最悪の戦いⅢ
《【無罪】クリア》
クリアは前日皆がシューレンに向かったとき、一人だけエイドに呼ばれた。
「クリア、お前は南から攻めろ。そこはおそらくセイラがいるはずだ。セイラには前に渡したやつを渡しておけば大丈夫だ」
ということでエイドに言われたとおりクリアは南から入ると、そこもエイドの予想通りセイラがいた。セイラには写真を渡すように言われていたが、自身は戦えとは言われていない。
だから戦う気が最初はなかったが、セイラに「エイドに褒められるかも」と言われてやっとクリアはやる気を出す。
その後セイラに写真を渡したのだがセイラの奇声によって敵がセイラとクリアに襲いかかってくる。
クリアに対しても遠慮なく敵達は攻撃してきたが、クリアはそれのすべてを無にする。
武器はクリアに当たる瞬間に跡形もなく消え、能力によって生み出された氷や雷などもクリアに当たる前に突如消えていく。
そんな現象を目の当たりにして敵達が驚かないはずがない。クリアは驚いている敵の方に歩いて行くと服の裾を掴んで言う。
「幹部」
「ふぇ?」
「どこ?」
「は?」
セイラは人混みの中でひたすら攻撃を喰らい続けて、快感を感じていて気付かなかったが、この瞬間クリアは敵の戦意が喪失するほどの殺気を出した。
「っ!」
「連れてって」
「は、はいぃ!」
そしてセイラが能力を発動する前にクリアは敵に囲まれながら敵の幹部のところへと向かっていった。
クリアが歩いていると、何人かが攻撃しようと試みたが殺気によって動きを封じられるか、または攻撃してきた相手の顔を掴むだけで相手は突然苦しんで死んでいく。
そんなクリアを見て、周りにいる敵達もむやみに襲おうとしなくなり、五人殺したところで黙って幹部のところまで連れて行く。
幹部のところまでクリアを案内したあと、敵達はすぐに自分たちの位置に戻っていった。
幹部の一人がテントから出てくると、
「このガキが俺に喧嘩を売ってきたのか? バカバカしいがどうせ退屈してたんだ。こっちに来い」
そう言ってクリアを広いところへと案内する。
そこに着くとクリアの周りを百人ほどの人数が取り囲んでいた。そんな状況でもクレアは無表情で幹部をジッと見ていた。
幹部が右手を挙げ、降ろした瞬間敵達は飛び出す。
だが気が付けばクリアは幹部の肩にぽつんと座っている。
「……は?」
幹部の人間は何が起こったかわからなかった。幹部と言うだけあって彼には他の人達とは違った強力な能力がある。
【鋼鉄化】―――その名の通り自身を鋼鉄にすることもできるが、相手も鋼鉄にすることができる。これで相手の口や鼻を塞いで窒息死させることもできるのだが、それには相手の口や鼻を触らなければならない。だが基本的に物理攻撃やある程度の炎が効かない鋼鉄に怖れるものはないと思っていた。
だが彼の肩にはいつ登ったのかわからないクリアがそこにいた。
幹部の一人は直感的に「このガキはヤバい」と思ったが、そう考える前にもうクリアは攻撃を済ませていた。
「っ! ……っ、ぁ……っ! ~~~~~っ!」
何かを話そうとしているが息をうまく吸い込めないのか言葉を発することができない。
必死に息を吸い込もうとしているが吸い込めない幹部は首をひっかくがとうとう息ができずに窒息死した。
「終わり」
クリアが一人でそう話すのを周りの五十人の敵が黙って聞いていた。
誰も動けなかった。
気が付けば終わっていた。
なぜか幹部が目の前で死んでいる。
何一つわからないなかでこれだけは敵達は理解していた。
『コイツに関わってはいけない』と。
五十人のなかの誰かが声にならない声を上げた。それを合図に全員が一目散に逃げ出し、残ったのはクリアと死んでいる幹部だけとなった。
クリアは死んでいる幹部の頭を相変わらず無表情な顔で掴むと能力を発動させる。
するとクリアに向けられていた武器が突然消えたのと同じようにそこにあったはずの死体が跡形もなく消えた。
これがクリアの能力【隠滅】―――クリアが触れた意識のないものとそれに関係したものを消す能力。さらにそれのすべてを消すわけでなく任意に消せる。
この能力でクリアは武器や能力で作られた水や雷を次々と消していった。
幹部との戦闘では始まる直前に自身の気配を消した。敵はクリアがそこにいると信じ切っていたため動いているクリアを見ることができなかった。
だが、それはただ敵が悪いだけではない。
クリア達が異常に速いということもあるが、クリアはその無表情な顔や言動を普段からしていることで相手はついクリアを動かないものだと固定観念を抱いてしまう。その無意識な考えが反応を遅くした。
そうして幹部の肩に座ったクリアは素早く幹部の頭、すなわち顔を掴み鼻と口の周りの空気をなくした。だから幹部は窒息死したのだ。
幹部を窒息死させた後はその幹部の存在を抹消した。今、幹部の存在を知っているのはクリアだけだろう。
そのあと、適当に辺りをうろついているとレイスとミランを見つけ、クリアは帰り道を訊くためにレイスの袖を引っ張るといきなり後ろ蹴りされた。
《【冤罪】シェリア》
どうしてウェンデルはいつもいつもミラン、ミランってうるさいんだろう。今私と一緒に敵を殺している間もずっとミランのことを考えている。
ウェンデルがミランに対して抱いている想いは知っている。知っているけど二人きりのときまで考えなくてもいいじゃないかと思う。
ウェンデルはデリカシーが足りない。
なんでこんな人をなんていつも思っているが今更乗り換えようとか思えるはずがなかった。ミランのことを考えているウェンデルを見ると複雑な気持ちもあるが、どこか愛おしくとも思えて本気で怒ったことは一度もない。
「どうした? 早く行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってよ」
いつもミランのことを考えているのにたまに私に気を遣ってくるのだ。それも私が諦められない理由の一つだ。
「にしてもここの奴ら弱すぎだろ」
「私は一回も戦ってないけどね」
敵が私の視界に入ったときにはウェンデルがもう殺しに動いてしまう。その所為で私は一度も戦っていない。だからもちろん、私達は一度も能力を使っていない。
それから歩いていると突然大多数の人が一目散に何かから逃げるように走ってくる。
ウェンデルが戦闘態勢に入った途端、敵達はいきなり止まった。
「えっ、どうなってんだ?」
「おい、何してんだ! あのガキから早く逃げるぞ!」
「なんでだっけ?」
「テメェ大丈夫か! そりゃ、あのガキが……あのガキが……?」
「あのガキ何したんだっけ?」
「俺達の仲間を五人ほど殺した……だけ、だよな?」
「どうなってんだ? たかが五人だよな……」
「ああ、そのはずなんだがなんで俺達は逃げてたんだ?」
何か怖い目に遭ったのは間違いない。だが、その怖い目がなにかよくわかっていない様子だ。
それを見るだけで私とウェンデルは大体誰が何をやったのか推測できた。
「ウェンデル、これってクリアちゃんの仕業だよね?」
「それ以外あり得ねぇだろ」
私は念のため自分の記憶を探ってみると、私の記憶の中では幹部が六人となっている。しかし、そのときニックがピッタリと言っていたことから、もともとは幹部が七人だったのであろうと簡単に推測できる。
つまりクリアちゃんは幹部一人を倒しその存在を消したのだのだろう。
いつ来たのかはわからないが私達は誰よりも先にここに来た。それだけは間違いない。つまり私達より遅く来たのにもかかわらず、私達より先に幹部の下にたどり着き倒したのだ。
それがわかるとウェンデルは誰にも止められなくなる。私は少し残念に思いながらウェンデルに気が付かれないようにそうっとその場を抜け出した。
私の後ろで一方的な残虐が始まっているが、私は後ろを振り返らず自分の仕事に取りかかる。
私達をずいぶん前から遠目で見ていた敵達はウェンデルから離れた私を見て、敵達はチャンスとばかり攻撃してきた。確かに端から見れば私はウェンデルに守られている弱者に見られなくもない。
それはわかっているが実際舐められていると思うと腹は立つ。
私もそろそろ人を殺したいところなので能力を使う。
私の手に剣が現れる。敵達の懐に潜り敵の一人の腹を切り開いた。そのとき後ろから剣が振り下ろされるが私は特に振り返らず、左手に銃を出現させ、銃を後ろ向きに撃つと剣を振り下ろそうとしていた敵の眉間を銃弾が貫通する。
私は剣を適当な一人の心臓部に投げると、すぐさま右手に手榴弾を出現させた。
「よいしょっと」
その手榴弾を少し前に投げると銃も適当に投げ、大きな盾を出現させる。普通の手榴弾よりすさまじい威力だったが私の盾を壊すほどではない。
盾から出てきた私は爆発で動けなくなっている人達を一人残さず銃で撃ち殺し、これにて戦闘は終了。
能力は使ったが全然本気は出していない。
私が本気を出してしまったらこの人達は何も感じずに死んでしまう。ウェンデルはそれでもかまわないようだが、私はせっかくだから力の差をとことん見せつけたい。
私の能力は【創成】―――その名の通り私の思ったものを作ることができる。
といっても存在する物質でなければならないので魔法は作れない。つまり、火の玉を出そうとすると糸のようなものに吊られているものに火を付けたものが出てくる。
魔法などを作ろうとするとそれを現実に作ろうとしてしまうのだ。
だがこの能力の便利なところはどうやっても作れないものでも作ることが出来ること。
例としてさっきの手榴弾が挙げられる。普通の手榴弾よりも大きめの手榴弾の中に多めに火薬を入れることもできるし、現実では絶対に作れない盾も作ることが出来るのだ。
軽く準備運動も終わったところで私は軽く背伸びをした。
ウェンデルも本格的に幹部を探し始めてきたところだと思うし、
「私もそろそろ幹部を探すとしようかな」
私は次に現れた敵に幹部を聞くことにして適当に歩き始める。




