ある少女の旅立ち
「ハア・・・・・・ハアッ・・・・・・くそ!」
もうどれくらい走っているかすらはっきりとしない。
大菌森の中の小さな村、ムーフ村は襲われた。
様々な技術の向上により、都市部の工場はことごとく人手不足に陥っていた。
そこに目をつけた盗賊は、今まで経済と切り離されていた小さな村を片っ端から襲ったのだ。
その多くの犠牲の中の一つが、私の住む村だった。
両親は私を逃がすために盗賊たちに襲い掛かり、ことごとく捕まった。
普段狩りをする時によく父が言っていた「生き残れるときは生き残る道を選びなさい」という言葉が、私に逃げるという選択肢を選ばせた。
しかし、相手はもう20も後半の屈強な男二人。
逃げ続けたとしてもすぐ増援が来るだろう。
菌森では多少の地の利があるが、夢中で走っていたためにもう自分がどこにいるかわからなかった。
後ろを振り返った拍子に倒れた菌木につまづき転んでしまう。
「よし!やつめ、転びやがったぞ。まず手足を縛れ!」
「ハイハイ、わかってんよぉ。んん?地味にいい顔してるぜ、こいつ。味見でもしておくか?」
「黙っとけロリコン。女をシェアするのもガキを犯すのも俺の趣味じゃない。第一、今時仕事中に商品に手ェだす奴なんかいるか」
体勢を立て直す暇もなく私を引き倒した盗賊たちは慣れた手つきで手足を荒縄で縛り上げた。
噛みつこうともがいたが、15年も生きていない私にはせいぜい浴びせられる罵倒と暴力の量を増やすことぐらいしかできなかった。
最終的に頭を強く殴られ、大型の馬車に投げ込まれた。
赤ん坊の泣き声、見知らぬ男性の盗賊たちを罵倒する声、女の悲鳴、そして盗賊たちの不快な会話。
私の後にも何人もの人が投げ込まれた。
その馬車の荷台は足の踏み場がないほどぎゅうぎゅう詰めになった後、扉を閉められた。
そして、騒音と暗闇だけが私にもたらされた。




