神の怒り=魔王降臨!?
短編を書こうかと思う今日この頃。
作品数2作じゃ少ないかなぁ?
いくつか書こうかぁ?
……と考えている夢を見ました。
試合終了後、公務のために大会を抜け出せないでいるティニアを除くいつものメンバーは喫茶店に集合していた。
ティニアも喫茶店に行こうと止める兵士達の屍(重傷者多数ではあるが死者は0)を次々と積み上げるが最終的には執事のジュニアールの吹き矢の前に倒れた。
筋弛緩剤が塗られた吹き矢を受けて動けなくなったティニアを引きずり、いつのまに用意していたのか特別製の不可視の紐で椅子にぐるぐる巻きに固定された。
観客席からは王女が威厳たっぷりに試合を観戦しているように見えるだろう。
しかし、ティニアは今にも噛み付きそうな獣の目でジュニアールを睨んでいて試合などには目もくれない。
一方のジュニアールは飄々としており、ティニアが拘束から抜け出した際に使おうと考えている麻酔薬の準備をしている。
だが、ティニアは喫茶店に来なくて正解だったのかもしれない。
実際にティニアを見捨てて喫茶店に来た3人は後悔していた。
喫茶店には魔王が降臨していた。
その身に禍々しいオーラを纏わせ、見るものの身を凍えさせる氷よりも冷ややかな目。
カウンター席で氷袋を頬に当てて冷やしながらも顔に青筋を浮かべる鬼の表情。
かの有名な魔界の支配者サタンさえも畏怖するであろうであろうプレッシャーを放つ神王改め魔王クロトス。
原因はもちろん試合でウリエルがクロトスをブッ飛ばした件である。
頬はぷっくりと腫れており、奥歯も欠けてしまったクロトス。
診察の後、クロトスは一言も喋らずにもくもくと喫茶店へ向かった。
一緒にいたウリエルがいくら謝罪しても一言も話さない。
3人が喫茶店についた時にはクロトスは目の前で土下座をしているウリエルを殺気混じりに睨みつけている所だった。
「申し訳ございませんでした!」
はっきりとした声で謝罪の言葉を口にするウリエルだが体は震えている。
クロトスはウリエルの謝罪の言葉を聞いてもそのプレッシャーは変わらない。
「申し訳ございませんでした。」
「申し訳ございませんでした…。」
「申し訳…ございませんでし…た。」
「………ごめん……なさい…。」
「……ごめんな…さい。」
「…ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「……本当に…ごめんなさい。」
かれこれ30分以上ウリエルは謝罪し続けている。
エル、リン、グラムはテーブル席で2人の様子を落ち着きが無い様子で見守っていた。
止めようかどうか迷っているがクロトスの迫力に中々決心がつかない。
ティニアがさらに何か言おうとしたところでグラムが声をかける。
「主よ。その辺で許してやってはどうだろうか?」
クロトスは視線だけをグラムに向ける。
途端にグラムの体に重圧が圧し掛かる。
クロトスのプレッシャーをもろに受け、空気が重くなるような錯覚さえ起こす。
「ウリエル…殿も悪気があって…やったわけではあるまい…?」
プレッシャーに押しつぶさせそうになりつつも言葉を紡ぐ。
グラムの言葉でクロトスの雰囲気が穏やかになった。
「…わかったよ。」
そう言ってクロトスは氷袋を頬から離す。
最初よりは腫れと熱は引いたみたいだ。
クロトスは席から降りてウリエルの肩に手を置く。
置いた瞬間にウリエルの体がビクッと震える。
「もう許してあげるから顔を上げて。」
「本当に…すみませんでした。」
顔を上げたウリエルの頬は涙を濡れていた。
それを見たクロトスは若干の後悔を胸にし、ポケットに手を入れる。
「…【万物創造 《ハンカチ》】。」
ボソッとエル、リンに見えないようにポケットの中で小声で《創造》する。
ポケットから取り出した蒼いシンプルなハンカチをウリエルに渡す。
「…すみません。」
一瞬だけ躊躇したウリエルだったが素直に受け取る。
そして、皆に見えないように横を向いて涙を拭く。
その時、クロトスがウリエルだけに聞こえるような小さな声で囁く。
「お前の泣き顔なんて…小さい頃に見飽きたんだよ。」
ウリエルがハッと目の前を見るとすでにクロトスはキッチンへと姿を消していた。
心配になったエルとリンはウリエルの傍に駆け寄る。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとう。…そんなに心配しなくても大丈夫よエルちゃん。リンちゃんもありがとう。」
ニッコリと微笑むウリエルだが目は赤い。
それを見たリンはキッチンへ向かおうとする。
「駄目よ、リンちゃん。」
それをウリエルはハッキリとした言葉で止める。
リンはウリエルの方を向く。
「…クロにぃもやりすぎだと思う。」
「…私はね、神…クロトスに怒られたから泣いているわけではないの。」
「えっ?」
エルとリンは頭に?マークを浮かべる。
「だいたいにして主が本気で怒ったらこんなものではすまないぞ。」
「それもそうね。さっきは気が動転していたからわからなかったけど。」
「…あれで本気じゃないの?」
リンは先ほどの迫力で本気ではないなら本気で怒ったらどうなるのか想像がつかなかった。
「私はね、クロトスを守るどころか傷つけたことが情けなくて泣いてるの。」
ウリエルは悔しさから手を握り締める。
「小さい頃からあの人に憧れた、尊敬した。あの人を守りたい。支えたい。隣にいたい。あの背中に追いつくために、小さい頃から頑張って、やっと…やっと隣にきたつもりだったのに!こうして…傷つけてしまった。決意したあの日から……ただあの人のために…なのに。」
唇を食いしばるウリエルはとても痛々しく、儚げに見えた。
エルとリンが元気付けようと声をかけようと思ったが…
「だったら泣くな。前を見て笑え。そして、食え。」
そう言ってウリエルの前に差し出されたのは1枚の皿に乗ったチョコレートケーキ。
お酒で香り付けされた香りがウリエルの鼻腔をくすぐる。
皿の向こうにはいつもと同じクロトスがウリエルを見つめている。
「とりあえず、これは試合のご褒美と日頃の感謝の印だ。お前が頑張っているのは知っている。だけどな、もう少し肩の力を抜け。誰もお前を攻めない。文句いう奴は俺が潰してやる。だからもう少しお前は笑うことを覚えろ。笑っている顔の方が今の顔よりよっぽど……ましな顔だぞ。」
ウリエルがプッと噴き出す。
「ちょっと…ましな顔はないんじゃないの?」
「どうせ、『今の顔よりよっぽど綺麗だぞ、ウリエル。』とでも言うつもりが恥ずかしくて言えなかったのだろう」
「うるさい、グラム!」
グラムとクロトスが言い争っているがウリエルはケーキに手を伸ばす。
そこにリンがフォークを差し出す。
ウリエルはお礼を言って受け取るとケーキを口に入れる。
甘く、ちょっとほろ苦い。
「クロトス。」
「だから……何だ?」
ちょっと興奮しているのか息を切らすクロトス。
ウリエルは笑顔を浮かべる。
「ありがとう。とっても、とっても美味しいわ。」
「…そうか。」
クロトスは目を逸らすが耳が赤くなっているのをウリエルは見逃さなかった。
「おにいちゃん、私達には無いの?」
「あるぞ。2回戦勝利記念パーティーだ!」
「…プリンある?」
リンが目を輝かせて聞く。
「さっき主と2人で作ったぞ。」
グラムはプリンやらのデザートが乗った皿がいっぱいのトレイを運んできた。
それを見たリン、エルは笑顔になってグラムが皿を並べるのを手伝う。
「パーティーはまだ始まってないわよね!?」
走ってきたのであろう、喫茶店の入り口に汗びっしょりのティニアが駆け込んできた。
「これから始めるところだぞ。」
「セーフ!」
クロトスの言葉に安堵したティニアはリンが持ってきたコップを一気に飲み干す。
…飲み干した途端にティニアは床に倒れた。
「って、おい!?」
「リンちゃん、何飲ましたの?」
「…《THE レクイエム》。アルコール度数が高すぎてめったに出回らない幻のウィスキー。…ブイ♪」
「ブィ…じゃないぞ!どうするんだよ!?」
ウリエルは苦笑して立ち上がる。
そして、心からの笑顔を浮かべる。
喜びの笑顔を。
「とりあえず、ティニアさんの介抱の後でリンちゃんのお説教ね。」