嵌められた最悪達
すべての記事にはこの人物が『最悪な罪』の新しいメンバーだと報じられているが、もちろんそんなわけがない。その人物は自分のことを【滅罪】だと言ったらしいがそんなのはいるわけがなかった。
それに。
「滅罪って言うのは罪を消すって意味だよな」
「でもここには国に問題があるということはその国民すべてに罪があったって解釈されてるよ」
「確かにあの国はいろいろ問題がありましたが……」
「……そんなの建前ですね」
ウェンデル、シェリア、セイラ、ニックが話しているとエイドとギュレンが面倒くさそうに部屋から出てくる。
この二人は何か重大な作戦や事件が起きたときこうして二人だけで会議を始めるのだ。なぜ二人だけにするかというと、この個性的なメンバーが作戦会議しても時間が無駄にかかると知っているからだ。
だが、今回は少し違った。
二人の後に続いて昨日から仮だが『最悪な罪』に入ったミレアが出てくる。昨日の頭の回転の速さを見越してエイドに協力しろと頼まれたのだ。
三人が会議を終わったことで全員が一昨日のようにテーブルを囲んで十人が座った。
「全員朝の新聞は見たよな?」
『もちろん』
エイドはその反応が当然のように頷いてから本題に入る。
「今回俺達三人が出した結論は『明らかに俺達を誘っている』という結論だ」
「……滅罪だからですね」
「それもあるが決定打になったのがこの部分だ」
エイドはそう言って記事の真ん中の部分を指す。そこには『『最悪の罪』の新メンバー』という文字。
「俺達の名を語るということがわからないわけがねぇ。つまりこれは俺達に向かって言っているのは間違いない」
「俺達を潰そうとはなかなかいい度胸だよな」
「おい、ギュレン。これはいい度胸どころじゃねぇだろ。ぶち殺してぇぜ」
ウェンデルの言葉に他の皆が頷いた。自分達という『最悪』を軽々しく名乗られては腹が立つ。全員の気持ちは一緒だ。
「でもその犯人がどこにいるかわからなければどうにもできないわね」
「だから少し俺とギュレンでドルガン王国まで行ってくることにした」
「……二人だけでですか?」
「調べ物してくるのにお前らはどう考えても邪魔だからな」
するとレイスが身体を乗り出して、
「私はエイドの邪魔なんかしないよ!」
「レイスが行くなら私も」
「なら俺も」
「こうなるから誰も連れて行かないんだ」
エイドのため息にギュレンの乾いた笑いを聞いて、全員は大人しくなった。
「いいか、俺達がいない間に新聞などで宣戦布告をされるかもしれないがそのときはミレアの言うことを聞け」
「なんでこの新人の言うことなんか……!」
「ミレアの役割は【謝罪】だ。俺達にキャリアはいらねぇ」
エイドはそう言うとウェンデルに殺気を放った。それは生半可な殺気ではなく、本気の殺気だった。少し間違えれば間違いなく殺されるくらいに。
「っ……!」
ウェンデルが大人しくなったところでエイドは殺気を解いた。
「ミレアは確かに有能の奴だ。だがまだ実力が足りないのも事実。だから教育係は当初の予定通りセイラ、お前に任せるぞ」
「了解です」
「それじゃ、行くぞ」
そう言ってエイドとギュレンはドルガン王国へと向かう。
エイドとギュレンはアジトを出ると能力を発動した。
するとエイドは上へとまっすぐ上がっていき、ギュレンは手を下に出すと同様に上に上がっていく。そのあともどういうわけかエイドはそのまま横へと動きだし、ギュレンも方向と逆の方に手をかざすだけで移動する。
「一時間ってところか」
「四十分じゃないですか?」
「そんな近かったか?」
「意外と近いもんですよ」
「そうか」
二人は秒速十五メートルという速さの中、何の恐怖も感じずに会話をしていた。
そのときだった。
ゴオオオオオオォォォォォォッ!
二人の後ろからものすごい音がする。
二人が後ろを振り返るとそこには五つの戦闘機が飛んでいた。
するとその戦闘機のうちの一つから声が出る。
『お前ら何者だ!』
「潰すか」
「そうですね」
『今すぐ飛行を止めろ。さもなければ……なっ!』
最後まで言う前にエイドは戦闘機へと突っ込んだ。
「雑魚が」
エイドが戦闘機に触れると戦闘機はメキメキと音を立てそのままスクラップされたかのように中と一緒に潰れた。
そのままエイドはその隣の戦闘機へと飛び移り、今度は隣からスクラップにする。
『なんだこれ!? なんでスピードが出ないんだ!?』
声の言うとおり戦闘機は本来もっと早いものだが、今戦闘機は前から壁が押さえつけているかのように速度を出していなかった。
『な、なんなんだよ、こいつら!』
「最悪だが?」
『ひっ!』
戦闘機はエイドの声ですぐさま逃げようと散開するがやはり速度が出ない。
その間にエイドは次々と戦闘機の乗り換えを繰り返し、すべての戦闘機が空中でスクラップされそのまま墜落していった。
「今のやつ……」
「どうかしましたか?」
「少しやばい予感がする」
「?」
ギュレンがエイドに目で質問したがエイドは「いや、なんでもない」と首を横に振って先ほど同様に真横に飛んだ。
しばらく飛んでいるとエイドが時計を見て、
「そろそろか?」
「そうですね。高度を下げますか」
二人が高度を下げるとそこには緑が広がっていた。
その緑の中、真ん中に大きな城とそれを囲むように城下町が立っているのだが、
「おい」
「おかしいですね」
そう、緑の中に城下町が立っているのがおかしいのだ(・・・)。
二人が向かっていたのがこの城下町。この城下町こそがドルガン王国なのだ。
「幻影か?」
「とりあえず降りてみないとわかりませんね」
二人が王国の前で降りるとそこは確かにドルガン王国であった。二人の勘違いというのはなさそうだ。
「これは一体どういうことだ?」
エイドとギュレンは驚きながらも王国内に入るとそこもまた驚きの光景があった。
人々が平穏に過ごしているのだ。それはエイド達『最悪な罪』を忘れているとかそういう意味ではない。
二人が驚いているのは新聞で自分達の国が滅んだというのに何も驚いていないということだ。
普通、自分の国がいきなり滅びましたなんて言われてパニックにならない人はいない。二人は自分達が見ている光景に目を疑うしかできなかった。
しかしすぐにハッと気付くとエイドは王国内を歩き新聞を探した。
適当な人間を捕まえ殺したエイドはその人が持っていた新聞を見て言葉を失った。
「エイド! これを見てくれ!」
そこでエイドと違う新聞を手に入れたギュレンが走ってきた。エイドはそれを見てやっと自分達がはめられたことに気付いた。
「そういうことか……!」
「エイド?」
「やられた。他の奴らがやばいな。どうやら俺達のアジトはバレていたらしい。どうやって調べたまではわからねぇが、とにかく俺達を完全に殺そうとしている奴がいるのは間違いない。やはりさっきの戦闘機はゴルガン王国のものだったか。この日のためにここまでする奴がいるなんてさすがの俺も思っていなかったぜ」
エイドは新聞を握りつぶすとギュレンを見た。
「すぐ戻るぞ。あいつらが死ぬ前にな」
エイドの言葉にギュレンも事態の深刻さを理解し、軽く頷いた。
そして二人はその場で能力を使ってアジトへと向かった。




