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乙男(オトメン)魔王様と平凡乙女の協奏曲!!

乙男(オトメン)魔王様と平凡乙女の協奏曲!!~悪役乙女の編~

作者: ぶるどっく

明けましておめでとうございます。

昨年は皆様のおかげで無事に一年を終えることが出来ました。

今年も精進していきますので、よろしくお願いします。


前回の平凡乙女の続編になっております。

恋愛者を書いて見たかった私の自己満足満載な話となっておりますが、宜しければお読み頂けると光栄にです。

「うふふ、あはははははは!

 そう、そうよ、この世界こそが私に相応しい世界なのよっ!

 さあ、私こそが"聖女"と誉れ高き、精霊王様に愛されし乙女なのよっ!!

 ふふふ、みーんな美しくて、可愛らしい私を愛しているのよっ!!」



 ある剣と魔法の勇者や魔王が存在する、6つの種族が均衡を保ち平和を維持している異世界があった。

 その世界は、6つの種族をそれぞれの王達が治め、さらにそれを見守る王、即ち精霊王が世界の均衡を維持している世界がだった。


 その6つの国の一つである人間達を統べる人王に一人の王女が誕生する。

 元々身体の弱かった側妃はその王女を産み、命を落としてしまった。

 残された王女は、父王に愛され何不自由なく育てられることとなる。

 ……そして、その王女"アンジェリカ"こそが異世界より流れ着いた"藤川 愛"の魂の持ち主だったのである。


 王女が年頃となった頃、人間の王国に流行病が蔓延する。

 多くの者達が命を落としたなか、王女が父王に進言する。

 己こそ精霊王に愛され、その証として聖なる癒しの力を授かった"聖女"なのだと……。

 王女の身を心配し、王や重臣達が止めるなか王女は自身が出会ったという"精霊王"から授かった癒しの力で流行病に罹った者達を癒してみせる。


 その力を目の当たりにした王達は喜び勇んで、王女を精霊王に愛されし"聖女"として扱い、王女の多くの我が儘をも当たり前のように受け入れてしまうようになった。

 貴族の中でも見目良い青年や少年達、多額の贈り物を贈った貴族を優先して治療し、王女が苦しむ民を救うことはなかった。

 その事態を重く見た王妃や心ある臣下達が王や王女を諫めた。

 ……だが、彼等の多くは反逆者として牢に繋がれ、王妃ですらも塔の中へと幽閉されることとなってしまう。


 そして、王女は民の不満が自分たちに向かないようにあることを宣言する。

 即ち、この王国に流行病を蔓延させ、国を滅ぼそうとしているのは"魔王"である、と……。


※※※※※※※※※※


「姫、お怪我はありませんか?」

「勇者様、わたくしは大丈夫です。

 王国のためにも、早く魔王を倒さねばなりません。」


 "聖女"と誉れ高いアンジェリカを筆頭に、人間の王国の中から選び向かれた者達が魔王討伐の旅へと参加していた。

 "勇者"と呼ばれる公爵家の子息の一人、アードルフ・ヒィア・ディールス。

 元々王女の護衛である近衛騎士団所属の騎士、ドミニク・ダールマン。

 王宮魔法使いの若手の中でも強い魔力を持った天才と名高き魔術師、エルンスト・ベッカー。

 王女の従者であり、弓の名手、フリッツ・アレトゼー。

 ……そして、アンジェリカの世話をするの小間使いが数人。

 その容姿とアンジェリカの好みによって決定された旅の仲間達に囲まれて、王国の民のことなど最初から頭に浮かぶことなど無くアンジェリカは逆ハーレムな状況を楽しんでいた。


 彼等の旅路は過酷な魔王討伐の旅と言うには目立った戦闘など無く、森で野宿をする際に多少魔物が現れる程度のものであった。

 ……彼等はその自分たちが手こずる野生の魔物が、魔王が自分たちを倒そうと放った部下だと考えている様子であった……。

 けれど、彼等はその野宿ですらもほとんどすることはなく、馬車に揺られて移動してそれぞれの街にある市長や村長の屋敷へと宿泊していたのだった。



 ……観光しながらの彼等の馬車の旅は数ヶ月後に、彼等にとっては過酷だったという旅路の果てにとうとう魔王城に辿り着くのだった。

 

※※※※※※※※※※


 魔王城に辿り着いた彼等はお伽噺の中の魔王とは違い、この世界に置いては一つの種族の王である魔王に対して、事前の訪問許可を得ることも、連絡も入れることなく堂々と正面から闘いを挑んだのである。


 ……それは前代未聞の出来事であったのである。

 門番の兵士がどんなに諫めても、許可のない者は入れないという当然の説明を行っても、彼等は納得せずに押し入ろうとさえした。


 ……それゆえに、役目に従い彼等に剣を向けるしかなかった門番達との戦闘の勝敗など、野生の魔物にすら手こずる彼等が相手では予想は容易かったのである……。



「くっ、この魔族がっっ!汚い手でアンジェラ姫に触れるなっ!!」

「アンジェラ姫、大丈夫ですっ!我らが必ずこのような悪は打ち払って見せます!」

「離せっ!僕に付けた魔力封じの呪具を外せよっ!

 アンジェラ姫を助けられないだろうっっ!!」 

「アンジェラ姫様、必ず助けます!」

「アードルフ様っ、ドミニク様っ、エルンスト様っ、フリッツっ!」

「……良いから、さっさと歩いてくれないか?」 

 門番に簡単に取り押さえられた彼等は、魔王の待つ謁見の間に行く道中ずっと芝居がかったような鬱陶し……、芝居がかった寸劇を披露していたのだった。

 門番達は、呆れた視線を彼等に向けて半ば無理矢理引きずるような形で謁見の間へと彼等を案内したのである。



 そして、謁見の間に辿り着いた彼等は一様に魔王の怒りと不機嫌なオーラに気圧されて、何も言えなくなってしまうのだった。

 だが、その中で只一人魔王の容姿に見とれていた者がいた。

「(きゃああっっっ!!ちょっと、ちょっと!)

 (あの人すっごく私の好みなんだけどっっ!!)

 (まさに、私のために存在するかのような人じゃないっっ!!)

 (うふふ、そうよ。きっと私の旦那様になるために生まれてきたのね。)

 (これはきっとお互いに一目惚れする運命の出会いよっ、まさにロミジュリねっっ!!)」

 ……絶好調のアンジェラ王女である。

 すぐに気持ちを気持ちを切り替えたアンジェラ王女は、少しでも可愛らしく見えるように潤んだ瞳で上目遣いになるように計算して頬を紅く染めてみせる。

 しかし、そんな魔王の隣りに一人の女性の姿が有ることに気が付く。

 自分の席である魔王の隣りにいる事が許せなくて、顔を見ようと視線を向ければアンジェラの表情は驚きに染まってしまう。 


「篠宮希望っっ!!

 なんでっ、あんたここにいるによっ!

 あんたみたいなブスがその格好良い人の隣にいて良いわけないでしょっっ!

 そんな事も分からないのっ、このドブスっっ!!

 平々凡々な取り柄もない、あんたなんかが其処にいるんじゃないわよっっ!!」


 突然の普段の楚々とした姫君の様子とは180度違うアンジェラの様子に勇者一行は目を見開き、反対に愛する妻を侮辱された魔王、ハーデスを初めとする魔王妃を慕っていた魔王軍の面々は怒りを露わにする者や、極寒の氷点下よりもなお冷たい視線をアンジェラへと向ける者も居た。

「……あの、どなたかと勘違いされていませんか?

 私と貴女は初対面だと思うのですが……?」

 突然の暴言の嵐に、一瞬思考が停止し戸惑ってしまうベルセポネだが、暴言を吐いた彼女の顔に見覚えはなくますます困惑してしまう。

「はあ?

 馬鹿だとは思ってたけど、ブスは記憶力もお粗末なのねっ!

 てゆーかっ、何であんたが生きてんのよっっ!

 ああ、もうっ、あの時ちゃんと殺しておけば良かったっっ!!」

 その言葉が響き渡った瞬間、謁見の間に激しい衝撃が走った。

 人間達は悲鳴を上げることも許されず、全身を襲う重圧に床にめり込む程に押しつぶされていた。

「かはっっ」

 それはアンジェラも例外ではなかった。

「……誰の妻に向かってそのような暴言を吐いたか分かっているのだろうな、小娘?」

 コツ……コツ……コツ……、と玉座よりハーデスはゆっくりと歩みを進める。

「……た……たす……け……、ひぎゃあっっ!!」

 重圧に耐えかね這いつくばったアンジェラの目の前でハーデスの歩みが止まる。

 状況が理解できていなかったアンジェラは思わず、ハーデスへと助けを求め手を伸ばす。

 そのアンジェラの伸ばされた手を力を込めてハーデスは靴で踏みつぶした。

「……面白いことを言う……。

 何故、私が愛する妻を侮辱し、殺しておけば良かったなどと言う輩を助けねばならんのだ?」

 ハーデスは冷え切った紅い血のように輝く酷薄な瞳で、王女とは思えぬ醜い悲鳴を上げる女を見下ろす。

「第一、私にはお前の方が余程醜く見えるがな?

 外見ばかりを取り繕い、欲に塗れた愚かな魂。

 ……今すぐ我が前より消え失せろ、吐き気がする。」

 怒りのままに、アンジェラの頭を踏み砕こうとしたハーデスを誰一人として止めることは出来なかった。

 ……たった一人の彼の愛しい妻を除いては……。


「それ以上はおやめ下さいませ、ハーデス様。」

 

 ベルセポネが、アンジェラの頭を踏み砕こうとしているハーデス背中に抱きつき、細い両腕で制止する。

「……何故止める、ベルセポネ?

 これはそなたを、私の愛するそなたを侮辱し、命を奪おうと考えていたのだぞっっ!!」

 決して許せるものかっっ、と殺気を纏った魔王のオーラを至近距離で浴びたアンジェラは気絶し粗相をしてしまう。

「……怒っていない訳では無いのですよ?

 ですが、ハーデス様が此処まで怒って下さっていれば、なんだか嬉しさの方が勝ってしまって……。

 愛されているのだなあ……、と。」

 それにハーデス様のお御足がその女の血で汚れるのはいやです、とベルセポネは続ける。

 しばし無言で見つめ合っていた二人だったが、ベルセポネの穏やかな笑みに毒気を抜かれたのか徐々にハーデスも落ち着きを取り戻す。

「……ベル、どんな理由があろうとも魔王城内に侵入しようと騒ぎを起こした挙げ句、魔王妃に対する非礼の数々。

 決して許せるレベルの問題では無い。

 だが、このような胸くそ悪い者達の顔など私は見たくない。

 ……ゆえに我が国より即刻国外追放を行い、正式に人間国に当てて抗議を行うと同時に精霊王陛下へと報告を行うこととする。」

「はい、ハーデス様。

 出しゃばった真似をしてしまい申し訳ありません。

 ですが、私の我が儘をお聞き入れ下さり、ありがとうございます。」

「……あのような穢れた血で我が王城を汚したくなかっただけだ。」

 ハーデスは、人間達へと背を向けてベルセポネを伴い謁見の間を後にする。

 残された人間達は、優秀な魔王軍の兵士達の手により即刻国外追放された。


 ……そして、彼等が行きの旅路よりも数倍掛けて王国に辿り着いた頃には、幽閉されていたはずの王妃が実権を握り、すでにアンジェラ王女の父であった王を初め、王女を支持した全ての貴族達は処刑、もしくは幽閉や粛正をされてしまっていたのだった。

 諸悪の根源である精霊王に愛されているなどと偽りを語った王女の末路は言うまでもなかったのである……。

 


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