最悪を語るな
『ここで緊急速報です! ただいまを持ってすべての新聞社が壊滅しました! 犯人は間違いなく彼らであるとの情報が多数寄せられています! 新聞社に勤めていた人達は皆殺し状態であり、彼らがなぜこんなことをしたのかは依然として不明です! 引き続き捜査を行っていくそうですがやはり彼らが犯人である証拠を見つけるのは不可能ではないかと警察上層部は判断しているようで』
エイドはテレビを消すと、アジトの大広間へと出た。
先日あれだけの戦闘が行われていた大広間だが、その戦闘が夢だったかのようにきれいになっていた。
エイドが大広間の隅にあるカウンターに行くと、
「皆、頑張ってくれているようだね」
と、ギュレンがいつものようにエイドが好きな酒を持って現れた。
「クリアには面倒くさい仕事だろうけどな」
「でも結構乗り気だったよ」
ギュレンがエイドに酒を渡すと、エイドはそれを飲まずに大広間を見渡した。
「にしても前よりきれいになってないか?」
「シェリアが前のアジトがどんな感じだったか覚えてなかったから仕方ないだろ」
エイドは「まぁ、俺もよくは覚えてないんだけどな」と言うと、ギュレンも「実は俺も」と同意した。
「そろそろこのアジト、改修でも始めるか」
「前は俺のデザインを参考にしたんだよな。次は誰のにするんだ?」
「ミレアでいいんじゃねぇか」
「そうだね」
ミレアは先日かなり活躍したこともあって、今のところ実力は他の九人に負けているが仲間になることを全員から認められたのだ。
「ミレアで思い出したんだけどさ」
「どうした?」
「結果的にミランが最後になっちゃったけどさ、ミレアはミランを優先的に助けようとしていたらしいんだが」
「それがどうかしたのか?」
「つまりミランが起死回生の一手になることをミレアは知っていたことになるんだよね」
エイドはギュレンが何を言いたいのかよくわからなかった。
「アイツだったらそれくらい考えられるだろ」
「それはわかっているんだけどさ。でもエイドおかしくないかい?」
「何が?」
「エイドの能力が【吸収】って俺達教えてないよね?」
そう、エイドの能力をあのときミレアは知らなかったはずだ。そもそもエイドの能力を知らなければ、ミランの能力が起死回生の一手となる、そんな発想は出て来ないはずなのだ。
ギュレンが何かを危惧するかに対してエイドは「心配ねえよ」と言う。
「アイツが自分で気が付いてねぇからわかりにくいが、アイツの能力は【衝撃】じゃねぇんだよ」
「え?」
「アイツの本来の能力は【振動】といったところだな」
「振動……。つまり振動を操って遠くの声を聞いていたってことか?」
「そういうことだ」
エイドはそう言って笑うと、グラスに一口付ける。そのあと、ギュレンを見ると、
「ミレアはいつか俺達くらいの化け物になるぜ」
「期待しているよ」
「それはセイラに言ってやれ」
そのとき、アジトの外でなにやら騒がしい声がする。
「毎回思うんだがあいつらは静かに入って来れないのか」
「俺は騒がしいのも嫌いじゃないが?」
アジトの玄関がゆっくりと開くと八人が騒ぎながら入ってくる。
エイドとギュレンは互いに酒を飲むと、軽き息を吐いた。
そして十人の『罪』が集まったとき、世界はさらなる『最悪』に包まれる。
彼らの名は『最悪な罪』―――『最悪』を語る名だ。
これは読み切りと言うことで、これで終わりとなります。
「反響があれば……」とは思っていたのですが、どうやらないようですね。
ということで完結です!
ありがとうございました!




