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最悪の戦いⅥ

 《【断罪】ウェンデル》


 気が付けば俺の後ろにいたはずのシェリアがいなくなっていた。俺が敵を一掃しているうちにはぐれたのか。いや、違うな。

 アイツのことだ。俺の気持ちを読み取ってくれたのだろう。アイツはいらないところで気が回る。俺が先を越されたことでイラついているとでも考えているのか。

 正解だ、この野郎。

 そうだ、俺は一番に来て一番に幹部を倒すはずだったのだ。それなのに、後から来た奴に先を越されるとはどういうことだ。

 俺が腑抜けてんのか、そうじゃねぇだろ。俺は腑抜けさせられたんだ。

 それはシェリアのことじゃねぇ。この屑どもにだ。

 こいつらが弱すぎてついのんびり歩いてしまった。それは俺じゃなくこいつらが悪い。こいつらがもっと強かったらこんなことにはならなかったんだ。

 こいつらは弱すぎる。雑魚だ。

 弱さとは罪だ。

 世の中は弱肉強食なんだ。こんな弱い奴らは世の中では生きていけねぇ。ましてやこいつらはその世の中を抜け出した奴らだ。この程度でいちゃいけねぇ。

 なら。


「弱さが罪なんだ。弱い奴はここで断罪されてもらおうか!」


 どうせ、今からじゃもう一番にはなれねぇんだ。ならもうどうでもいい。雑魚は一匹残らず断罪してやる。

 俺は幹部を探すという目的から雑魚を殺すという目的へ変更し、そこらを歩き回った。幹部というのはなかなか見つからねぇが、雑魚というのはバカみたいにいる。そこら辺を歩いているだけでどんどん湧いてくる。

 さっきまでは雑魚は必要最低限しか殺してこなかったが今は雑魚を積極的に殺しに動いた。


「テメェらの所為で最初に幹部を倒せなかったじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は剣を抜くと雑魚の群れへと突入する。俺とすれ違った雑魚どもを片っ端から殺していくと途中で俺の剣が止まる。


「ああ?」

「へ~、かなりやれるようだな」

「誰だ、テメェは?」


 俺の剣を止めた奴を見ると剣を逆手に持っていた。


「俺はアンタが探していたその幹部だよ」


 その顔を見ると顔には無数の切り傷が刻まれている。さすがに幹部だけあって雑魚どもとはオーラが違う。雑魚どもより強いのはよくわかった。


「面白ぇ持ち方だな」

「これが俺の流派なんでね」

「なんて名だ?」

「今から死ぬ相手に名乗る名はねぇよ」

「面白ぇ」


 なかなか生意気な野郎だがその心意気は買ってやる。俺を楽しませてくれるんだろうな。

 俺と幹部は互いに距離を取ると一息置いた。


「いつでもかかってこい」

「アンタから来いよ」

「そうかよ」


 俺は一歩で相手の距離を詰めた。

 上から剣を振り下ろすと幹部は逆手のまま俺の剣をまたも止めた。どうやらさっきのは偶然ではなかったようだ。これで本気に殺れそうだ。

 俺の剣を止めた幹部はそのまま腰にかかっているもう一本の剣を抜いた。それもやはり逆手だ。その剣をそのまま俺へと滑らせ、


「ふん」


 俺はそれを素手で止めた(・・・・・・)


「なっ……!」

「何焦ってんだよ。こんなの簡単だろ」


 俺の指はしっかり剣を掴んでいてピクリともさせなかった。

 別に難しいことじゃねぇ。剣筋さえ見えていれば誰だってできる。


「くっ」

「ああん!? 何ビビってんだ! もっと来いよ!」


 俺の叫びで幹部は動かせないはずの剣を動かした。


「やればできんじゃねぇか」


 俺は飛んで横からの攻撃を躱した。俺の着地地点に立っていた雑魚どもを切り刻むと綺麗に着地した。周りにいた奴らは俺にビビって俺から離れていったが今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 やっと幹部と戦えるんだ。さっきまでは雑魚どもをぶち殺すことしか考えていなかったが、やはり幹部と戦える方が面白ぇ。


「アンタ、楽しそうに戦うんだな」

「こちとらイライラしてんだよ。さっさと戦おうぜ」

「戦闘狂が……」


 別に俺は戦闘狂であるわけではない。

 さっきも言ったが、ただイライラしているから鬱憤を晴らしたいだけだ。それに俺達は戦闘を楽しんでいるというより人殺しを楽しんでいる奴らだ。


「つうかなんでテメェ能力を使わねぇんだ?」

「アンタも使ってないだろ」

「俺は使わなくても勝てるからな。だが、テメェは違う。テメェは今の攻防で俺に勝てねぇのはわかっただろ」

「っ……」


 俺の言っていることに反論できないのか、幹部は悔しそうに表情を歪ませた。

 確かに最初に能力を使った方が負けるということは多いがな。それでも使わねぇのは損だろ。それに俺はどうせ雑魚以外と戦うなら全力の相手とやりてぇところだ。

 幹部は諦めたようにため息をつくと俺に言い放った。


「別にアンタが思っているより俺にはそういう意地はねぇんだ。ただ」

「ああん?」

「ただな、俺の能力が強すぎるんだよ。俺はさっきアンタに戦闘狂と言ったが俺も似たようなもんだ。つまらないから能力を使わなかったんだ」

「つまりテメェは俺に遠慮していただと……?」

「まぁ、そうだな」


 俺はそれを聞いて何かが切れた。


「舐めてんじゃねぇぞ、ひよっこがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 俺を舐めていたってことでいいんだよな! テメェごときに俺が負けるとでも思ってんのか! ふざけてんじゃねぇぞ! テメェらみてぇな屑が俺達を舐めてんじゃねぇぞ!


「俺達を舐めてただと! テメェは何様のつもりだ!」

「アンタこそ何様のつもりだよ。まさか自分が負けるなんて微塵も考えてないのかよ」

「俺達が負けることはねぇんだよ! 俺達は最強なんだよ!」

「そうかい」


 幹部は俺を可哀想な目で見ると儚げに笑った。俺を敵とも思ってない。そこらに散る花を見て笑うのと同じ顔だ。それが俺をさらにイラつかせる。


「殺す」

「やってみろよ」


 俺は幹部に飛びかかると先ほど以上の力で剣を振り下ろした。だが今度は、幹部は防ぐことはせず二本の剣でそのまま斬りかかってきた。


「ッ……!」


 俺は驚いたがそのまま遠慮なく剣を振り下ろした。

 だが俺の剣は何かによって弾かれた。それによって生まれた隙を幹部は見逃そうとはしない。だがそれくらい予測済みだ。それを踏まえて俺はそのまま攻撃したのだ。

 俺は幹部に障壁らしきものが張られている前提で足を出した。すると予想通り障壁らしきものが張られており、俺はそれを足場に幹部を飛び越えるように攻撃を躱した。


「な……!」

「舐めんじゃねぇと言ったはずだ」

「っ……」


 俺は空中で一回転しながらそのままさらに斬りつけた。幹部の後ろからの攻撃で俺の攻撃には気付いていない。だが、結果は先ほどと同じくただ剣を弾かれただけだった。

 どうやら意識しなくても発動しているようだ。


「はっ、こっちこそ言ったはずだぞ。もうアンタは俺には勝てねぇよ」

「……」

「いくら俺を剣技が俺の上をいったとしても俺に剣が当たらなければ何の意味もない」

「そりゃそうだろうな」


 俺はあっさりとそのことを認めた。

 攻撃が当たらなければどんなに強くても弱い奴に負ける。わかりきったことだ。


「テメェの能力は見えない障壁、つまりバリアを自身の身体に纏うことか」

「ああ。にしても驚いたぜ。たった一回攻撃を俺にしただけで俺の能力に対応するなんて」

「ふん」


 別に冷静に考えれば誰でも同じ答えにたどり着くだろう。

 まず、俺の攻撃を躱そうとせずに相打ち覚悟で攻撃してきた時点で何らかの方法で俺の攻撃を防ぐことはわかった。いろいろ考えたがもっとも厄介で自分の能力が最強と言っていたことからバリアがすぐに浮かんだ。

 しかし、本当にバリアかどうかを確認するために攻撃した。もちろん幹部の攻撃を受けようとは思っていない。バリアじゃなかったときのことも想定した上で俺は攻撃した。

 剣がはじき返された時点でバリアということが確定。だから計画通りバリアを踏み台にすることにし、さらに後ろからの攻撃で全面展開されていることも確認した。


弱ぇな・・・

「な……!」

「確認するがテメェの能力はバリアを張るだけだろ?」

「『だけ』だと?」


 この幹部はさっき俺に負けることを考えたこともない奴だと言ったが、それは俺からも言える言葉だ。


「テメェ、自分が負けることを一度も考えたことがねぇようだな」

「……!」


 たかがバリアを張れるだけで自分が強者だと思い込む。俺はテメェに負けるところは何一つない。剣技でも能力でもな。

 俺は不敵に笑うと剣を幹部に向けた。


「最後にもう一度訊くぞ。テメェの名はなんだ?」

「答える意味のない名だ」

「そうかよ。これが最後のチャンスだったんだがな」


 俺は剣を鞘に収めると居合いの構えを取る。


「アンタ、どうして今まで居合いを使わなかったんだ?」

「決着がすぐ着いちまうからな。まぁ、結構楽しんだからもう終わりにしようと思ってな」

「無駄なことを」


 そう言いつつも幹部は逆手の二刀流で俺の攻撃をカウンターする準備に入った。

 俺達はこの戦いが始まったときと同じように軽く息をはいた。

 そのときだった。


 カツ―――。


 誰かの足音が聞こえた。

 それを合図に俺は動いた。

 今までの中でもっとも速かった。音が鳴り終える前に幹部の後ろに俺は立っていた。

 そしてまた静寂。


「なっ……!」


 幹部は何が起こったかわからないようだ。俺の速さについて来られなかった時点で勝負は決していた。

 幹部は俺の方を振り向こうとしたが振り返ることはできなかった。

 なぜなら首と顔が・・・・・・・・もう斬られて離れてい・・・・・・・・・・るのだから(・・・・・)


「な、なにが……?」


 まだ頭に血が残っているのだろう。だがそれも一瞬だ。

 すぐ幹部の目は輝きを失った。

 完全な静寂。

 そういう言葉がよく似合うほど静かな空気がこの場を埋め尽くした。

 そんななか最初に言葉を発したのは意外な人物だった。


「ウェンデル~、今のじゃ皆わかんないよ」

「シェリア! テメェ、まさかもう幹部を倒したんじゃねぇだろうな!」

「ウェンデルはもうてっきり倒しているんだと思って来たら、今倒してたんだから私の方がビックリだったよ!」

「お前だけには越されたくなかった!」

「なんですって~!」


 俺とシェリアが喧嘩している間もこの場にいる雑魚どもは誰一人動くことはしなかった。

 その様子を見たシェリアがやれやれといった様子で今の戦闘をわざわざ説明した。どうせ死ぬのに教える意味がないと俺は言ったが、面倒くさいシェリアはそれを無視した。


「ウェンデルの能力は【斬全剣】―――あらゆるものを斬る能力。よくわからないけどどうせバリアでも相手が張っていたんだと思うけど、バリアじゃ防げないよ。すべての攻撃を防ぐバリアだったらまだしも普通のバリアじゃね」

「すべてを防ぐバリアなんか存在しねぇよ。それは俺の能力と矛盾しているからな」

「うわっ、ウェンデルがまともなこと言ってるんだけど」

「喧嘩売ってんのか!」


 俺達はそのあと、残った雑魚どもを一掃して元の道を戻っていった。



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