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神に宛てられたラブレター!?

クロトスの手には2枚の封筒が握られている。

裏返して見るとそれぞれには宛名が記載されていた。

片方には自分の名前。

もう一方には何故か知り合いの名前が記載されていた。


「これは?」


クロトスはそれを差し出したウリエルにそう問う。

喫茶店に戻ってくるなりにいきなり差し出されたものだ。

しかも、得体のしれない物でも中に混入されているかのように微妙な表情で。

今も心なしか喫茶店内の皆から微妙に距離を取られている。


「【自称、七つの顔を持つ商人】からの…ラブレター?」


クロトスの問いを疑問形で返すウリエル。

差し出した本人もよく分かっていないらしい。

しかし、クロトス自身は例え心当たりのない相手だろうと自分宛てにラブレターが届いたのだ。

見た目は興味無さそうに封筒を光で透かしたりして弄んでいるが内心はちょっと興奮していた。


「…ちなみに男」

「グラム、処分しとけ」


リンの補足説明を聞いた途端に汚物でも触っているかのように封筒を指先で摘み、顰め面でグラムの方に差し出すクロトス。

ちなみに、グラムはすでに元の人型に戻って、今はケーキをパクパクと頬張っている。


「読むだけ読んでやればどうだ。減るもんでもあるまい」

「いや、減る。というか、色々と大事なものが壊れそうだ。…今もちょっと寒気がしてるし」

「気持ちはわかるが…。まぁ、読んでやれ」


そう言って再び、ケーキを頬張り始めるグラム。

先ほどの戦いによる消耗で回復に努めているのであろう。

…でなければ吐き気がするような量のケーキをあの小さな体に収められるはずがない。


「…でさ。そもそも誰なんだ?」


封筒の端をビリビリと破きながら問いかけるクロトス。

中に入っていたのは一枚の紙だけであった。

クロトスは紙の角の本当に端の所だけを摘むようにし、出来るだけ触れる面積を少なくしている。

重力に従って折りたたまれた紙は広がり、クロトスは怪しい物を見るかのような目つきでそれを流しみている。


「唯の顔見知りよ。ウルがお店に子猫を咥えて連れてきてね。その黒い子猫がさっきまでいたのだけれどその人が飼い主だったみたいね」


ウリエルの言葉に顔を俯かせるリン。

せっかく可愛がっていたのに早々にお別れだったので寂しいのだろうとウリエルが慰めてあげようとリンの頭に手を…


「…せっかくの稼ぎ……お友達だったのに」


なにやら黒い事を言いかけたが他の人の耳には入らなかった…わけでもないが意図的に無視した。


「それでその子を引き取る時に貴方と自分の知り合いがこの店の常連らしいから渡してくれって」


気を取り直し、クロトスに視線を向けると本人は先ほどの手紙を両手でしっかりと持ち、笑みすら浮かべていた。


「それがこれか…」


ぼそっと小さな声でそう呟くクロトス。

とその時、カランカランっと音を立てるドアに付けられたベル。

喫茶店内にいた者がそちらに目を向けるとティニアとエルがドアから入ってきた所だった。


「御苦労さま」


ウリエルは労いの言葉を2人にかけた。


「さっきも言ったけど王女にお使いをさせる人なんて聞いたこと無いわよ?」

「じゃんけんで負けたんですから文句は無しよ」


ブツブツと文句を言うティニアにやんわりと諭すウリエル。


「…この店は本当に非常識だね」


2人の後から入ってきたのはロレオであった。

レイと同じ研究所で働いたこともある狂科学者。

以前にクロトスとおかしな発明品でトラブルを起こしたこともある。

それ以来は常連となり、度々来店してはクロトスと怪しい密談をする仲となった。


「王女がいきなり僕の研究室に来た時はもしや、あれとかあの時の実験事故の隠ぺいが発覚したのかと思えば喫茶店に連行され、王女が来た理由がじゃんけんで負けたから?いや、そもそもこの国の王女が城の外を当たり前のように闊歩してるのがそもそも…」


ブツブツとロレオは呟きながらカウンター席に腰を下ろし、テーブルに倒れこんだ。


「気にしない方がいいぞ。いつもの事だから」

「諸悪の根源が慰めるな」

「コーヒー、頭皮で味わうか?」

「…謝るから舌で味あわせてくれないかい?」


笑顔でロレオの頭上でこぼれる寸前までに傾けられたコーヒーカップ。

中のコーヒーはマグマのように煮えたぎっている。

冷汗をかきながらクロトスに言うとコーヒーを戻し、それを今もケーキを頬張っているグラムの席に置いた。

グラムはその煮えたぎったマグマの如きコーヒーを一気に飲み干し、再び、ケーキを頬張りだした。

それを見ていたロレオとクロトス。

ロレオは目を丸くし、クロトスに慌てて視線を向けるがクロトス自身はそれがまるで当たり前のことのようにそれを流した。


「淹れ直すから少し待ってろ」


そう言ってグラムが飲み干したカップを回収している。


「…ブラック、少し濃い目でお願いできるかい?」


ロレオも理解した。


――ここはこの程度の異常が普通とされる魔境なんだと…。


しばらくゆったりとした時間が流れ、クロトスはコー淹れたてのコーヒーと共に先ほどの封筒を差し出した。


「これは?」

「俺達宛てのラブレターらしい」


そう言ってひらひらと自分宛の封筒を見せる。

そして、クロトスは気づいた。

クロトスがそう言った瞬間、ロレオの目がほんの少しだけ弛んだのが。

男は皆、単純らしい。


「…ちなみに男」

「僕にそんな趣味は無いのだが…」


再び、リンが呟く言葉に苦い顔を浮かべたロレオ。

ますます、男は(略)。

まるで汚物を見るかのように封筒の端を破いていくロレオ。


「そういえば、お兄ちゃんの手紙はなんて書いてあったの?」


エルは頬にクリームを付けた状態でカウンターテーブルに身を乗り出した。

好奇心のためか、目がキラキラと輝いている。


「挑戦状…かな」


そう言ってクロトスが差し出したのは折りたためられたトーナメント表だった。

そこにはクロトスの名前もあり、その隣、つまりは次の対戦者の名前の所が赤丸で囲まれていた。


「【匿名希望の商人】ってつまりはあの人ね。……リン、これって当日まで秘匿じゃなかったの?」


ティニアがリンに問いかけるがリンは問いに答えずに席を立った。


「…クロにぃ。姫の事をお願いします」


そういって出口に向かう背を見て、エルはケーキを頬張りながら慌てて立ち上がる。


「ム~!ふぁふぇ~、ふぁふぁふぃ…モグモグ…一緒に行く~~」


ドアから出て行った2人を見送った後、クロトスは席で封筒の中身を見ながらニヤついているロレオを見た。


「甘い言葉でも書かれてたか」

「ああ。ハチミツよりも甘ったるく、雷に打たれたかのような痺れる言葉で書かれた、思わず惚れそうな最高のラブレターだよ」


ロレオが見せたのは覗き見たティニアが顔を顰めるほどの難解かつ高度な文章の羅列。

とてもではないがラブレターとは程遠い代物であった。


「研究資料。レポートの一部だね」


恍惚の表情を浮かべ、悦に入るロレオは明らかに異常だった。

手がガクガクと震え、頬が上気している。


「ああぁあ、いい…いぃよ。素晴らしく…おぞましい。僕と道は違えど…フフフッ」

「お~い、落ち着け~」


クロトスが声をかけてもまったく反応しない。

グラムとティニアは引いたのかロレオから距離を取っている。

クロトスは悦に入るロレオを見るのは初めてでは無かったので免疫が出来ていた。


「以前に話したよね。僕の弟子が肉体融合の研究しているって」


しばらく放置していると落ち着いたロレオはそう切り出した。


「キメラ、キマイラがどうとかいってたな」

「そう。同一個体内に遺伝情報が異なる細胞を交え、新たなる生命を誕生させる研究。これを見る限りは研究成果を僕に見せれるレベルに到達したようだ」

「…俺にはこれが入っていた」


クロトスは自身宛のトーナメント表をロレオに見せた。

それをロレオが見た途端、再び壊れた。


「『研究は発表しないと意味が無い。他人に見せずに自己満足で終わる貴方はただの愚者で死人も同じだ』。彼の残した言葉の答えがこれか!」

「俺との試合=研究発表。そうか、俺との試合はその程度の…クックックッ……」


二人の笑い声が重なる。

しかし、それは笑い声と言ってよいのであろうか。

喜色の欠片さえ含まれていない笑みをお互いが浮かべている。


「黒い猫をそいつは飼っていると聞いたがそれか?」


クロトスの言葉にティニアとウリエルが反応した。

ロレオはその言葉に頷く。


「彼はレイの猫中毒の性で猫は嫌いだ。研究モルモットならまだしも飼うなんてあり得ない」

「そんなっ!?」


ティニアの言葉にロレオは顔をティニアに向けた。


「悪いけどこれは確実だ。彼の師でもあった私が断言しよう。それは…」


――【化け物】だ

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