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最悪の戦いⅡ

 《【免罪】セイラ》


 どうやら僕達が最後に着いたようで、僕達が今いる南側以外でもう戦闘が始まっていました。そのおかげか、この南側には人はあまりいないようだ。


「どうしますか、クリアさん」


 僕はとりあえず私の隣に立っているクリアさんに訊くことにした。別に深い意味はないですが強いて言うならクリアさんとコミュニケーションを取りたいからでしょうか。

 クリアさんはエイドとしか話さないのでどうも今僕の周りの空気は重いのだ。

 クリアさんは相変わらずの無表情で言う。


「帰る」

「まだ帰っちゃいけませんよ」


 どうもクリアさんはやる気がないようだ。といっても僕もやる気がないんですが。

 やはり一日の始まりは同性愛の観察からだと相場が決まっているのと同じく、戦闘の前も同性愛を見なくてはテンションが上がらない。

 とりあえず僕はクリアさんのやる気を出すことにした。そうすれば僕がやる気を出さなくてもすべては終わり、僕が戦うのは幹部一人だけになるのだから。


「クリアさん、今頑張ればエイドに褒められるかもしれませんよ」

「頑張る」


 なんと使いやすいお方でしょうか。

 さっきまでやる気が微塵も感じられない目をしていたはずなのに、今は目が輝いている。そんなにエイドに褒められたいですか。

 僕がそんなことを考えていると不意にクリアさんが僕の服を引っ張る。


「どうしたんですか?」

「あげる」


 クリアさんはなにか紙のようなものを僕に差し出してきた。最初はただの白い紙ではないかと思ったのですがそれはすぐに神となった。

 その紙は写真であり、裏に返してみるとそこには寝ているレイスさんにキスをしているミランさんの姿があるではないですか!

 私は思わず訊く。


「どうしてクリアさんがこれを持っているのですか!?」

「渡された」

「誰にですか!?」

「エイドから」

「さすがですね!」


 リーダーだけあって仲間のことをよくわかっている。それにしてもどうして僕とクリアさんが一緒になるとわかったのでしょう。

 それもクリアさんが答えてくれた。


「皆に渡してた」

「つまりこのような写真が残り五枚もあるということですか! ハアハア!」

「気持ち悪い」

「テンションがマ~ックスです! 最高です! これぞ我が境地!」

「気持ち悪い」


 二回同じことを言われましたが僕にはそんなのどうでもいい。今はまだ見ぬ五枚の写真を求めることが大事です。そのためにこんなくだらないことをしている暇ではありません!

 僕がやる気を出してきたところでさすがに敵兵がやって来た。あれだけ大きな声を叫んでいたなら当然の結果でしょう。


「お前らも敵だな! テメェらぶっ殺しちまえ! ガキでも容赦すんな!」

「あああああああ! 早く! 早く終わらせて残りの五枚を!」


 敵は能力で自身の身体能力を上げ僕に素手で攻撃してきますが、戦い慣れをしていないのでしょうか。動きが遅すぎます。僕は手っ取り早く終わらせるために、

 あえて殴られる(・・・・・・・)


「はぁ!? コイツ殴られて笑ってるぞ!」


 そりゃ、こんな痛いのに笑わない人の気が知れない。

 痛みとは生きている実感です。そして痛みを与えてくれる彼らは自分たちが殺られることを承知していなければならない。


「テメェらコイツはよくわからんがやべぇ! 武器で刺しちまえ!」


 どうやら次は剣と槍を使うようだ。銃がないのは残念ですがこれもすべて受けましょう。


「なんだよ、コイツ! どんだけ刺しても死なねぇぞ!」

「それはそうでしょう! 死なないように避けているのですから!」

「はぁ!? テメェは一体何をしてぇんだ!」

「能力の発動ですよ!」


 僕は頃合いを見て能力を使う。

 すると彼らの攻撃はすべて僕の身体にはじき返される。

 僕の能力は【窮鼠猫噛(キューソネコカミ)】―――僕が傷つけば傷つくほど強くなる能力。彼らの攻撃じゃ今の僕の身体は傷つけれない。

 僕は軽く目の前の人にビンタをすると首が切れた。首はそのまま横に飛んでいき、壁にぶつかって赤いシミとなった。

 彼らはそれを見てしんと静まりかえる。

 驚いているところ悪いですが僕には使命がある。

 僕は固まっている彼らをものすごい速さで動き一人一人にビンタを喰らわせる。それだけで彼らは死んでいく。呆気なさすぎて可哀想だとは思いましたが、仕方ありません。すべては写真のためです。

 この場を片付けた僕は後ろを振り返ってクリアさんの様子を見ると、そこにはクリアに襲いかかっていた人もいなければ、クリアさんもいない。

 しかし無数の足跡が中に入っていてどうやらクリアさんは敵に連れて行かれたようだ。


「どうしましょう?」


 迷ったあげく僕はとりあえず中心部を目指して歩くことにした。


 《【逆罪】レイス》


 私とミランちゃんで西側を制圧しているとき、私はふと思った。


「エイドとギュレン君は今何してんだろ?」

「……!」


 グシャリ。

 突然ミランちゃんが顔を怖くして、目の前の男の急所からひどい音を出していたけど大丈夫だろうか。

 ミランちゃんは極度の男嫌いで男に死んでも触りたくないと言っているほどだ。それなのに、思いっきり手で握りつぶしていたので、私は少しミランちゃんの後のことが心配になった。


「レイス、どうしてそんなことを言うのですか?」

「え?」

「どうしていきなりあの男が出てくるんですか?」


 ミランちゃんのことだからたぶんあの男とはエイドのことを言っているのだろう。私はギュレン君の名前も出したはずなんだけど、ミランちゃんはエイドをとても嫌っていてギュレン君の存在は消えちゃったようだ。

 私がエイドのかっこよさをいつも言っているんだけど、一向にわかってくれないのはなんでなんだろう。


「だってさ、あの二人って五千人を相手するからここにいるのかな~、って思ってたんだけどあの二人ここにいないからさ」

「……そういえばそうですね」


 エイドとギュレン君が来た時点で戦場はパニックになって、どこにいても悲鳴が聞こえるはずなのに今は思ったより静かだ。確かにいろんなところから悲鳴は聞こえるけどあの二人はこんなもんじゃない。

 私とミランが考えている間も敵が襲ってくるけど私は自分の顔に触って、何回も顔を変えて(・・・・・)戦っていた。

 私の能力は【偽真の仮面】―――死んだ者の顔を奪う能力で奪った顔を付けている間はその人の能力を使うことができる。それ以外にも記憶も見ることができるなどいろいろ追加能力はあるんだけど、今使っているのはそれだけ。

 炎を纏う相手には水の能力を、筋力で勝負してくる相手には同じく身体強化系の能力を使える仮面に変える戦術だ。

 といっても今はミランちゃんが私を男に触れさせないようにしているので、身体強化系の仮面は使ってないんだけど。

 私達が考え事しているうちに敵は全滅していて、二人でさっきのことを考えていると私の右腕の袖が引っ張られた。


「ッ……!?」


 私はすぐさま身体強化系の仮面をつけて、右脚で後ろ蹴りを放った。しかし、敵に当たった感触はなく、私の脚にその誰かが乗る感触がした。


「っ……」


 私が慌てて振り向くとそこにはクリアちゃんがいた。


「ク、クリアちゃん!?」

「危ない」

「ご、ごめん」


 ミランちゃんもいきなりのクリアちゃんの登場に驚いている様子だ。

 クリアちゃんは「よっ」と言って私の脚から飛び降りると、何を考えているかわからない表情で私をジッと見上げる。


「ど、どうしたの?」

「帰る」

「帰るって言われても……」


 正直私はこの子が得意ではない。別に嫌いなわけではない。ただ得意じゃない。

 それはいつもエイドの近くにいるからという嫉妬みたいなことも理由の一つだが、それよりももっとふさわしい理由がうまく会話ができないことだ。

 エイドやギュレン君、そしてニックにシェリアちゃんの四人はクリアちゃんが何を言いたいのかすぐ察知できるのだが、どうも私やミランちゃんとかはそれがうまくできないのだ。なんとなくはわかるのだが、行動したいということまでで理由までを察することができない。

 私はミランちゃんに助けを求めて、ミランちゃんは困ったように言う。


「帰りたいの?」

「うん」


 クリアちゃんは小さく頷く。端から見れば年下の子の面倒を見ているように見えるかもしれないがクリアちゃんは私達より少し年上だ。


「でもクリアちゃん。幹部は一人倒さないといけないから帰ったらダメだと思うよ」

「終わった」

「え?」

 何が終わったの? そう訊く前にクリアちゃんの方から、

「倒した」

「え、倒したってまさか幹部を?」

「うん」

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「嘘でしょ……。早すぎる」


 私とミランちゃんは驚きを隠せなかった。

 私達が来た時点で東側にウェンデルとシェリア、北側にニックがいたことは知っていた。それはさっき倒した女から顔を奪って記憶を見たから間違いない。

 となると最後の南側にクリアちゃんはいたことになるが、私の予想ではクリアちゃんがここに来たのは早くても十分前。幹部を倒すにはあまりに早すぎる。


「嘘じゃない」

「で、でもね。いくらなんでも早すぎて信じられないし」

「何人?」

「え?」

「幹部」


 ええと、幹部は何人いるか言ってみろ、ってことかな。それは、もちろん。


六人(・・)だよ」

「何人?」

「え?」

「私達」


 今度は私達の数のことだよね。それは相手の幹部と同じ数だから……え?


「相手の幹部が一人足りない」

「ってことはまさか本当に……?」


 クリアちゃんは軽く頷くと無表情な顔の前でピースサインをした。

 クリアちゃんは間違いなく幹部を倒していた。

 誰にも気付かれずに。


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