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冒険者の武器談義

作者: txt

あれはでかい山を当てたってんでギルド総出で集まった宴会の席だった。

やれいい仕事の口はあるかだの、依頼主がうるせぇだの、酒が足りないだのと、いつもと特に代わり映えのない話を肴に馬鹿騒ぎしてたんだが、そのときエドの奴が唐突に言いやがったんだよ。


「そういえば武器屋はサムライのことが好きらしいぞ?」


一瞬場が静まったね。

大騒ぎしてる周りを後目に目を丸くして固まる俺たちの姿はさぞ滑稽なものだったろうが、そんな事気にもならなかった。

そこそこ経験積んでるったって俺達もまぁ男だ。仲間の恋愛事情が気になるのは仕方のないこと。

しかも、あの『武器屋』がだ、変てこな武器集めに精を出すあまり男とも縁がなく、しまいには魔剣の類と結婚するんじゃねーかと噂されたこともあるあの女が、あの偏屈の代名詞みたいな『ミスターサムライ』に恋をしているとは、にわかには信じがたい話だった。


「それは何処から得た情報だ? 本人に聞いたのか?」

「いや、傭兵ギルドの知り合いから聞いた。刀の扱いに惚れたとかなんとか」

「あ~、やっぱそういう方向なのな」


「刀の扱いかぁ……」

「刀なぁ……」

「俺的に刀はねーわー」

「「だよねぇ」」


そう言ってハイタッチをしながらドニー、クリス、ロックの三人は酒を煽り始めた。

聞かれてやしないかとヒヤヒヤしたが、渦中の人物は二人とも離れた所で仲間たちと飲んでたらしく、

幸いにしてこっちには気づいてもいなかった。

頭文字をとってドクロトリオと呼ばれるこの三人組は基本的に思慮が浅い。うっかり口を滑らして制裁を受けることもしばしばある。もっとも、ゾンビじゃねぇのかというぐらいの不死身さも併せ持っているので今のところ殺しても死にそうにないが。

こういうのってなんて言うんだったかな……そう、ギャグ補正だ。確かそういう特殊体質があると異界魔術師のおっさんから聞いたことがある。


「お前ら本当に命知らずだな」

「だって刀だよ?」

「最高のかっこつけ武器じゃん?」

「一本一本名前とかつけちゃう文化の武器だぜー?」

「とりあえず戦えりゃあいいっていう俺たちにはちょっと分からない代物よ?」

「……まあな」


そう言ってエドも酒を煽った。

結局あいつの中でもやつらの武器への執着は理解しきれないものだったらしい。


「んじゃあよ、逆にお前らの思ういい武器ってのは何だと思う?」


今まで会話に入ってなかったジャックが『面白いこと思いついた』みたいな顔して聞いてきた。

思えばコレが全ての始まりだったんだよなぁ。 

皆が一斉にある者は目を閉じて、またある者は腕組みして真剣に悩みだしたんだよ。


「私としては……」


おもむろにフランシスのやつが颯爽と挙手をして話しだした。気障なこいつは成金のどら息子だの没落貴族のお坊ちゃんだのと噂されている。宮廷仕込みの剣術使いだといつも吹聴しているがどうにも胡散臭いやつである。


「やはりレイピアだと思うがね。鎧のスキ間を突き、柔軟性があり、扱いやすく殺傷性も高い。何より優雅だ。至高の武器といえよう」

「いつも思うけどそんな簡単に鎧の隙間狙えるの?」

「おおよその位置に切り込んだり突いたりしても、鎧の形状に沿って滑り込んでいく。華麗だろう?」


そう言ってふふんと鼻を鳴らすフランシス。片手のワイングラスの液体を得意げに燻らせる。だけどそれワインじゃなくてただの葡萄果汁だろ。酒飲めないの知ってんだぞ。


「んな面倒なことしなくても鎧ごと叩きつぶしゃ簡単じゃねえか。だからハンマー最強。いざとなりゃ壁とか罠とかもぶっ壊せるぜ。剣なんてやれることは切るだけだろ」



そんなフランシスに対して、花瓶のように巨大なジョッキを飲み干しながら身を乗り出したのがハゲ頭の重戦士ダン。バリバリのたたき上げであるこいつと気取り屋のフランシスは基本的に仲が悪く何かと張り合う。しかし、やむなくコンビを組んだときはやけに息が合うのはギルド百不思議の一つだ。


「携行性というものを知らんのか、この鈍重馬鹿は」

「かさばるのなんて剣も同じじゃねえか。できること多い方がいいに決まってらあ」

「おい、利便がどうとか言い出したらスコップで殴るぞ」


割って入ったのは探検家ローグのパーシー。ダンジョン攻略の専門家でスコップと工作道具を手に迷宮の闇に踏み込んでいく。普段は生真面目な苦労人なのだが、今みたいにマジになると極めて厳しいやつである。


「埋まったお宝掘り出すのはスコップ。命を守るための塹壕を掘るのもスコップ。野宿でお前らがクソする穴を掘るのもスコップ。そして魔物の頭を叩き割るのもスコップだ。スコップに感謝しろ」

「近接武器ばっかだからそんなまどろっこしいことになるんだよ。戦いはリーチだよ。弓だ弓」

「弓兵なんてランスチャージで蹴散らしてやんよ」

「うぬら全員軟弱。最強の武器は己の肉体なり」


やんややんやと言い合う仲間たち。

その盛り上がりぶりに次第に他からもなんだなんだと人が流れてきた。

そして気付けば周りは宴会の中にあってなお一際大きな盛り上がりを見せるお祭り状態となっていた。


「純粋な武器である剣こそ至高です!」

「獣を狩れる槍や開墾に使う斧に比べて人殺しにしか使えない剣のなんと野蛮なことか」

「突けない時点で斧は産廃。やっぱ長槍のファランクスだよね。アララララーイ」

「フフフ…ハルバード」

「お前長い癖に先端が重すぎてバランス悪すぎでマジ使い難いんだけど」

「空いた片手で物投げたり相手掴んだり出来る実用性抜群のハンドアックスこそ至高」

「刃物は蛮族の武器。洗練された文明の戦士は鈍器で戦うのよ!」

「撲殺僧侶はお引き取りくだされ。どの時代も忍者が最強なのでござる」

「しょうもないこと言ってる暇があるなら矢にうんこを塗る作業にもどれ」

「ああ…武器は『剣』なのか?」

「当然!『鉄球』だッ!」


樽を酒ごと煽り、顔を真赤にしながら自分の相棒ぶきを熱く語っていく俺たちを周囲の奴らはどう思ってただろうか?仮定として、俺が全くの第三者だったらそれはもう気持ちの悪い有様に見えたと考えられる。

ソレほどまでに、俺たちの談義は濃密なものだった。




「それでその後女将さんに全員ぶっ飛ばされたと」

「そういう事。やっぱおかんの怒りが一番強かったわ。ははは」

「笑いごとじゃねえだろ。関係ない俺たちまで飯抜きじゃねえか」

「ははは…」


乾いた笑いのあとでがっくりと肩を落とす。

あの後、乱闘寸前までいった馬鹿騒ぎに怒った宿の女将さんが厨房を閉鎖してしまったのだ。


料理の供給は完全にストップした。

明々と朝日が差し込む今になっても朝食は出てこない。

あれほど息巻いていた勇士たちは今は厨房の入口で平身低頭している。


結論。パンは剣よりも強し。

ああ、腹減った。

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