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Y3K 〜鬼が泣いた日〜  作者: 白鬼
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家族の形

微かにスワロウの減速を感じると、「間も無く仙台駅に到着します」とテロップが座席ディスプレイに流れる。


「んんんーーー、なんかあっという間すぎて家から駅までの徒歩の時間の方が長く感じたよー」

足と手をシートいっぱいに伸ばすエリカ。そのままの状態で左右にゴロゴロと転がる。


『エリカのお家は駅から遠いの?』

アテナも伸びの真似をしながら聞く。


「うん、すっごく遠い! エアーホールの端っこ!壁っちょ!」

一通り伸びも終わり、目を見開き上半身を起こすエリカが、右手で駅と左手で自分の家を表している。

エアーホールシティーは都市によって大きさは異なるが、ここ仙台は日本で2番目に大きい都市だ。 しかし、観光用に「森羅の国」と名付けられているように、自然が多くその中に残る。

他の都市はスワロウ乗り入れの駅がエアーホールシティーの中心に設定されるのであるが、津波や地震が多い地域のため、海の面積を小さくし駅が東側に寄っている。エリカの家は最北の壁際にあたる加美町という所にある。


父のオモトは国営の研究所で働いていたが、カトレアのお腹にエリカが宿ったのを期に、その住居を東北に移した。こちらでは、一から学び始めた陶芸品を作っている。

仙台には自然派志向の人が多く暮らしているのもあり、オモトの作る工芸品は、最近ではそれなりに有名なってきた。 

切込焼きりごめやき」と呼ばれる青の美しい陶芸は、かつて1度途絶えてしまった伝統的な工芸品である。基本的な染付そめつけはターコイズのような鮮烈な翠青もあれば、薄く淡い青も使われる。そこにグレーと黒でポイントで色を入れるのがオモト流だ。

彼曰く、「愛する人の目と同じ色をした陶芸品に心を奪われてしまった」そうだ。もともとは、東京で働いていた会社の系列の研究所に移動する話だったらしいのだが、手伝いはするものの本業を陶芸家に変えたのだ。


一方母のカトレアは、都内では街の緑化事業に携わっていた。東北エリアに来てからも家周りのガーデニングはもちろん、趣味にしては手が込んだ野菜園をやっている。といっても土をいじるほどの超自然派でもなく、完全に機械管理された水栽培がほとんど。抜けているような印象をもたれる彼女だがしっかり、もとい、ちゃっかりしているカトレア。そして、かたわら自宅で料理教室を開いている。オート調理の発達で毎日料理をする人が減ったとはいえ、ここ東北ではちゃんと食材を買い自ら調理する人も多く、カトレアの料理教室は盛況である。


「高原にお家があるんだけど、近くの広場には季節によって辺り一面に花が咲くの!夏は空の星は綺麗だしとってもいいところ! 何もないところがいい所!……無さすぎも困るけど。」

自分の前の画面をアテナにも見えるように大きくして、撮った画像を見せるエリカ。だが、何も無さすぎるがあまり都内への進学を決めた事を思い出し尻窄みに声量が小さくなっていった。


『きれい…』


画像を選んでは、指で弾く。宙を漂う沢山の画像を一枚一枚タッチして、大きくするとじっくりと見ているアテナ。

「口が開いてるわよー」

『っん!』

両手で口を隠し『むー』と唸りながらエリカを睨む。

『でも、本当に綺麗。いっぱい写真は見てきたけどその中でも綺麗だよ!』


「これ、お父さんが仕事で作った焼き物。」

しゅっ、と画像がアテナの前に飛んでくる。

『わっ、かっこいい!エリカの目と同じ色っ!』

それは、辣韮徳利らっきょうとっくりと言われる形のお酒を飲むときにつかう入れ物と説明された事がある焼き物。下にかけて膨らんだ可愛いシルエット。そしてなにより、大好きな母の目と同じ色したターコイズにねずみ色で唐草柄があしらわれている。


「でしょー?仕事してる時はお父さんかっこいいのに、家に帰ってくるといろんな欲求が爆発しちゃうからうるさいの」


『えー、でもいいじゃない、エリカのお父さん。 っていうか、ノリとかエリカと似てると思うケド…』


「…っ!!!」


写真を漁る事に集中していたエリカの手が止まり、顔を赤くしながらアテナにゆっくり振り返る。

「に、に、に、似てる!?私とお父さんがっ!? それ冗談でもギリギリアウトのやつ!いや、超アウトっ!だめっ!ぜったい!」


顔の前で両手をブンブン振りながら全力で否定している。そんなエリカを見て、オモトをちょっと可哀想だなと思いつつ、照れて隠しをしている様にも見えたのでそれ以上は追求しなかった。


「ほらっ、もう着くから!セクレタに戻る戻るっ!」

『はぁーい。楽しみだなー、エリカのお母さんとお父さんに会うのっ。ちょっと緊張するけど。』

ちょうどいいタイミングで表示された到着を知らせるアラームに救われ、席のリクライニングを戻して、上から覆いかぶさる様に降りていたVR機器を上げる。 するとアテナの体が光に変わり、襟元にある赤いセクレタに飛んで戻っていった。

『無事戻りましたー』

報告が入る。それに答えるように、セクレタを軽く触る。

席が座る前の状態に戻ると車内の室内灯の明るさに目を細めるエリカ。

そして、車内側面に映し出されている車外の疑似映像が目に入る。絶好のお天気。

駅周りこそビルが立ち並ぶが、遠目には緑が見え空も開けている。そこでようやく帰ってきた実感を得ると、降り口に向かった。


到着のアナウンスが流れドアの縁のランプが赤から緑に変わり音を立てて開く。 

向かいのホームでは東京行きのスワロウの発車の合図がなっている。

とても優雅なオーケストラの音楽が流れるのだが、これがエリカはけっこう好きだった。


プラットホームエリアからゲートをくぐり、駅構内の売店や商業施設の入るエリアにはいる。

「そういえばお土産忘れちゃったねー、東京のお土産って何買っていいかよくわからないよね」

言葉ではなく意識下でアテナに喋りかける。 エリカは唯一アテナとは思考会話、「サイレントボイス機能」を使用する。


『東京のお土産かー、十代女性からはスイーツが人気!だってー。この透明なやつかっこいいー!』エリカの会話に合わせて色々と調べてくれているアテナを頭に浮かべていると、視界に画像が飛んできた。

「えーー何これ??新食材をつかったお菓子。水パンダ…だって。弾力がある噛みごたえなのに、あっという間に溶けてなくなるお菓子…だって。美味しくなさそう…」

東京では研究機関が多いせいか、一年にいくつもの新しい食材が生み出され、こうやって話題になる。

『味覚だけはヒューマノイドにも搭載されてないから!食べれるっていいなー。人間の三大欲求は機械には必要ないけど、体験したいよねっ!』


「私もさせてあげたいっ!お母さんの料理すっごくおいしいんだから!」

朝ごはんを抜いてきたエリカは、空腹を思い出してしまった。


「はぁ、お腹減ったよぉ。」

頭の中で止めようとしたものが声に漏れてしまう。


『もう少しの我慢ねー、人は大変ねっ!欲求が声に漏れてるわよっ』


「人は人である事だけは変えてこなかったからね!だから、しょうがない!我慢するっ!」


『おっ、なんか頭良さげな発言っ! エリカっぽくなーい。』


「失礼ねっ、これでも学年トップの成せ…AI相手に学力を誇示しても勝てる気がしないっ…!」

「ふふんっ」と勝ち誇ったアテナの声が聞こえた気がした。


早くご飯にたどり着きたいエリカの足取りは早い。

構内は都内に比べると断然人は少ないが、それでも賑わっていた。

その人混みを抜けて外の広場に出るとカウントダウンイベントが行われている。

駅前の広場は一階分高い位置にあり、眼下の街も人で賑わっている。東京ほどではないにしても、夜にはここももっと人で溢れるだろう。 


広場の中央には、「V」の片方が少し長く捩れた様なモニュメントが置かれて、東北エアホールシティの案内に特化した音声AIが組み込まれ、観光客の案内に忙しそうだ。見上げた位置に新年へのカウントダウンがARで映されていて残り12時間をちょうど切ったところだった。


広場横手にあるスロープを降りると迎えや、タクシーの利用のためのロータリーがある。その隣のエレベーターに乗ると、駅の屋上につながり「KITE(カイト)」と呼ばれる無人小型飛行機の発着所に出る。

日本の交通インフラは、専用のスローブを通る事で乗車物と通路の双方向で制御、管理している。管理といっても、それを行うのはAIがほとんどだ。

空路であるKITEカイトもエアホールの外壁と機体で制御され、目的地が同じKITEカイトは全く同じ軌道を飛ぶ。

人間による操縦は、陸、海、空どれをおいても基本的には禁止されているが、緊急時のマニュアル対処用に免許取得者は年に一回実施講習を受ける。

なのであらゆる交通機関での衝突や物損、対人事故は日本だけで見ればここ100年で一件も起きていないという安全性だ。 


仙台の駅から自宅は遠く、エリカはKITEカイト加美かみという空路用の駅に行かなくてはならない。そこにエリカの父も迎えに向かっているはずだ。

「高いところ怖いんだよな、車でここまで来てくれればいいのに。」

エレベーターの先を見上げそう呟く。


『でもでもっ!上から見る景色アテナ好きっ!』


はしゃぐアテナの声が聞こえるが、エリカの気分は重い。

「あなた、高いところ行ったことないでしょ…」

アテナの認識としては動画でも、エリカの視界を通しても同じ「情報」でしかないため、彼女はよく世界を旅して遊んでいる。

VRで世界旅行ができるフリーマップがあり、よく一人で色々な場所、色々な時代にいって遊んでいる。


高い所に行かねばならない億劫なため息混じりにエレベーターに乗り込む。KITEカイトの乗車券の購入手続きをしているエリカ。購入同意のポップが出る。支払いなどの、重要な場合はセクレタに触りながら、そのポップの「YES」をタッチしなくてはならない。

一瞬躊躇いながらも、エリカも同意のポップに触れた。


エレベーターを降りるとすぐ発着所があり、目的地別に設置されたプラットホームに人が並んでいる。

乗り継ぎ用のハブ駅も各地に点在するが、広大な仙台駅の屋上全てを占めているこの搭乗駅からは、東北エアホール内の9割の駅をカバーする多数のKITEカイトが搭乗可能だ。

平べったい楕円盤の後部が尻尾のように突起している形のKITEカイト

尻尾の部分が乗車用のスロープになっており、中は最大で50名ほどが搭乗できるようになっている。

中は、外郭を囲うようにシートが設置されており、中央は向かい合った席や、半個室のようなブース、軽食や飲み物が買える簡単なイートインスペースがある。スワロウのように機体自体が回る事も無いため、360度実際に外が見渡せるようになっている。


それぞれのプラットホーム入り口に手をかざすと、搭乗口へ続く扉が開く。

加美駅行きのKITEカイトに乗り込むエリカ。手近な空いたスペースを見つけ、外郭のシートに腰掛ける。同じように帰省の様子の人も駅構内では多く見かけたが、このKITEカイトが向かう加美かみという町は最北の山沿いに位置するため乗車人数は少ない。



何事もなくKITEカイトに乗り込むと、中は空調の音と、誰かのコーヒーカップを置く音が時折聞こえるくらい静かだった。

出発のアナウンスが流れ、到達予想時間がポップで表示される。動力が入る振動が一瞬足元を震わせた。機体が浮き上がる浮遊感がその後すぐにエリカの中を通りすぎる。


「ふー結構ギリギリ!スワロウは本数あるけど、加美行きのKITEカイトだけはこれ逃したら夕方になっちゃうから危なかったぜー! ねぇ、アテナ知ってる?大昔はね、仙台から東京までの移動だけで90分以上もかかったんだって。すごいわよねー、技術って。」

両親が今はナチュラル思考なため、実家にある先進機器といえばMR機器くらいで、エリカはこの一年間東京での生活で、人類の進歩を目の当たりにし驚いた事がたくさんあった。


窓枠に頬杖をついて外を眺めているが、徐々に上がる高度とともにエリカの目線は窓から外れていく。

『アテナが大好きな江戸時代の人は、歩いてどこでも行っていたんだから、1時間で行けるならまだまだ現代的…といっていいわね!』


「ははっ!確かにね。2000年前かぁ…。2000年前の人たちは2000年後の今をどれほど想像できたかな?きっと今みたいな生活になるなんて思ってないだろうなぁ。。5000年の今頃はどうなっているんだろ?」


『んんー試算だと、魔法みたいに0秒での移動は無理みたい。タイムマシンも無理!ただ、寿命が延びて、身体のアンチエイジングが進めば長寿の人口が増えて、今の大きさじゃ日本はまたエアーシティから外に出て生活することになるか、あらたなエアーホールシティの建設が必要になるー、だって!別の惑星へ移住する人も出てくるみたい。すげーな人類っ!もう宇宙人じゃん!』

色々な情報にアクセスしながら掻い摘んで説明してくれるアテナ。


「なんだか、とんでも科学ね。転移は難しいだろうけど限りなく移動時間は0に近づくんだろうなー。 私は好きなんだけどな。こういう田舎に帰る車内の時間とか、旅行にいく時の移動の時間。一人の時間。誰かと話す時間。相手の事を思い浮かべる時間。相手を思う時間。いつでも行けて、いつでも会えるのが当たり前になったら、そういう「何かを楽しみに待つ時間」が少なくなっちゃうのかな…」


すでに高度はかなりの場所まで達していて、なるべく下を見ないように遠くを眺めているエリカ。

エリカは初めての一人暮らしで、寂しさを感じることも多かったが嫌な時間ではなかった。両親や友人がいつでも近くにいた「当たり前」が無くなって不安にはなったけれど、当たり前じゃない事を知る事で愛が増した気がしたからだ。


『アテナは寿命が無いから時間に対する執着は無い…と思うんだけど、人間はそういうわけにいかないじゃない?…だから、人を愛おしく思ったり、技術を進化させたりするんだろうな、ってアテナは思うよ。感情とか意識?っていうのかな?同じ人類がなにか成し遂げたとしても、自分がいなかったら意味ないし面白くないじゃない。だから一生懸命研究したり、人を愛したり今を生きれるのだと思う。 アテナは頭では理解してるつもりだけど、感情ってもっと湧き上がるようなものだったりするんでしょ?自制が効かないっていうの?大変よねぇ…。』


再び空調の音が二人の間に入ってくる。 

エリカは全世界の感情が「アテナには言われたくない」と言っているだろうと可笑しくなりながら

「アテナはさ…」

静けさの間に言葉を紡ぐ。


「アテナは、私が死んじゃったら…居なくなったら、どう思うの?」


不意に置かれた質問に、AIのアテナにも間が空く。


『…ぁだ。』


遠い空調の音にかき消されるような返事だった。「ん?」と聞き返すエリカ。


『やだぁ!んんん、やだ!やぁだぁ!そんなの寂しいよぉ。』

泣きそうな声がエリカの頭にキンキンと響いた。

『やだぁっ!!やだやだやだ!どーしよう、エリカ死んじゃダメ!嫌! アテナもそしたら天国にいくぅっ!!天国どこか教えてぇ!!』

泣きそうだった声が、完全にぐしゅぐしゅになっている。1分前のアテナにこの音声を聞かせてやりたいとエリカは思う。「感情大爆発じゃないか」と。


「わっ!そういう意味じゃないの! ごめんね、アテナ! 私は死なな…いつかは死んじゃうかもだけど、そういう意味じゃなくてね…」


機内の静けさも相まって神妙なトーンに聞こえてしまったのか、エリカが聞きたい事はもっと簡単な事だったので、「死ぬ」ってワードの選択を後悔しながらあわててアテナを落ち着かせる。


「私もね、私の友達や両親、もちろんアテナも。これから会えなくなっちゃうってなったとしたらすっごい寂しいし悲しい。そんなの嫌だって思う。 それはね、人の時間が有限だからじゃないの。先で途切れるかどうかが決まってるからじゃない。一緒に過ごした時間がそう思わせてくれるの。この人を愛おしいって。 この一年で、私はたくさんの知らない感情に出会った。その中にはね、アテナに教えてもらった事もたっくさんあるんだよ。」


なるべくネガティヴな言葉を使わないように、ゆっくりとアテナに話しかける。


「だからね、時間が有限だから感情があるんだとも思わない。AIは時間が無限だから感情がないだなんて思わない。 だって、一緒にいた時間があったから、私もアテナも「寂しい!」って思えるんでしょ…?」


自分の言葉にはあまり自信がないエリカ。

だが、時折アテナが自分と人間を線引きにかける時、いつもの調子に見えるが、言葉の節々にどこか影が見えるような気がしていた。

エリカがアテナに伝えたかったのは、実体がなくても、人間のじゃなくても、エリカだけはアテナをAIとしてじゃなく、家族だと思っているという事。

他人からすれば、又は一般的にいえば、そんなのはおかしい事かもしれない。感情というものが、誰かが作ったアルゴリズムで動く何かだとしても、それはエリカにとって関係ない事。アテナは自分の家族で大切な人。

それだけだった。


『…ぐすっ』


鼻をすするような音がする。

「だからね、アテナ。 あなたが見せる笑顔や泣き顔がただのプログラムだ!なんて思ってないの。理解して演技してるだけとも思ってない。あなたの言葉はや言動はAIのそれとしてじゃなくて、アテナのモノとして聞いているつもり。アテナは自分を感情のないロボットみたいにいうけど、アテナほど感情爆発する人を私はお父さん以外知らないよ。」

声だけで伝える難しさを感じながら、一生懸命に心を乗せるように言葉を紡ぐ。


『エリカはねっ…』


ようやく、返って来た声に安心して胸を下ろす。


『エリカはね、アテナとご飯食べに行ったり遊びにいったりできなくても、触れなくても大丈夫なの?それでも、家族になれるのっ? お風呂も入れないのに。え、もしかしてアテナってばっちいのかな…』


思わず「なんだそんなことか」と思ってしまったが、それは越えることができない機械、とくに実態がないアテナと人間の壁であることは変わりない。それは、必然的に浮かぶ疑問。

人間も肌の色や、職種や、階級なんかといった、もともと無かった壁や、理由をわざわざ作って、同じ人間を区別、差別し友情や愛情を諦めたりする。

人間同士でさえ、あるのだ。そんな壁なんて。


でも、その質問にエリカは被せ気味に即答する。


「それでも家族よ!言ったじゃない、何を一緒にしたかって事は関係ないの。一緒にいた時間が大事なの。言葉でだってお互いの気持ちに触れ合える。 それに言ったでしょ? アテナを起動した時、あの時からもうアテナは私の大切な家族なのよっ」

真面目なトーンはやめて、あえて明るいトーンに戻したエリカ。最後の質問は本当はアテナもエリカがなんて答えてくれるか分かっていた。その確認がしたかっただけなのだ。


ふと、エリカは気づく。アテナが髪型をはじめ、パジャマやピアスなど、エリカの真似をしたがる理由を。 自分は違うから、少しでも同じになりたいとするその心を。


『…うん…ありがとっ』


小さく頭の中に響く感謝の意には、恥ずかしさと愛情が乗っかっているように感じた。そう、確かに感じたのだ。

なので、エリカも小さく「うんっ」と答え、外に視線を戻した。高い場所から見る景色が好きだといったアテナのために。自分をこんなに思ってくれている存在がいるだけで、少し泣きそうなエリカだった。

そして、嫌じゃない沈黙が二人の間を流れていった。



”ポーン”



到着を知らせる音で意識を戻す。

心地のいい静けさに頬杖をついたまま、うたた寝てしまっていたエリカ。


「ん〜〜〜っ!!」


伸びをして、若干痺れてしまった右手をプラプラと動かす。


『寝る子は育つっていうのに、どうしてエリカは小ちゃいのかしら。』


聞こえてきたいつもの声に、「むむっ」と思いながら


「おはよっ、身長以外に栄養がいってるのよ!身長は後でも伸びるしっ!今のままでもギリギリセーフよっ」

エリカもいつもの自分で答えた。

唐突に右頬に当たる光に目を細める。雲の隙間から太陽が世界を照らす。


「何度見ても綺麗ね、いつか元世界げんせかいに行ってみたいなぁ。」


高度は徐々に下がり始めているが、雲に近い位置を飛ぶKITEカイト

眼下には東北エアホールシティの最北である加美町と、その奥、本当の意味での外である日本の景色が広がっていた。

平野の中にポッコリとそびえる薬菜山やくらいさんのちょうど北側にエアホール外壁がある。奥には東北の山々が雲間から差し込む光と影で、斜面に綺麗な光のドットを生み出している。 


着陸する加美駅は自宅より少し遠く、自宅周りとは違い建物の割合が多い。近くには公園があって、自然派達の拠り所になっている。


空より地面が近くなってきて、1時間と少しだった移動時間だが到達感を感じるエリカ。


「お腹減ったーぁ」


うたた寝でどこかに飛んでいた空腹も、再びお腹に宿る。 

着陸を待ちきれず、席を立ち出口に向かうエリカ。

「あっ!」

その途中の窓から何気なく近づく加美駅前の駐車場あたりを見下ろすと、見間違いようがない真っ赤の車が停まっていた。父、オモトの車だ。


地上はあっという間に近くなり、「そういえばお腹空いた事も、高いところが怖い事も、話してたら大丈夫だったな」と、今回の空の旅は楽しかったと思うエリカだった。


「よっ、よっ、よっとぉ」

刻みのいいテンポでKITEカイトの搭乗スロープを降りる。

降りたプラットホームの横に仙台駅に向かうKITEカイトがあり、十数名の家族や若者が搭乗を待って並んでいる。

仙台駅の様に広くない加美駅の発着所は、KITEカイトが二機停まったらほとんどいっぱいだ

。無意識に友達がいないか視線だけで探してしまう。誰も知らない事がわかると出口に目線を戻し駆けていった。


「あれーお父さん見当たらないよー。アテナも探してー」

『ぅむむむ…侍ぃはどこですかー?』

上空から気づいた赤い車は発見できたが、父の姿が見当たらない。

少し不安になるエリカだが、少し離れた売店の前に作務衣を着た人物をみつける。背中に大きな唐草家の家紋が刷ってある。服装もさる事ながら、何かに貪りついている姿は一瞬で父だとわかる。


「ハァ…」

深呼吸になってしまいそうな、大きなため息をつき地面に目線を落とす。

「もぉっ」

キッと眼光鋭く父の背中にむけると、勢い良く駆け出す。

その勢いのまま両腕をクロスさせ、背中に向け跳ぶっ。

「なぁに自分だけくっとんじゃーこらーー!!」

盛大に後頭部にクロスアタックを打ち込むと

「どわぁわぁっ」

と父が叫びながら倒れそうになる。が、先ほどまで貪っていたものを落とすまいと、右手を地面から離すようにヘッドスライディングを決めズサーっとランディングした。


「危なかった…あゆりん。お前だけは俺が守る…ぐふっ」


ガクッと右手はあげたまま頭を落とすオモト。

いつまでも自分を意識に入れてくれない父に「むっ」となるエリカだが、オモトの右手に持ったままの物が目に入る。


「んっ?魚??」


顔を伏せて倒れているオモトの頭の隣に、ちょんっと座り、食べかけの串に刺さった魚を見た。


『これはぁ、あゆ…だって鮎!川のお魚!塩焼き!』

すぐさま調べて結果報告をするアテナ。


「塩焼きだぁ!!」

顔を近づけクンクンと嗅ぐとその香ばしさに、テンションがあがる。お腹もなる。

加美町の名物である。

エリカはそっとオモトの右手から、鮎の刺さった串をそーっと抜こうとする。


「だわぁぁぁっ!」


ぐわっっと、いきなり顔をあげたオモトに驚き、こてんっと後ろに声をあげて倒れてしまうエリカ。

言葉を失い、頭をあげた父を訝しげに見る。すると又、急にこちらに向き直る。

目があうオモトとエリカ。

「えーーーーりかーーーー!!」

甲高い声で目が合った瞬間にハグする体制に入る。

「ちょっ」とあげた短い声が最後の抵抗で、そのままオモトの抱擁に包まれた。

「会いたかったぞーーー、1年分のハグするからなっ!」

ぎゅーーーっっと我が愛娘を抱きしめるオモト。

「1日ぃ、2日ぃ、3日ぃ…」

「いたいいたい、お父さん!息っ!できない!魚っ!!落ちる!!」

バタバタと、腕を振り回すがビクともしないオモトの抱擁。止まらない365日分のカウント。


「ぉぉおおっと、これはすまない!危うく父の愛の海に溺れて窒息寸前!でも魚ならエラで呼吸ができるから大丈夫だなっ!」

わざとらしくあわてて、顔を離すと「よいしょ」とエリカを立たせるオモト。自分の服の汚れを払いながら、エリカに歯を輝かせ鮎の塩焼きをぐっと立てながらそう言い放つ。


「アテナ、通訳。」


『んんーつまり、エリカは人魚ってこと?』


「あぁ、アテナ。そう、君もそうだったのね…」

額に指を当てて、再びの大きなため息をつく。

仕切り直そうと、自分もスカートを払い終えると

「もう、ただいま! ひどいじゃない、先に美味しそうな物食べちゃうとか!ずるいっ!」


「おかえり、そして、いらっしゃい!アテナちゃんも聞いているかな? いやぁ、この香ばしい薫りには父さんも勝てなかったよぉ、はっっはっはぁあ!」


「私にも頂戴っ!!そ・れ・に!他に私を見ていう事はないんですか、お父さん?」

わざとらしくスカートの裾をつまみ、初お披露目になる制服をアピールする。


オモトは魚の刺さった串先をおでこに当てしばらく考えると、串先と視線をキリッとエリカに向ける。

「…まぁ、気づいてはいたがあえて言わないほうが良かった、という父の判断だったが。やはり触れるべきだったか…。」


「ん?」とエリカはいったいなんの事を言っているのかわからず、でも期待した言葉ではない確信は得られてしまうオモトの思慮深いふりをする姿に顔がひきつる。そして自然に構える体勢にになる。


「いやぁ、まさか下着の趣味まで母さんと同じだったと…ぐふぁっ!!」

スカートの裾を今度はしっかり押さえて、右手でオモトの溝落ちにストレートを入れるエリカ。


「きいいぃぃっ!見たなぁっ!!見たんだなぁ!!!変態っ!! 盛大にぱんちっ!!」

顔を赤くして、所々声が裏返りながらオモトに叫ぶエリカだが、当の本人は腹を押さえ蠢いている。

「いい右だっ…たぜ。口より先に手が…でるところもカトレア…ぐふっ…そっくりだな」

本当は大して効いていないのを知っているエリカは、腰に手を当て、靴裏で地面を擦り睨みつける。が、それもつかの間で、「おウゥ世界を狙える右ストレートぉぉ」など言いながら痛がるふりを続ける父を見ているうちに、急に肩と眉間の力が抜ける。


「もう、制服よ制服ぅ!! 一番見たいって言ってたのお父さんじゃないっ!!」

困ったような笑みを浮かべながら、先ほど昂揚し血がやっと降りてきた顔をごまかす。

「へぇ、ほおぉ、それが制服なのか!!私服かと思ったぞお父さん!」

足の力が抜けてしまいそうになるエリカだが耐える。


「こんな私服着てる子がどこにいるのよっ…ってなんだか自分でデザインしたものを悪く言うみたいでへこむなぁ」

ツッコミをいれながら、自虐に気づくエリカ。

だが目の前には和装で髪を一本に縛る父オモトがいるのだ、どんな格好でもありえなくはない。


「んっ、なんでへこむ事あるんだ!いやー、なかなか珍しい形の制服だな!スカートも俺好みで短いし!!母さんの好きな青! 娘が4000倍可愛く見えるっ! 父さんの分もつくってみんなで着よう!」


素早くエリカの左右前後チェックしながら父がフォローをいれるがエリカにとってフォローになっていない。

「はいはい、作りませんし着せませんっ。まぁ、でもこの制服もあと4日で別のデザインになっちゃうから名残惜しいしお正月中は着ててもいいかもね」


「地元の友達にも見せたいし」心の中ででみなまで言うと、エリカの周りをフムフムと観察していたオモトが「おっっと!」と声をあげ止まる。

裾の部分から丸い金属の物体を出す。手の中に収まっている金属の物体から繋がっていると思われる細い鎖が隙間から溢れて、ぶらぶらと揺れている。


『なあに、あれ??セクレタじゃないみたいだけど…』

セクレタ特有のリンク可能なデバイスを検知する電波が感じられないと、アテナが聞く。


「ぁあ、あれはね時計よ、時計。時計だけであの大きさなの。しかも、自分で動力を回す必要があるの。お父さんああいうアナログで古いもの大好きなんだ。」

頭の中でだけ答える。

『へぇぇぇっ』とおそらくエリカの視界からとった画像を拡大したりしながら興味深かそうに観察しているであろうアテナが唸る。

「そろそろ出ないと母さんが心配するなっ!昼飯と夕飯が一緒になっちまう!」


時刻を確認して、急ぎ早に塩焼きをもしゃもしゃ食べながらその場で足踏みしているオモト。

「あー全部たべちゃったぁ! 一口くらいくれたっていいじゃんっ」

娘の悲鳴に腕と足をあげたまま振り向くオモト。


「いやいや、帰ったら母さんの手料理が待ってるぜ!今朝5時に起きて準備してたんだぜ、母さん!なんなら前日も何やらやってたくらいだ。なっ!わかるな? これは父さんの優しさだ!」

オモトのその言葉を聞いて、まだ名残惜しさはあるが鮎の塩焼きの誘惑に打ち勝ったエリカ。


それは毎年12月のクリスマスシーズンの事だ。

12月20日が誕生日のエリカ、21日がオモト、22日がカトレア。そして1日インターバルを置いてクリスマスがやってきて、翌週はすぐお正月である。


料理教室を仕事にしている母カトレアは、腕の見せ所と言わんばかりに料理を振るまう。

それも超大量に。


記念日やお祝い事となると、毎年張り切ってしまう。カトレアの故郷ではクリスマスには朝から晩までゆっくりと家族で食事をする風習があるらしい。

それにしても、の量ではあるが。 

今年は都内にいたため、クリスマスフードファイトの席にはいなかったエリカだが、オモトはつい一週間前に戦いを終えたばかりだったのだ。

とは言っても、エリカも12月20日の誕生日には冷蔵速達で巨大な誕生日ケーキと、旅行用のカーボン製のおおきなスーツケースで食材が送られてきて一人格闘はしたのだが。

毎年食べきれないため、数年前から年末は、ご近所の方を集めて自宅が宴会場の様になる。しかしそのおかげで、綺麗に丁度良い量で食べられる。毎年恒例の行事になりつつあるのでエリカは楽しかったが。


「そう…だね! あゆはまたにする!うん!それがいいっ!」

エリカは嬉しい、でもお腹が苦しくなる愛情が待ち受けている事に複雑な笑みを浮かべオモトの完食を見届けた。

「よしっ!さぁ、車に乗りなさいっ! 車内ならアテナちゃんともお話できるし、姿も見えるっ!ごーごー!」


食べ終わった串を剣のように振りながら、車へ先導するオモト。

「そうね、早く車にいきましょ! アテナもお父さん気になるみたいだしっ」

先ほどから「へぇっ」とか「ふーん」とか断片的な声は聞こえるが、おとなしいアテナ。

おそらく、父の身につけている作務衣や、さっきの時計なんかについて調べているのだろう。


向かう先に燃えるような赤、後部にむかって赤紫へと色味がグラデーションになっている車が近づいて来る。

どこで車を停めてもすぐに分かるようにと、この色を決めたのはオモト、ではなく母カトレアの意向だった。

オモトの色の思考は基本的に地味なため、彼が色を選べたらこの自然豊かな仙台エアホールシティでは同化してしまうだろう。

一方で、髪が黒い母カトレアは自分には無いものに憧れるのか、赤とか青とかビビットな色のチョイスが多い。その性格も趣味も真反対だが、仲良い夫婦だとエリカは思っている。


2人が近づくと、車側面のドアが内側に滑り込むように大きく開く。中の座席はかなりフレックスで進行方向に向けたり向き合わせに出来たり汎用性は様々。オモトの車は4つある席が向かい合い、真ん中に小さいテーブル、前方二つのシートの間に目的地を設定したり進路を支持したり車の操作にまつわるインターフェイスが装着されている。

国道はチューブ型になっていて、道路と車の双方でそのスピードや運行を管理して走行するが、

それ以外のチューブ型になっていない舗装道路は、各都市専用の交通用の衛星と道路に埋め込まれた専用のチップを読み取って前方との距離や道を把握している。


500年ほど前まで主流だった車輪による走行ではなく、車体下部と舗装素材の成分との反発の力と推進力で進む。つまり浮いている。ただそれだとオフロードでの走行が出来なくなるため、緊急事態に備えて車輪の搭載は義務ずけられている。


車に乗り込むとヒンヤリとした皮のシートに身震いしてしまうエリカだが、ようやく落ち着いたような、いつも座っていた自分の位置に安心を覚えていた。

「よっし、向かうとするか!進行方向は愛しのカトレア!」

オモトのセクレタを読み取った車体は、中央にあるテーブルの上に”GOOD MORNING!”と文字を浮かべ起動を知らせる。

車体が浮き、辺りの障害物や人などを感知ちながら徐行し舗装道路に向かう。


「アテナ、出てこれるよ?」

そう言うと、エリカの赤いセクレタがほのかに発光し始める。

小さな光の点が集まり、エリカと同じくらいの大きさになるとつま先からアテナが具現化されていく。その間大凡2秒にも満たないが、何度見てもエリカは魅入ってしまう。「へぇぇっ」とオモトも久々に見るARの技術に唸っている。


『ぷはぁあっ!』

全身が車外からの光で透けない程度になると、アテナ自身もその中に宿ったように目を開ける。

長くマスカラをしているようなまつ毛と、目のトパーズ色の黄色との対比が美しい。


「アテナって、いっつも息止めてるでしょ?」

水面から顔を上げた時のように、いつも大きく息を吸い込むように現われるアテナ。


『何て説明していいか分からないけど、毎回全身が映し出されるまで、くるぞぉ、くるぞぉって、ぞわぞわーっ…てなるの!』

両手を握り、猫のように全身を震わせてみせるアテナ。


視線を感じて、エリカがオモトに顔を向ける。

目尻に細いシワを寄せ、優しいグレーの瞳が二人を見つめていた。

エリカの視線でアテナもそれに気づき、「ほぇっ」と全身が一瞬ビクッと跳ねるが、姿勢を正してオモトに向き直る。

『はっ、はじめまして。 あ、改めまして初めまして。アテナです。エリカのパーソナルAIの…えっと、その。エリカのお父さん、アテナ、じゃなくて私をエリカに就かせてくれてありがとうございます。 あ、あと今日からおじゃましじゃっう!』

最後は勢いに任せたが、盛大に噛んでしまった。ぺこりと頭をさげると毛先がエメラルドグリーンに輝くアッシュの髪がアテナの頬にむけ舞う。

隣ではエリカが頬を膨らませながら、こみ上げる笑いを抑えている。


にこやかに目を細めていたオモトも、表情の柔らかさはそのままに視界を広げる。

「こちらこそ、改めて初めましてアテナちゃん。エリカの父のオモトだよ。 なんていうか、僕が知っているAIより人間味あふれるんだね。挨拶で噛むAIなんて初めて見たよっ。」

組んでいた手を解き座席に置くと、姿勢を少し崩し嬉しそうに挨拶を返す。

噛んだ事がごまかせてないとわかると、「ひぁっ」と小さい悲鳴をあげて赤らめた顔をあげる。


「ふふふっ、髪型がエリカと同じなのはアテナちゃんの希望かい?」

思っていた通りの反応してくれるアテナに、手の甲で口を抑えながらも笑いが漏れてしまうオモト。


さっきまでの騒がしい雰囲気と違い、柔らかな口調のオモト。落ち着いて話す時は別人に感じるエリカは「お父さんは実は2人…?」と疑ったことのあるエリカ。「あぅ、えっと」と慌てながらエリカをチラチラを見るアテナに変わり答える。

「そーなの、アテナが私と一緒がいいっていうの。 最初は綺麗なロングだったのよ! 半年前くらいに一緒がいいって言われてから、髪もパジャマも同じなのっ。」


代わりに答えてくれた間に、少し落ち着きをとりもどしたアテナを覗くようにエリカが「ねーっ」首をかしげる。

『そ、そうなんです。エリカの髪型かわいいから真似したくなっちゃって。』

漸く緊張も解けたと思っていたアテナが再びゴニョゴニョと縮こまる。

「ねーねー、なんかお父さんもアテナもいつもと違いすぎっ! なんか、よそいきって感じよ!ついさっき通話したじゃないっ!もうっ! お父さんも串は危ないから置くっ!アテナもはっきり喋るっ!はい!シャキッとする!」


『「はいっっ!!」』


二人がそろって元気な返事をすると、「よしっ」と曲げていた口を解く。

「そういえば…」と続けるエリカ。


「今年もご近所さん集まってくれてるの?絶対に二人じゃお母さんの愛情を受け止めきれない気がするんだけど…」

去年の自分の誕生日からの一週間の事を思い出し、顔が引きつってしまっているエリカ。


「もちろんだとも! もはや、加美町北エリア年末の恒例行事にしてしまいたいくらいさ!夕方には集まってくると思うよ!今年はたくさん集まるぞぉ! あ!そうそう。出かける前にノアちゃんがきてね、今年は家族みんなで来てくれるってさ!なんか、エリカの誕生日も一緒にやるーって張り切ってたぞ!母さんの手伝いしながら家で待ってるはずだ」


「ええーーっ!本当に!? 着いたら連絡するって昨日言ったのに!ふふっ…嬉しいなぁ、久々だなぁ、ノアと会うの。」

足をパタパタと揺らしながら嬉しそうなエリカ。親友で幼馴染で家も近い。英国系日本人の家庭の三姉妹の次女、ノア・アッシュベル。


『ノアちゃんって何回もお話に出てくるあのノアちゃん!?』

嬉しそうなエリカを、さらに嬉しそうに見ていたアテナ。真似していた足を止めて顔を近づけ聞いてくる。


「そうそう!あのノアちゃん!会話もしたし写真みせたでしょっ!実物はもーーーっとかっわいーんだから! お行儀よくしてよねっ!」

手を合わせ「やた!やたよーーーーっ!」喉の奥で叫びながら、止めていた足を高速でばたつかせているアテナ。「和風や歴史」に加え「可愛いもの」も大好きなアテナ。

ノアの家はVR機能がないので、アテナとノアは一度通話したことがあるくらいで面識はない。お互いに画像で顔は知っているが。


「おや、アテナちゃんもノアちゃんの事知っているのかい? ノアちゃんは相変わらず人気者だなぁ。でも安心してくれていい!お父さんの一番は母さんとエリカだからなっ!」

ぐっと右手に力をこめ、誰も心配はしていない父のランキングの発表をする。


『アテナは何番目ですかーっ?』

ようやく心も、足の動きも落ち着いたアテナが無垢な笑顔でオモトに聞いた。


「アっ、アテナちゃんはぁぁ、いやアテナちゃんも一番だよっ!家族はみんな一番さっ!心配はいらーーーん!」


ようやくいつもの調子が出てきた二人に安心したエリカ。もともと似ている二人だと思っていたので、そこまで心配はしていなかったが、「いえーーーーいっ!いっちばーーーん!」とはしゃいでいる二人はもう家族と言われれば、そうにしか見えなかった。


「おっ、アテナちゃんみてごらん!ほら、あの奥!白くなった斜面がドームに覆われているのが見えるだろ?あの中の白いの全部「雪」なんだぞっ」

家に向う途中にある大型のスキー場だ。春先には雪を溶かし一面草花が咲き誇る。エリカも小さい頃にオモトに連れられ遊びに来ていた馴染みのある場所。


『わぁっ、きれいね!雪! まっしろーで寒そう! おっきなかき氷みたいな感じっ!』

エリカの膝に乗るように窓に顔を近づけて「エリカもみてー!」とはしゃぐ。

生まれてから14年ここで育ち毎年見る雪山だったが、去年一年離れただけで別の風景をみているような新鮮さがあった。アテナの隣に乗り出し、感激の吐息で窓を曇らせた。


「ねぇねぇ、窓開けてよお父さんっ!」


ゴシゴシと制服の袖で曇ったガラスを拭いているエリカがオモトに振り返る。

「うむ、許可しよーう。 気をつけるんだぞ!」

オモトが隣にあるインターフェイスに手を置くと、エリカとアテナが張り付いている窓が徐々に開く。速度も落ちたのは父の配慮だろう。

隙間から一気に冷たい空気がなだれ込み、止めてあった邪魔な前髪をかき上げる。吐く息にも色がついた。

気温は四季の感覚と地域性を失わない様に、東北エアーホールシティの冬場は10度前後で管理されているが、標高や地形で上下する。

「わぁぁ、きもちーー!」

暴れる髪を押さえながら、雪山の色を、広い空を五感で感じながら顔を冷たい空気の川に浸す。


体内に心地のいい冷気が流れ込み、心臓が少し驚いている。 エアーホールシティの中に住むが故に、強い風を感じる事がない現代。髪の間を抜けていく乾いた冬の空気と、眩しさにも似た目にあたる風の硬さが、自然から遠くはなれて1年過ごしたエリカには帰省した実感を最高に感じられた瞬間だったかもしれない。


「…飛んでるみたい」

目を瞑り、風の流れる音だけの世界に浸ったエリカが大きく深呼吸する。


『風、気持ちよさそうー!…いいなぁ。』

隣にいながら、まったく髪が靡かないアテナは、髪を指でつまみながら「ふぅーーっ」と息を上げるふりをして前髪を動かしてみるが、自分が吐いているはずの息さえ感じられないので、うらめしそうに目線を遠くに反らした。

少しイジけたような、寂しそうなアテナの表情が目に入ったオモトは、AIの表情の豊かさに驚きつつも、困惑したような笑顔で二人を優しくみていた。


道路脇に立ち並ぶ樹々が突如雪山への視界を遮ると

「ほら、エリカもアテナちゃんも、もうすぐ着くから顔を中にしまって。閉めるよ。」

オモトが二人を促す。

「『はーい』」


二人が元の位置にもどると、窓が閉まり始めた。

『エリカ頭すっごいボサボサ!ボンバーだよ、ボンバー!!』

ケラケラと笑いながら、指先に光があるまると、それは次第に手鏡になりエリカに向ける。


「げぇぇつ!これギリギリアウトのやつ!!あーん、もうくせ毛って大変!」

手櫛で広がった髪を整えようとするが、あまりにボサボサだったので笑ってしまう。

「ふふっ全然直らない!!どうしようっ、ふふっ!!」


いくらやっても跳ねる毛先に笑いながら悪戦苦闘しているエリカ。最初に比べて落ち着いてはいるが、ナチュラルウェーブの柔らかい髪は所々盛大に跳ねている。


『びよーんってなってる、あはっ、びよーんって、ひひっ』

「ちょっとしっかり鏡持ってよぉ!見えないでしょっ!!」

空中に浮いたように出た鏡だが、エリカの髪がツボに入ってしまった笑うアテナの動きに合わせて荒ぶっている。

『寝癖がごまかせて、ふふっ、よかったじゃない?くくっ』


笑いの病からなかなか解放されないアテナの小言は無視して、「もうっ寝癖なんかなかったし…」と膨れながら手櫛でとかしたり、ねじったりしながら髪の制御を試みている。


「ふふっ、さては今朝も寝坊したなっ?俺の髪質だけじゃなく朝弱い所も受け継いだな。どれ、こっちに来てごらん?」


自分の隣のシートに手を置き、軽く叩きながら呼びかけるオモト。


「…でも間に合ったもん。遅刻はした事ないもんっ」


口を尖らせてブツブツといいながら、オモトの隣に座るエリカ。毎度寝坊はするものの学校に遅刻はした事がない。奇跡的なまで準備が早いのだ。

オモトに後頭部を向むけて座りなおすと「おねがいしまぁす」と慣れたように待機。


「はい、お客様。それではいかがしますか?」

「じゃあ、いつものお願いねっ」

「かしこまりましたっ」


そんなお芝居の末、オモトが自分の髪を結っていたゴムをはずす。

拘束が解かれた髪は一気にひろがり肩につく。エリカと同じ軽くウェーブのかかる白銀の髪だ。

両サイドを耳にかけると軽く手櫛でエリカの髪を整える。

そして解いたゴムを左手小指にかけると、髪を器用に分けていき、編み込みはじめる。


『すごーい、エリカのお父さん美容師さんもできるの?』

手慣れたオモトの動きに、目を丸くして驚いているアテナ。


「はっはっは、違うよ。ただのしがない陶芸家だよ。 いつもエリカがお寝坊するもんで、髪を結う事が上手くなったのさ」

「そうそう、私のおかげねーっ。これからも精進したまへー」

父が結ってくれる髪は友達の間でも好評で、寝坊しなかった時にもお願いをする事があるくらいにエリカは気に入っていた。

「はいはい、これからも精進してまいる所存ですー」

ニコニコと娘のタンパクな激励に答えながら、髪を結い進んでいく。


「よしっ、いいぞ。できた!」

そう言うとエリカの両肩に優しく手を置く。

「アテナちゃん、エリカに鏡を見せてあげて」


『ひゃいっ!』

鏡を自身の前に浮かべて、見よう見まねで自分の髪を編んでいたアテナがビクっと動きをとめ此方へ向き直る。

『はい、どうぞ〜、お客様いかがでしょうかー?』

上手くいかなかった編み込みを解きながら、鏡をエリカの前に移すアテナ。


両サイドから編み込まれ左側で一つにまとめられている。さっきまでとは違い、すこし大人っぽく見えるエリカ。

「うんっ、いい感じ!ありがと、お父さん!」

自分の顔を左右に動かし確認すると、気に入った様子でオモトに軽くハグをする。


「どうですか、アテナさん!似合いますか?」

さっきまでエリカの髪をみて笑っていたアテナに振り返り、「ふふんっ」と自慢げに見せつける。『ぐぬぬぬぬ…』


悔しそうな、泣きそうな顔で歯をギリギリと擦り鳴らしながら唸るアテナ。


「アテナだってできるもんっ!」

そういって、鏡を再登場させる。その隣に、どこからか見つけてきた編み込みのハウトゥー動画のウィンドウをひらき、自ら髪を編む準備をする。

アテナの服や装飾品はデータを変えなければ、アテナ自身もその形式を変える事はできないが、髪型に関しては自ら変えられる。色や、長さなど10種類のデフォルトデータもあるのだが、自分でいじって留めたり、結んだりといったアレンジが可能だ。

データを変えればいいのだが、おそらく有料アイテムであろう「編み込みヘアー」はエリカにおねだりしないといけないので、悔しさいっぱいのアテナは自力での編み込みを試みている。

もともと、ヒューマノイドにインストールする前提で人工知能のシステムは作られているため、本来なら、別の人物が直接触ってヘアーアレンジできる。が、アテナには残念ながら触れる実体がないため自身で、VRで可視化している間にアレンジを済ませる必要があったので必死である。

「うんうん、そうそう。うまいじゃないか、アテナちゃん。」

オモトがアテナの手元を覗き込みながら、時折説明を挟み二人でがんばっている。


そうこうしていると、見えない力で背中を押されるエリカ。車が徐々に速度を下げはじめた。

「あ、ほら。タイムアップです!着きますよっ!」

エリカの家に向かうには、対向車線と2車線あった道路から半分くらいの細い道路に進路を変える。そのため、車が速度を落とし徐行の体制にはいったのだ。


そんなエリカの声はアテナには届いておらず、鏡にうつる自分を真剣に見つめながら編み込みに励んでいた。

なんだか邪魔するのも可哀想になってしまい、「困ったなぁ」と小さく息をすって一生懸命なアテナを見つめる。

「あっ、そうだ! お父さん、神社行きたい!ただいまって挨拶しないと!」

手をパチンっと合わせるとオモトに向きを変える。

「んーー」と顎をさすりながら考えていたオモトだが

「よし、そうだな!アテナちゃんももう少し時間がかかりそうだし、神様に挨拶していくかっ!」今だに声が届かずにいるアテナなので断り入れずに、寄り道をする事にした。


エリカの家の手前に赤い橋が見えてくるのだが、そのすぐ手前「七滝神社」がある。そこが寄り道先だ。

車が神社の鳥居反対側に作られた路肩に止まる。


「ちょっといってきますねー」

空気成分多めのささやき声でアテナに留守を頼む。


『んーーーいってらっしゃい』

意外と上手くいっている編み込みのおかげで、少し余裕がでてきたアテナは、目線こそそのままだが見送る返事をした。

車のドアがひらいて、オモト、エリカの二人が降りるとドアを閉める。車の動力は切らず、エリカのセクレタはスタンドアローンモードにして、車内に置いてきた。でないと、アテナが編み込みを続けられないからだ。 

「大丈夫かな?」と閉まったドアの窓中を覗くと、右サイドを終えたアテナが、「よしっ」と小さく決めている所だった。 エリカとオモトは顔お合わせ安心して、車を離れた。


「七滝」と書いて「ななだる」と濁って発音する七滝神社だが、正面に鳥居と、その奥に神様を祀るこじんまりとしたお社があるだけの小さな神社だ。エリカの家は目と鼻の先にあり、家族で月の初めに必ずお参りに来ていた。

今日のエリカにとっては、1年ぶりのお参り。

辺りは何もなくエリカの家に続く道路の脇には、樹々がトンネルのように生い茂る。奥の赤い橋の下を流れる小川の音がとても心地よい。

その川の上流に、小さいものも含めて滝が7つあることから、この神社の名前がついたとオモトが語っていたのを、小さい頃の記憶として遠く覚えている。


「なんか神社って空気が冷んやりしてるよねーっ、絶対に神様っていると思うっ!すごい神秘的空気感!」

碁盤の目のように敷かれた石畳をピョンピョンと跳ねながら先に進むエリカ。その後ろで髪をかきあげながら、木々の間から差し込む光を数えるように見上げ、ゆっくりオモトがついてくる。

真っ赤な鳥居はその歴史が色の退色と劣化として見てとれ、所々剥げている。対照的に鳥居に垂れ下がるしめ縄は、毎年12月に新しいものに変えられるので、まだ真新しい。


先に進んでいたエリカが、鳥居の前で止まり後ろを振り返る。

「お父さん、はやくー!」

手招きをしながら、遅れているオモトを呼ぶ。

「おう、悪い悪い!なんだか、エリカと一緒に来るのも久々だなーと、思ってさ。年が明けたら、母さんと3…アテナちゃんも合わせて4人だな。一緒に来よう。」

「うん、そうだね。 なんか、毎月来てたから『私がこなくて神様寂しがってないかなー』ってちょっと心配だったの。立ち寄れてよかったよー」

誰もいない境内はよく声が響く。 「まったくこの子は…」やれやれといった様子でオモトが駆け寄った。


境内に入る前、鳥居の前で二人で一礼する。

ここで一礼をするときにエリカは必ず思い出す記憶がある。


物心ついてきた5歳の頃の記憶。

毎月のお参りに来ていた唐草家の3人だったが、エリカははしゃいで一人お社の前まで先に行ってしまった。

「はーやくーぅ!!」と手を振るエリカ。後を急いで追ってきたオモトが、しゃがみこむとエリカの目を真っ直ぐ見ながらこう話した。

「エリカ、いいかい?よく聞きなさい。鳥居にかかるしめ縄は神域と現界の区切りなんだ。つまり、ここはもう神様のおうちなんだ。だから、入る前はしっかり『おじゃまします』を言わなきゃだめだろ?いいかな、エリカ?」

大切な事を言う時のオモトは、いつもの時とは違う雰囲気になる。怖いとかいう事は全くないのだが、駄々をこねたり、逆らう気にはならない優しい躾の声。

「うん、わかった。」と素直にオモトの言葉を聞き入れたエリカは、「神様、勝手に入って、ごめんなさい」と社に向かい謝ったのだった。

その直後、後ろからゆっくりと来た母カトレアが

「オモトさんもお辞儀もせず走って行きましたよ?」

と、顔は笑顔なのにオモトだけが怖がる声で後ろから言うと

「たいっへん、失礼いたしましたぁーー、神様ーーー!!お邪魔させていただきますぅぅー」

と先程までの雰囲気が消し飛ぶ潔い土下座を披露した。ここまでがこの思い出のセットである。


そんな記憶を思い出しながら、心の中で「神様、今無事帰りました。おじゃまします。」と帰省を報告し一礼するエリカ。

鳥居から先は、年月に硬く踏み固められた土で、空気熱を吸い込んでいるように、辺りはひんやりと感じる。都内ではまるで見かけない本物の土の感触に、靴裏からも懐かしさが湧き上がる。

今度は父の背中を追う形に歩いているエリカ。真ん中は神様が通るために開けておくと教わったからだ。

オモトを見上げる。ちょうど目線の位置にくる父の背中が妙にたくまし感じて、「もう少し静かならかっこいいお父さんなのにぃ!」と心の中で、その背中に小さく舌をだした。


「ねぇねぇ、ここの神社って何の神様なの?」

父の背中に投げかける。

「ん?話してなかったけか? ここはな、諸説あるんだが取り分け「水の神様」だ。 薬菜山やくらいさんの東に薬菜神社やくらいじんじゃってあるだろ?そこの神様は医療の神様と言われているんだが、薬菜神社と表裏の関係にあるのがこの七滝神社だ。 大昔は飲み水も、山からの湧き水や雨水など、自然の恵みとして自分で汲んでいたくらいだ。水が汚れれば即ち健康にすぐ影響がでる。 医療の裏の神として、水を守る神様がいてもおかしくはないだろうなっ。」


「うーむ、なるほど…ねぇねぇ、お父さんってなんでそんなに神様とか昔の事に詳しいの?」

オモトの歴史や自然に関する知識の多さに驚かされるエリカ。 


「あぁ、これも言った事無かったかもな。昔、エリカが生まれる前に父さんも東京にいたのは知ってるだろ? その時していた仕事っていうのが、エアーホールの外の自然再生や動植物の再生に関わる事でね。 昔の事を調べるのが仕事の一つだったんだ。だからからかもしれないね。それにお父さん自身も好きだったしな、そういうの」

賽銭箱の前にちょうどついた所で、エリカに少年のような顔で振り返る。


「なんか環境に関する仕事って言ってたけどエアーホールの外のお仕事だったの!? すごーーーい! え、外に行った事あるの?シティの外!元世界!」

去年初めてKITEカイトに乗り、外の景色を一望した時から、一度は行ってみたいと思ったエアーホールの外。まさか、自分の父が外に関わっている仕事をしていた事に声を裏返しながら、素直に驚く。


「いやいやいや、数回行った事はあるけどそんなに東北ここと変わらないよ。まだまだ、人間の暮らしていた跡が残っているしね。そうだな…唯一違うといえば空が青い事だ。あとは、冬はマジで寒いぞ!昔の日本人があの中で生活してたと思うと尊敬に価する寒さだ!!」

身を竦ませ震える振りをしながら、大げさに答える。ただそれは、エリカが素直に自分の仕事を褒めてくれた照れ隠しでもあった。


「え?空が青い?? もとから青いじゃない、空?」

眉間にしわをよせ、もう一度オモトの言葉を噛みしめるように自分の声にも出してみるエリカ。だが、やはりオカシな事だったので、「ほら、みてよ」と自分の上を指差しながらオモトに言った。


「ちっがうんだ、レベルが違う!!お父さんもそう思ってたよ!空は青いって! でもあの青っていうのは、エアーホールを覆う外殻の色調のせいでうっすら紫がかって見えるんだ。 本当の空はね、もう突き抜ける青さだよ!びゅんっと!どこまでも! そんで、空が眩しいんだ! エアホールは内側の採光を調節する働きがあるから、色味も明るさも押さえられるんだけど、太陽も空も海も雲も、ゼーーーンブ眩しい!」


両腕を使って外側に大きく円を描くように、大きさを表現するオモト。しかし、それでもきっと足りないんだろう。どう言ったら伝わるか、言い表せない悔しさみたいなものが滲んでいた。

「えーーーー行ってみたいなぁ、外。大きな空を見てみたい…。ん?まーでも、ここだって500年前は外だったんだもの、中と大して変わらないっていうのも少し納得ね。500年なんて、星の歴史で言えば1秒みたいなものだもんね…。んーやっぱり、月のほうが行ってみたい!」


意外と冷静に物事をみれるエリカに、娘の成長を感じ「ほぅ」と少し驚いた表情になるオモト。

「月なぁ、着陸できないし見るだけだろ?なら、地球こちらから見たほうが綺麗だよ。手が届かないから綺麗に見えるのさ、そう、君のようにねっ!あ、これ父さんの殺し文句な。」

「高嶺の花」と言いたいんだろうオモトがウインクをする。

「うわー、さっぶ!お母さんそんなのに引っかかったの?意外とちょろい?というより騙されたのね、きっと。うん、そうに違いない。」

目を細めて肩を抱えて身を引くエリカ。どこかの本から抜き取ったような台詞に母はなびくどころか「じゃあ、オモトさんは近くにいる人の事を綺麗には思えないんですね。」とか「そうですよね、タレントさんとか近くでみたら意外と肌汚かったりしますもんね。近いって怖いですね!」とか笑顔で棘を刺したり、斜め上の回答がきそうなくらいだ。


「寒くはないだろぉ!これは父さんの好きな小説の『月と星の彼方よ…」

「あー!はいはい!かっこいいよ、おとうさん!ほら、はやくお参りするよ!」

オモトの大好きな小説の台詞シリーズが始まりそうだったので、即刻遮断しお社に向き直る。


「ほら、オモトよ。娘が遠くに行けば行くほど綺麗に愛おしく感じるだろ…」

自分自身になにやらブツブツと語りかけながらゆっくりとオモトも向き直る。

「神様の前なんだから、シャキッとしなさい!背筋を伸ばす!前を見る!笑顔!」

「はいっ!」

急拵えの不自然な笑顔でピシッと姿勢をただすと、大きく息をする。それをみて、横目でみていたエリカも小さく息を吐き出すとしっかり前を向く。

合図があったわけでもなく軽く礼をするタイミングがしっかりとあう二人。 オモトが作務衣の裾口から適当にコインを2枚だすと1枚を「持ってないだろ?」とエリカに渡す。鈴を鳴らし、コインを静かに投げ入れる。深く礼を2回をして、手を2回たたく。

ここまで、一糸乱れない同じ動きを流れるように行う二人。

時折どこかで葉の落ちる音がする長くない沈黙。

エリカは目を瞑り心の中で「ただいま、神様。今年は身長が1センチ伸びました! 学校の成績もなかなかなどうして。立派なレディにすくすく成長しております。 あと、年が明けたら紹介したい家族ができました。人間じゃないけど…それでも大切で大好きな家族です。 それじゃ、また来ますねっ!良いお年をっ!」

と小さい頃から慣れ親しんだ神様にも、家族のように近状報告をする。

そして、手を解き目を開ける。自然と明るくなった顔で、もう一度深くお辞儀をする。


だがここで二人の動きがずれた。

隣のオモトに目をやると「ムムムーー」と手と眉間のシワをすり合わせながら、なんとも長い挨拶をしている。

「ふふっ、何をそんな難しい顔してお願いしてるのよ。神様困っちゃうでしょー,もぅ」

そんな父の表情が可笑しくなってしまうエリカ。

「だってな、1年ぶりに娘に会えると思ったら、娘が2人になってて、こりゃおとーさん頑張って働かにゃと、神様に応援してもらわにゃと、そんな事考えてたら長くなっちまってよ」

片目を薄く開き、そう説明するオモトだが、心の中では何やら唱えているのか、まだ手をすり合わせている。


「頑張れおとーさーん、アテナはヒューマノイド欲しがってたわよん。ちなみに私は洋服ねー」

棒読みの極みの声援とおねだりを送るエリカ。

それを聞くとオモトは合わせた手はそのままに、グルっと顔をエリカに向ける。

「はぁぁぁっ、やっぱりなぁ。そうだよなぁ、欲しいよなぁ、アテナちゃん。 エリカの真似するのもきっと実体が無いからだもんなぁ。父親としてどうしたもんかなぁ…」

自分の予想が当たってしまったと、確信めいた驚きと何故か感じる不甲斐なさに頭を垂れる。

「え゛!なんなのお父さん!思考が読めるの?!え、どっからいたの?!聴いてたの?!エスパーなの!?」

隣で盛大に取り乱すエリカ。

エリカとアテナが出会って一年弱が経つが、毎日一緒にいて沢山の話をして来た。なのにオモトが気付いた「エリカの真似をする理由」は、小一時間前、帰省中のKAITE(カイト)の中で気付いたばかりの事だ。

「ちょっと待てぃ!何が何が!どうしてそうなった娘よ!とりあえず…ぅぅなんだ?何に驚いてるんだ!?」

両の手のひらで、迫るように質問を浴びせる娘を宥めながら後ずさるオモト。


「だってだって、おかしいよ! 私それに気付いたのさっきよ、ついさっき!来る途中乗ってたKAITE(カイト)の中!! 一年アテナと一緒にいて! え、なんで分かるの!!え? すごっ!きもっ!すごぉっ!」



驚きとも、ショックとも言える表情で叫ぶエリカ。


「途中に本音が挟まってませんかね、娘よ…。まぁ、あれだ。見てればわかるぞ、二人を見てればな。当人だと気付きづらいと思うから、エリカが気づかなかったのはしょうがないっ、うん、しょうがない!それに最初からそう思っていたわけでもないと思うぞ?エリカとの生活の日々でエリカといろんな意味で家族になって愛を伝えたい、同じようになりたいと思ったのは。 ヒューマノイドが欲しいのだって確証がある訳ではないんだろう?」


それまで見せた事ないような驚きと悔しさの入り乱れる表情のエリカを見るに、彼女の中で「アテナがVRの実体がない自分と、実体がある人の間に一線を引いていた事」がきっとショックだっただろうし、驚きだっただろうし、気付けなかったことが悔しかったのだろう、とオモトは思う。

しかし、それは娘の優しい所が故なのだろう、とも思う。


「確証が無いわけじゃないんだけど…。来る途中ね、アテナが私に言ったの。『触れられない、一緒にご飯も食べたりできない、そんな私が家族になれるの?』って。 その時なんとなく思ったんだ。一生懸命、少しでもみんなと、人間と、同じがいいって思う気持ちが私とお揃いにしたがってる理由かも、って。」


オモトは黙って話を聞いていた。少し間をおくエリカは、前方に見える赤い車を見る。


「私は気にしないし、家族ってそういう事じゃないと思うって言ったの。 一緒に何が出来るか、って事より一緒にいた事が、時間が大切だから、アテナに人間と同じようにできない事があっても家族だよって。」


オモトも自然と車に目線が向いた。エリカが続ける。


「でも、アテナの気持ちも少し分かるの。私だって、どうやったら感謝とかちゃんと伝えられるんだろう?って。 だってね、アテナって抜けてるふりして、ちゃんといつも私の事見ててくれて、いっつも迷惑かけちゃって…だから、私も思うの!いつか、アテナを抱きしめたいって!いつもありがとうって!…ね、お父さんもそう思わないっ?」


満面の笑顔でオモトを覗き込み「ね?」と頭を少し下げる。

オモトも笑顔で返す。

「あぁ、その通りだ!」

力を込めて言うと、覗き込んできた娘の頭に手を置く。

「エリカが優しい子に育って嬉しいよ。自分に無いものや有るものの事で、泣いたり笑ったり、羨ましがったり妬んだり…。でも、家族にはそれは関係無い。そんな感情抱いたとしても、それ以前から家族なんだからね、俺たちは」

頭を指先だけてポンポンと叩き、子恥ずかしそうに肩を竦めた娘を見やる。

手を肩に下ろしエリカを自分に少し寄せる。

「家族でも、好きか嫌いかは別ですけどねーっ」

と肩を寄せられ、そのままオモトに抱きつきながら意地悪に笑うエリカ。

 

「えー、そりゃないだろー。家族なら好きでいてくれよー、父さん娘に嫌われたら、もう轆轤ろくろまわす元気も無くなっちゃうんだぞ?」

「それは大変ね! じゃあ、嫌われ無いようにいっぱい轆轤回してお皿作らなきゃねっ! 目指せーヒューマノイドー!おーーっ!」

パッとオモトの腰から離れると、驚いたふりをして、右手を振り上げ、音頭をとる。

「頑張れお父さん!娘の愛がまってるぞっ!」

わざとらしく可愛く言ってみせるエリカ。

「娘に嫌われたくない父親が、なんでも買ってあげちゃう心理はこれか…」

可愛い娘の棘のある声援に、眉間に指をあて何やら呟くオモト。


「いやいやいや、待つんだオモト。娘を甘やかしてはいけ無い。それにお金で愛が買えるなどと、心が動くなどと思っている事がそもそも問題であって。いや、でも轆轤を回さにゃヒューマノイドは買え無いし、俺もアテナちゃんを抱きしめてやりたい……あぁ神様!私はどうすればっ!」

ブツブツ何か行った後にお社に振り返り、頭をガシガシと掻きながら叫ぶ。


ふふっと笑いなが、父を手のひらで悶えさせるエリカがオモトを呼んだ。


「お父さんっ!!」


躾と愛の狭間でもがくオモトが、難しい顔で振り返り「ん、なんだい?今、お父さん大切な事を神様に相談…」とまで言いかけた時


「お父さん…大好きっ!」

さっきまでの小悪魔な笑顔と違い、眩しいくらいの笑顔で立つエリカがいた。木々の間から差し込む光の陰影で、母カトレアに似たくっきりとした顔立ちが際立つ。

何て言われたか分からなかったのと、娘のとびきりの笑顔に「ぉっ…」と口の中で鳴らして固まっているオモト。

「も、もう言わないからねっ!」

恥ずかしさと、自分の顔の紅潮を感じてクルっと車に振り返るエリカは

「それじゃあお参りも済んだし、行こうか愛しの家族の元へー!」

父みたいな事を言ってしまったと、先に歩き出すエリカはもう恥ずかしさで車まで振り返れ無いので足取りを早める。

振り返った後、オモトがどんな表情をしていたかエリカには分からないが、「どうやら娘はツンデレのようだ。いい子に育ったみたいで、ありがとう神様。来年も宜しくお願いします」と小さく呟き、もう一度お社に振り返り軽く一礼。エリカの背中を追いかけるのであった。



『ぶー!ぶー!おそぉい!!アウトよ、アウト!!』


「ごめん、ごめん!」と平謝りしながら乗り込む二人。

「お!アテナちゃん、上手にできたじゃないか! 器用なんだね、アテナちゃんは!」

何故か「アテナちゃん」の部分が強調されて聞こえてきた気がしたエリカ。

「どうせ、私には不器用でできませんーだ!」

口を尖らせ、車内に置いていったセクレタを首元につけながら呟く。


完成したアテナの編み込みは、所々ほつれのような物が見えるが、そのほつれ具合が柔らかい雰囲気を出していた。

『エリカと反対側で髪を括ってみましたぁ!どうですか、ご感想は?』

鼻歌交じりにエリカにアレンジし終えた髪を、右に左に見せてくるアテナ。

結った場所にはエリカがあげたガーネットのペンダントが止められていた。


「いいじゃんっ!アテナいい感じっ! 私も何か髪留め買おうかなっ。」


へへーぇっと褒められたアテナは溶けた笑顔で満足げだ。

と、そこで再び車が動きだす。

「さっ、もうお家だぞ! 父さん二人を送ったら、今晩のみんなの飲み物を買いに駅周辺まで行ってくるから、誰か来たらノアちゃんと3人でお出迎えしてあげてなっ」


「うん、わかった!」

『うん、了解っ!』

すっかりオモトにも懐いたアテナとエリカが小気味よく答えた。

 

「宅配にしちゃったらいいのに!せっかく大晦日なんだし」

「大晦日だからだよ。東京みたいに自動宅配があればいいけど、加美ここはまだ人力だからね。 年の瀬まで働いてくれてる人にこんな山奥まで来させてしまうのは可哀そうだろ?」


オモトの優しさは、伝わりにくいことが多い。普通に考えればそうなんだけれど、そう出来無い人が大半だし、中々難しいことだと思う。「損な性格だなっ」と思うエリカも、しっかりそれを受け継いでるわけだが。


「うん、わかった。買いすぎ無いでね! お父さん酔っ払うと面倒くさいんだから。あと母さんも…。」


「そんな事ないだろっ、俺は覚えて無いけど他人事みたいで後から聞く自分の話は楽しいぞっ!」「そ・れ・が!面倒くさいのっ!」

ピシャリとオモトの口答えを許さ無いエリカ。

車が減速し始めて、詰められていたオモトは助けられたといわんばかりに目線を外に向ける。


「お、ほら、もう着いたよっ!エリカ、アテナちゃん。 いらっしゃいませ、そして、はじめての「おかえり」だね。これからここもアテナちゃんの家になるからなっ!そして、これからも宜しくお願いします。」

膝に手をあてて、しっかり頭をさげるオモトに後に続けと「宜しくお願いします」とエリカもアテナに向きお辞儀をする。

『いえいえ、こちらこそ宜しくお願いしますっ!』

アテナも二人に改めてのお辞儀をしたところで、再び車が完全に停止した。


「さぁ、降りよう! 家の中のまでアテナちゃんはエリカと一緒にいてね。またすぐ会えるからね」

そう言って、オモトが動力を切る。

『一時さらばじゃー』

と、下半身から光の粒子になってエリカのセクレタに戻っていくエフェクトがはじまる。たまにやる忍者のポーズで消えていく。アテナはお気に入りらしい。

「いちいちふざけ無いのっ!又すぐにねっ!」

襟元のセクレタにむかって声を張る。


ドアが開くと、真上にあった太陽の眩しさが視界を白くした。

片側の目を細め、太陽を見遣る。

久々の生まれ育った我が家。ここまで、1年ぶりに見るものすべてに懐かしさを抱いていたわけだが、事、実家に限ってはそれは感じなかった。

昨日もここに居たような、シンプルに家に帰ってきた安心感がエリカの心に満ちる。

木造でできたエリカの家はロッジのような優しい色合いの作りになっている。一際目を引くのは玄関の左側に大きく面積をとって、白く曇ったカプセルに丸く囲われた空間が斗出している部分。屋根の高さまであるその空間は、ロッジの雰囲気とは似合わ無い建造物と言わざるをえない。

右手にはバルコニーがあって、干されたシーツが眩しい。


目線を流すように、変わりなく”変わった造り”の自分の実家を見澄ますと玄関が勢い良く開いた。


「エリカーーーーー!」

そこにはお人形が、人形と見間違う容姿のノアが立って大きな黒の瞳を輝かせていた。

「のあーーー!!」

走り寄った二人はひしっと抱き合い、その勢いで回ってしまう。

「おかえりっ、エリカ!すっごく寂しかった。」

「私もーーっ、ぎゅーーーーっ!もう、相変わらず可愛いな、ノアぁ」

同じくらいの身長の二人だが、若干エリカの方が高い。

「エリカもなんかお姉さんになった!制服もかわいいっ!髪型もかわいいっ!」

バッとノアの両肩を掴み顔が見える位置まで離す。

「本当? お父さんなんか、会っても、言っても気づいてくれなかったんだよ! 「え、私服じゃないの?」とかいうの。さすがノアだよぉ!わかってくれるー!!」

再び、ノアを抱き寄せる。

「わぁわあ、痛い痛いっ、エリカ痛いよぉ」

「わっ、ごめん。嬉しさのあまり!!」

ばたばたと暴れ始まったノア。

しかし少し離すと、再びその愛らしい顔が視界にはいるともう一度ハグをしたい欲求にかられる永久ループ。だが我慢する。

そんな煩悩と戦うエリカの後ろから声がして、エリカは我に帰る。


「ただいま、ノアちゃん。母さんはキッチンかい?」

後から遅れてきたオモトがカトレアの姿を探しながらノアに聞く。

「えっとー「ゴメンっ、ノアちゃんっ、今っ、手が離せないの!難しいところよっ!エリカを迎えてあげてっ!」って言ってた」

エリカと抱き合ったままのノアが顔をだし、カトレアの真似を踏まえながら答える。


「ははっ、それはゴメンなノアちゃん。 じゃあエリカ、父さんこのまま行ってくるからまた後ほどね。母さんにはほどほどにって言っておいて。…まぁ意味はないと思うけど。」

料理が始まると、集中のあまり手が離せなくなるカトレアは安易に想像ができた。やれやれと、家の奥に目をやりながら苦笑いを浮かべるオモト。

「それじゃ、ノアちゃんとアテナちゃんもまた後で!」

そう言って車に向き直り再び出かけていくオモト。

「いってらっしゃーい!」

ノアを離さず、首だけ後ろに向けてオモトの背中を見送る。

車の発進をみとどけると、「さて」と向き直る。

「アテナにも早く会いたいっ!」

三再び、少し下の位置からエリカを見上げるノアの顔が目に入る。


光が当たっている場所が赤みが増すアッシュグレイの髪。曽祖父に日本人をもち、その代から受け継いでいるという水分を多く含んだ大きな黒い柔らかい目。まっすぐに切りそろえられた前髪がその魅惑の目をひき立てている。

1年前に最後に見たときは、肩の上のワンレンボブだったのに、鎖骨ほどまで伸びた柔らかい髪はレイヤーが入りさらに柔らかな雰囲気が増しているように感じる。


「奇跡っ」


唐突に口から言葉が漏れた事に、本人のエリカも気づかない。

「…ん?奇跡??」

大きく目を瞬かせるノアに聞き返されて、ようやく自分がつぶやいた事に気づく。

「いやいや、なんでもない!なんでもない! ささ、早く家に入りましょ!アテナのことも早く紹介したいしっ」

ごまかそうと、ノアの体を玄関の方へ向けて押し歩くエリカ。すると頭に声が響いた。


『奇跡。可愛いと綺麗が共存する生命体…ノアっ!!』


エリカの漏れてしまったセリフをみなまで言う声がした。


「エリカーなんで笑ってるのー?」

エリカに押され進むノアが不思議そうに顔を向けてくる。

アテナの声だ。まったく同じことを思っていたアテナが可笑しくて、思わず笑いがこみ上げてきてしまった。久々に会ったエリカが変になってしまったのではないか? そんな心配をして大きな黒い瞳に戸惑いの色が見えるノア。

「ごめん、ごめん。アテナが早く紹介しろってうるさいの。 なんか可笑しくなっちゃって」

我慢した笑いは涙になってしまい、半分笑いながら涙を拭うと「さ、行こう!」と今度はノアの前に出て手をとり走りだした。

「わぁ、わっ!待ってよぉエリカぁ!」

引っ張られてバランスを崩しながらも、懸命についてくる可愛い声。

開けっ放しの玄関にたどり着くと、中に向かって元気に叫ぶ。

「ただいまーーー!おかーーさーーん!」

きっと奥のキッチンに居るであろう母カトレアに到着を知らせる。握った手の先では、無事についてきたノアが大きく息をついたところだ。

奥のほうから「はーーい、ちょーーっとまってねっ」と母の返事が聞こえて来る。

変わらない母の声が確認できて、安心して小さく息をつくエリカ。

「んーーーーいい匂いっ!お腹と背中がくっつく匂い!」

鼻をヒクヒクを動かし、玄関の段差に腰をかける。靴の側面に触れると、履く前の真っ白でブカブカの靴に戻っていく。隣にノアが座って自分の靴を脱いでいる。

「いいな、私もトラフォの靴欲しいなぁ」

靴紐を解くノアが恨めしそうに口角を落としている。


トラフォとは「トランスフォーム」という機能をもった総称で、服や靴、アクセサリーや家具などに転用されている技術。データが合えば色々な形、色に変化できる素材でできている。

ノアの家、アッシュレイ一家は、代々機械類は積極的に取り入れないトラディショナルな生活を送ってきた。世代が変わるたび必要なものは取り入れてはいるが、一般家庭に国の支給として設置できるMR機器でさえ未だに取り入れていない。


「よっ、と」

先に靴を脱ぎ終えたエリカが軽快に立ち上がる。

「えー、ノアの服とか靴とかすごい羨ましいけどな!アナさんのデザインでしょ? 不器用な私には科学が必要だけど、ノアは器用だし頭いいし、なにより女の子は可愛いってことが一番優先されるべきよっ。特にノアの場合!」

隣のノアは靴紐をようやく片側緩め終えたところだ。 

「私もママの服とか家具とか、パパの靴大好きよっ。でも新しいものも気になるもんっ!そんなお年頃なのですっ」

淡いピンクの母デザインのワンピースに合わせた茶色い皮のブーツ。ノアの父、ハルの手製のものだ。まるで父に話しかけるかのように、ブーツに向かっておねだりをしてみる。

「んしょ、んしょ」と紐を外した靴を脱ぎ綺麗に並べているノアの腕に彼女らしいセクレタが揺れる。

ノアのセクレタは腕に通すブレスレットタイプで、模様が彫られた銀色の金属の上に様々な色でハートや、ダイヤ、スペード、クローバと宝石のように埋め込まれている。ワンピースの大きめの黒いボタンが、セクレタに埋め込まれたモチーフと同じ形をしている。他、細部に渡るデザインからノアの母の愛情を感じられる。


ノアがエリカの靴もしっかり揃えてくれているのを見て、心の中で謝るエリカ。

「アテナに頼りきりってた生活だからなぁ。今朝も汚くしたまま部屋でちゃったし。ささっ、アテナ!出てこれるよっ!」

その声に反応し、襟元のセクレタが光る。

元々唐草家では使用していなかったが、エリカの東京の自宅より性能がいいMR機能が付いているエリカの実家。裸眼での操作ディスプレイ、ホログラムの可視化、その共有、部屋の模様に至るまで、本来ならその技術は色々な所に使われている。

徐々に光が集まるように足元からアテナが現れる。

「わぁぁっ。綺麗。」

光を目で追うように、ノアが登場のエフェクトに目を奪われている。


「ぷはぁっ!」

相変わらず息を止めて、苦しさから解放される様な仕草から現れたアテナ。音声も音源再生場所も空間に設定できるので、本人が話しているように聞こえる。光で空気を振動させる技術があるらしい。多少透けてはいるが、もはや人間と遜色ない。


「………ん?…ん?」

手の裏や足の裏、髪を触ってみたりと何かを確認しているアテナ。


「どうしたの?アテナ」

すぐさま、ノアに飛びつくかと思っていたが何か戸惑っているような、違和感があるような様子のアテナ。


「…何か、何かがいつもと違うっ……っ!!!」

顎をさすりながらエリカを細い目で見つめ疑問の声を漏らしたその直後、その違和感が何だったのか理解し、細めていた目が一気に見開かれる。


「声が…声がぁ!! あー、あー。ワンツー、ワンツー。……声がでるーーー!!」

どうやら確認と確信が終わったようで、両手を天高くあげてピッカピカの笑顔で叫んでいた。

エリカの隣であっけにとられているノアは口を開けたまま、瞬きも忘れてアテナを見つめて立ち尽くしている。

エリカの通う学校には、実家のMR機器よりもさらに上位のIR《Instaled reality》機器があったが、テストのカンニング防止や、元々通学の目的が人と人のコミュニケーション能力の向上と銘打っていただけに、持ち込むセクレタへのパーソナルAIのコネクトが禁止されていた。

授業風景が見たかったアテナは1度、内緒で授業中のセクレタに侵入した事があったが、エリカに通知がいくので直様バレてしまい、具現化するどころか、エリカにこっぴどく叱られて終わった。

最新技術満載の都内にいながら、インドア派で真面目に勉強に勤しんでいたエリカのAIだったので、それらに触れる機会に恵まれる事はなかったのだった。

またVRチャットでは声が出せるものの仮想空間での話で、現実で自分の口元から声が聞こえて来るのはアテナにとってこれが初めての体験だ。



「ふふっ…ふはははは、はーはっはっはっはっはっは」

輝く笑顔で両手を突き上げていたアテナが、いきなり手で顔を覆う。指の隙間から天を仰ぎ高笑いし始めた。

エリカも一瞬ビクッとなり、何が起きたのかと、ノアと顔を合わせる。

「アテナ…さん?壊れちゃったの? 大丈夫??」

ノアがエリカの後ろに隠れながら先に声をかける。

高笑いは止まったが、微動だにしない。

「…アテナさーん、大丈夫??」

反応がないので、エリカも恐る恐る覗き込んでみる。

手の隙間から見える口元が強く結ばれ、大きなトパーズの目は徐々に細くなっていくのが見えた。

しかし未だに顔を手で覆ったまま天井を向いて固まっているアテナ。

そこで、奥からスリッパがフローリングを叩く音が急ぎ早に近づく音がした。


「あらあら、お出迎え行けなくてごめんなさい。ノアちゃんありがとう。 エリカお帰りなさい。一年間よくがんばったわね。それとぉ…アテナちゃん?」

奥からエプロン姿の母が絶妙のタイミングで登場する。普通なら、母の胸に真っ先に飛び込むエリカだが、アテナを見つめながらぱちぱちと瞬きをしているエリカ。その視線の先を追うカトレア。

「おーい、アテナさーん」

ずっと動かないアテナがさすがに心配になってくる。

カトレアに目線を向けて、とりあえず状況だけでも説明をしようと向き直ろうとした時だ。

「…みなさん」

声がした。喉の奥で出かけた声が霧散した。


「…みなさん。アテナは今ですね。なんとも言い表す事のできない状況でございます。」

三人は顔を合わせるが、全員が首を傾げる。


「声が自分の口から発せられる…そう、これは感動です。アテナに嬉し泣というエフェクトがあれば大泣きしているでしょう。大号泣です。でもそんな機能なくて、困ってしまって大声で笑ってしまいました。」

顔を隠していた手が閉じていき、鼻と口を覆う形になっている。綺麗なトパーズ色の目が現れる。目にも強く力が入っているようで、ピクピクと瞼が動いている。

しかし少しの沈黙の後そのまま「みゅぅっ!」と下をむいてしゃがみ込んでしまった。ゆっくり、ゆっくりと説明をしたアテナに、顔を見合わせていた他の3人にも安堵の表情が戻る。


「もう、ビックリしたわよー。いきなり笑いだすんだもん。ちょっと心配したんだから」

こわばっていた肩の力が大きな息と共にが抜けたエリカ。

「アテナちゃん、なんだかお家を気に入ってもらえたみたいでよかったわ。お帰りなさい」

カトレアも何があったのか状況がつかめていなかったが、普段オモトと一緒に生活しているのである。これくらいじゃ動じない。


「アテナちゃんかわいい!エリカと同じ髪型っ!」

ノアもなんだかわらかないので、エリカの後ろから元気に出てきてアテナの隣にぴょんとしゃがみ込む。単純にアテナが好きな気持ちが勝った。

「ほらっ、みんな驚いてるし。アテナもちょっとビックリしただけだもんね。でも会うの二人ともはじめてなんだから自己紹介!ねっ?」

エリカもアテナの隣にしゃがみ、自然に頭をなでるように優しく寄り添う。


「…うん。」

ちょっと恥ずかしそうに伏せていた顔をあげるアテナ。目線は伏せたままだがチラチラとエリカを伺う。

立ち上がったエリカは手を差し伸べる。

「変な事してゴメンなさい…。」

まだ真っ直ぐエリカを見れないアテナだがしっかりと手を取った。

重さは一切感じないが実物があるものは感知されるので、すり抜けたりはしない。でもエリカはその重みはないけれど、手が触れている事を心が確かに感じていた。

体を預けるように、ゆっくり立ち上がるアテナ。

「ねっ?可愛いでしょ?」

二人を見守っていたカトレアと隣にしゃがみ見上げるノアに笑いかける。

「アテナっ」

しゃがんだままだったノアだったが、待きれないといった様子で笑顔を弾けさせる。

「久しぶり!こうやって会えるのをとっても楽しみにしてたの!アテナ!通話でお話ししたの覚えてる? 私ノアよ。ノア・アッシュレイ。エリカとは6歳から学校が一緒で、それからもずっと仲がいいの! アテナも仲良くしてねっ!」

まだ顔を上げれずにいるアテナに元気いっぱいに自己紹介する。

隣にいるエリカが「可愛すぎかよっ」と心を撃ち抜かれそうになっていたが、顔を振ってアテナをみる。

どうやら、アテナは撃ち抜かれてしまったらしい。口が開いて目が輝いている。

「どうどう?画像なんかより全然かわいいでしょ? ノアって学校で男子からすっごい人気なんだよ?ちょっとノア自身がまだお子様だから恋とかはまだ先かなーって感じだけどねぇ」

可愛いものが大好物のアテナは、チラチラと様子を伺っていた先ほどまでと違い、トパーズの目がノア引き寄せられている。

「なにをー!じゃあエリカは彼氏できたのぉっ?」

頬を膨らませて、プイッと腕を組む姿も何かの小動物のようだ。

「か、かれっ、彼氏なんていないわよっ!でも作らないだけだからっ!必要無いもの!」

目が泳いでいる事に自身で感じながらも強がるエリカ。ノアの隣で興味深げに「え、エリカ、彼氏できたの?」とか呟く母のプレッシャーもある。

焦るエリカの隣の影が素早く動いたのが視界の端にはいる。


「エリカ、気になる人いるんだよっ」


いつの間にかノアの隣に人影があり耳打ちしている。アテナだ。


「アーーーーーテーーーーナーーー!!!」


「えええーーっ!聞いてない!なにそれっ!好きな人?告白した?告白!!どんな人?」

目と両手を開き、口元を覆いながらズイズイとエリカに迫り質問を浴びせるノア。

「あらあら、オモトさんが聞いたら倒れてしまうかもしれないわね。でもどんな人がお母さんも気になるわ。 お名前なんていうのかしら?」

カトレアも冗談も真に受けてしまうタイプなので、頬に手をやり心配そうな顔で距離を詰めてきている。

アテナを追いかけようとしたエリカだが、二人の早口な質問攻めと詰め寄りに進路を防がれる。


「わ、わっ。私は好きな人も気になる人もいませんー!!アテナが勘違いしただけよっ! もう、アテナーー、助けてよーぅ!」

顔が熱くて熱くてもう耐えきれないエリカは助けを求める。が、二人の後ろで知らん顔しながら口笛を吹いている。ふりをしている。

さっきまでしょぼくれていたのに、調子のいいアテナをみて「まったく、しょうがない妹だ」と笑ってしまいそうになるエリカ。

そんな妹を見て顔の熱も引いてきたエリカを他所に、他二名の思慮は深まるばかりだった。


「きっと、プライマリーの時のケンジ君だわ。 エリカと話してるの見た事あるもの。うん、いいかもね!ザ日本男児って感じで! あ、それとも新しい学校の子?でもきっと日本とどっかのハーフね。エリカのお父さんみたいな感じよきっと!エリカ、お父さん大好きだもん。」


「ケンジ君?一度学校で見た事あるけど、だったらモーリス君の方が私はタイプだわ。あ、そうよ、今日モーリス君も来るしちょうどいいわ!でもオモトさんはケンジ君の方が好きそうねぇ。 え、新しい学校の子なの?都会の子かぁ、私お話しについていけるかしら?オモトさんに似てるなら外見だけにしなさいね!きっと破天荒な子よりエリカは落ち着いた子の方がお似合いだわ。あ、でもこれは私が言ったのは内緒ね。オモトさん泣いちゃうから」


言われ放題で後ずさりながら両手で制止しようと宥めるエリカに、今だ質問が押し迫る。

その後ろから声がかかった。


「あのっ!お二方!!」


アテナだ。

カトレアとノアも「はいっ!?」と我に帰る。


「…あ、あの。さっきは取り乱しちゃってすいませんでした。システムエラーっていうか、感じた事と合致するアクションがなくて、間違って哄笑こうしょうしてしまいまして…。 心配かけてしまいました、ごめんなさい。 ノアもエリカのお母さんもお話しした事はあるけど、ずっとずっとずーーーっと会いたかったです。なのに、変なところ見せちゃって恥ずかしくなっちゃって…。なんて言ったらいいかわからないけど…エリカのパーソナルAIのアテナです!仲良くしてくだしゃいっ!」


今回はしっかりと落ち着いて話しているなぁ、と感心して聞いていたエリカだったが、やっぱり最後の最後で噛んでしまったアテナを見て笑っている。

「ふふふっ!噛むAIもシステムエラーして高笑いしちゃうAIもアテナだけよっ。 二人ともよろしくね!私の可愛い妹です。そして、お母さん。ただいま帰りました。騒がしい到着ですいませんっ。」

ペコリと二人に挨拶する。「おかえりなさいっ」と歩み寄るカトレアとハグをするエリカ。

1年ぶりの母の温もり。大好きな母の匂いがした。長い髪が耳に当たって少しくすぐったい。全身で母を感じるエリカ。

「少し大きくなったかしら?」とエリカより頭一個ぶんほどしか変わらないカトレアも娘の頭の位置が変わった事に我が娘の成長を感じる。

一頻り娘の成長を感じ、顔を上げたカトレアはアテナに振り返る。

「ほら、アテナちゃんもっ、おかえり。」

とういって片腕を伸ばした。カトレアの胸の中で猫のようにうずくまるエリカもアテナに向いて「はやくっ」とてを伸ばした。


どうしていいかわからず戸惑うアテナ。

「でも、あの、アテナ触れない…」

おずおずと、哀しげな顔で消えてしまいそうな声で言う。

「だってー、お母さん。どうするー?」

抱きついたままのエリカが顔を上げる。

「んーーー。それじゃあ…こっちからいく〜!」

「わひゃっ!」

タイミングを合わせたかの様に、二人でアテナに抱きつく。

一気に抱きついた二人に物理感知が間に合わないのか、アテナの全身に映像ノイズが走っている。左右からエリカとカトレアに挟まれる状態になったアテナ。

「えっ、わっ、わっ!」

慌てながらノイズが走る箇所をキョロキョロと見やる。


「ほらぁ!アテナもっ!」

「アテナちゃんもぎゅーってしてくれると嬉しいなぁ」

エリカとカトレアが笑う。


「…っ!」

胸に何か込み上げているように、大きく肩が上がるアテナ。本当に泣きそうな顔を一拍の間下をむけ、笑顔にする。

「…ただいまっ!」

掠れて途切れてしまいそうな声で叫び二人の肩に笑顔を埋めるアテナ。感触はカトレアもエリカも感じられない。しかし確かにそこにある、愛なのか気持ちなのか、『これだ』と誰も分からないが、とても暖かいものを全員が感じていた。


「ずるーい!私もまざるー!えーーーいっ!」

うずうずしながら見ていたノアの我慢の限界がきた。嬉しそうにアテナの後ろから三人の輪に飛び込んだ。


「ふはーはーはーはーはーはー!」

下手くそに先ほどのアテナの真似をするノア。それに乗っかってエリカも真似をする。

「ばかばかばかばかー!」

輪の中心にいるアテナは抱きしめられながら恥ずかしさに悶え声を上げる。

カトレアまでふざけて真似をしている。

笑い声が絶えず、膨れていたアテナも笑い出す。どこが熱いかわからない。頭で感じている、とは思う。でもショートしそうなほど、こみ上げる『何か』の情報が解読出来ないでいたアテナだったが、今日エリカがいっていた「一緒に何をしたかじゃなくて、一緒にいた時間が大切」という意味が少しわかった気がした。


そうして4人して抱き合ったまま、優しい時間が流れていった。


読んでくれた友人が「設定とか拘りは話すと伝わってくるけど、文章に熱量がない!」といっていたので、「添削しすぎたかなー」と反省し、そこら辺意識しながら書いた二話目。 

本当はもっと物語の概要が見える所まで書きたかったんですが、3話か4話目でようやく「あ、こういう展開とストーリーなのね!」とわかってもらえると思います(多分

読んでいただいた方は本当にありがとうございます。

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