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番外 吸血鬼狩りの冒険へ

緊急番外でチラッと出たクロトス、ウリエルの子供時代のお話です。

吸血鬼の城へ肝試しへ行った時の話し。

もしかしたら後で修正するかもしれませんが今月中に投稿したかったので載せます。

「いや、確かに冒険は僕が言い出したんだけどさ…」

「貴方にしてはいい考えね」


幼い少年と少女。

2人は古いお城の前にいた。


「僕ってこれでも一応王族なんだよ?」


ビクビクと怯える少年は動きやすそうな格好はしているがちょっとした箇所にある装飾がこの少年の育ちの良さを窺わせる。


「私に敬語を使えって言うの?」


イラついている少女はいかにもこれから冒険をしますといった装備を身に付けていた。

少女の言葉に少年は怯えながらもきっぱりと言い放つ。


「それはいやだ」

「…そう」


若干照れた様子の少女は目の前の城に目を向ける。

城の外壁の至る所にはまるで血管のように得体の知れない植物の蔓が巻きついている。


「ねぇ、やっぱり危ないよ!」


少年は少女の袖を引っ張り、ここから離れようとする。

その情けなさに思わずため息を吐く。


「冒険に危険は付きものよ!」

「だからって…」


少年が空を見た。

お城の上空には黒いたくさんの何かが自分達をあぜ笑うかのように飛んでいた。

遠くてそれが何かまでは判別できないがこの場所のことを考えると想像はできる。

ここは…


「何もアルカード・ヴァン・バレンシュテッド伯爵の吸血城はないんじゃないの!?」

「今日は絶好の吸血鬼狩り日和ね♪」

「雰囲気出すぎだよ!ってか狩るの!?真祖の吸血鬼を!?」


空は稲光が迸り、自分達と上空の蝙蝠以外は生命の気配がまったくしない。

少年には空気が鉛のように重く感じる。

しかも誰かに見られているような感じもする。


「帰ろう!だいたいどうやって入るのさ?」

「玄関からに決まってるでしょう?」


あっさり言う少女の言葉に少年はガクッとこけそうになる。


「忍び込むのに堂々と玄関から!?普通は窓からとか裏口とかじゃないの?」

「貴方…いきなり自分の部屋の窓から知らない人が入ってきたら驚くでしょう?あんたも王族なら礼儀を覚えないと駄目よ」


メッっと少年を叱る少女。

そして、少女は城門に手をかけた。


「礼儀以前の問題だよ!大体鍵が開いてるわけ…」

「おじゃましま〜す」

「戸締りしとけよ、真祖の吸血鬼〜!!」


少年の咆哮に空飛ぶ蝙蝠達は同意するかのように鳴いた。


………

……


「ねぇ?」

「…何よ?」


ズルズル


「何か言うことは?」

「………」


ズルズルズル


「侵入数分後に君は忍び込んだ部屋に飾ってあった宝石に手を触れ、トラップ作動。追ってくる眷族達に僕を囮にしようと僕の足を引っ掛けて転ばせようとしたら自分がバランスを崩して逆に自分が捕まったドジッ娘」

「………」

「せっかく僕が助けようと隠れて様子を見てたら誰よりも先に見つけた君は眷族達に僕のことをちくった裏切り者」

「………だって、なんかずるいんだもん。私だけ捕まってなんか寂しかったし」

「そういう問題!?」

「ウルサイ、ガキドモ」

「「ごめんなさい」」


2人を引きずりながら動く鎧。

青銅の鎧は中身が無いにも係わらずまるで人のように2人の襟を握り締めながら廊下を闊歩する。

ちなみになぜ中身が無いかわかるかというと兜と中の首がないからだ。


「ねぇ、おっちゃん?いや、鎧だから男かどうかわからないけど」


とりあえず声が低いから男?と判断した少年は鎧に声をかける。


「ナンダ?」

「別に引きずらなくたって歩くから放してくれない?ってかおっちゃんの手って硬いから痛いし、冷たいんだよ。それとその体で何処から声出してるの?むしろそれがすごい気になるんだけど?」


先ほどの怯えた様子の少年とは思えないほどふてぶてしい。

先ほどから続く恐怖体験に何かが吹っ切れたようだ。

無言で手を放す鎧。

少年は体のあちこちをグルグルと回してほぐす。


「ありがとう。意外と話のわかる良い鎧(?)だね。それと僕の後ろで逃げ出そうとしている子からは手を放さない事をお勧めするよ」

「リョウカイシタ」


少年の後ろからギクッという音が聞こえた気がした。

それと同時にガシッと鎧は少女の頭を上から握り締め、そのまま持ち上げて歩き出した。


「裏切り者ッ〜!」

「先に裏切ったのは君だろう?」

「ーーーッ!!」


ニヤリと笑う少年に少女はプラプラと揺れながらギャアギャアと喚く。


「ちなみにその子は脇が弱いよ」

「ワカッタ」

「わからなくていいわよ!って待って!ちょっ……」


………

……


「オツレシマシタ」

「御苦労」


ぐったりとする少女と堂々とする少年が連れて行かれたのは食堂だった。

蝋燭の明かりに照らされた薄暗いテーブルの上には豪華な食事が並んでいた。

しかし、食卓についていたのは一人だけ。

少年は彼がアルカード・ヴァン・バレンシュテッド伯爵と予想した。

彼は意外と見た目は若い青年だった。

白髪の長い髪は白髪ではなく、地毛であろう。

白髪というよりも銀髪に近い。

その彼は上座に座り、こちらにチラッと視線を向けた。


「さて…」


その瞬間、世界が色を失ったように思えた。


「我の居城に勝手に侵入し…」


アルカード伯爵が一言、一言言葉を紡ぐ度に空気が鉛のように重くなる。


「我の所有物に手を触れ、その輝きを穢したその罪…」


少年は本能的な恐怖で身が振るえ、歯をカチカチと振るわせる。


「万死程度で…」


少女はへたり込み、涙目で体を震わせる。


『償えると思うなよ!』


まるで爆発のようだった。

殺気、プレッシャーによる圧迫感が大気を振るわせる。

真祖の吸血鬼という神に匹敵する魔族。

2人はいくら拒否しても頭が恐怖で勝手に自分達の死をイメージしてしまう。


「しかし…」


静寂。

アルカード伯爵のその言葉に伴い、二人を襲う殺気が消失した。


「相手が子供。しかも、そのような光景を見てしまうと…気が萎えるっていうかなんというか…」


アルカード伯爵の目の前には恐怖で目を潤ませながら少女を自分の背中に隠そうとする少年。

腰を抜かしながらも覚えたての魔法で少年を守ろうとする少女。

むしろ微笑ましいとすら思える様子にアルカード伯爵は笑みをこぼす。


「敬意を評そう。汝らを客人として迎え入れる。今宵は我と共に血のワインで…子供にはまだ早いか。じゃあ、新鮮な生の血の100%ジュースで乾杯しよう♪」


きょとんとする少年、少女はしばらく固まっていたが状況を飲み込むととりあえず血のジュースは辞退した。


「デハ、ワタシハコレデ…」


鎧は無い頭を下げるような仕草で部屋を後にしようとする。

その後姿に少年は微笑を浮かべて手を振った。


「ありがとうね、バロン」

「少年、バロンとはなんだい?」


アルカード伯爵は少年に尋ねる。

そこにもはや先ほどの威圧感は無く、普通の若者と同じ印象を受ける。

そんな彼の質問に少年は隠すことなく、正直に答えた。


「彼の名前だけど?名前が無いっていうからあげた」

「ほぅ…」


アルカード伯爵はドアの前で佇む鎧を見る。


「そういえば生み出した物に名前などここ数百年付けなかったな。いや、あえて付けなかったと言うべきか。孤独で他人という存在に飢えていた時期にありとあらゆる存在を生み出しても虚しさばかりが僕の心に募った。名が必要なのは他人に認識されるため。所詮、僕のような異端者に……」

「おっちゃん?」


俯くアルカード伯爵に少年は訝しげに声をかけた。


「いや、すまん。僕とした事が……っておっちゃんはやめてくれないかな、少年?」


微笑み返そうとするがその言葉が気に入らなかったのでちょっと睨みつける。


「普段ならお爺ちゃんって言うところをこっちが親切にもおっちゃんと言うことで譲歩してあげたんだけど?」

「いや、君達からしたらそうかもしれないけどこれでも吸血鬼の中では若い方なんだ。というか凹むからそういう事は思っても口に出さないでくれるかな?」


あまりにも堂々と言うのでちょっとどころかかなり落ち込むアルカード伯爵。


「じゃあ、アルカード伯爵」


少年の言葉にきょとんとするアルカード伯爵。


「はっ…はははっ。そうか、君達は他人か!久しぶりの自分以外の他人!それも、異端の僕をアルカードとして認識する他者なんだな、君達は!」


大声を出しながら笑うアルカード伯爵。

まるで子供のように。

無邪気な笑顔。

その姿に恐怖していた自分達がどこか恥ずかしくなった2人

いつしか3人は打ち解けあい、お互いのことを色々と話すようになった。

アルカードの過去に戦った自分を狙う者達との戦いの話に少年は目を輝かせ、少年が自分が王族という話をすると少女は少年がいかに少年が王族らしくないか暴露し、少年と少女が言い争うとアルカードがその様子を実にうれしそうに眺める。

数時間後、2人はお土産にいくらかの宝石(ウリエルが手に触れようとしてトラップに引っかかった時の宝石も貰った)を貰い、お城へと帰っていった。



−とある日−


「…アルカードってずるいよな。年を取らないから見た目若いままだし」

「年を取ることのすばらしさを知っている僕には君のほうが羨ましいけどね。僕の眷属になれば僕と一緒に永遠を生きれるけどどうだい?」

「それはそれで遠慮する」


とあるお城の屋根の上で2人の青年が酒を酌み交わしていた。

一人は血のように赤いワイン。

もう一人はワインのように赤い血。

見た目はおなじでも中身の違うグラスはそのままこの2人を表すようだ。


「僕のプロポーズを断ったのはこれで何度目だい?いい加減にOKしてくれないかな?」

「せっかくだけどそんな趣味はない」


ぴしゃりと言い放つ青年。

アルカードは苦笑する。

こんな冗談の掛け合いができるほどに成長したあの時の青年は神王となった今でもこうやって異端の僕と酒を酌み交わす。


「昔はあんなにかわいかったのに…本当に時というものは常に僕に牙を向ける」

「大体俺は…」

「そんなにあの子がいいの?」


ワインを噴出す青年。


「あの子もずいぶんと女の子らしくなったよね。そういえば最近は魔剣をヒューマンタイプに【創造】したんだって?チラッと見たけど彼女もかなりの美人だよね。…君が創造主ということは彼女の姿は君の理想に……」

「【万物創造《純銀製の十字架》《聖水の流水》《ニンニク×100》】!!」

「ちょっ…ギャアーーーーーー!!!」



−少々お待ちください−


「そろそろ戻るな」

「…は〜〜い」


黒こげになり、ブスブスと煙を揚げる人型の何かは片手をあげて青年を見送る。


「さて……ウリエルちゃん?」

「…ばれてましたか」


屋根の縁から現れる女性。

翼を広げ、輝かしいまでのその姿にアルカードは目を細めた。


「(もっとも彼も気づいてたけどね)神王様を探しにここにきたのかな?」

「はい。でも、出るタイミングが無かったですけどね」


そっと屋根に降り立つウリエルはチラッと青年が立ち去った方を見るが再び視線をアルカードに戻す。


「いいよ。行きなさい」

「でも…」


渋るウルエルにアルカードは微笑む。


「無限を生きる僕に次に会う時まで待つことなど一瞬に近いよ。今度会ったときにまた血のジュースで乾杯しよう」

「…そうですか。それではまた」


急いで立ち去ろうとするウリエル。

しかし、少し歩くとアルカードの方を振り返った。


「訂正をいくつか。私は血のジュースを飲んだことはありませんし、これからも未来永劫飲む気はありません。あと、グラムは若干ですが私の意見も反映されています。後は…」


少し言いにくそうにしていたがウリエルはアルカードに背を向けてボソッと囁く。


「彼は今でもかわいいですよ」


まるで雷の様にその場から立ち去るウリエル。

アルカードはポカ〜ンとしていたがすぐに笑い出した。


「世界よ。初めて貴方に感謝します。僕に彼らとを出会わせた偶然に…」


真っ赤な血を飲み干す孤独だった真祖の吸血鬼。

彼らは化け物と呼ばれる僕を名前で呼ぶ数少ない他人。

彼らは彼に世界を教えた。


世界はもっと広いのだと。

世界はもっと苦しいのだと。

世界はそれ以上に楽しいのだと。


彼は真っ赤な月に真っ赤な血と自分の喚起の涙を捧げた。

50話の番外ネタはどうしようかな?

私の頭の中の小人さん、ネタをください。

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