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神に命名せし乙女達

風邪引きました。

外では雨が降ってます。

雷が鳴ってます。

企業説明会に参加してきました。

明日はテストが3つあります。

宿題があります。etc

………暇が欲しい

「あんたが噂の変質者だったの…」


パン屋でお茶をしながらティニア(ため口でいいらしい。)に俺自信に関して説明していた。

旅の途中でフッと立ち寄ったこの町の入り口で騎士団とモンスターの戦闘があったので手助けをした事。

その褒美として衣食住を提供してもらえたこと。

先ほど国王と王妃に事情説明をしに行ったこと。

家を選ぶためにエルとリンを案内人として紹介されたこと。

嘘を交えながら事情を話した。

……って!?


「誰が変質者だ!?」


俺がいつそんな事をした!?

ティニアは苦笑しながらからかう様に衝撃の噂を告げた。


「あんたってモリガン騎士団長を悩殺したんでしょう?モンスターと騎士団員の前で」

「取引を持ちかけただけだ!誰が男の、しかも、あんなキモイ髭ゴリラに誘惑するかッ!?」


しかも、悩殺って何だ!?

異性に対して使う言葉だろう!?

セクシーな服を身に纏う俺が体をくねらせて髭ゴリラを…。

想像しただけで寒気がしてきた。


「そうよね。どうせならイケメンを誘惑するわよね」


いやらしい笑いで俺に言うティニア。

王妃よ。

貴方は娘にどんな教育をしてきたんだ!?

俺は少々興奮してポロッと口走ってしまった。


「俺は生粋の女好きだああぁぁぁぁぁ〜〜〜ッ!!」


…エコーがかかった気がする。

店内の客が俺に変質者を見る目で注目した。


「お兄ちゃん。はずかしいから叫ばないで…」


顔を手で隠すも指の隙間から真っ赤な顔が見え隠れするエル。


「…無様」


その言葉は痛いぞ、リン。

俺は静かに席に座る。

顔が羞恥で熱くなってきた。

もういやだ。

帰りたい。

ティニアは笑いを堪えていたがフッと思い出すかのように呟いた。


「それはそうと…」

「俺はホモじゃないぞ」

「さっきのは冗談よ。それは置いといて…」

「置くな。破棄しろ」


っていうか忘れろ!!

俺の言葉にティニアは目頭を押さえていた。

呆れているのかもしれないが先ほどの言葉は聞き捨てならない。


「わかったわよ!わかったから話進めていい!?」


バンッとテーブルを叩き、憤慨するティニア。

またも注目されるかと思ったが誰も目線を向けていなかった。

むしろ、背けられた。


「ああ」


了承すると溜息を洩らし、真面目な顔で聞いてきた。


「あんたの名前は?」


まあ、当たり前の疑問だよな。


「世の中にはな。知らない方がいいってこともあるんだ」


額に何かをぶつけられた。

テーブルに転がったそれをみると千切り、丸められた銀紙。

ティニアが指で弾き、ぶつけられたようだ。

地味に痛かった。


「何かっこつけているのよ。つまりは訳有りなんでしょう?」

「じゃあ、それで良い」


ズビシッと先ほどより勢いよく放たれた銀の玉。

予想していたのでサッと避けたがティニアの手元を見ると玉の数が10を超えていた。


「からかってるの!?」

「そういうわけではないんだが…」


神王と名乗るわけにもいかないしな。

偽名も良いのが思いつかないし。


「だから、私達もお兄ちゃんって呼んでるんです」

「…です」


という2人のメイド。

エル程ではないがリンの前にも結構な量の銀紙が重なっていた。

今も結構な大きさのピザパンを手に取っていた。


「それじゃあ不便でしょう。…よし、さっきのお礼に私が名前をつけてあげるわ!」

「へっ!?」


なぜかティニアがそう宣言した。


「あっ、私もやりたい!」

「…考える」


これに参加表明する2人。

そう言って2人で頭を抱えて同じ格好で悩みだした。

こういった所は双子らしい。


「まあ、かまわないが…」


嘘だ。

実は結構うれしい。

実をいうと【神王】と呼ばれるのは嫌いだった。

神王は役職名で俺個人の名前ではない。

ずっとそれに不満を持っていた。

自分の名前がある人をうらやましくも思った。


「じゃあ、第一回 命名しちゃおう♪大会」


笑顔でそんな事を言い出した。


「わーい!」

「…パフパフ」


大喜びで拍手するエルと口で楽器の音を出すリン。

異常にテンションが高かった。

反比例するかのように俺のテンションは急降下。

不安になってきた。

3人はお互いに牽制していたが1人の少女が名乗り出た。


「んじゃあねぇ〜、エルからがいい!」


トップバッターはエル。

言うのは良いが口元は拭きなさい。


「いいわよ。どんなの?」


そう言ってエルの口元をハンカチで拭くティニア。

王女とメイドっていうより、年の離れた姉妹だ。


「え〜と、……【アンズ】お兄ちゃん!」


スパ〜ンッと素晴らしい音を奏でたハリセン。

あんまりな名前だったので咄嗟に創造してしまった。


「却下だ!ってか明らかに女の名前だろう!!」


どこのバーの源氏名だ!?


「じゃあ、【リンゴ】、【ミカン】、【ミント】、【キウイ】…」


スパパパパ〜ンッと4連撃を与えた。


「全部果物の名前だろう!それにどちらかといえば全部女の名前だ!」


涙眼で見つめるエルの横でリンがボソッと呟いた。


「…ミントはハーブの名前」

「リンは黙っててねぇ」


微笑みながらリンを注意する。

リンが脅えて、ティニアの後ろに隠れたのは気のせいだろう。

ティニアがリンを抱えて俺から少し離れたのも幻であろう。

エルが泣き顔なのも……


「えっ!?」

「グスッ……ごめんなさぃ…。一生懸命かんがぇ…た…グスッ」


すぐさま抱き締めました。

すかさず、頭を撫で、笑顔で告げた。


「いや、いい名前だと思うよッ!もう本当はすっごくうれしいんだぁ!ありがとう、エル」

「エヘヘッ」


エルはすぐに泣き止み、うれしそうに笑顔になる。

泣き顔には昔から弱い。

この世で1番苦手なものといってもいい。

昔、幼子たちに囲まれて一斉に泣かれた時はこっちが泣きそうになった。


「…次」


ティニアは疲れたようにリンに促した。


「リンか、頼むよ」

「…うん」


リンならエルよりしっかりしているから大丈夫であろう。

…大丈夫だよな?

リンはすでに考えていたのか、さらっと告げた。


「…【ウィシュトシワトル】」


随分な名前だった。

人名なのか?


「長いんじゃないの?」


そういう問題なのか?

ティニア、額から嫌な汗が流れているぞ。


「…他国の神様の名前なの」

「神!?」


…偶然だよな?


「どんな神なの?」


教養ありそうな王女という立場の者でも知らないとなるとマイナーなのかもしれない。

リンはテーブルの端を指さした。

そこにはコショウや粉チーズなどのトッピングや調味料。

リンの指が指し示すのは…塩が入った入れ物。


「…塩の神」

「「はぁ!?」」


…ソルト?

いや、海の塩……だよな?


「…お塩の神様の名前」

「しょぼくない?」


俺も同意見だ、ティニア。

そんな名前は正直言って却下させてもらう。


「リン。他にないか?」

「…【センテオトル】」


まさか…


「何の神の名前だ?」


真顔でリンは先ほどのピザパンを指さした。

ピザの神?


「…トウモロコシ」


指の先にあったのはトッピングの黄色いトウモロコシ。

狙っているのか?

笑った方がいいのか?

ティニアにアイコンタクトすると眼を背けられた。

肩がなぜか震えていた。

…後で復讐してやる。


「…どう?」


無表情だが瞳だけはキラキラと輝いていた。

なんか心が痛い。


「さ、参考にさせてもらうよ」

「…うん」


俺の言葉にうっすらと笑顔になる。

どうやら、本気で俺の名前を考えてたようだ。

いくらなんでも神王の俺が塩やトウモロコシの神の名前を借りるなどできない。

いくらなんでも情けなさすぎる。

こうなれば…


「ティニア。期待しているぞ」

「えっ!?…え〜と?」


頼む!

お前がいい名前を思いつかないと俺は果物かアホ神の名前を名乗ることになってしまう!!

数秒か、数分か、数時間か。

長い、長い時間が過ぎたように感じた。


「…【クロトス】」


しばらく考えていたティニアはボソッと呟いた。

今までの中では1番人名っぽい。


「それも由来があるのか?」

「子どもの頃ね。お父さんが呼んでくれた絵本の主人公の名前。世界に災いが降りかかり、世界中の人が絶望していた中でたった1人でそれに立ち向かい、世界に光を取り戻した若者。それも全ては愛する幼馴染のため。そのために命をかけて立ち向かったの。それが英雄 【クロトス】」


思い出すかのようにそう言った。

お気に入りの話なのかもしれない。

やさしい顔つきで一言一言を大事そうに話してくれた。


「ウルウル…」

「…お姉ちゃん。言葉で言わないでください」


いい名前だと思う。

由来の話も好きだ。


「どぅ…かな?」


不安そうに見つめるティニア。

気に入った事は気に入ったのだが…


「その名前。俺が貰ってもいいのか?」

「えっ!?」

「英雄の名前なんだろ?」

「いいんじゃないんですか♪お兄ちゃんだってこの国を救ってくれたんだし」


そう言ってエルに笑顔を向けられる。


「…ピッタリ」


リンも賛成した。

思わず、2人の頭を撫でてしまった。

2人はくすぐったそうな、恥ずかしそうな感じだったがされるがままに身を任せた。


「ティニア。貰っていいかな?」

「ええ、いいわよ。【クロトス】」

「ありがとう」


俺は姿勢を正し、改めて3人に向き合う。


「それでは、改めて自己紹介をしよう。俺の名前は今からクロトス。この名でこの世界を生きていくことを今ここにいる3人に誓う!」


そして、もう1つ決めた。

この世界にいる間は【神王】ではなく、【クロトス】として生きていこう。

それが俺の決意と3人に対してのお礼でもある。

帰り方も判らないし、しばらくは【クロトス】としてこの国で生きていこうと思う。

…帰っても書類仕事が山ほどあるだろうし、暫くは休暇という形で楽しもう。

頑張れ、ウリエル!

遠くでウリエルの悲鳴が聞こえた気がするが幻聴であろう、きっと!

塩とトウモロコシの神の話は本当にあります。

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