神は危険と隣り合わせ
いつのまにかデビュー作(?)の【悪魔な魔女と悪魔な悪魔のある日】のアクセス数をぶっちぎってました。
もし、100話までいったらアクセス数はどのくらいになるのだろうか?
騒動を終えて俺は太刀を腰に引っかけた。
消す事もできるが人目につくのでとりあえずの処置だ。
とはいっても観衆の前で何も無い所から太刀を取り出したのだが…何とかなる…だろう。
とりあえずお婆さんのところへ行った。
先ほどの女性も呆けた表情ではあったがすぐに気を取り直し、お婆さんへと駆け寄る。
「お婆ちゃん。頭の怪我大丈夫?」
女性は心配そうにお婆ちゃんの頭の傷を見る。
「大丈夫だよ…。ありがとうねぇ…。」
弱弱しくも笑顔で答えるが明らかに無理をしていた。
その証拠に頭の怪我からはいまだに血が流れる。
「リン、急いで医者へ連れて行くわよッ!」
「…頭の怪我は動かすと危険です。私が連れてきます」
切羽詰まった女性と淡々としているが悲痛な表情のリン。
まぁ、この世界の文明レベルでは無理だろうな。
…出し惜しみすることもないか。
「ちょっといいかな?」
「何?」
目に涙を浮かべる女性。
赤の他人に涙を浮かべられる女性に当事者でなければ呆れていたであろう。
そこまでに意外であった。
とりあえず、お婆ちゃんに近寄り、傷の状態を確認する。
どの個所がどの程度の損傷なのかを正確に確認していく。
「…お兄ちゃん?」
「リン。知り合いなの?」
「それは後で」
俺は傷口に右手を添える。
イメージするのはこの人の正常な状態。
皮膚、筋肉、頭蓋骨、脳の在るべき形。
皮膚の張り、筋肉の着き方、頭蓋骨の形、失われた脳の一部。
それを正しく、正確に、在るべき形を明確にイメージする。
そして…
「【万物創造 《回帰》】」
この人を在るべき形に戻す。
逆再生にも似た光景。
そこには傷跡も残っていない。
「…すごい」
感嘆の声を上げるリン。
「あんたッ、杖無しで魔法が使えるのッ!?」
驚愕する女性。
「まあね」
魔法では無いのだが説明が面倒なのでそう言っとく。
それに厳密に言えば傷は治っていない。
俺の力で怪我をする前の状態に戻したのだ。
説明するとややこしい。
本当は秘匿するべき力なのだがどうも色々ありすぎて気分が高揚し、浮かれているようだ。
そう言えば…?
フッと辺りを見渡し、探すも姿は見えなかった。
「そういえば、エルは?」
「…姉さん?」
リンに問いかけるとリンも辺りを見渡し始めた。
「エルもいるの?」
どうやらこの女性は双子の知り合いのようだ。
とりあえず、エルは何処なのか?
女性は手を組み、少し考えていたがフッと漏らすように呟く。
「いないならこの近くだと……あの店ね」
「…たぶん」
そう言って女性が指さした先は…
「さっきのパン屋?」
先ほど、エルがアップルパイがおすすめと言ったパン屋であった。
近寄って見るとお勧めだけあって歴史を感じさせるようなモダンな雰囲気の店だ。
窓から見える多種類のパンはふっくらとしていて実においしそうであった。
3人でそのパン屋の戸を潜ると扉に設置された鐘の澄んだ音が響く。
焼きたてのパンの匂いが鼻を擽り、従業員の元気な声が返された。
店内のスペースの半分は販売コーナーで残り半分は喫茶になってるようだ。
自分で選んだパンを店内でコーヒーと一緒に食べられる形式の店になっていた。
フッと店内を見渡すととあるテーブルで山のように積み上がったパンの山があった。
どんな客か興味を持ち、場所を変えてパンで隠れた席を覗き見る。
そこにはさまざまなパンに囲まれて涙を流しながらパンに齧り付くエルがいた。
「…姉さん」
呆れたように頭を抱えるリン。
女性をその光景を見て、苦笑していた。
エルもその声に気づき、大慌てでパンを飲み込んでいく。
「ふぃ、ふぃんふぁん、ふぃふふぇふあああぁぁぁぁ〜ッ!」
そう言って食べカスだらけの口を拭いもせずにリンに抱きつくエル。
「本当にこの子は…」
「なんで場所がわかったんだ?」
「この子は迷子になると甘い匂いに引き寄せられてやけ食いするの。それも泣きながら」
リンにしがみつき、目をウルウルさせているエルの頭をリンが優しく撫でていた。
しかし、エルがいなくなってからこの店に入るまで30分もたっていない。
その間にエルはテーブルの上にあったパンを食べ続けていたことになる。
テーブルの上には大量の銀アルミが乗っかっていた。
パンの下に引いてある銀のアルミである。
ざっと数えると30個分はある。
エルの身長は130センチほどしかない。
道案内の最中も色々なものを買い食いしていた。
この体の何処に入っているのか。
「エル。ゴミはテーブルの上に乗せないで捨てなさいっていつも言ってるでしょう」
そう言ってテーブルの上のゴミを近くにあったゴミ箱へと捨てる女性。
ゴミの量に驚きもしない所を見るとこれがエルの普通みたいだ
「あれれ?なんで姫様がいるの?」
食べかけのパンを片手で持ち、女性に話しかけるエル。
というかすでに食事を再開していた。
「…今は勉強に時間ですよね?」
「グサッ!」
ジト目のリンの言葉に過剰演技で仰け反る女性。
そのまま崩れ落ちていった。
…あれ?
「姫?」
そう問い返すと双子メイドはこちらを見た。
そして、堂々とした態度で…
「姫様は姫様なんです♪」
「…そうなんです。」
そう力強く言い放った。
意味がよくわからない。
「…すまんが通訳してくれないか?言葉が理解できない」
話題の女性に聞くと呆れた表情を返された。
「いや、通訳って…。まぁ、いいわ。私はティニア=セヴィオール。この国の王女であり、この子達の姉代わりよ。」
………
……
…
「あのバカ王と王妃の娘!?」
「そっちに驚くの!?っていうか人の親をバカって言わないでくれる!…気持ちは痛いほど判るけど」
ズーンと何かが圧し掛かったかのように肩を落とす女性、改め、ティニア王女。
その悲痛な表情に思わず同情した。
「…苦労してるんだな」
「……うん」
あの2人と親子だとその苦労は想像するのは容易い。
この人も言いづらそうだったが最後には肯定した。
「お兄ちゃん。なんで王女ってことには驚かないの?」
「そんなちっぽけなことは気にしない」
それなら俺が神々の王だってことを知ったら皆ショック死するぞ。
言わないがな。
「…さすがお兄ちゃん」
リン、褒めてもらったのはうれしいが何が『さすが』なんだ?
「あんた達に兄弟なんていたの?」
そう問うティニア王女。
そういえば、二人とも俺の呼び名が共に『お兄ちゃん』だ。
意識したら背中がむず痒くなってきた。
「ううん。お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないけどお兄ちゃんはお兄ちゃんだからお兄ちゃんをお兄ちゃんって呼んでるの」
早口言葉のようなエルの説明。
「…なの」
呟くように最短で肯定するリン。
俺とティニア王女は揃って頭を抱えた。
「…通訳お願いするわ」
「無理だ」
言いたいことは判るが自分の言葉では表現しづらい。
とりあえず、スルーしよう。
「とりあえず、どうする?」
「説明は!?」
王女が何か言っているが無視する。
そういえば、お腹が減ったな。
俺がジッとパンを見ていたらエルが提案した。
「皆で残りのパンを食べましょうッ!」
「…オー」
その言葉で王女を除いた皆が席に着く。
「ちょっと!?あんた達無視しないでッ!」
すでにリンと俺はパンにとりかかっていた。
豊富な種類で思わず目移りがする。
「色々あるな。おすすめは?」
エルに問うとキラキラした目で立ち上がり、スッとパンを差し出した。
それはさながらソムリエのように。
「野いちごのクリームタルト!甘酸っぱい野いちごととろけるように甘いクリームのハーモニー♪」
「…ぜひ、お試しあれ」
そう言って差し出されたパン。
いかにもサクサクしてそうな生地。
クリームと野イチゴの甘い芳香。
見た目と匂いで判断する限りはうまそうだな。
そう言えば飲み物が欲しいな。
フッと視線を感じ、振り向くと王女がこちらを睨みつけていたが俺にはもはや関係ない。
テーブル脇にあったメニュー表を手に取り、じっくりと眺める。
「おっ。ウォータードリップのコーヒーがあるな。マスター!コーヒーをカップで1杯と牛乳をジョッキで3杯ッ!」
個人的にパンと牛乳の組み合わせは最強だと思う。
特に豆パンと牛乳は黄金の価値に相当する。
豆パンを一口齧り、飲み込む前に牛乳を含む。
牛乳に豆の甘みを溶けだし、口いっぱいに広がる味わい。
コーヒーは個人的に好きだから注文した。
「エルはねぇ、りんごジュースッ!」
「…カプチーノ」
2人の注文を聞き、メニュー表を置くと後ろから変な音が聞こえた。
振り向くと…
「……グスッ」
誰も相手にしなかったからか泣き出した。
さすがに気が引けたので小声で双子に尋ねる。
「(あれはどうするんだ?)」
テーブルを乗り出して聞くと2人は笑顔を向けてきた。
「(またお勉強さぼって城を抜け出したんですからほっときましょう♪)」
「(…罰)」
…彼女は王女で君らはメイドだよね?
君らの方が偉そうなんだが?
フッと鳴き声が一瞬途絶えた。
恐る恐る振り向くと…
「どうして無視するのぉぉぉぉぉ〜ッ!!」
ついに暴れだし、手当たりしだいそこいらにある物をこっちに投げ出した。
って、あぶなッ!!
「うわっ!」
「姫様!椅子を投げないでください!」
パン、イス、テーブル…癇癪を起した子供のように暴れる王女(!?)
そこにスッとリンが近寄り…
「…姫様。あんまりオイタが過ぎますと《あの事》ばらしますよ」
ボソッと呟いた。
ピタッと動きを止め、顔を青ざめる王女。
「…ごめんなさい」
ティニアは掴んでいた花瓶を静かに下ろし、完璧な土下座をしてみせた。
もはや、王女としてのプライドは無い。
というかなぜ土下座を知っている!?
「すっげ、止まったよ」
リンはこちらに向けて、控え目にピースをした。
エルはリンにチョコチョコと駆け寄り、問いかけた。
「リンちゃん。何を知ってるの?」
「…クスクスッ」
リンは笑うだけで何も答えなかった。
…この子も王妃についでこの世界の第一級危険物に認定しよう。
友人が「CD屋で恥ずかしくて買えない曲はここで取るといいよ。」って言って、あるサイトを紹介してくれました。
友よ、CD屋で買えない曲とはなんだ?
ちなみに、俺はレンタル中心です。