誰も知らざる新たな最悪
エイドとギュレンが外で待っていると最初に来たのはセイラとミレアだった。
「セイラ、なぜ殺していない」
「彼女を僕達の仲間にしようと思いまして」
「弱い奴を『最悪』に入れる気はないし、入れることはできない」
エイドはセイラを殺気を込めて睨むとなぜかセイラではなく隣に立っているミレアがビクッと震えた。それに対してセイラはおどけたように肩をすくめる。
「僕だってそこはちゃんと考えてますよ。彼女は鍛えようによっては僕達と同等の力を得られると思いますよ」
「誰がそこまで鍛えるんだ? 今弱いならなんの意味もねぇ」
「一年、いや三ヶ月あれば余裕ですよ。僕が鍛えてあげますし別に構わないでしょう?」
「……三ヶ月だ。三ヶ月後に生かすかどうかを全員で決める。それでいいな?」
「任せてください」
セイラとエイドの話が終わると場を支配していた殺気が嘘みたいにきれいに消えた。その緊張感に解放されたミランはセイラの肩を突いた。
「ねぇ」
「なんですか?」
「この二人って何者なの? 明らかに異常でしょ。一人はそこらの一般人と同じ雰囲気をかもし出してるし、今の人は見られるだけで鳥肌が立つんだけど。早く名前を言いなさい、屑」
「ああん! 気持ちいい!」
「セイラは相変わらずだな」
セイラはミレアの問いには答えられないくらい気持ち良くなっており、代わりにギュレン自らが答えた。
「俺はギュレンでこっちがエイド。知らないわけないよね?」
「ッ!」
ギュレンは特に殺気を出したわけではない。だがその名前を聞いたミレアは顔を真っ青にした。ギュレンとエイドの名前は聞くだけで死ぬかもしれないと言われるほど有名だ。
「やっぱりあなた達は『最悪な罪』だったのね」
「あれ? もしかして僕の顔を知らなかったの?」
「知ってはいても半信半疑だったわよ。あなたみたいな屑で変態が一員なんて思いたくなかったから」
「やっぱり僕達相性が完璧ですよ!」
「うるさい、死んでください」
「ああん!」
また地面でうねうねと動き始めたセイラを横目にミレアはエイドを見るが、やはりその迫力に恐怖を感じずには得れなかった。
そのとき遠くから声がした。
「お~い! エイド~!」
「この声はレイスか?」
「後ろにあと二人……ウェンデルとシェリアだね」
シェリアはウェンデル達を見て、
「あれ? ウェンデルとシェリアちゃんは先に来てたと思ってたのに」
「ウェンデルが道に迷ったせいで遅れちゃったんだよ」
「そういうテメェだって間違ったじゃねぇか、シェリア!」
相変わらずウェンデルとシェリアは喧嘩をしていたがミレアを見ると怪訝そうな顔をした。
「なんでここに幹部がいやがるんだ?」
「だよね、幹部みたいなオーラ出してるし」
「シェリア、テメェ幹部の顔忘れたのかよ」
「別にいいでしょ。幹部は間違いなく倒したんだし」
「テメェは俺になにかと言うわりにはテメェもひどいよな」
「私よりウェンデルの方がひどいと思うけどね~」
「んだと、ゴラァ!」
結局ミレアのことを置いておき二人は恒例の喧嘩を始めた。レイスは地面に転がっているセイラに訊くより本人に訊いた方が早い、というより会話になると思い訊こうとしたがまた声が聞こえた。
「レイス! 大丈夫でしたか!?」
「……着きましたよ」
「エイド」
ミレアがレイスに抱きつきクリアがエイドの裾を掴んだ。その三人もミレアのことには気付いたが、さっきの三人とは違って特に気にしなかった。
全員が集まったことでシューレン内には雑魚達しかいなくなった。全員が来る前に逃げようとした雑魚達もいたが結果は言わずもがな。
「全員が集まったんだ。ギュレン、やれ」
「そうですね」
ギュレンは爽やかな笑みを浮かべると今まで隠していた殺気を出した。先ほどと顔はまったく変わっていないはずなのにその笑みは見るものに恐怖を植え付けさせるようである。
「よいしょっと」
ギュレンの声に合わせてシューレンにあったすべての建物が一瞬にして崩壊した。それに驚くのはもちろんミレアだけ。
「な、何をしたの!?」
「それは俺達に認められたら教えてやるよ」
エイドの声にミレアは身体を震わせながら真っ青な顔を浮かべた。
そんなミレアを放っといて最初に疑問を口にしたのはレイスだった。
「あれ? ギュレン君とエイドでやるんじゃなかったの?」
「俺はもうそこそこ暴れ回ったからな」
『え?』
ギュレンと話す余裕がないミレアを除いて全員がクエスチョンマークを頭に浮かべた。エイドほどの人間が暴れ回っていたとは考えられないのだ。エイドが戦闘を行っていたらもっと騒がしくなっていたはずだと思っているのだろう。
「話は変わるが俺達はなんでここに来たのかわかるか?」
エイドがいきなり何を話し出すかと思えばそんなことだった。
「そりゃ、新聞に俺達以外の悪が映ったからだろ」
ウェンデルが当たり前のように言うとエイドも当たり前のように頷く。
「そうだ。でもそれっておかしいよな?」
「……どういうことですか?」
「俺達を知らない者、ましてやメディアがいると思うか?」
「いないはずよ」
「なら俺達以外の悪がいた場合の対処方法を知らないメディアなんてもちろん」
「いない……はずだよね?」
そこまでいって全員が理解した。
つまりメディアは彼らにこのテロ集団を潰すためにこき使ったことになる。そこまで考えが至った瞬間全員が殺気を放った。
「ちょっと待てって。言っただろ。俺はもう暴れ回ったって」
「つまりエイドが全部終わらせたのですか?」
セイラの問いにエイドは首を横に振った。
「まだ終わってねぇよ」
「エイド」
「いいか、俺達を怒らせたらどうなるかメディアがわからないはずがない。にもかかわらずどうしてメディアはこんなことをしたと思う?」
「……そういうことね」
『……!』
誰よりも先にエイドの言うことを理解したのは先ほどまで話すことさえできなかったミレアだった。皆が驚きながらミレアを見るとミレアはきょとんとした顔をした。
「なかなか頭は回るようだな」
エイドが珍しく感心するとレイスとクリアがそれぞれムッとした表情をした。
「教えて」
「何がわかったの?」
二人から怒りを含んだ殺気を向けられたミレアはビクッとしたが、先ほどエイドからの殺気を浴びたせいか恐怖は感じたもののなんとか話すことには成功した。
「だ、だからこれは第三者があなた達を誘導するための罠だったってことよ。あ、あなた達の居場所を変えるというよりあなた達の居場所を確定させるための。その第三者がメディアを脅したってことでしょ」
「正解だ」
ミレアの言うとおりエイドはそれを含めてさっきまで新聞会社を襲撃していた。誰が何のためにエイド達をここに呼び出したのかを聞くために。結局どちらもわからなかったが。
「俺達をここに呼んだ理由は二つほど考えられる。一つは俺達と戦うため。もう一つは俺達をある場所から遠ざけるため」
「でもここにはそんな人物がいなかったから……」
エイド達はここにおびき出され、ここではないところで何かが起きたことになる。
「もしかして私達のアジトを突き止めたとか?」
「それはないね」
「どうしてよ、ギュレン!」
「そんなことをする理由がない。誰もいないアジトを攻めて何かある?」
「う~、ギュレンに言われると屈辱ね」
「ひどいですね」
「なら一体何が目的なんだよ」
「そんなのもうわかりきってるじゃない」
ミレアはこの空気に慣れ始めたのか平然と言った。だが、その後の皆の殺気の籠もった目線にはまだ耐えられず後ずさりをした。
「あなた達に知られたくない計画があり、少しでもあなた達に邪魔される可能性を消すためよ」
「それも正解だ」
「計画」
「そこまではさすがにわからないわよ。でも、壮大な計画であることは間違いないわね」
「どうして?」
レイスの問いに答えたのはエイドだった。
「俺達が介入する可能性があるってことは、その騒ぎが一瞬にして世界に広まるってことだ。秘密の計画なら俺達にバレる心配はないからこんなことはしない」
「なかなかやりますね、ミレアさん」
「黙りなさい、ゴミ」
「ああん!」
「それで俺達はこれからどうすんだ?」
「別に何もしないさ」
『え?』
それにもミレアだけが驚かなかった。
「わからないものを考えても無駄よ。壮大な計画なら明日には明らかになるでしょ」
『……』
「そういうことだ。今日はもう帰るぞ」
エイドはそう言って帰り始めた。それを見てレイス、クリアとエイドについていき、諦めたように他の人達も帰り始めた。
そして明日の朝、今日のことが新聞の表紙を埋め尽くすことになる。
朝の朝刊のすべての表紙には『最悪』の文字があった。だがそれは『最悪な罪』に対して使われた言葉ではない。
『新たな『最悪』現る! 一国を一日で壊滅させた人間!』




