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神と夜と3人で

《進行状況》最終話67話予定。

現在63話。

ストック65話完成。

《前書き》

上記のとおりです。

転勤が決まってドタバタです。

通知から10日以内に1500キロ先に転勤、通知前日に事故ったので新車購入。

納品が引っ越し前日で引っ越し当日に軽い接触事故。

現在、その車で3泊4日かけて移動中。

…そんな状態なので更新遅れたのは勘弁してください(泣)


夜闇に包まれた喫茶店。

月明かりが差し込む静寂の中、クロトスはなるべく音を立てぬように戸棚の奥を漁っていた。

常人ではそこにある事にすら気づけない仕掛けを解き、ぽっかりと戸棚の奥に隠し穴が開く。

そこにクロトスは手を伸ばし、酒瓶を取り出した。

ひんやりと心地よい冷たさのそれを手に、さらに戸棚からグラスを取り出し、普段はお客が座るカウンター席に腰を下ろした。

酒瓶の栓を抜き、トクットクッとグラスに半分程注いだ。

酒瓶を横に置き、水滴が浮かぶグラスを手に持つとまるで煽る様に喉に流した。

空になったグラスをクロトスはジッと見つめ、軽くため息を吐きながらテーブルに置いた。


「…ウリエル、本当に俺の判断に任せてよかったのか?」

「気付いてるのなら言ってもらえませんか?」


喫茶店の隅、闇夜から浮かびあがる様にウリエルが姿を現した。

テクテクと足音を立て、スッとクロトスの隣に腰を下ろした。


「残りたい…、そう思うんだろう?」

「お返ししますよ、その言葉…」


お互いが何処か哀愁漂う声色。

ウリエルは何処からかグラスを取り出し、クロトスは何も言わずにそのグラスに酒を注いだ。

会話無しに淀みなく行われたこの行動から2人の付き合いの長さがうかがい知れる。


「グラムが言うには帰ろうと思えばすぐにでも帰れるそうです。…今にでもすぐに」


やや俯きながら呟くウリエル。

しばらく、2人がグラスを傾ける音のみが喫茶店内に響いた。

言葉を出すと何かが壊れる、自覚しているからこそ苦しかった。


「決めたんだ」


そう切り出したのはクロトスだった。


「【クロトス】としてこの世界にきて、友が大勢出来たんだ。このまま世界が崩壊するなら笑って…別れたい」


走馬灯のように駆け抜ける思い出。

一つ一つが今も色あせぬ宝石のように鮮明に、輝かしい光を放つ。

輝いているのに今はそれが辛い。


「いつ言うの?」

「次の試合の後…、それでいいか?」


若干の間、ウリエルは小さく溜息を吐くようにして頷いた。

そして、テーブルに肘を付き、憂鬱な表情でグラスを指で弾いた。

ピーンっと澄んだ音が響く。

ただそれだけなのにその響きが何処か悲しげに聞こえた。

それにつられた様にトコトコっと足音が近づいてくるのが聞こえた。


「…起きてぃたのか?」


クロトスの視線の先には目を擦りながら寝間着姿で姿を現したグラム。


「子供は寝る時間よ」

「われは剣じゃぞぉ…」


眠気のためか何処か舌足らずなグラムはふらつきながらクロトスの隣、ウリエルの反対側に座った。

頭をふらふらとさせ、椅子から落ちそうになっている。


「疲れてるの?」

「ぅぅう…」


グラムは呻きながら手を伸ばし、テーブル上の酒瓶を掴んだ。

それを引きよせ、躊躇なくそれを一気に煽った。

度は決して低いものではなく、中も半分程残っているのに関わらず、喉を鳴らして酒瓶を空にした。


「…足りない」

「明日にしろ、明日に」


若干、眼は覚めたが不服そうに酒瓶の中を覗くグラム。

クロトスは酒瓶を取り上げ、自分も中を覗くが見事に空だった。

結構値段の張る酒の寿命は短命であった。


「臭いはまだ取れてないのか?」


グラムは鼻をスンスンッと辺りの臭いを嗅いだ。

初めの時よりは薄まっているがそれでもはっきりと分かる醜悪な臭い。

腐り、穢れた魂と肉体の痕跡を残す臭い。

その臭いの元はあの手紙であった。

その人では解らぬ臭いはグラムを不快にさせた。

普段であればその手紙を消滅させていたであろう、嗅いだ事のある匂いでなければ。


「腐食した獣道。以前にグラムが見つけた痕跡がキマイラだったとわね」

「道理で嗅いだ事のある臭いだと。まさか、本当に魔界のそれも奥深くにしか生息しないキマイラを人が作り出すとは…」


ウリエルとグラムはそう言うが彼女らにすれば本当に驚きなのだ。


猿が英語を話せるであろうか?


蟻がライオンを倒せるであろうか?


人がキマイラを作れるであろうか?


これはそういうレベルの事なのだ。


「問題はどのレベルまで再現出来ているか…。完全に再現出来ていたらこの国なんて滅ぶぞ」


クロトスが言う事は大げさではないのだ。

それだけ強力な魔物、いや、魔獣なのだ。


「まぁ、全ての問題は明日からだな」


そう、全ては明日なのだ。

明日、全てが…

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