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最悪の戦いⅦ

 《【免罪】セイラ》


 それにしてもクリアさんは一体どこにいるんですか。全然見つからないんですが大丈夫ですかね。絶対迷子になってますよ。

 僕はクリアさんを探しながらさらに幹部も探すという他の人より仕事が増えている。

 クリアさんにやる気を出させて楽するつもりがむしろ苦労を自分から増やしてしまうとは。


「クリアさ~ん、いますか~。いるなら返事してください~、ってクリアさんの声の音量じゃ僕まで聞こえないか」


 どうして僕がクリアさんの面倒を見ないといけないんですか。次々と幹部が殺されているようですし。僕も早く帰りたいんですが。

 僕の身体はボロボロなので端から見れば死に損ないが歩いているようにしか見えない。その所為か先ほどから敵が次から次へと襲いかかってきて大変なのだ。

 こうしている今もまた、


「アイツなら倒せるかもしれないぞ!」

「やっちまえ!」

「はぁ……」


 他の人に敵わないからって集団で僕に襲いかからないでくださいよ。これで二百人目ですよ。

 僕はまた軽くパンチするだけで衝撃を起こす。

 そしてその衝撃でまた十何人という人が死んだ。

 あまりに圧倒的な力を弱いものに向けてもつまらない。いわば蟻を二時間ひたすら踏みつけるような作業。これで飽きない者はいない。


「誰か~、いませんか~」

「……セイラ」


 ボソッと僕の名前を呼ぶ声がした。

 僕はチラリとその声の方向を見るとニックがいた。


「ニック、ちょうどいいところに来た」


 いや、全然ちょうどよくないけど。全然遅すぎるけどとりあえず助かった。


「……どうした?」

「いや~、クリアさんとはぐれちゃってさ~。探してきてほしいんだけど」

「……まかせろ」


 決断早いね。

 クリアさんもそうだったしやっぱり好きな人のためにはなんでもするんだね。僕の望んでいる百合とか薔薇じゃないのが残念なところだけど。

 ニックは早速探す気なのか辺りを見渡す。そんな簡単に見つかったら苦労しないのだがニックはそれに気付いていないのかずっと何かを探していた。

 そこにまた十人ほどの敵が角から出てきた。


「また出てきたよ……って、あれ? ニック?」


 ニックは僕の横をものすごい勢いで追い抜いていき、敵の群れに自ら飛び込んでいった。


「ああ、そういうこと」


 やっとニックの狙いがわかった。

 どうやらニックは彼らを自分の支配下に置いてクリアを見つけるようだ。こうなると皆の能力が羨ましいと思う。

 僕は基本身体強化だけだから応用性がまったくない。気に入らない能力ではないけど不便だとは思う。


「……クリアさんを探してくだ」


 あっ、やっぱダメだ。


「贖いなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

「出ちゃったか~」


(ニックが言うには)本物のニックはせっかく偽物のニックが捕まえた敵を能力で自害させると用が済んだように消えていった。

 そして偽物のニックが目覚めると、


「……なんですか、これ」

「ニックも大変なんですね」

「……」


 悲しそうな表情をして何も言わないニックの肩を叩き、僕は励ましの声をかけようとした。

 だがその瞬間、


「ニック、ちょうどいいところに……ってセイラもいたの」

「ミランさん、どうして僕を汚物のように見るのですか」

「気持ち悪いからよ」

「身体的痛みも気持ちいいんですが言葉責めもまた気持いいですね!」

「死ね」

「ああん!」


 そのときミランさんの後ろからクリアさんが眠そうに出てきた。


「……クリアさん」

「眠い」


 軽くニックを無視。

 僕はニックを憐れみの目で見ますがニックはクリアさんを見てかなり嬉しそうだ。恋は盲目というやつですね。

 それより僕は気になることがある。


「どうしてレイスさんがいないのですか!」


 てっきりミランさんはレイスさんと共に行動しているものと思っていたのに、どこを探してもレイスさんの姿が見つけられない。


「レイスとは途中で別れたわ。幹部を探すために二手に分かれてね」

「そうなんですか、残念です」

「ええ、本当に残念よ」

『はぁ』


 僕達二人にとってレイスさんは必要不可欠な存在なのに。せっかくミランさんとレイスさんのイチャイチャでテンションを上げようと思ったのに。

 ショックを受けていた僕ですがまだ希望はある!


「ニック、何か私に渡したいものはありませんか?」

「……これですか」


 来ました!

 写真! 僕の希望!

 早速その写真を見るとそこにはミランさんに抱きつかれているレイスさん。


「盛り上がってきましたね~! やっぱりこれがないと始まらない!」

「ニック、何渡したの?」

「……セイラを活性化するための写真」

「へ~、ニックも持ってたんだ」


 やはりミランさんも持っている! これはぜひ貰わなければ!


「言っておくけどやらないわよ」

「なっ……!」

「これは私にとっても大事な写真だから……!」


 出た~~~~~~~~~~~~~!

 やはり写真より生ですね! そのレイスさんのことを考えているその表情! たまらない!

 クリアさんも見つかり、やる気も充電されたことだし残り僕がやることは幹部を倒すことだけ。さっきまでの憂鬱な気分が嘘のように晴れ晴れとした気分です。


「それじゃ、僕は幹部を殺してきますね」

「え、まだ殺してなかったの?」

「え、もしかして皆さんもう終わったのですか?」

「終了」

「私も今倒してきたところ」

「……終了」


 どうやら僕がクリアさんを探しているうちにクリアさんまでもが殺していたなんて。あとニック、クリアさんと同じ言葉を言ってもあなたの気持ちは伝わりませんよ。


「それじゃ僕も手っ取り早く殺してきますかね」

「私達は帰りましょうか」

「帰る」

「……帰る」

「ニック、普通に話して」

「……すいません」


 そうして三人と別れた僕は幹部を殺すために能力で強化されている身体を最大限に使ってシューレン内を走り回った。

 今の僕を止めることなど幹部ならまだしもそこらの下っ端達にできることではない。今も僕に触れるだけでその身体の部分が吹き飛んでいる。

「幹部さん~、出て来てくださ~い」


「これで終わり」


 いきなり僕の首下に衝撃が通った。

 僕は何が起きたのかわからないまま崩れ落ちた。


「何が……?」

「へぇ、今のでもまだ生きてるとはね」


 僕を見下ろしているのはミランみたいな冷徹な目をした女性だった。その目を味わうだけでゾクゾクする。


「あなた達の所為でめちゃくちゃよ。私も殺されるのは目に見えているわ」

「あなたは誰ですか?」


 僕が質問したにもかかわらずその女性は一人でまだ何かを言っていた。その無視もまた僕に快感を与える。


「あなた、どうして倒れているのにそんなに笑っているの?」

「え?」

「気持ち悪いんだけど」

「ああん! いい! 最っ高!」

「っ……」


 その女性はあからさまに嫌な顔をし、倒れている僕から距離を取る。

 しばらくその快感を味わった後、僕はゆっくりと立ち上がった。それを見て女性は信じられないものを見ているかのように目を見開いた。


「あの衝撃を受けてどうして立っていられるの……?」

「すごい衝撃だったね」

「……ッ!」


 平然と言う僕に女性は驚き、すかさず距離を取った。


「さっきのが君の能力なんだね」

「そんなバカな!」

「? 何が?」

「私があなたに与えたのは衝撃そのもの。いくらあなたが固くても私の攻撃は必ず効くはずよ!」

「うん、効いたよ」

「あ、あなたは一体何を言っているんですか!?」

「あっ、そうだよね。言わないとわからないよね。僕の能力は【窮鼠猫噛】って言って、簡単に言えばダメージを受ければ受けれるほど強くなっていくんだけど、正確には違うんだよね」

 僕の能力はわかりやすいように普段はそう言っているが、【窮鼠猫噛】という能力の本質はそうではない。

 窮鼠猫を噛むということわざの由来は、猫に追い詰められた鼠が最後の力を振り絞って猫に反撃するということからだ。このことから、逃げ場を失った者は何をしでかしてくるかわからないから、むやみに人を追い詰めてはいけないという教えがある。

 僕の能力は由来に・・・・・・・・沿っているのではない(・・・・・・・・・・)僕の能力はこの教え・・・・・・・・・に沿っているのだ(・・・・・・・・)

 つまり僕の能力の本質は自分が追い詰められるほど様々な・・・不思議な力をその都度発揮するというものだ。

 最初の下っ端達に使われたのは異常なまでの身体強化。

 そして今回の力が動けないはずの身体が動かせるように回復していること。これで先ほどのダメージはなかったも同然となり、先ほどまでと同様、今の僕の身体は強化されている。


「とはいえ僕の能力は他の人と比べて使いにくいんだけどね」


 僕の能力でどんな力を得られるかは僕自身よくわかっていない。基本的に身体強化されることはわかるのだが、たまに自分でも驚く力を手に入れることがある。


「さてと、これからどうしよっか」

「っ……」

「そんな怯えるなんてまた僕をどうにかさせるつもりかい?」

「あ、あなたはドMでしょ!」

「あっ、これも言ってなかったっけ。僕はドMでもあるけどドSでもあるんだよ」

「ひっ……」

「なにその悲鳴。超可愛いよ」


 これが僕がミランさんに引かれる一番の理由だった。僕はいわば完全中立者で百合を認めるなら薔薇も、Mを認めるならSも認める。これが僕の考え方だ。これ故にミランさんからいつも嫌われるんだけどその嫌い方もまたたまらない。

 そう、今目の前で僕から少しずつ距離を取っているこの人みたいに。


「あっ、そうだ!」

「ッ!」

「いいこと思いついちゃった!」


 最近はミランさんの僕に対する扱いも僕的にはひどい扱いになってきたところだったし、この女性は前のミランさんにそっくりだ。

 となれば僕が今すべきことは一つ!


「君、名前はなんて言うんだい?」

「な、なんで今それを……」

「死にたくないんだろう?」

「っ……」


 図星のようだ。

 僕達はこれまで何人もの人を殺してきた。それはつまり何人もの死ぬ直前の顔を見てきたということ。何を考えているかは大体わかる。


「ミ、ミレアよ……」

「そうですか! あなたには今から選択肢を与えましょう!」

「せ、選択肢……?」

「深く考える必要はありません! どちらにしても僕にとってウィンウィンなことなのですから!」

「早く内容を言いなさい」

「その辛辣な言葉もまたたまらない!」


 やはり彼女には僕をいじめる要素も僕にいじめられる要素もある! まさかこんなところで運命の出会いが起きるとは!


「一つ目は大人しく僕に殺されるか。二つ目は僕達の、というより僕の(しもべ)になるか。どちらか決めてください」

「っ……」

「早く決めてください。僕は早く帰りたいんですよ」

「……き、決まったわ」

「どっちですか?」


「あなたを私の僕にしなさい(・・・・)


 まさか僕の選択肢になかったものを言うとは思っていなかった。でも、


「ありがとうございます!」


 これで僕は普段から百合も見れて、いじりもいじられるのもできるようになる。ここまで来たら本格的な薔薇も見たいところです。


「それじゃ、行きましょう。ミレアさん!」

「……はぁ。もういいわ。どうせここも終わりだし。だけどこれだけは言っておくわ。しばらくはあなたでストレス解消させてもらうから」

「ぜひお願いします!」

「本当に気持ち悪い」


 それもまた気持ちいいです。



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