神の答え
完結に向けて手直し開始。
第6話まで終了。
そろそろPVアクセス数50万突破。
というか明日には突破していると思う。
59話のストック完成しました。
いざ、60話番外書こうかとしましたがアイディア無し。
感想、評価お待ちしております。
「…この世界は主がこの中の入ったと同時に生まれた世界。そして、すでに崩壊が始まっている」
沈黙が続いた。
遠くから水が滴る音が聞こえ、それが反響する。
その無言の静寂を最初に破ったのはクロトスであった。
「詳細を」
その雰囲気はこの世界ではごく稀に、神界では頻繁に出していた『神王』だった。
「単純な引き算だ。世界の誕生とともに成長していく星脈。その世界で生命が生まれ、成長し、やがて死ぬ。その魂ともいうエネルギーが星脈に取り込まれ、別の場所で別の何かとして生を受ける。その永遠のサイクルが星脈を成長させ、太く、力強い物へと変えていく。我らの下を廻る星脈はあまりに細すぎる。まるで生まれて間もない赤子のようにな」
今もグラムの言葉の間に聞こえてくる星の胎動は今にも止まりそうに脆弱だ。
クロトスは唇を噛み締め、怒鳴りたいのを堪えながら声を絞り出す。
「では、私がここに来るまでは存在しなかったと?ティニアとリン、エルが出会ったことも、王…いや、ジャンとエインの愛も、レイやアイシャの努力も何もかも作り物だったというのか?」
痛々しい自分の主人の顔を直視できないグラムは俯きながら、ただ淡々と報告する。
「…歪みがすでに起きている。例えば、文字だ。文字は遥か太古からその造形を表現した絵が変化してできるものだ。その世界の様にある日、突然出来る様なものではない。何処かの学者が懸命に調べてもそのルーツの欠片も発見できていない。他にも魔法、料理、国、人の過去…全ての物に徐々にだがずれが生じている」
全ての事柄にはルーツが存在する。
今はまだ人々が疑問に持つ程度で済んでいるがこのまま悪化していくとどうなるか予想がつかない。
「…崩壊というのは?」
苦々しげに言うクロトスは聞きたくないと思いつつも聞かなくてはいけないと考える自己の間に苦しめられ、葛藤するが口が勝手に動いてしまう。
「孵りかけの卵を無理やりに殻を剥いだようなものだ。皮膚がまだ出来てないから衝撃を与えたら簡単に皮膚が裂け、病原菌を簡単に侵入する。その衝撃が…」
「俺たち…というわけか」
すでに神王はクロトスとなり、グラムの言葉に耳を傾けていた。
「そうだ。幸い、手遅れになる前に結果が出た。その派生的な成果として空間に綻びが発見した」
それは朗報であり、別れの決定である。
「つまりは帰れるという事か。しかし…」
「そうだ。我らの帰館と同時に再び、殻を形成し、宝玉を在るべき形に戻す。それ以外にこの世界の崩壊を防ぐ手は無い」
悩む必要はない。
そうしなければこの世界そのものが消滅する可能性がある。
そう理解していても納得できないものがある。
「…期間は?」
それがクロトスにとって、いや、グラム、ウリエル達にとっても一番の問題であろう。
ふぅっとため息を漏らすグラムにクロトスは悪い想像が当たったことを確信してしまった。
「さすがに隠せないようだな。ああ、少なくともティニア達が生きている間にこの世界に戻れる保証はない」
「…そうか」
人間の寿命は長くて100年程。
神、天使のように半不老不死の存在に比べたら脆弱で、脆くて、儚くて。
そのような存在にこれだけの情を持っている自分たち。
実が引き裂かれるような思いとはまさにこの事であろう。
苦しくて、悲しくて、気持ち悪い。
鬩ぎ合い、感情が心を腐食させているようだ。
「ウリエルには?」
「話した。判断は貴方に任せますとの事だ」
ああ、あいつも今の俺と同じ、それ以上に苦しいんだろうなぁと察するクロトス。
ウリエルはグラムがなぜ、ここに連れて行こうとしたか知っていたのあろう。
だから今回の遠出も止めなかったのだろう。
もしかしたら、今も一人で泣いているのかもしてない。
「…ずるいなぁ。おれも誰かに丸投げしたいなぁ」
人に任せるとか言いながらウリエルの答えは決まっているのだろう。
そして…
「とは言っても主の答えは決まってるのだろう?」
そして、潤んだ目で無理して笑顔を作るグラムも…
「この世界と心中する気はないよ」
クロトスの答えは『決別』だった。