶対的な力の能力で、一瞬で間合いを詰めて、魔族の体を後ろから両断した。流石に魔族だ。体を両断するぐらいでは死なないらしく、まだうねうねと動いていたので、もう一撃食らわせてやった。するとちゃんと死んだらしく、動きが止まった。
「お母さんが!お父さんが!」とメイネは叫ぶ。俺はその状況を察して、メイネを軽く抱きしめて俺の家まで飛んでいった。メイネを母のもとへ連れていった。そうして俺がもう一度住宅街へ行こうとすると
「何をしているだ!ヤアル!ここにいなさい!」
父さんがそう叫ぶ!きっと俺のことを思って言ってくれたのだろう。しかし、
「父さん、ごめん。でもね、もう俺は見たくないんだ。弱者が強者にいたぶられる姿を」
そう言い、俺は魔族の襲撃にあっているであろう住宅街に突っ込んだ。