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僕の友達  作者: 京花
2/2

後編


学校から帰ったら家には誰もいなかった。

この時間いつも母は仕事から帰ってきて夕飯の支度をしているはずなのに。

プルルルル…

電話がなった。

相手は母の勤務先。僕は自分の耳を疑った。


母が仕事中に倒れたのだ。


急いで父に電話する。

何回もならしても父が電話に出ることはなかった。

僕は留守電にメッセージを残し病院へ向かうことにした。


病院で母はベッドで眠ったままだった。医師は直に目を覚ますという。倒れたのは病気などではなく過労と心労によるものだと。働きすぎで体が疲れていたところに精神的に追い詰められたことでいっぱいいっぱいになってしまったのだと、あとで看護師がわかりやすく説明してくれた。

僕は責任を感じていた。

きっと母は僕のせいで体調を悪くしたのだ。

看護師にもう暗いからとせかされて帰路についた。


家に帰ると父が酒を飲んでいた。

僕の直感がやばいと警笛をならす。酒に酔った父はその日、僕に手をあげた。

「あの女!勝手に倒れやがって!せっかくパチンコで勝って気分がよかったのに!台無しだ」

僕はなんだか悔しくて、悔しくて、ただ拳を握りしめるしかできなかった。


翌日、学校を休んだ。

父が僕の腫れ上がった顔を見て休ませたのだ。

父は今日もパチンコへ出掛けた。僕は一人布団にくるまり父が帰ってくるのが遅くなるようにとただ祈るだけだった。


ピンポーン

と、チャイムの音で起きた。いつのまにか眠ってしまっていたらしい外の景色はは既に夕方になっていた。

ドアを開けるとそこにはノゾムがたっていた。ノゾムは僕の顔を見ると驚く。

「おい!その顔、大丈夫か!?昨日の喧嘩の傷じゃないだろう!?」

大した傷じゃないという僕の言葉など聞かなかったかのように家の中にはいるノゾム。

「救急箱どこだ?」

そういいながら勝手に家の中を漁る。

いいから、と言ったときノゾムは救急箱を探し当てた。

不器用な手つきで僕の顔に絆創膏を貼っていく。

「なにがあったんだ?」

その問いかけに僕は答えられなかった。

ノゾムは部屋を見渡す。

「お前の親父さんって酒癖わるいのか?」

ドキッとした。僕が秘密にしたいことをつぎつぎとノゾムは突き止めていく。

「だってビール缶とかその辺に散らかっているし。母親いたはずだよな?」

もう僕の敗けだった。ノゾムにすべて話した。

父の暴力、そして母の入院。

「助けてくれる人とかいないのか?なんでも相談しろ。いいな」

ノゾムは頼りになる、彼との付き合いは長くないけどノゾムなら信頼できる。

ノゾムが帰ってからすぐに父が帰ってきた。

父の機嫌が悪い。きっとパチンコに負けてしまったのだろう。僕は父の視界から逃れるように部屋のすみで目立たないように目をつむった。


翌日も父からは学校を休むように言われた。

まだ顔の腫れが引いていないのだ。今日も父は出掛けた。母は意識を取り戻したのだろうか。いろんな事が頭の中をぐるぐると駆け回る。

昨晩もあまり眠れなかった。父からいつ暴力を振るわれるかわからなかったから父が眠るまで僕は眠れない。目を閉じてじっと待つだけだ。

『助けてくれる人はいないのか?』

ノゾムの言葉を思いだし、目を覚ますと昼過ぎだった。助けてくれる人。僕に思い浮かぶ人は、ただ一人だった。

ゴミ箱に入った「養育費」とかかれている封筒を見つける。そこにかかれている電話番号に電話をかける。

「もしもし」

初めて話す実の父の声。

「もしもし?」

電話するまでいろいろ考えていた言葉たちがなぜか出てこない。

「た、たすけ」

「俺にも新しい家庭があるんだ。あまり電話とかかけてこないでくれよな」

そう言うと実の父は電話を切った。

僕がばかだった。父はこういう人間だった。だから母と僕を捨てた。それなのに僕はまた頼ろうとするなんて。考えが甘かった。

どうしようもない孤独と絶望に襲われて僕は布団にくるまって泣いた。

その時、玄関のドアノブが回る音が聞こえた。

ノゾムが来てくれたのだと思った。玄関へ迎えに行く。

そこには新しい父がいた。しかも、ひどく機嫌の悪い顔をしている。

「おまえ、前の父親に電話したんだって?連絡があったぞ」

あぁ、何てことだ。

父に突き飛ばされて部屋の中心へ倒れる。

倒れた僕に父が馬乗りになる。

殴られる。そう思った。

必死に抵抗するが大人の腕力に勝てるはずもなく僕の両手は押さえ込まれる。そして父の右手が振り上げられた。


ピンポーン


チャイムがなった。

父が僕の口を塞ぐ。

助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。僕はここにいる。

「黙ってろ!」

父の手に力が加わり僕の口を強く押さえる。

再びなるチャイム。

足音がした。玄関から離れていくのがわかった。

行かないで。行かないで。行かないで。行かないで。行かないで。

誰も助けてくれない。

ちがう。誰かのたすけを待っていちゃダメだ。僕が何とかしないと。ノゾムのように、僕自身の力で。

安堵からか父の手の力が弱まったのを感じた。

この瞬間を逃したら僕は殺されてしまうかもしれない。

僕は父の手を力一杯噛んだ。

「痛てぇ!」

父は血を流しながら右手を離した。

「んああぁぁっぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!」

言葉にならなかった。喉につっかえた言葉たちが一斉に吹き出したみたいだった。

「この野郎!」

父の拳が僕の顔面を強く打った。同時にドアを叩く音が聞こえた。

もうろうとする意識の中父が焦っているのがわかった。

ドアが開くと見知らぬスーツの男が二人ほどたっていた。

男たちは家の中に勢いよく入ってくると父を押さえつけた。あれだけ力の強かった父はあっという間に押さえつけられた。

男の一人が僕に向かって問いかける。

「俺たちは児童保護団体の者だ。怖かったね。もう大丈夫だから」


この先の記憶が僕にはない。

気付いたときには僕は母と同じ病院に運ばれて治療を受けていた。母がベッドの傍らにいたときはビックリした。

でも僕はあの家から抜け出すことに成功したのだ。僕自身の力で。

僕はその日のうちに退院することができた。

その後、僕は母と共に母の実家で生活することになった。幸い母の実家は近所であったため引っ越しをする必要もなかったし。学校と家が近かったことも僕には嬉しかった。


翌日、学校の校門で純一がたっているのが見えた。

「おはよう。入院したって聞いたから僕心配したんだよ」

「心配してくれてありがとう。でももう大丈夫。いろいろ話したいんだけどさ。そうだ、ノゾムはどこにいるかな?僕あいつにいろいろ迷惑かけたから」

のぞむって君の名前だろ?」

「違うよ、僕じゃない方のノゾム」

「ごめん、その…ノゾムってだれ?」

「なに言ってるのさ。ずっと三人で一緒だったでしょ?」

「僕はずっと君とだったよ」

なにかおかしい。だって、ノゾムはいつでも僕といっしょにいた。

僕は走り出した。教室を見回すけどノゾムの姿はない。隣のクラスや中庭、体育館裏、どこを探してもノゾムの姿はない。

どこにいってしまったんだよノゾム。


男子トイレに入ったとき、見つけた。

「ノゾムどうして居なくなったんだよ!」

『どうしてって、答えはもうわかっているだろう?僕は君自身だよ』

「違うよ。僕はノゾムみたいに強くないし自信もない。君に憧れて君になりたかった」

『君はもう僕以上に強くなっているよ。僕がいなくても大丈夫だろ?』

「嫌だ!僕は君がいなくなるなんて。ずっとそばにいてよ!」

『僕はずっと一緒にいるよ。君の心の中に』

ノゾムの目から涙が流れるのが見えた。

「君だって泣いてるじゃないか」

『泣いてるのは君だろう?それに君はもう一人じゃない。本当の友達ができたじゃないか』

「でも、僕は君と」

『僕はずっと君の心の中にいる』

「また会えるよね」

鏡の中のノゾムが微笑む。

トイレの入り口のドアが開き純一が入ってくる。

「急に走り出すからどうしたのかと思ったよ」

「ごめんごめん。なんでもないよ。そろそろ朝礼はじまるし教室へいこう」

純一の背中を押していく。

振り向き、鏡の中にいるノゾムへ向かって告げる。

「じゃあ、またな。ノゾム」




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