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最悪の戦いⅧ

 《【冤罪】シェリア》


 ウェンデルも今頃必死に幹部を探しているんだろうなぁ、と私は目の前の敵達を片付けながら考えていた。こういうときオルウェンも一途だが私もとことん一途だなと思ってしまう。

 それなのにウェンデルは人の気持ちも知らないで「ミラン、ミラン」って言うし、私が幼馴染みのギュレンのことが好きだとか見当違いも甚だしい。でも、やっぱりそこが愛おしくもあるし、やっぱり好きになる人を間違えた。

 そんなことを考えながら歩こうとすると、倒れている仲間を見ているにもかかわらずクリアちゃんほどではなくても無表情な顔で誰かが立っていた。

 ここまで来る間に幹部の顔は忘れてしまっていたので断言はできないが、おそらく幹部で間違いないだろう。そんなオーラを出している。


「女が相手か」

「何? 女が相手じゃダメなの?」

「つまらん」

「むっか~」


 久し振りに本気で腹が立つ一言だ。

 ウェンデルにもそんなこと言われたことないのに。ってあれ? ということは、ウェンデルは私をつまらない女だとは思っていないってことだよね? なんだ、それならそうと言ってくれればよかったのに。


「って、そんな場合じゃない。そう、あなた初対面の人につまらないはないんじゃないの?」

「事実を言ったまで」

「ホントにむかつくね」


 自分の下っ端が手も足も出せずに殺されているのにその態度はどうかと思う。

 ここは普通であれば私に恐れを抱いていなければいけないところ。そうでなくともそれなりの覚悟を持って現れなければならないところなのに、この人はまったく何も感じていない。自分が勝つことしか見えていない。


「ホントだったら今すぐ殺すところなんだけどね、一応私達のボスからは相手に恐怖を見せるように言われているからね。ただじゃ殺してやらないわ。ホント良かったね」

「負け犬の遠吠え」

「まだ戦ってもいないのに負け犬とかバカなの?」

「未来は一つ」

「そう……です……かっ!」


 我慢の限界も近かったので私がさっくり殺してしまう前に行動に移った。

 自分の右手に手榴弾を出現させる。

 手榴弾を相手へと投げてまず相手の動きを伺うと相手は、

 まったく動かない(・・・・・・・・)


「なっ……!」


 相手を伺うための手榴弾なのでさっきまでの威力はないがそれでも手榴弾として殺傷能力はある。しかしそのまま手榴弾は爆発する。

 爆発の後に残ったのはさっきまで普通に話し、私をイラつかせていた幹部のバラバラになった身体。間違いなく死んでいるだろう。


「一体どういうつもりなのよ」


 私が一人話しても返ってくる言葉はない。

 言葉は(・・・)


「ッ……!」


 いきなり私は殺気を感じた。

 反射的に横へ跳ぶが、その瞬間私の左腕が何かに斬られるような感覚がした。

 地面に着地したあと私の腕を見ると、そこには確かに刃物のようなもので斬られた傷があった。今私が飛んでいなかったら間違いなく心臓を貫かれていただろう。


「よくわからないけど大したものね」


 私を一瞬でも焦らせる人がここにいたことに驚きではなく感心した。少々舐めすぎていたかもしれない。

 未だ敵は姿を現さないが今の攻撃が最初で最後のチャンスであったことは間違いない。

 攻撃の瞬間殺気を出すようでは甘い。殺気があるとわかればいくらでも躱しようがある。

 となると敵の次の動きも大体わかる。不意打ちが通じなかった時点で敵がすることは一つしかないからだ。

 私はすぐさま自分を中心に一辺三十メートルの壁を出現させる。


「さて、いい加減姿を現した方が身のためだよ」


 これで逃げることはできない。上から逃げたり、瞬間移動であれば逃げれることも可能だが殺気を僅かに感じることからやはりそんな能力ではないようだ。

 殺気も感じようと思えば感じられるようではやはりこの敵は私達の相手にならない。

 私は能力を使い自分の斬られた箇所に能力を使って回復した。この程度であれば治すことは可能である。さすがに身体をパックリ斬られると回復は難しいが。

 そうしている間も敵は私に攻撃することはなかった。攻めあぐねているのか、もしくは勝てないことを見越して時間稼ぎに入っているのか。

 どちらにしても、


「もしかして私があなたに攻撃する方法がないとか思っているわけじゃないでしょうね」


 やろうと思えば先ほどのように手榴弾を使い、自分は盾で防ぐということはできるが一応私に傷を負わせた相手だ。少し違う戦い方を見せてやろう。


「攻撃してこないのなら私からいくけどいいよね」


 やはり返事はないがそんなのもはやどうでもいい。声で居場所がわかるとかそんなことは期待していない。そんなのを期待するのは二流のやり方だ。

 私は能力を使い全身をコーティングするかのようにクリームのようなものを出現させる。もちろん相手はそんなのわからないだろう。わかったとしても何から守るためのものなのかわからないはずだ。

 私は不敵に笑うと自分の周りから毒ガスを発生させる。それも超高濃度で。

 先ほど私の能力で火の玉を創ろうとすると糸に吊られているものに火がついたものが出現すると説明したが、それはつまり火自体は創ることができるということ。

 なにもものは固体であったり、形あるものでなければならないというものではない。


「さて、この毒ガスは超高濃度だけど簡単に死なせる毒じゃないよ」


 すわなくても皮膚に当たるだけで相手の感覚を少しずつ失わせていく毒ガス。

 最初は足の感覚がなくなってくるだろう。その後地面に倒れ込むことで身体の感覚がなくなっていき、次は耳や目、鼻、口などの感覚がなくなり何も感じなくなる。

 まるで自分が死んだように錯覚してもおかしくないがこの毒ガスは感覚を失わせるだけでそれ自体が死ぬわけじゃない。倒れてしまうのは足に力が入らないからではなく、脳が足の感覚がなくなったことで足はないものと神経を切断してしまうから。

 だから心臓が止まることはなく、死ぬことは基本的にないのだが、


「たまに自分が死んだことも錯覚してショック死、というより自分で心臓を止めてしまうときもあるんだよね。誰かわからないけどあなたはどっちなんだろうね」


 悪いがもう動けなくなった人間を殺す必要はない。そんなことしなくても人間は衰弱死するし、今回はおそらくギュレンとエイドがすべてを無に帰してしまうだろう。

 毒ガスは徐々に広がり始めやがて部屋全体に広がった。


「っ……」


 何かが倒れる音がした。

 その方向を見てみると先ほど死んだはずの幹部らしき人物がそこに倒れていた。毒ガスの影響であるのは間違いない。

 私はすぐ先ほどまで死体があった場所を見てみるとそこには死体が跡形もなく消えていた。

 聞こえているかどうかは私自身わからないが一応話しかけてみた。


「あなたの能力はもしかして【幻覚】ってところかな」

「……?」


 どうやら私が何を言っているかもうわからないらしい。やたらと顔を動かしていることからもう目も見えていないのだろう。

 しばらくすると必死に動き始めるがもう自分が動いているという感触もなく、諦めたのか、はたまた本当に死んだのか動かなくなった。

 心臓に手を当てて鼓動を確認したところ心臓はまだ動いていた。こうして私に触れていることもわからないことをいいことに、私はこの人に先ほど私を「つまらない」と言ったことの仕返しに身体を足で何回も踏み続けた。

 自分が踏みつけられていることにも気付かないこの人を放っといて私は背伸びをした。


「さてと、そろそろウェンデルも終わった頃かな」


 壁を解くと同時に毒ガスも解いた。

 壁を解くとその周りにはおっかなそうにしている下っ端達の姿があり、私は思わず笑ってしまった。そんな私を見て一歩下がった後、私の足下に転がっている幹部を見て悲鳴をあげた。


「死んではいないよ」

「じゃあ、もう死ぬのかよ……」

「すぐじゃないよ。あなた達次第では何十年も生きられる」


 感覚がない相手に飯を食べさせるのは苦難であろう。この人は自分が口を開けているかどうかすらわかっていないのだから。

 それにもう死んだも同然の相手に、いつでも自分たちが殺せる相手に自分たちの食料を分ける意味などない。そう言って自分の上官を殺してきた人を山ほど見てきた私が一番知っている。


「ま、そもそもあなた達を生かす必要もないんだけど」

「ひっ……!」


 下っ端達は必死に逃げるが私が逃がすわけがない。全員を蹂躙したあと、私はウェンデルを探しに行った。

 少ししてウェンデルを見つけるのだが、そのときちょうどウェンデルが幹部を倒して私は少し呆れた。ウェンデルだったらもっと早く倒せる相手だったのに、あのバカは暇つぶしに戦闘を楽しんでいたのだろう。

 そのあとウェンデルは私を見て悔しそうな顔をするがそれもまたいい。

 私はよくウェンデルをバカにしたり、バカと呼ぶけれどそんなウェンデルが好きな私もやっぱりバカなのだろうか。

 そんなことを考えながら私はまたウェンデルと喧嘩するのだ。



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