最悪の滅亡へ
エイド達がゴルガン王国に向かってからしばらくして、残ったメンバー達は暇そうにアジトの中にいた。
「【滅罪】が本当にいたとして、その【滅罪】が俺達に勝つつもりなら俺達も甘く見られたもんだよな」
「大丈夫でしょ。私達に勝てる奴なんていないんだし」
「……当たり前です」
「それに私達にはあの二人がいるんだよ。勝てないわけないって!」
本当は今すぐ人を殺しに行きたいのだが、ミレアが言うにはすぐにでも動けるようにアジトにいるべきだということで動けないのだ。
そんなミレアは一人でテーブルの上の新聞と向かい合って何かを考えていた。
「どうしたんですか? もしかして僕をいじめる方法でも考えてます!?」
「少し黙ってて。気が散る」
その真剣な声にさすがのセイラも空気を読んだ。
「何か気になることでも?」
「少しね。あなた達っていつもこんなスムーズにことが進んでいるの?」
「そうですね。エイドとギュレンの計画通りに進まなかったことは今まで一度もありませんでしたから」
「なら……いいけど」
ミレアはそう言って自分を安心させようとしたがどうもどこか安心できないでいた。スムーズにことが進んでいるということはエイドとギュレンが完璧に計画していたからであるのは間違いないろう。
「いえ、待って。今回はエイドとギュレンの計画通りに進んでいないじゃない」
「どういうこと?」
ミレアの独り言に食いついたのはクリアだった。
「そもそも計画が立ってないのよ。今から計画を立てるのであって計画自体はまだ立てていないのよ」
今回エイドが計画したのはシューレンを襲撃することだけ。これはその延長線上に出てきた問題であって、こうなるのはエイドも昨日まで気付いていなかった。
つまり今の状態は計画を立てる前の段階。
エイドとギュレンが計画していないこの状態がすべて誰かによって計画されていたものだとしたら……
ミレアが鳥肌を立てた瞬間だった。
「今気付いたところで遅いんだよ」
その声が全員に届いた瞬間にアジトのドアが壊れる音が響いた。
「誰だ」
ウェンデルがそう言うのと同時にミレア以外の全員がシューレンのときとは比べものにならない殺気を放った。
だが、
「ッ!?」
「ハッ! 何だその殺気は! そんなんで俺達が怯むとでも思ってんのかよ!」
「正直がっかりだね」
「ああ?」
(仮の)仲間の殺気に驚くミレアをよそに、破壊されたドアから出てきたのは二メートル以上の身体をした男と反対に平均より少し小さめの男だった。
そのどちらもが八対二というこの状況で笑っていた。
「俺達はまぁテメェらにわかりやすいように言うと【滅罪】ってところかな」
「そうか。ならとりあえず死ね」
「やなこった」
「ッ……!」
ウェンデルが居合い斬りが止まった。
ウェンデルの抜いた剣は長身の男の前で止まっており、刃の側面にはその男の指が三本あった。つまり三本の指でつまむように剣を掴まれたのだ。
「お前の能力は【斬全剣】だが斬らなければ無能力と同じだ」
「が……!」
「ウェンデル!」
ウェンデルは腹を殴られると文字通り吹っ飛んだ。壁にぶつかり勢いは止まったがウェンデルは息と一緒に血を吐き出す。
「ガハッ……」
「……強い」
「あなた達が弱いだけですよ」
「ッ!」
動揺していたニックはウェンデル達を気にしすぎてもう一人の敵の警戒を怠った。気が付けばニックの隣にいた男は懐からナイフを取り出すとニックの首元を狙う。
「……くっ」
ニックは咄嗟に能力を使い自身の身体を侵略する。そしてすぐに横へ跳ぼうとするがその前に肩を掴まれた。
まるで横に飛ぶことをはじめからわかっていたように。
「こんなもんか」
男はそう言うとニックの肩に力を込めそのままニックの顔めがけて回し蹴りを放つ。
「ぐ……!」
「ニック!」
「レイス! 今は焦っちゃダメ!」
「っ……!」
ニックに駆け寄ろうとしたレイスをミランは慌てて肩を掴み止めた。
「今、相手に隙を見せるのは得策じゃない。死んではいないはずよ。ウェンデルもやられたわけじゃないし、シェリアも少し落ち着いて」
「っ……」
「ガノン、クリアが近づいてきてるよ」
「おっと」
「」
背の低い男に言われた長身の男は後ろへ飛び、クリアの手から逃れた。
クリアは目を少し細めると背の低い男を見た。その目には僅かに怒気が込められており、男はそれを笑って受け流す。
「ごめんよ。ボクには全部見えちゃうんだよ」
「死ね」
「子どものような顔でそう言われると困るんだけどな」
「レン、遊んでいる暇はねぇぞ。あの二人が帰ってきたら面倒くさいんだ。だから」
「あの二人が帰ってくる前にこいつらを殺さないと、でしょ」
「なら早く終わらせるぞ」
「了っ解」
ガノンと呼ばれた男は不敵に笑うと姿を消す。
「【透明化】!? ならさっきのあり得ない強さはどういうこと!?」
「違う! おそらくものすごい速さで動いているのよ!」
「え……?」
ミランの声がシェリアに届いた時点でシェリアの後ろにガノンがニヤリと笑いながら回り込んでいた。シェリアがそのことに気付くと同時にシェリアの顔に拳が入っていた。
「ぶっ……」
「シェリア―――――!」
ウェンデルの声はもうシェリアに聞こえていなかった。
整った顔は衝撃でひどい顔になりそのまま壁へと突っ込んだ。
「……っ、……っ」
シェリアの息はまだあったが顔にはひどい痣が残っており、シェリアはすぐに気を失った。
「シェリアちゃん! この!」
「レイス! ダメ!」
ガノンに向かうレイスを阻むように間にレンと呼ばれた少年が入る。
「邪魔!」
レイスは顔に手をかざすと別人の顔へと変わる。
「なるほど、【針のむしろ】ですか」
「ッ!?」
レンの言うとおりレイスの顔は昨日の戦闘でも使われた顔だ。
またもやレンはレイスがどのように針を出すか知っているかのように、すべての攻撃を躱した。
「一度に出せる針の量は限られているんですね」
「なっ、どうしてそれを……!」
「さぁ? どうしてでしょう?」
レンは不敵に笑うとレイスの元へ駆け出す。もちろんレイスもそれを簡単に許すわけがない。だがすべての針がやすやすと躱されレイスの元へとものすごい速さで近づいてくる。
「どうして当たんないのよ!」
「レイス!」
「きゃっ!」
ミランはレイスを横に飛ばすとフッと笑った。その意味をレイスは最初わからなかったが、すぐに視界が変わる。
レイスがやられたのではない。
目の前で笑ったミランの顔から、一瞬にしてガノンの膝がレイスの視界に移り変わったのだ。
「あ……、あぁ……!」
蹴られたレイスはシェリアと同じように壁へと叩きつけられ一瞬にして意識を無へと追い込まれた。
「ど、どうして……!」
「ミラン! クッソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……潰す」
「本気で行きましょう」
今戦える力が残っているのはウェンデル、ニック、セイラだけだった。
クリアは自分が勝てないことを悟ったのか戦いに参戦せず、自身の気配を消していた。
ミレアは状況に追いついていけず、ただ黙って立っていることしかできない。
レイスは自分のせいでミランがやられたことを気にしており、ただ呆然と、ミレアと一緒に立っていた。
「ニック!」
「……いきます」
ニックは懐からあらかじめ侵略しておいた大量のナイフを浮かばせるとレンへと飛ばす。レンはそれもわかりきったように躱していると、レンの下にウェンデルが走って行く。
「レン、大丈夫か」
「攻撃がわかっているんだ。避けれないはずがないでしょ」
「んだと、ゴラァ!」
「無駄だって」
ウェンデルはすさまじい速さで剣を振っているがやはりそれも躱されてしまう。
「【超回避】ってところかよ!」
「全然違うよ」
ウェンデルの横斬りに対して腰を落として躱した瞬間に、レンはウェンデルの手首へと手を伸ばした。
剣がなければウェンデルの能力は使えない。それを見越して剣を奪おうとでもしているのだろう。
「舐めんじゃねぇぞ、このガキが!」
ウェンデルは横に払った勢いをそのままに一回転する。
だがそれ自体もレンの読み通りであって。
「なっ……!」
「言ったでしょ。全部見えてるって」
ウェンデルが一回転している間にレンはさらにウェンデルの懐へと潜っていた。
あまりに近すぎるせいでウェンデルは剣を上手く振れず、ただ虚空を切り裂く。
「これくらいだね」
レンはナイフを使わず拳を固く握るとウェンデルの顎へと持っていく。
「が……は……」
ウェンデルはそのまま宙へと投げ出され、視界が点滅する中あるものを見る。
頭の上に二つの手を握り不敵に笑う者。ニックのナイフをチクリとも感じさせないような完全な肉体がそこにはあった。
そしてその完全な肉体の両拳で成される圧倒的な力がウェンデルの腹へとのしかかった。
ドッッッッッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
事情を知らない者が地震とでも勘違いしそうな揺れと衝撃がアジトを震源地に起こり、その攻撃を受けたウェンデルはアジトの地下深くへとたたき落とされた。
「う、嘘でしょ……」
圧倒的な破壊のあとに残る静寂。
ミレアの呟きだけがこのアジトに響いていた。
「……ニック」
「……私じゃ勝てそうもありません。……セイラは?」
「私の能力でもあの破壊力は出せそうもありません。だから今あの肉体に勝てるのは」
セイラはそう言って後ろにいるミレアを見た。
「……え?」
ミレアはその視線が何を意味しているのかすぐにわかったが、すぐさま否定した。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 確かに私の能力は【衝撃】でどんな相手でもダメージを与えることは可能だけど……!」
「わかってますよ」
おそらくガノンという敵の能力は身体強化系の能力で間違いない。圧倒的な守りに、圧倒的なスピード、圧倒的な攻撃力はそれによって生み出されているのであろう。
守りを崩すだけならミレアの能力でも、ウェンデルの能力でも可能である。だが最も恐ろしいのがそのスピードだ。
ウェンデルの剣を掴むほどのスピードに対抗する術はない。いくらニックの能力でスピードを上げたとしても、ガノンの速さは出せないし、出せたとしてもその速さの前に人間の身体は耐えられない。ガノンの速さは守りによっても生み出されているということだ。
「なるほど、【衝撃】か。それは厄介な能力だな」
「でもガノン。あんな奴じゃガノンには勝てないよ」
「それもそうなんだが、まぁ絶対的な『最悪』を見せてやるよ」
「ッ!」
気付いたときにはミレアの前に拳を振り上げるガノンがいた。
セイラが珍しく焦った様子で手を伸ばすがもう遅い。
ガノンの拳がミレアへと触れる瞬間、
「『最悪』を語るとはいい度胸してんな、クソ野郎」
ものすごい速さで何者かがミレアを押し、ガノンの拳を顔の向きを変えることで躱す。
本来先ほどまでと同様その後ろでものすごい音がするはずだが、今回は音どころか衝撃すら伝わることはなかった。
「あ……!」
「遅い」
「助かりました」
「……間一髪ってところでしたね」
その人物を見て全員がやっと笑みをこぼした。
現れたのは二人の『最悪』
『最悪な罪』の絶対的実力を持つ二人がそこに立っていた。
「対価はテメェの命で十分だ」




