神に迫るモノ
来月は仕事の関係でまた忙しくなりそう…。
今月はできるだけ話のストックを作れればなぁと思います。
新作長編も少しずつだけど書いてます。
投稿は来年かなぁ?
「執事長、ちょっとよろしいですか?」
そう呼ばれたのはジュニアールがティニアの教育中の出来事である。
内容は他国の文化、経済、情勢とティニアがもっとも苦手とする分野の一つ(そもそも勉強自体が苦手であるが……)であり、今にもペンを投げ出しそうな様子のティニアに注意しようかとした時に部屋をノックする音が聞こえた。
そして、自分を呼ぶその声はジュニアールには聞きなれた者の声である。
「ちょっと待ってろ。…仕方ない、少し休憩としましょうかのぅ」
「やったぁ〜!」
両手を挙げて喜ぶティニア。
苦笑しつつもジュニアールは部屋のドアへと向かい、……すぐに引き返した。
そして、部屋の周りを注意深く確認する。
部屋の壁を数回ノックして壁の厚さを調べ、ベッドの下を確認し、本棚の裏を覗きetc……。
ようやく安心したのか体についた埃を払うとチラッとティニアを見る。
「念のために罪人用の鎖で拘束しといた方が良いかのぅ?」
「一国の姫に対してその扱いは何よ!」
隙を見せるとすぐに脱走するティニアを信用しろというのが無理であろう。
特に勉強時間中に脱走を図ろうとする確率は非常に高い。
「脱走したら勉強時間を2倍……いや、5倍にしますぞ」
「跳ね上がりすぎよ……。わかったから早く行ってあげたら?ずっと部屋の外で待ってるわよ」
ジュニアールは首を傾げ、そして、手をポンッと叩く。
「おお、そういえば呼ばれておったんじゃったのぅ」
「執事長ォ〜!」
ドアの向こうから涙声でジュニアールを呼ぶ声が聞こえた。
多大な不安を残しながらジュニアールは部屋の外へと出た。
部屋の外には今は兵士長の位にいる自分の孫がいた。
「何かあったのか?出来ればあまり姫様から目を離したくないのだがのぅ」
「もちろん姫様の脱走癖は重々承知なのですが……ちょっと緊急の要件です」
深刻な顔をする自分の孫にジュニアールも真剣な顔で先を促す。
「聞こう」
「数日前から隣国で変死体が相次いで発見されています」
彼はそう言うとジュニアールに報告書を数枚手渡す。
ジュニアールがそれを受け取り、目を通している箇所を確認しながらそれを補足するように彼は説明する。
「最初の内は家畜だけでした。それが魔物のも発見され、先日は人間のも発見されました」
「……だが、隣国だろう。それがなぜ緊急でこの話がこちらに流れてくる」
「3枚目を見てください」
ジュニアールは書類を捲り、彼が指定した隣国の地図に目を移した。
それには全ての事件現場に印が付けられ、発見日と時刻が記載されていた。
「ここが最初の事件現場」
そう言って彼は懐からペンを取り出し、とある事件現場を指した。
「次がここです」
そう言って最初の事件現場と次の事件現場を線で繋いだ。
「次がここ。そして次が……っと続けていくと」
「移動しているじゃと?しかも、ほとんど一直線に」
地図上には兵士長が書いた線がほとんど一直線状に引かれた。
「そして、この線の延長線上には何がありますか?」
「この先は森しか……なるほど。森のさらに先はここか」
「そう、私達の国と隣国の国境線です。念のため警備の強化はしましたが……」
「異常には違いないか」
地図を睨みつけるジュニアールはフッと地図上の線を指でなぞり、線が途切れた後もそれを伸ばす。
「この先は森。国境線、そして……いかん!!」
バンッとジュニアールは背にしていたドアを勢いよく開ける。
そこはすでにもぬけの殻だった。
「遅かったか……」
「いや、というか姫様どうやって脱出したんですか?」
兵士長は部屋を見渡しても特に変わった場所は無い。
兵士長には密室としか思えなかった。
ジュニアールは部屋をじっくりと観察し、時には壁を叩く。
そして、しばらくすると壁のとある一箇所で止まった。
そこをジュニアールは何度かコンコンッと叩き、頷いた後、思いっきり壁を蹴っ飛ばした。
ズドンッと大きな音がし、兵士長がその蹴られた壁を見ると大穴が開いていた。
「……はっ?」
「この短時間で壁に穴を開け、さらにはすぐにばれない様に隠ぺい工作。リンも協力しておるな」
呆れて、というか驚きで声も出ない兵士長の耳に遠くで何かが落ちた音が聞こえた。
その後、悲鳴と複数の大声。
遠くてよく聞こえないが『大岩の下敷き』とか『医者』とか『血が止まらない』とか聞こえる。
とりあえず、自分は関係ない。
もしもの場合はメイド長にばらそう。
もっとも、あのモンスターと言葉を交わそうとするのも結構勇気がいるのだが…。
「(フシュー)呼んだかい?」
「ギャアーーーー!!!」
兵士長が振り向くと部屋の入り口にモンスター……じゃなくてメイド長がいた。
鼻息を大きく響かせながらこちらを睨むメイド長という名の化け物。
というか今さらりとこの化け物、心を読まなかったか?
「誰が化け物じゃ〜〜〜〜!!!!」
「やっぱり〜〜〜〜!!!!」
そのやっぱりが心を読んだことに対してなのか、はたまたこのメイド長が化け物じみていることに対してなのか。
それを確認することなく、兵士長はメイド長の張り手で壁に叩きつけられ、気絶した。
「(フシュー!)まったく、それで(フシュー!)何の騒ぎだい?」
先ほどよりボリュームが大きくなった鼻息混じりにジュニアールに尋ねる。
「手の空いてるものをかき集めてくれ。わしも城をすぐに出る」
そうしてジュニアールはメイド長に書類を渡して部屋を駆け出した。
後に残ったのは化け物と死体のみ…
「(フシュー!)あんたも同じ目に会いたいのかい?」
…後に残ったのは麗しいメイド長と気絶した兵士長のみですっ!!
「(フシュー)この私に仕事を押し付けるというのかい?(フシュー)まぁ、仕方ない」
そう言ってフッと書類に目を通す。
そこに記載されている気になる言葉。
『昨日まで生きていたはずの腐食した死体』、『大半の死体が何かに捕食された痕跡有り。ただし、歯形の大きさ、形が一定ではない』
そして、捲った書類の中にあった地図に引かれた線。
その延長線上には……
「(フシュー)これはちょうど商店街に(フシュー)ぶち当たるんじゃないかい?」