世界を恐怖させる九つの罪
皆が座るのを確認したエイドはゆっくりと息を吐く。
そして息をすべて出し終えたとき大広間は静寂に包まれる。ただの静寂ではない。身が圧迫されるかのような緊張感が渦巻いていた。それはまさに殺気と呼ばれるものだ。
「まず、今週の殺人状況を聞く。ウェンデルから時計回りで」
「俺はテレビで言っていたと思うがガキを一人ぶち殺したな。あとここに来る途中で酔って人に迷惑をかけていた奴もぶっ殺しといておいた」
「……私はまた失望しました」
「またかよ。もう無駄なんじゃねぇか?」
ウェンデルがそう言うとニックは目を思いっきり見開いた。
「そんなはずがない! 人間は強くワタシごときの能力で潰されるはずがないんです! だから今までの屑は人間でなかった! それは罪だ! 罪は贖わなければならない! だからワタシは殺したのです! ワタシは何か間違っていますか!?」
ニックは普段はあまり喋ることも表情も変えることもないのだが、こうなると話は別だ。こうなったニックを止めるにはエイドが実力行使でもいいが、それよりもより平和的な解決方法がある。
それが、
「静かにして」
「ッ! ……すいません」
クリアの一言である。
クリアに言われたニックは申し訳なさそうに座り、エイドはクリアの頭を撫でる。
「さすがだな、クリア。それじゃ次はミランだ」
「ええ。私はいつも通り男に憎悪と私に対する好感を底上げして私の思い通りにターゲットを殺したわ。あの女、私のレイスに嫌らしい目を向けたのよ? 殺すべき存在だった」
「ミラン、俺もその気持ちわかるぜ」
「ありがとう、ウェンデル。男が全員貴方みたいならいいのに」
「そ、そうか……!」
「な~に、鼻伸ばしてんの」
「う、うるせぇな! シェリアには関係ないだろ!」
「どうだか」
「次行っていいか?」
エイドがそう言うとウェンデルとシェリアはお互いにそっぽを向く。
「それじゃ次は私だね! ちゃんと聞いてね、エイド!」
「早く言え」
「ちょっとエイド!」
「うん、やっぱりエイドはかっこいいな~」
「こんな奴のどこが……」
「話、聞く」
「そうだね、クリアちゃん。私も特に皆と変わらず普通に殺したよ。動機は別にないし。ただ殺したかっただけかな。いつも通り女の顔を取ってきたけど顔もひどいし、能力もひどいもんだったね。あんなんじゃ生きる価値もなかった」
「毎回思うけどレイスにとって最高の顔ってどういうものなんだい?」
「そんなの決まってるじゃない! エイドに認められる顔だよ!」
「今のところの一番は?」
「私の顔に決まっているじゃない!」
レイスは自慢するように胸を張った。それを見たミランが恍惚な表情をしていたが、レイスだけが気付かない。
「俺は君の本当の顔がどれなのか知らないのだが」
「今ギュレン君が見ているものだよ」
「そうなのかい、エイド?」
「俺も知らねぇよ」
「これが私の顔だよ! 信じて、エイド!」
「そうよ、信じなさい、エイド!」
「ミランは俺を敵視してるんじゃないのかよ……」
「私はレイスの味方なのよ!」
「ありがとう、ミランちゃん!」
(片方はガチで)抱き合う二人を見て皆が呆れているとセイラが咳払いで注目を集める。
「僕としては嬉しい限りで、それ以上のことをしてほしいのですが、話してもいいですか?」
「大丈夫だ」
「それじゃ話しますね。私も特に変わらず喧嘩を売られたので買ってやりました。にしても正当防衛というのは死にかけないといけないところが面倒くさいところですね。じゃないと罪として裁かれるのですから」
「言っておくがそれは俺達というバックがあるからだからな」
「わかってますよ、ウェンデル」
いくら死にかけたとしても人を殺しては正当防衛とは言われない可能性がある。裁判官が本気になれば正当防衛を過剰防衛と判断し罪にすることができる。
しかしセイラをそのように裁けば裁判官達は間違いなく近いうちに殺されるだろう。正当な裁判でセイラが殺されるのは別にかまわない。だが、不当な裁判の場合は……。それを怖れて裁判官はきちんとした裁判を行うのだ。
「お前だけの力で【免罪】になっているとは思うなよ」
「大丈夫ですって」
「次はシェリアか」
「そのようだね。でも私は特に言うことがないんだよね」
「なんだ、シェリア。あれはお前の仕業じゃなかったのか」
「ウェンデル~、わかって言ってるでしょ~」
「お前に関係がない二人だったからな。薄々思ってはいたんだがな」
「……何よ?」
「だってお前、俺と同時に来ていたから、そこが少し疑問だったんだよ」
「ああ、それですか」
ウェンデルの疑問に答えようとしたのはギュレンだ。
「それはシェリアがずっと―――」
「ギュレン~、それ以上言ったら殺すよ~」
「そういえばよ」
ウェンデルは二人の様子を見て前から言いたいことを思い出した。
「お前ら幼馴染みなんだろ。実際どうなんだ?」
「どう、とは?」
「だから、意識とかしないのか?」
「……はぁ」
「なんだよ、ニック」
「……いえ」
「アンタね~、それ本気で言ってるの?」
「なんでシェリアが怒っているんだ?」
「自分で考えれば?」
「それより次はギュレンの番だよ!」
「おっと、そうでした」
レイスに言われてギュレンは姿勢を正して報告した。
「俺はいつも通り禁句を言った者を殺してきただけだよ。俺としてはまた騎士達と戦いたいのだけど、全然果たし状が来ないから困るね」
「そりゃ、世界最強とも言われた英雄達四人を同時に相手して全員倒したんだからな。そんな簡単に果たし状が来るかよ」
「実際俺だけいつも退屈なんだよ」
「【死罪】と言うわりには殺している数は少ないしな」
ギュレンの報告が終わるとすっとクリアが小さく手を挙げる。
「次は私」
「……聞きましょう」
クリアの番が来た瞬間、途端にニックが僅かに前のめりになったことをギュレンだけは見逃さない。
「私、頑張った」
「……お疲れ様です」
「終わり」
「もうちょっと話してくれよ……」
エイドがそう言うとクリアは首をかしげてなぜか疑問系で言った。
「証拠消した?」
「わかった、ミラン。お前が話してくれ」
「アンタなんかに名前を呼ばれても嬉しくないからね!」
「ツンデレ?」
「違う!」
ミランは顔を真っ赤にして怒っているが、もちろんデレているわけではない。。
「ミランちゃん、それよりクリアちゃんの報告」
「レイスがそう言うなら仕方ないわね!」
「ツンデレ?」
「今のはそうだな」
エイドがクリアの頭を撫でるとクリアは少しだけ笑った。そのあとエイドは目でミランに話すように指示する。
「私が見る限りでは問題なく証拠をすべて消していたわよ。というかクリアが失敗することなんてないと思うけど」
「まぁ、それもそうだが皆に報告させたんだ。クリアだけ外すのは不公平だろ」
「不公平よくない」
「なら最後は俺だな」
「俺はお前の奴が一番気になっていたぜ。お前、フィリップとセリスを殺すように本当にナディアに言われたのか?」
「なんだ、信じてないのか?」
「私もエイドの言うことは信じるけどそれ以外の屑のことなんて信じる気がないからね」
「私はレイスが信じていない者を信じる気がない」
「今大切なのは信じるとかの話じゃねぇだろ。俺は本当かどうかを知りてぇんだ」
「確かに」
いくら人を信じたところで過去が変わるわけでも真実が変わるわけでもない。今大事なのはそれが本当かどうかだ。解答を教えられずに授業を受けているようなものだ。話を進めるためにはまずその解答を知らなければならない。
「事実だよ。先週皆がいなくなったときに電話があったんだ。その相手がナディア王女で、セリス王女を殺してほしいと依頼を受けた。引き替えになんでもやると言われたからフィリップ王子を殺した。憎い相手を殺す代わりに愛しい相手を殺されるんだ。等価交換としては妥当なところだろ」
「でもナディアの野郎部屋に引きこもったらしいじゃねぇか。精神的苦痛を含めれば妥当とは言えねぇんじゃねぇか?」
「完全な等価交換なんてこの世には存在しねぇだろ」
ものの価値というものは人それぞれ違うものだ。
ある人が何よりも大切にしているものがある者にとってはガラクタであるかもしれないのと同じように。
「価値っていうのは主観的な感情なんだよ。感情が人それぞれであるのと同じく価値は俺が決めることだ。誰の意見も聞くつもりはない」
「そうかよ」
エイドの言うことに一応納得したウェンデルはため息をついてから立ち上がろうとする。だが、エイドは腕を掴みその動きを止める。
「なんだよ?」
「まだ話が終わっていない」
「まだ価値について話し足りねぇのかよ」
「違う」
その瞬間またしてもエイドは強烈な殺気を放つ。その殺気を直に受けたウェンデルは汗が噴き出るのを抑えて、きわめて冷静を装ってまた座る。
「今回は他に話すべきことがある」
「エイド、どうしたの?」
「これを見ろ」
エイドはそう言ってテーブルに新聞を八人分出す。各自その新聞を手に取ると新聞をめくる前に立ち上がった。
エイドとクリアだけが座っていて、エイドはクリアから新聞を取り上げると見開きのページをもう一度皆が見えるように見せる。
新聞の見開きには大きな文字でこう書かれていた。
『総勢約一万人の大規模テロ集団によりビュッファ帝国壊滅』
「俺達は『最悪』なんだ。世界の頂点に立つ一番の方法はこの世からすべての悪を取り除くこと。お前ら、準備はできてるな?」
「俺達が準備できていないことなんてありえないよ」
「明日で壊滅させるぞ」
【功罪】エイド
【死罪】ギュレン
【断罪】ウェンデル
【冤罪】シェリア
【贖罪】ニック
【無罪】クリア
【免罪】セイラ
【同罪】ミラン
【逆罪】レイス
世界を恐怖させている『最悪な罪』の九つの罪は最悪になるため善も悪もすべてを壊す。




