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番外 力ある神々による混沌の一日

久しぶりの投稿&祝30話!

今回の話は番外風味の番外です!?

初めて激しいバトルを書いてみました。

コメディという事も忘れてはいません。

戦いの最中にとある漫画を参考にした場面があります。

そこは気づいても見逃してください。

後書きに投稿が遅くなったお詫び文を載せました。

投稿が遅くなって申し訳ございませんでした。

事の始まりはほんの些細な一言だった。

その日の喫茶店はたまたま休みだった。

というのもその日、クロトスは新メニュー開発に取り組もうとしていたからだ。

午前中の内にクロトスは新メニューのある程度の骨組みを考えながらいくつか試作品を作ってみた。

試作品をテーブル席に並べ、次に何を作ろうか考えていると閉店の看板がかけられていたはずのドアのベルが鳴った。

開かれたドアから入ってきたティニア、リン、エルはなぜか機嫌よさそうにクロトスに挨拶を交わす。

というのもクロトスは前もって3人に今日のの新メニューの試食を頼んでいたのである。

3人にとっては無料でクロトスのおいしい料理が食べられるので2つ返事で了承した。

ちなみの今回の3人は城脱走の際、烈火のような勢いで脱走を食い止める兵士を骸(全治1ヶ月以上)にし、その時の3人の表情は獲物を求めて涎を垂らす、にやけ笑いの般若のようであったそうだ。

クロトスにとってもその日はウリエルもグラムも隣町まで買出しに行ってもらっているので自分以外の人に味の感想を聞きたかったので都合が良かった。

休業の喫茶店は事実上、3人の貸切状態で新メニューから思いつきのものまで試食してもらい、色々と感想を聞いていた。

買出しに出ていたウリエルとグラムも帰宅すると3人に混じって味の批評をしながらも世間話をしていた。

世間話の内容は色々あったが問題はその話が先日の試合の話になった事だ。

ウリエルがクロトスをブッ飛ばした事はティニアとエル、リンの脳裏にしかと焼き付けられていた。

赤くなって言い訳しているウリエルにエルが事の発端となるとある一言がなければこのような惨劇は起きなかったであろうに…


「おにいちゃんとウリエルさんってどっちが強いの?」


その一言にとある3人が固まった。

それはクロトスとウリエルとグラムである。

と言ってもクロトスとウリエルはすぐに何事も無かったかのように振る舞う。

クロトスはカウンターで新たな配合のブレンドコーヒーを淹れ、ウリエルは優雅にコーヒーを飲む。

…が、グラムは尋常じゃないほどに冷や汗を掻き、口元が引きつっている様に見える。


「でも、ウリエルさんって試合の時にクロトスを倒したわよね。」

「お願い。それは忘れて…。」


ティニアの言葉にウリエルはまるで生き恥をさらしたというように顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏す。


「…でも、クロにぃはオルガさんを倒した。」


リンの囁きとも言える小さな言葉だったがカウンターでコーヒーを淹れていたクロトスはうっすらとにやける。


「どっ、どちらでも良いではないか?それよりもこのパスタはいけるぞ!」


グラムは慌てて話題を変えようと近くにあったパスタの皿を口いっぱいに頬張るが口に入れすぎて喉が詰まった。


「そういえば昔はよく手合わせしたっけ?」

「そうね。何度か手合わせはしたけど色々あって決着はついていないわね。」


そのグラムの苦労ももはや手遅れのようだ。

2人が笑顔なのに目が笑っていない。


「最近…ウェイトレスの仕事が結構楽しくて戦闘訓練してなかったのよね。」


テーブル席のグラムの隣でコーヒーを飲んでいるウリエル。

グラムがチラッとウリエルのコーヒーカップの中を覗き見るとまるでマグマのようにコーヒーが煮えたぎっていた。


「そういえば、この国にきてから弱い奴としか戦ってないんだっけ。ああ、オルガは別だけど。」


そう言って指をぱきぱきと鳴らすクロトス。


「だが、2人が本気で戦うにしても場所が…。」

「グラム。忘れたか?」


そう言ってクロトスは床を指差す。

正確には喫茶店の地下。

グラムはクロトスが何を指しているか気づき、絶望する。


「下に何かあるの?」

「そういえば、ティニアは知らなかったな。この店の地下には秘密の部屋があるんだ。」

「何それ!?行きたい!」


ティニアは目を輝かせるがそのティニアの反応にグラムは殺意に似た感情を抱く。

喫茶店の前を歩く人がみたらショック死してもおかしくないオーラと放ちながらティニアを睨むが誰も気づかない。


「ああ、いいぞ。…ウリエルもそこで久しぶりに手合わせ願いたいんだが?」


クロトスはウリエルのほうを見る。

その表情は誰が見ても彼が何を考えているかわかるであろう。

彼は【挑発】している。

もちろんウリエルはそれを知りながらも笑顔で返す。


「ええ、雌雄を決しましょうか。エルちゃんとリンちゃんも行かない?」

「「行くっ!!」」


ティニアは地下空間に興味を持ち、エル、リンは2人の本気の戦いが見れるというので3人共が目を輝かせる。

グラムは気づかれないように喫茶店から脱出しようとこっそりと出口に向かう。

後少しという所で首筋がヒヤリとした。

例えるなら死神に首狩りの鎌と首にかけられ、体中を鎖で拘束され、周りを地獄の餓鬼に囲まれたような状況の方がましと言える様な絶対的な死の気配。

後ろから聞きなれたはずなのにいつもとは絶対に違う声がかけられた。


「………グラムには審判を頼もうかな。」

「そうね。頼りにしてるわよ。」


それはグラムにとって【死刑宣告】であった。

矛先がこちらに向いた瞬間、全速力でグラムは出口に向かう。

扉に触れるか触れないか、いや、ブチ破ろうかという所で視界が真っ暗になった。

さらに何かに押し込められたかのような圧迫感。

というよりもこれは……


「…って袋に入れたら窒息しちゃうでしょ!?」


クロトスは【創造】した布の袋(グングニルの槍でも簡単には貫通はしない)を逃げようとしたグラムに被せ、袋の口を縛ってサンタクロースのように持ち上げた。

慌てたティニアの言葉にそれもそうかとクロトスは一旦、袋を床に降ろす。

そして、袋の口を緩めるとおもむろに手を突っ込む。

クロトスは袋の中でもがいているグラムの頭を上からがしっと鷲掴みにした。

それを頭だけをむりやり首の所まで出し、首の所で袋の口を縛る。

袋から頭だけ出された状態のグラムの見た目はダルマのようである。

恨めしそうに涙目でグラムはクロトスを睨むがクロトスはクロトスは無視してウリエルに清清しい笑顔でサムズアップする。


「これで問題なし♪」

「そうね。行きましょうか♪」


今にも歌い出しそうにご機嫌なクロトスとウリエル。

クロトスは暴れるグラムを先ほどに同じように肩に担ぎ、ウリエルはその間に店の中心の柱を3回蹴り、怪しげな呪文を唱える。

唱え終えると柱を中心とした床から突如として穴が現れる。

そこに一切の躊躇もなく、首から下が袋に包まれて身動きの取れないグラムを…


「いっけぇ〜〜〜〜!!!!」


全力で思いっきり投げ落とした。

片手でグラムの頭を持ち、叩きつけるように穴の中に投げ落とす。


「い〜や〜だあああぁぁぁっ………!」


グラムの悲鳴が徐々に小さくなる。

突然だが井戸の深さを調べるために石を落とすという方法がある。

これは石を落としてから水に落ちる音がするまでの時間により、深さを知るというものだ。

さて、グラムの悲鳴が数秒続き、未だに衝突音がしない。

そのことからこの穴はかなり深い事がわかる。

さらにグラムは両手両足が袋の中であるので自由に動けない。

………無事に着地できるであろうか?

それに気づいたリンは心の中で大会の時に宣戦布告したライバルの冥福を祈った。

ちなみに、ティニアはあまりの光景に呆然としている。

エルはいきなり空いた穴に興味津々で目を輝かせながら穴を覗く。


「それじゃあ私達も行きましょうか。」

「へっ?」


そう言ってウリエルはティニアの手を取る。

いきなり手を取られたティニアはあっけに取られるがウリエルは気にせずにそのままティニアの手をぐいぐいと引っ張り、穴に近づく。

さすがに今の光景を見て、ティニアは嫌な予感がする。


「ちょっ、ちょっと待って!まさか!?」

「先に行ってるわね。」


ウリエルはクロトスにそう言うとティニアの手を引きながら穴に飛び込んだ。


「いやあぁぁぁぁぁっ………!」


穴に吸い込まれていく2人。

ティニアの悲鳴もしばらくすると聞こえなくなった。

顔を青くするリンとエル。

さすがのエルもこの光景には恐怖した。

グラムの時に恐怖を抱かなかったのは単に穴に興味があり、あまり見ていなかっただけ。


「次は俺達だ。」


そう言ってがしっとリンとエルの手を掴む。

その手が2人にとって死神の手に見えたのは無理がない。

この日、一番幸せだったのは部屋の隅っこで日向ぼっこをしているウルだったのかもしれない。


………

……


6人はクロトスがグラムとウリエルを召喚した地下空間にある草原にいた。

ここに叩き落されたグラムは軽い打ち身と土まみれになるだけで済んだ。

グラム以外の5人がここに降り立った時は地面にクレーターが出来ており、その中心にまるで隕石のようにグラムは目を廻しながら気絶していた。

一方、ティニア、リン、エルは顔を青くし、髪も乱れていた。

クロトスに指摘されると青い顔を赤くし、手で一生懸命直していた。

そして、今現在。

草原でクロトスとウリエルは距離を取り、対峙していた。


「…やめる気はないか?」


袋から解放されたグラムはいやいやながらも2人に尋ねる。


「「無い!」」

「はぁ…、仕方ないか。3人とも来い!」


ため息を吐き、グラムはティニアとリン、エルを連れて2人から離れる。

未だに落下してきた時の恐怖が残っているのか特に何も言わずにグラムに着いていく。

3人を引き連れたグラムは少々離れた丘に誘導し、自分達を囲むように出来る限りの強固な結界を張る。

そして、覚悟を決めるように3人の方を向く。


「皆に約束してほしい事がある。」

「何、グラムさん?」


エルが問うとグラムは真剣な顔で言う。


「何があろうとここを動くな。悲鳴をあげるな。2人に声をかけるな。以上を何があろうと厳守しろ。」

「…もしかして、危険なの?」


リンがごくりと唾を飲み込む。

他の2人も緊張のあまりに顔が青ざめる。


「あの2人が戦うと下手したら…国が滅ぶ。」


グラムの言葉に一瞬の静寂が起きる。

恐る恐るティニアが引きつった笑みで言葉を返す。


「……まっ、まさか〜…。」


グラムはどんよりと影を背負って泣きそうな目で首を振る。


「始まればわかる。…だからイヤなんだ。あの2人が戦うと我もとばっちりを食らうからな。」


グラムはそう言うと重い足取りで2人の所に向かう。

グラムが2人の所に戻るとクロトスは右手に刃から柄まで真っ白の刃渡り30センチほどの短剣、左には逆に真っ黒な短剣を構えていた。

ウリエルは自分の長年の武器である燃えるように真っ赤な刀身の剣・盾を構えている。

グラムは冷や汗をかきながら仕方なく嘆願するように言う。


「せめて、周りに被害を出さぬように頼むぞ。……始めっ!!」


宣言すると同時に2人は一瞬で相手に詰め寄り、先ほどの立ち位置のちょうど中間で互いの刃を交差させる。

グラムは2人に背を向け、全速力で先ほどの結界に向かう。

グラムの耳には後ろから聞こえるすさまじい数の金属音が響く。

遠くの結界内から2人の戦いを観戦するティニア達でもその凄さはわかった。

お互いが距離を取る事もなく、残像が残るほど剣戟を幾重にも重ねる。

小細工が一切無い火花が弾けるほど重く、疾く、純粋な剣戟。

一歩も退くことなく、正面からぶつかり合い。

その中心部は暴風、嵐といったように荒々しい。

遠くから見る3人でも引かれるものがある。


「はあっ!!」


ウリエルの気合の入った声がグラムの後ろから聞こえた。

反射的に後ろを見るとウリエルがクロトスから距離を取り、離れた場所にいるクロトスに向かって剣を振り下ろした所だった。

その振り下ろした剣からは噴き出すように凄まじい炎が放出され、クロトスを襲う。

それをクロトスが飛び超えるように避け、避けた炎が地面に接触する。

その途端に接触した場所から巨大な爆発が起きる。

グラムは咄嗟に両腕を構えるがその爆発の衝撃波に吹っ飛ばされた。

飛ばされたグラムは地面をゴロゴロと転がり、軽く傷を負ったがそのまま運良く結界内に入った。

素早く立ち上がったグラムは魔力で結界を全力で補強する。

チラッと後ろを見るとティニアとリン、エルはぼーぜんとしていた。

無理も無いだろう。

3人がクロトスの本気の実力を見たのはこれが初めてである。

そもそもクロトスがこの世界に来て、本気を出した事など無い。

大会など児戯に等しい。

明らかに人間離れした(人間ではないが…)クロトスの実力。

それに拮抗しているウリエル。

目を疑うのも無理が無い

再びグラムはクロトスとウリエルの方を見る。

クロトスは緩急を付けながら短剣で突き、振り下ろし、払う。

両手の白と黒の短剣で凄まじいスピードで首を狙ったかと思うと軌道を変えて剣を握る右手の手首を狙い、あたかも流星群のように放つ。

しかし、ウリエルはそのほとんどを楯で捌き、クロトスの剣戟の隙間を縫うように炎を纏った剣で斬りつける。

その剣が纏った炎はかすっただけでも相手を包み込む。

それこそ、ただの人間であれば一瞬にして灰塵と化すほどの灼熱。

実際に先ほどから刃を交えているクロトスの剣は刃こぼれと若干ではあるが溶けている。

とは言ってもウリエルの剣は神器の中でも最上級の物。

クロトスが【創造】したのはそれより幾分劣る双剣。

それでも神器には違いないのだが簡単にこのようにボロボロにできるような代物ではない。

クロトスも負けじとさらにスピードをあげるが中々斬りつける事ができず、仕方なく距離を取る。


「【万物創造《鉄球》……】!」


クロトスは自分の周りに数多の鉄球を【創造】する。

クロトスの周りには数々の直径50センチほどの黒光りする鉄球がフワフワと浮いている。

ウリエルは追撃する事も無く、その場で剣を構える。

そして、クロトスが手を軽く振るとその数多の鉄球がウリエルに殺到する。

当たれば人を一瞬にして肉塊に変えるであろうスピードでウリエルに迫る鉄の流星群。

苦い顔をするウリエルは横に走りながら自分に当たりそうな鉄球だけを剣で切り落とす。

普通の剣であれば切れることなく、むしろ剣のほうが砕けていたであろう。

しかし、ウリエルは際限なく襲い来る数多の鉄球を自分に当たるものだけ切り落とす。

クロトスはその場から動かずにひたすら【創造】し、鉄球を飛ばす事でウリエルの体力を削る。

その意図に気づいているウリエルは舌打ちをすると目の前の鉄球を払い落とすと同時にクロトスに向かって炎を放つ。

炎は飛び交う鉄球を飲み込み、ドロドロに溶かしながらクロトスへと向かう。

クロトスは仕方なしに【創造】を中断し、炎をさっと避ける。

そして、再び【創造】を始め、自分の周りに新たな鉄球、さらには先ほど叩き落された鉄球の破片を宙に浮かせる。

再びそれをウリエルに向けようとするが遅かったようだ。


「【アンタレス】!」


ウリエルは魔力を自分の剣に流し込み、剣に魔力を変換して生み出した熱エネルギーを溜め込む。

溜め込まれた熱は剣が纏う炎の火力を上げ続け、次第にそのエネルギーが光となって輝き出す。

赤く輝いた刀身は徐々に炎を吸収しながらさらに熱を溜め込む。

眩しいほどに輝いたその剣をウリエルはズカッと地面に振り下ろす。

剣が突き刺さった場所を中心に目が潰れるほどの光が放たれ、熱で周辺一帯の地面が溶け出し、辺りを灼熱の業火が包み込む。

業火は津波のように辺りを蹂躙し、そこから噴き出す炎は大蛇のように跳ね回る。

業火は凄まじいスピードで広がり、数多の鉄球を液体状にまで変える。

クロトスは避けるべく大きく上に飛び上がった。

業火の波を飛び越すとそこに灼熱の大蛇達が襲う。

急いで【創造】した空中の空気を固体化した台を蹴り出し、噴き出す大蛇達の隙間を通る。

触れるだけで皮膚が焦げ、呼吸するだけで肺が焼かれるようだ。

クロトスが先ほどまでいた場所も業火に包み込まれ、草原だった周りはウリエルの立っている場所以外のほとんどをマグマと化す。

比較的安全な高さまで飛び上がり、固定化した空気の台に乗ると歌うように言葉に魔力を乗せて呪文を唱える。


「《白き月は孤独を語る。夜の闇は白銀の森に賛美歌を歌った。》」


クロトスは詠唱しながら懐から液体の入った小瓶を取り出し、地面にいるウリエルに投げつける。


「《生まれし世界は産声をあげ、死する魂は星を巡る。》」


ウリエルは警戒し、剣から炎を放って迎撃する。


「《凍る魂は儚い夢を見る。目覚めぬ眠りには幻想を送ろう。》」


小瓶は炎に接触して割れた。

そこにクロトスが予め封じ込めていた魔法の風が暴風となって周辺に吹き荒れる。

例えるなら風の爆弾といった所か、まるで小さな台風のようである。

それが噴き出す炎を巻き込みながら灼熱の嵐の化し、辺りを蹂躙する。


「《白銀の夢。それは魂をも凍らす幻。》」


ウリエルは風に吹き飛ばされないように地面に剣を突き刺す。

髪が焦がされるが気にせずに目はクロトスから離さない。

そして、反撃しようにも詠唱が終わる。


「《【氷幻の白夜】》!」


クロトスが叫ぶように唱えるとクロトスを中心に発する絶対零度の冷気があたりの温度を急激に下げる。

クロトスの目の前でその冷気の一部が集まり、まるで植物の種のような形を形成する。

その冷気が凝縮された【冷気の種】が地面のマグマへと重力に引かれながら落下する。

それが地面に接触した瞬間、そこからまるで薔薇の茨のように氷柱が中心から外に向かって生えるように侵食されていく。

灼熱のマグマが瞬く間に凍り付いていく。

凍りついた場所から天を突き刺すような数多の鋭い氷柱が生え、そこからさらに茨を伸ばす様にマグマを侵食していく。

瞬く間に地面一帯が針山のように鋭い氷柱で覆われた。

クロトスはぐるっと周りを見渡すがウリエルの姿は見当たらない。

そのクロトスも多大な魔力の消費により肩で息をするほど疲労している。

吐く息は白く、世界中が凍りついたほどの静寂に包まれる。


「《【氷棺への葬送曲】》!」


クロトスの言葉と共に指を鳴らす音が凍った静寂な世界に響くと辺りの氷柱が音を立てて崩れ落ちる。

1つの氷柱が崩れるとそれに巻き込まれるように周りの氷柱が崩れる。

どこか世界の滅びを創造させるような神秘的で儚くて残酷な光景。

しばらくすると全ての氷柱が崩れた。

地面は大きな塊や鋭い槍のような氷塊で埋め尽くされた。

再び辺りを凍った静寂が包み込む。

一切の音が無い。


…音が凍った。

…空気が凍った。

…時が凍った。

…世界が凍った。


しかし、クロトスは警戒を怠らない。

まるで少しでも動けば即【死】を意味するかのように…。


「【エル・ダンジュ】!」


ウリエルの声と同時に氷に包まれた地面が一瞬で溶け、辺りを濃い水蒸気が包む。

一瞬で包み込んだ者を黒焦げにするような高温の水蒸気にクロトスは懐から新たな小瓶を出し、風で全て吹き飛ばそうとする。

小瓶を地面に投げ落とすが落下中に何かに打ち落とされ、風が暴発する。

近くで爆発したために風の影響をもろに受けるクロトス。

耐えてやり過ごそうとするが正面から飛んできた何かに肩を貫かれた。

痛みと熱さに耐えながら見てみると羽の形をした炎が肩に突き刺さっていた。

その羽と同じものが先ほどのクロトスが鉄球を【創造】して飛ばした時以上のスピードで次々と高温の水蒸気の向こうから飛んできた。

暴発した風で身動きの取れないクロトスは体に十数本ほど刺さる。

刺されると同時に傷口が焼かれ、熱いのか痛いのかさえわからない。

風の嵐が止むと同時に炎の羽が止む。

と同時に刺さった羽が一斉に爆発した。

一つ一つの破裂する威力が大きく、クロトスは炎に包まれる。

風で吹き飛ばされた水蒸気の影から現れたのは炎の天使。

大きな炎の翼を羽ばたかせるウリエル。

その姿は荒々しく、神々しく、美しい。

しかし、よく見ると所々から血を流し、体中が凍傷に侵されている。

今にも力尽きて墜落しそうなウリエルはひたすら前を、クロトスのほうを見る。

爆発がはれるとウリエルと同じく満身創痍のクロトス。

血を流し、ウリエルとは逆に火傷に侵されている。

息を切らすウリエルが音を立てて羽ばたくと翼から羽が抜け落ち、それがクロトスに向かう。

紅い紅蓮の炎の羽根。

血と炎を纏う天使が羽ばたくたびに幾重にも、幾重にも途切れる事なく、神の王を襲う。

数多の火の羽根に対し、クロトスは【創造】する。

何物も通さぬ強き風、全てを弾き返す拒絶の風、自分の身を守る優しき風、こんな楽しい戦いを終わらせないために必要な風の衣を。


「【万物創造《風の衣》】」


【創造】された風が創造主を守るようにクロトスを包み込む。

風に衝突した羽根は霧散し、逸らされた羽根のいくつかは大地を焦がし、2人の戦いの影響を奇跡的に受けなかった森を焼く。

この行為が無駄だと知るとウリエルは剣を構え、羽根を羽ばたかせながら凄まじいスピードでクロトスに迫る。

風が止むとクロトスはそれを知っていたかのように既に剣を構えていた。

先程とは違い、神界ですら売れば値が付けられないような最高ランクの剣。

例えるなら銀雪。

神秘的な程の白さの刀身はこのクロトスが作った地下空間内の擬似的な太陽の光を浴びるとクリスタルのように輝く。

そして、再び互いの剣が交差する。

お互いが笑みを浮かべて、この楽しい宴をそう簡単に終わらせてなるもんかと歓喜に震えながら。

この宴は更に数時間続いた所で互いが力尽きた。

決着は着かなかったが共に満面の笑みを浮かべていた。


…………

……


《ちなみにその他の人はというと…》


「くっ、結界が保たぬぞ!全員、死にたくなかったら結界が破られると同時に死に物狂いで逃げろ!」

「イヤー!イヤー!イヤー!」


神の王と炎の天使の戦いの余波で既に結界はボロボロ。

周りは焼け野原。

所々にクレータとマグマの海がある。

結界が揺れるたびに恐怖でティニアが頭を抱えて悲鳴をあげる。


「…あの二人だったら大陸の一つぐらい簡単に消滅させられるんじゃ…?」


リンは顔を青くしながら震える足を抑えて言う。

実際はこの二人だったら星の形を変えるぐらい可能かもしれない。


「キレ〜イ♪」


エルは戦いで生じる見た事ない魔法を見ながらまるで花火を見ているかの如く楽しんでいる…ようにも見えるがその目は虚ろな瞳であった。


「イヤー!結界にヒビが入ったー!!!!!」

「だから嫌だったのだ!あの二人が戦うといつもいつも!」

「…神よ、懺悔致します。王様、王妃様には言葉では言い表せない程感謝しています。出来れば…死ぬ前に…死ぬ前に…、一度で良いから…父と…、母と…呼びたかったです。」

「あっ、今度の魔法もキレイ♪今度お兄ちゃんに魔法を教えてもらおうかな?」


結界が破られると同時に全員が二人が力尽きる数時間逃げ続けた。

奇跡的に四人共が死なずにすんだ。

そして、二人が力尽きて倒れた所で満身創痍の二人を涙ぐみながらリンチ(気がすむまでバキバキと蹴り続けた)にかけた。

それがトドメとなったかは知らないが喫茶店は二週間程閉店の看板が下がり続けた。

久しぶりの投稿です。…ごめんなさい。

短編の投稿、卒業式、就職関係etc…と言い訳がたくさんありますが改めて申し上げます。

申し訳ございませんでした!

引越しetc…がありますので落ち着くまでまたこのような状況があるかもしれませんが必ず完結はさせます。

これからもよろしくお願いいたします。

by 蛹

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