決意
拠点に帰ってからすぐにゴブ太の墓を近くに作った。
「ごめんな、そしてありがとなゴブ太・・・」
その日の夜はあまり眠れなかった。
(一人の夜はこんなにも静かで、心細いものだったんだな)
ぼーっと焚き火の火を見つめて夜明けを待った。
朝が来ると、何時ものように顔を洗ってから、昨日あいつを倒した落とし穴に向かう。
道中、風で木がこすれ合う物音ですら身構えてしまう。
「っつ!・・・なんでもないか」
そのせいで何時もよりずっと時間がかかってしまった。
ようやく落とし穴にたどり着く。
穴の中を覗きこむと、あいつは昨日最後に見たとおり横たわって死んでいた。
(こいつが出てこなければ!)
暗い感情が沸々と湧いてくる。どこにもぶつけようのない感情を持て余す。
「鑑定」
[スタンプボア:スタンプボアの死体]
と出た。
「こいつスタンプボアって言うのか・・・」
昨日は鑑定をかける余裕が無く、今更にこいつの名前を知った。
その後、今日の目的を果たすことにする。それは、ゴブ太と待ち望んだ肉を食うということだった。
穴に落ち、剣で適当に肉を切り取る。一日経ってはいたが森の中は涼しく、まだ大丈夫そうだった。
大きすぎて全部は持って帰れそうにない。残りの肉に近くの動物やモンスターが寄ってきたら大変と思い、スタンプボアの死体ごと穴を埋めることにした。
その後帰りも周囲の気配に注意しながら帰る。
「ただいまゴブ太」
拠点に帰ってきた頃には既に日が傾いてきていた。
持ってきた肉を何とか食べれるサイズに切り分け、焚き火でしっかりと焼く。
何切れかをゴブ太の墓に供える。
「ゴブ太、やっと肉だぞ。遅くなってごめんな」
もぐもぐと墓のそばに座り食べる。
待ち望んだ肉の味はというと
「ははっ、あんま美味くねーな・・・」
ろくに血抜きもしていない肉は生臭く、まったく美味しくなかった。
口直しにパオパオの実を食べるが
「こっちも前ほど美味しくないな」
以前ほどの美味しさを感じることが出来なかった。
「ゴブ太・・・」
また涙が流れてきた。
それから何日もろくに眠れない日が続いた。
繰り返し考えるのはスタンプボアと戦ったあの日のことだった。
(俺がもっと注意していれば、俺がもっと強ければ・・・!)
繰り返し繰り返しグルグルと同じ事を考える。グルグルと考える中であの日奴を倒した際に頭に声が響いた事を思い出した。
「ステータス」
[銅の剣:選択▽]
攻撃力:10
アビリティ:鑑定(58.2/100)
自然治癒強化 C(65.7/100)
「選択?」
項目が増えており、そこに意識を向けると
[銅の剣:選択▽
:ツヴァイヘンダー]
「増えてる・・・ツヴァイヘンダー」
意識して声に出す。すると剣が一瞬輝き目を閉じてしまう。輝きが止み、目を開けると銅の剣は俺の身の丈ほどもある大剣に姿を変えていた。
「でかっ、ステータス」
[ツヴァイヘンダー:選択▽]
攻撃力:35
アビリティ:筋力強化 B(0/100)
耐久力強化 C(0/100)
勇猛:(0/100)
アビリティが様変わりしており、鑑定が使えなくなっていた。この分だと自然治癒強化も働いていないだろう。
新しいアビリティの勇猛を見ると後ろに記号があり、そこに意識を向けると説明が出てきた。
勇猛:逆境時、全身体能力強化。
とあった。
「新しい力か・・・」
ブンッと剣を振るう。姿を変えてもとても手に馴染んでいる。不思議と重さも前と変わらないように思えた。
その後も、ブン!ブン!ブン!!っと剣を振り続ける。
汗が噴出し手のマメが潰れても振り続ける。
体力が尽き、腕が上がらなくなってドサッと地面に座り込む。
「はぁはぁはぁ・・・」
その頃には先ほどとは打って変わって、すっきりした顔になっていた。
(決めた)
息が整ってから起き上がり、ゴブ太の墓まで行く。そして先ほどの決意を伝える。
「俺、強くなるよ。強くなって、大切なものや大切な人を守れる男になる!」
「お前に助けてもらった命だ、誇れるような生き方をするから!」
そして、ようやく俺は再び前を向いて歩き始めることが出来た。