表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/36

二度目の戦闘

ゴブ太と生活をして既に数日が経った。

この数日間であったことはといえば、

先日仕掛けた魚用の罠は成功し、定期的に魚を食べることが出来るようになった。

魚を入れ、出汁がにじみ出た山菜スープは美味すぎて涙を流したほどだった。

森に仕掛けた落とし穴は、毎日見回っているがゴブ太がかかって以来いまだに獲物が入らない。

ゴブ太の足も今ではすっかり良くなり、走り回ることが出来ている。

足が治ったことでここを離れるんじゃないと心配したが、そんなことはなく今も一緒に居てくれている。

突然異世界に来て自分では思っていなかったが、心の何処かではやはり不安や寂しさを感じていたのだろう。

今は話しかける相手が居ることにとても安心感を抱いている。(まぁその相手がゴブリンとは思ってもみなかったがww)

そして今日もゴブ太と共に落とし穴の見回りに出かける。


「ゴブ太~、今日こそ肉が食いたいな!」

「グギャオ!」

「よし、張り切っていこう!」

何度も通りすっかり罠までの道は覚えてしまった。

ゴブ太の足もすっかり治ったことや、俺自身の体力が付いてきたこともあり以前よりもずっと早く罠までたどり着く。

「ふぅ、ここは何もないな」

また獲物がかかっていないことに若干落胆しながらも次へ移る。

いつもの調子でずんずんと森を突き進む。


(あともう少しで次の落とし穴に到着だ)

何日も森で生活し、初めて会ったモンスターのゴブ太とも一緒に生活するくらい仲良くなっていたことで、危機感がすっかり無くなっていた。

そんな時そいつは現れた。

ガサガササササ!!

「グギャ!」

「え?」

ゴブ太はいち早く気づき声を上げて報せてくれたが、俺が反応するのが遅すぎた。

茂みから何か飛び出してきたと思った瞬間に俺は物凄い衝撃に跳ね飛ばされていた。

「ぐぁっ!!」

ゴロゴロゴロ、ズザァッー!!!

俺は10m近く跳ね飛ばされてやっと止まった。

「うぅ・・・おぇ」

あまりの痛みに吐き気がこみ上げる。飛ばされた際に枝などに引っかかり、身体中傷だらけだ。

しかし、幸いなことにぶつかった所は腰に吊るした剣の所だったため、物凄い痛みだったが骨は折れていないようだった。

そのまま気絶してしまいそうな意識をなんとか繋ぎとめ、ぶつかってきた物を確認する。

するとそれは以前遠巻きにこちらを見ていた大きなイノシシのような奴だった。

「お前かよ・・・ぐっ!」

俺を撥ねてまっすぐ進んでいった奴はまたぐるりと方向転換しこちらを見た。

「・・・やべぇなこりゃ」

痛みで思うように動かないからだを何とか動かそうとする。

ズザ!ズザ!っと足元の土を蹴り上げ奴が走り出そうとした瞬間

ゴン!

「グギャギャ!!」

ゴブ太がこん棒をブン投げて命中させた。

「ブモォー!!!」

奴が怒りの声を上げゴブ太の方を見る。

「グギャオ!グギャグギャ!!」

「逃げろ!ゴブ太!!」

俺の声も無視して、その後もゴブ太は奴の意識が俺に向かないようにか、大声を上げて奴の注意を引き付ける。

ズザザザアッー!!っとすごいスピードで突進するが、ゴブ太はそれを転がるようにして何とか回避している。

「ゴブ太・・・!」

(考えろ!考えろ俺!、ゴブ太が必死になって作ってくれた時間を無駄にするな!)

今までの人生で一番頭をフルに使い思考する。そうして今自分がどこに向かって歩いて来ていたのかを思い出す。

(落とし穴!)

そう気づいた瞬間

ドンッ!!!

「グギャァア!!」

ゴブ太が奴に跳ね飛ばされていた。

「ゴブ太っ!!くそ!こっちだこの野郎!!」

足元に転がっていた石をぶつけ、ゴブ太に追撃しようとしていた奴の意識をこちらに向ける。

「ブモォオ!!」

なんどもぶつけられて怒ったのか、奴はすぐにこちらに向かってきた。

俺は痛む身体を無視して走り出す。

(ゴブ太!無事でいてくれよ!!)

「おら!こっちだ!」


ズザザザザー!!

「っく!!」

ゴロゴロゴロ!

なんとか転がって回避する。そのたびに身体が悲鳴を上げる。

「はぁはぁ・・・、こっちだくそ野郎!」

「ブモォオーー!!」

落とし穴までもう少しだったが、その少しが果てしなく感じていた。

(まだか!まだなのか!?)

実際にはほんの数分のことだったが永遠にも思われた時間にもやっと終わりが近づく。

「あった!」

目の前にはカモフラージュされていたが何度も見て、獲物がかからないことに落胆してきた落とし穴があった。

奴はもう、すぐ後ろまで迫っている。

「うおぉぉぉぉおーーー!!!」

俺は渾身の力で飛んだ。

ズザザザザー!ズドッン!!

「ブモォ!!」

俺をまっすぐ追ってきていた奴はまんまと落とし穴に落ちた。

「はぁはぁはぁ・・・」

「これでお終いだ!!」

腰の剣を引き抜き、穴の下の奴に向かって飛び降りながら突き刺す。

奴は大暴れするが、俺は深々と刺さった剣につかまりなんとか振り落とされないようにする。

「ブモォーーーーーーー!!」

最期にひと際大きな声を上げ奴は倒れこみ死んだ。

『条件を満たしたため、新たな武器が選択できます』

頭の中に声が響いたが、今はそれどころではなかった。

(まだだ、まってろゴブ太!)

剣を引き抜き、当に限界を超えた身体を動かしてゴブ太の元へ急ぐ。


森を戻ると、先ほど奴に吹き飛ばされた位置にゴブ太はまだ倒れていた。

「ゴブ太!」

抱き起こすと

「・・・グギュ」

かすかに反応がある。しかし、口からは緑の血を流し、腕なども変な方向に曲がっている。一目見ただけで重傷とわかる。

「まってろ、今つれて帰るからな!」

「グギュウ・・・」

ゴブ太を背中に乗せて歩き始める。

「ゴブ太、ごめん、ごめんな俺のせいで・・・」

「きっちりあいつは殺したから、帰ったら肉だぞ肉!」

「大きいから俺たちだけじゃ食いきれんな!、肉にも飽きちゃうんじゃないか?」

「せっかく足も治ったのに、また怪我しちゃったな」

「なあ、ゴブ太・・・・・」

「ゴブ太、あの時さ・・・・・」

                ・

                ・ 

                ・

とめどなく話しかける。

先ほどまで微かに聞こえていた呼吸も、今森に響くのは俺の声だけだった。

背中から徐々にぬくもりが消えていく。

涙が止まらなかった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ