神の力の欠片
就職活動と自動車免許と資格検定を2つに学校の試験を2つを抱えているので更新が遅くなりつつあります。遅くても3週間に1話は更新していきたいと思います。
【パシフィス城下町】
「この串焼きはうまいな。帰りに別の種類のも買うかな?」
「ねぇ、ねぇ!あそこのパン屋もすっごくおいしいんだよッ!」
「…おすすめ」
城の兵士から住居候補の家までの地図と当面の生活費を渡された俺。
しかし、この世界に来たばかりの俺が地図をポンっと渡されてもかなり困る。
だが、運の良い事に住居候補までの案内人としてこの2人のメイドを紹介された。
「あそこのアップルパイってね!とっても甘くてね!りんごの良い匂いがするの!」
1人はショートの髪に白いメイド服を着た元気な少女。
俺の周りを動き回り、あちこちを指さしながら、この町の良店を教えてくれていた。
名をエルというらしい。
紹介してくれる店の殆どが甘味系中心な所が実に女の子らしい。
「…向かいの定食屋は要注意。サービス、味、衛生管理の全てが3流。個人的に潰れてほしい店ランキング6位。あの残飯をいまだに客に提供している度胸はすごいと思う」
この毒舌はエルの双子の妹のリン。
腰まで伸びるロングの髪に黒いメイド服を着用している。
おとなしいが無口というわけではなく、相手を非難する時はエルの口数をも上回る。
…その店以上に酷い所が5件もあるという所はひどく気になるな。
それはさておき、彼女らは二卵性双生児らしく、性格は正反対で容姿もあまり似ていない。
はたから見ると姉妹というより親友みたいだ。
「あっ、喧嘩かな。見てこうよ!」
エルの指さす方に目線を向けると道を塞ぐ程の人で溢れていた。
どうも、人だかりの中心で何か騒動があるようだ。
中には店を放り出して見学している者もいた。
…いいのか、それで?
「…案内は?」
リンがエルを軽く睨みつけながらおとがめる。
まぁ、この案内は王妃からの命令であり、実質は仕事だからな。
「だって、気になるもん。お兄ちゃん、いいでしょう?」
リンの言葉に剥れつつも俺の右手に抱きつき、ぶらぶらと揺らしながらおねだりしてくる。
しかし…
「危ないから駄目」
わざわざ危険な場所に行くこともないだろう。
というのは建前で早く家を見つけてゆっくりと休みたいだけなのだが。
「ムゥ〜ッ!」
俺の言葉に不満を感じ、さらに膨れるエルの頬。
苦笑し、頬を掻きつつも先に促した。
「さっさと行こう」
「ムゥ〜ッ!!」
ガシッと俺の腕にしがみ付くエルに対抗意識でも燃やしたのか、今度はリンが負けじと俺の左手にしがみ付いてきた。
両手に花と言えば聞こえは良いが実際は唯の重石だ。
「…お姉ちゃん、行こう?」
「は〜い」
エルの説得に成功した俺達が人ごみを避けて、手前の道を曲がろうとしたその時。
風に乗って中心の喧騒の声が聞こえた。
「だから、謝りなさいって言ってるの!」
「そのババアが悪いんだろうが!」
「ぶつかってきたのはそっちでしょう!」
どうやら人ごみの中心では女性と男性が言い争っているようだ。
珍しくもないがリンとエルはこれを聞いて、ピタッと止まる。
「この声って…?」
「…まさか?」
どうもこの喧噪の中心人物に心当たりがあるらしい。
「知り合いか?」
「たぶん…」
「…でも、今はお城にいるはず」
確信ではないようだ。
一応見ていっても問題はないだろう。
「確認してみようか?」
「「うん」」
俺らは喧騒の中心に入っていった。
野次馬を掻き分けていると2人とはぐれてしまった。
小さい分、人の隙間に入り込みやすいみたいだ。
店をほったらかしにしている者、貴族のような身なりの者、おこちゃまの群れ…。
それらを掻き分けて喧噪の中心に行くと…
「あんた達が余所見してるからお婆ちゃんが怪我したんでしょう!」
「知るか!ぼーっと立っているからだ。」
「なんですって!」
尻餅をついているお婆さんの前で若い女性がガラの悪い3人組と言い争いをしていた。
どうやら3人組がお婆さんとぶつかり、その拍子でお婆さんが頭に怪我を負ったようだ。
いつのまにか、リンがお婆さんの傷口をハンカチで押さえてた。
「痛い目に遭わないうちに謝りなさい!」
「やんのか、コラァッ!!」
「痛めつけてやろうぜ!」
「おう!」
そういって、喧嘩が始まった。
わざわざ喧嘩を促すような発言をする女性とそれにあっさり乗る男達。
はっきり言って呆れるほど馬鹿だ。
3人に囲まれた若い女性はすぐにやられるかと思いきや、足技を主体とした素早い動きで相手を翻弄しつつ、徐々にダメージを与えていく。
相手の足と急所を中心に狙いつつ、囲まれないように動き回る。
掴まれそうになると距離を取り、フェイントを混ぜつつも徐々に相手の体力を奪う。
それらを効率よく使い、うまく立ち回っている。
動きを見る限り、ある程度は訓練しているようだ。
しかし、未熟な所も多々ある。
このままでは…
「捕まえたぞ!」
ついには囲まれ、一人を攻撃しているうちに後ろから別の相手に羽交い絞めされた。
「ーーッ!」
女性は焦って暴れるが体格が違いすぎるために逃げ出す事は出来ない。
男達はニヤつきながら女性を囲む。
「そのまま捕まえてろよ」
そう言って男の1人が腰に刺さった短剣を抜き出した。
眼はすでに狂喜に満ちていた。
典型的な悪人の目である。
「後悔させてやる!」
そう言って一歩近寄り…
「鼻折られたんだ!やっちまえッ!」
短剣を逆手に持ちかえ…
「にがさねぇ!」
短剣を頭上に掲げた。
「離せ!!」
このままではやられるだろう。
…しかたないか。
「ちょっといいか?」
「「「あぁッ!?」」」
3人組が一斉に振り返る。
揃いも揃ってすさまじい顔であった。
悪人顔の代表として選ばれそうな顔であった。
さぞかし、子どもの頃は大変であったであろう。
…変な所で同情してしまった。
「いや、失敗面じゃなくてそっちの子」
「「「何っ!!!」」」
3人組はさらに顔を歪ませる。
…実はモンスターではないのか?
そう思わせるほどひどい顔であった。
それはさておき…
「私?」
そう言って怪訝な顔を浮かべる女性。
俺は女性に近づき、軽い殺気で男達を委縮させながら会話する。
「そう。君はなんでお婆さんを庇ったの?」
そう問いかけると女性はまるで当たり前のことを聞かれたかのように呆けた表情となった。
「決まってるじゃない。そこのお婆ちゃんを助けるためよ!」
そこには頭から血を流しながらも女性を心配し、オロオロするお婆ちゃん。
隣には呆然とするリンの姿も確認した。
「なんで?」
「えっ?」
「なんでその人を助けたの?助けても何にも得しないのに。そんな事しなければ今みたいに殺されそうにならなかっただろ?」
いくらなんでも3人相手は無理だということはこの女性もわかっていたはずである。
それでも立ち向かった。
勝てない戦い、利益の得られない争いに。
疑問に思い、どうしても聞きたかった。
「助けるのに損得なんて考えるつもりはないわ」
はっきりと返された。
思案すらせずにそう返された。
「君にとって人助けは日常の一部なの?殺されそうになっても後悔しない?」
「しないわ。それが私が望んだ事だもの。それに、殺される気もないわ」
周りの野次馬は見ているだけ。
それこそが普通。
それが人間である。
なのに、この人は助ける事こそ普通だと言った。
それは異常。
正しい善行。
だからこそ、出来ない。
自分の身の方が正義より大事なのが人間。
けれど、この人は自分の信念を選んだ。
しかも未だに勝つ気である。
「君は本当にきれいな人だね。外見もだけど、何よりも心が。多くの者を見てきたけどそこまで自分を貫ける己を持った人なんてそうそういない」
驚愕に近い。
それほどまでに衝撃だった。
自身にとっての人間という個に対する常識。
それをこの女性が覆したのだから。
「なっ、何言ってるのよッ!」
いい人だと思った。
この人だったら力を使ってもいいかと思う程に。
『他世界の争い、騒動には不干渉』
こういった他世界に関わった際の神等における、基本とも言える制約に背くことになっても。
「気に入ったよ。特別に対価といった取引無しで助けてあげる」
そう言って男達に向き合う。
「はあ!?お前バカか?」
「3対1で勝てるわけ無いだろ!」
「ば〜か」
低レベルな侮辱に呆れた俺はため息を吐き、こいつらの後学のために侮辱の見本を言ってやった。
「下等生物にバカにされる覚えはないね。いい加減目障りなんだよ。鼻がひん曲がりそうな悪臭を振りまきながら、醜い姿で町の皆の目を腐らせるのはやめてくれないか。それに3人がかりで女性に襲いかかる汚いやり方もむかつく。性根が腐ってるどころか発酵してるんじゃないか?ってか、すでにお前ら汚物レベルっていうか存在してることもむかつく。さっさと土にかえれ!いや、駄目か。大地が汚染される。どうやっても自然界に分解されそうにないから消滅しろ。手段はどうでもいいから他の人に邪魔にならない内に消えてしまえ」
…俺も得意とは言えないがあいつらよりはマシであろう。
その証拠にさらに顔を歪ませた3人は表現できない顔となった。
そして、羞恥と怒りで赤くなった顔で一言。
「「「ぶっ殺すッ!!!」」」
3人組は女性を放し、全員が短剣を片手に俺に襲い掛かる。
野次馬は悲鳴をあげて、ある者は目を逸らし、ある者は逃げ出した。
俺は心底呆れていた。
どうもこの世界の人間の戦闘能力は低いようだ。
この程度のスピードで神々の王である俺を殺せるつもりらしい。
あまりにも遅いので少し考える。
先ほどのモンスターの群れに魔法を使った所、威力が衰えているということは無かった。
他の神々は宝玉の中に入った時点で力が制限される事があるらしい。
それを危惧していたが魔法に関してはその心配はないようだ。
試してない力は俺自身の身体能力、神としての神力。
神は全員に神特有の力【神力】を持つ。
全ての神が力を持ち、力の種類も色々である。
オディーンであれば【宝玉を生成できる力】。
この力は神界でも10人ほどしか持たない珍しい能力である。
ウリエルにはそういった力は無い。
彼女は天使であって、神では無いので神力は無いが魔法の腕は神界でもトップクラスである。
俺にもあるが宝玉内でも使えるかわからないのでこいつらで試そう。
身体能力も衰えていたら面倒なので一緒に検証してみる。
「【万物創造 《刀》】!」
俺は右手を上に掲げて力の発動を宣言し、頭の中でとある物を明確にイメージする。
過去にとある世界の神から見せてもらった物。
その形、重さ、手触り、触感…。
一つ一つを正確にイメージを重ねるごとに俺の手の上でそれが明確に姿を現す。
現れたのは刃渡り150センチの太刀。
詳しくは知らないが大太刀というのに分類される、その神の世界にある剣だそうだ。
これが俺の力はありとあらゆる物を《創造》する力。
まぁ、ありとあらゆる物というと若干の制限があるため語弊があるが言ってしまえば俺は無から望む物を作り出す。
それが俺の神力の【万物創造】。
若く、未熟者の俺が神王である理由。
その1つがこの能力。
無から有を生み出すことはこの世の原則を無視した力。
世界すらも俺に従う。
俺は150センチの大太刀を構えた。
そして…
「陰天陽地神道流剣術 【一閃無月】」
3人組を目の前まで引き付け、太刀で横薙ぎに斬りつける。
自分を中心に円を描く様に。
それをただひたすら速く。
目にも映らぬ速さを追及し、影すら映らぬ斬撃。
その1振りで3人まとめて叩き斬った。
一瞬の間の後、3人は白目を向き、糸が切れたように崩れ落ちる。
周りの野次馬は静まりかえる。
当たり前だろう。
目の前で人がいきなり倒れたのである。
俺が剣を構えていた事で切ったという事は推測できるであろうがそれが眼に映らなかったのであるから。
先ほどの女性が恐る恐る話しかける。
「…こ、殺しちゃったの?」
「んなわけないだろう。峰打ちだ。ちゃんと呼吸してるだろ?気絶しただけだ」
それを聞いた野次馬も安心する。
だが、峰打ちというのは嘘だ。
本当に斬った。
斬ったが怪我をさせてないだけだ。
俺が斬ったのは《意識》のみ。
意識を斬って、気絶させたのだ。
普通は形の無い《意識》など斬れない。
しかし、これを持ってきた神は自慢げにその力を語っていた。
普通ではありえないものさえも生み出せる力。
俺が望めば、世界がそれに従う力。
まぁ、とりあえず…
「ミッション・コンプリート♪」
野次馬の歓声があがった。
お年寄りを救った女性と圧倒的な強さで3人組をねじ伏せた青年に対して…
作品の種類が少ないので短編に挑戦しようかと思います。