4 今度は確実に始まったよ
レイラが息してない……
目を開けるとそこにはβ時代にも見たことがあるはじまりの街の噴水があった。さて、時間もないし急がねば。そういえばチュートリアルを終わる瞬間、気になる声が聞こえたけど、あとから確認しても大丈夫だろう。
既に2:00は過ぎ、もう2:10になりかけているのを確認して、自身に付加魔法による『ファスト』をかける。『ファスト』はAgiを一時的に上げる魔法。これで足を早くして教会まで走るつもりだ。
メニューにあるマップから教会の位置情報を確認して一気に走る。
人と人の間を抜け、時間に間に合うようにとにかく走る。
教会についたのは2:15少し前、街の中だからそこまでの広さは無く、あまり時間はかからなかったがゲーム初日ということもあり、人がたくさん居てそこを通るほうに時間がかかった。
教会に入り、辺りを見渡すと、談笑しているグループを見つける。恐らく元、いやDrei達だろう。
「わりぃ遅れた!」
Drei達にそう声をかける。
「お、やっときたか。まだ15分は経ってないけど本当にギリギリだな」
「ほんとにね。まったくお兄ちゃんったら」
「ごめんって」
笑いながらそう言ってくるDreiと月華に軽く謝る。
「まあいいけどな。じゃあ改めて自己紹介しようか。俺はDrei。剣士だ。二刀流で戦うつもりだ。種族は人間。じゃあ次」
「はいはーい!私は月華、剣士だよ!βテスターで攻略組でした!武器は刀で、二次職はサムライ系のになるつもりだよ!種族は獣人の狼人です、よろしく!はい次おにいちゃん!」
月華にそう振られたので自己紹介をする。
「俺は零、魔術師だ。βでは攻略組だったけど今回こそはまったりやりたい…。武器は魔書で、メインを闇、サブで水と付加だ。種族は人間。よろしく頼む」
「じゃあ次はあたしかな。あたしはレイラ、盗賊だよ。基本短剣でやるつもりだけど、弓もつかいたいなーって思ってるとこ。種族はドワーフ。細工もやるつもりだ。これからよろしく!」
「最後は僕だね。僕はリフレ、治癒術士です。一応βテスターでした。武器は杖、種族はエルフでやってる。よろしくおねがいします」
5人全員の自己紹介が終わり、お互いにフレンド登録する。
「じゃあ狩りに行こうか!場所は、どうしようか」
「そうだね~、はじまりの草原がいいんだろうけど混んでるだろうしね。」
Dreiの提案に、月華が答える。
「なら全員のレベルを教えてもらっていいですか?レベルによっては草原じゃなくてもいいかもしれませんしね」
「了解」
ということでレベルを公開しなくちゃいけなくなったわけだけどどうしようか。まあ悪いやつらじゃなさそうだし教えても大丈夫かな。
「俺はLv.6だ」とDrei
「私はLv.8だよ!」と月華
「あたしはLv.5」とレイラ
「僕もLv.5です」とリフレ
「教える前に言っておきたいんだが、たぶんお前らは驚くぞ、あと大きな声出すなよ。」
頭の上に?を浮かべながら「わかった」と返事するDrei
「俺のLvは18だ」
そういった瞬間
「は?」
「ふぇ?」
「え?」
「いまなんて?」
驚いて固まってしまったようだ。だからもう一回告げる。
「叫ぶなよ?俺のLvは、18だ」
「なあ月華」
「なに?Dreiさん」
「俺の聞き間違えじゃなきゃこいつLv.18って言ったか?」
「私もそう聞こえたかな」
「ははは、やっぱりか」
どうやらDreiと月華は現実逃避を、レイラとリフレは、思考がショートしてしまったようだ。
元に戻るまでさっきの通知のやつみておこう。
システムメッセージに言われた通り、ステータスを確認すると、Lukが10だったのが40まで上がっていた。+30とは大きいな。システムメッセージでは妖精の祝福って言ってたけど妖精ってたぶんリンのことだよな。ならこの祝福はリンがくれたのか。感謝せねば。
ステータスの確認がほぼ終わるのと同時に4人が帰ってきた。
「「「「どういうこと(だ)!?おにいちゃん(零)!!」」」」
うおっうるせっ。4人も耳元で大きな声出すなよ。俺の耳が死ぬわ。
「どうもこうもない。俺が遅れた理由のひとつであり、なにをしたかは秘密だ。ちなみにチートも使ってないし、もうできないしな」
それでも信じられないのか、問い詰めてくる4人
「ああもううるせえな!パーティー組めばいいだろ!」
そういって4人にパーティー申請を送る。パーティーのHPとMP、それにレベルは、名前とともに視界の端のほうに表示される。
それをみて納得したのか落ち着く4人。反応はそれぞれだった。
「ほんとだった…」
「そっかお兄ちゃんだもんね…」
「まじかよ…」
「さすがはβ時代攻略組最強魔術師の『殲滅の魔人』ですね。まさか始まってすぐなのにそんなにレベルをあげるとは」
「その『殲滅の魔人』ってのやめてくれないか?今は正式版だ。ベータの呼び名は捨てるから。それにこの正式版こそ待ったりやるんだ。それにもう目立ちたくない」
リフレが言う『殲滅の魔人』というのは俺のβ時代の二つ名で、闇魔法を使い敵対するものを容赦無く殲滅するからという理由でつけられたらしい。それっぽいこと言って誤魔化したけどつまりは、あんな中二ネームで呼んでんじゃねえ!!ってところだ。
「いや、むしろお前らこそよくそんなにレベル上げられたな」
「実はここに集まる前に偶然みんなに会っちゃってね、そのあと少し奥に行って狩ってたんだよ。レベルにバラつきがあるのは単に貢献度の差があったってことだね」
月華が代表して説明してくれる。
「なるほど」
「で、零のレベルがそんなに高いわけはなんでだ?」
「はぁ、今度教えてやるよ。とりあえずこんな人目の集まる場所じゃいえない。で、どこに行く?森でトレントでも狩るか?」
Dreiの質問に答え、流れで狩場をどこにするか訪ねる。トレントとは、木のモンスターで、木に擬態をしていたりするので、不意打ちを喰らうこともある。チュートリアルでも戦ってるし、トレントの上位モンスターがエルダートレントで、こちらも倒している。
「トレントかぁ、素材的にはいいかもしれないけど、ちょっと相性悪くない?」
「僕としては杖の素材が手に入るからうれしいのですが」
「あたしは狩りができればどこでもいいよ」
「トレントって木のやつだろ?探索系スキルは持ってるし、気をつければいけるんじゃないか?」
上から月華、リフレ、レイラ、Dreiだ。
「じゃあ気をつけながらいくということでトレント狩りだな」
トレント狩りをすることが決まったので、各々準備を始める。準備といっても、アイテムや装備の確認だけだが。
トレントの居る森、はじまりの森林に行く途中敵に遭遇したが、難なく倒し、はじまりの森林へついた。
「さて、ここから狩りの始まりだ。モンスターは見つけたら殲滅する方向で。誰かが死に戻ったり、物資が切れたらすぐ戻ろう。みんなでカバーしあうこと。じゃあ、楽しい狩りの始まりだ!」
「「「「おう(うん)(はい)!」」」」
みんなに声を掛けると気合十分といった声で返事をする。
あれ?っていうかなんで俺がリーダーしてんの?ねえ、なんで?
「!前方に気配が3つあるっ!」
森を進んでいると、Dreiが緊張感を孕んだ声色で言った。
「ふむ、恐らく3体ともトレントだろうけど。じゃあ、俺が2体拘束しておくから4人は1体ずつ確実に仕留めろ。いいな?」
四人は頷いて行動に移る。
「『シャドー』」
闇魔法のひとつ、影に身を潜める魔法である『シャドー』を使い、木の陰に身を潜める。
「『ダークバインド』『ダークバインド』『ダークバインド』!」
トレントが目の前まで来ると同時に『ダークバインド』を3回唱え、3体のトレントを拘束する。
「今だ!」
合図とともに戦闘が始まる。
「『パワー』!『ファスト』!」
リフレは付加魔法も使えるようで、Strを上昇させる『パワー』と、『ファスト』を唱えた。
「『スラッシュ』!」
Dreiが剣術スキルのアーツ『スラッシュ』を使い、トレントの枝を切り飛ばす。トレントがひるんだ隙に月華がすかさず攻撃し、トレントのHPを削る。
あっちは大丈夫そうだし、こっちもちゃっちゃと終わらせちまうか。
「『ダークネス』」
憶えたばかりの闇魔法である『ダークネス』を使う。『ダークネス』は、闇魔法で最初に覚える範囲魔法で、半径1mの効果範囲に、ほぼロス無く発動できる魔法だ。円状に現れた黒い闇はトレントを飲み込みダメージを与え、トレントをポリゴン片に還した。俺が倒した数秒後に、月華たちも戦闘を終えたようだ。
「おつかれ」
「あ、お兄ちゃんもう戦闘終わってるぅ!」
当然だろう、ほぼInt極振りしてるのにプラスして闇属性威力を増加させる魔書《デッド オブ ナイト》があるんだから。
「まあな。で、おまえらはどうだ?戦えそうか?」
「ああ、概ね良好だ」
「枝が邪魔で戦いづらいだけだからね」
リフレとレイラも好感触らしく、このまま狩りを続けることにした。
それから大体2時間ぶっ通しで狩り続けた。途中他のプレイヤーにあったりしたが、PKではない普通のプレイヤーだったので軽く挨拶した程度だ。
「すまない、そろそろアイテムが切れそうだ!」
とトレントを倒して、ポーションでHPを回復していたレイラがそう言ってくる。
「了解!じゃあ今回は一旦街に帰ろうか」
「わかった」と返事が返ってきたので、街に向かって歩き出した。
視界の隅にあるパーティーメンバーの情報を見ると、
DreiがLv.11、月華がLv.14、レイラがLv.11、リフレがLv.10といった具合だった。だいたい5レベはあがったようだ。
そして俺の森を出る直前のステータスはこうだ。
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ステータス
Name:零
Race:人間(魔法適正・特大)
Job:魔法探求者
Lv.22
HP 320/320
MP 1057/1057
Str:0
Vit:0
Int:184〔227〕<242>
Min:0
Agi:0
Dex:10
Luk:40
残りST:0
スキル:魔導Lv15、魔力制御Lv11、MP増加Lv11、知力上昇Lv14、水魔法Lv5、闇魔法Lv12、魔書作成Lv3、付与魔法Lv7、魔力感知Lv11、魔書理解Lv11、魔書Lv16
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MPが1000を超えていた。嗚呼、これ絶対初日のステータスじゃねえじゃん。もういっか(諦め)たぶんこの職業である以上目立つのは避けられないんじゃないかな。あ、そうだ厄介ごとにならないように少数精鋭の信用できるやつだけ集めたギルド作ればいいんじゃね?名案かも。帰ったら相談してみよう。