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神に誓いし絆

とある事情で忙しくて更新できませんでした。

朝早く起き、帰ったら倒れるように眠る。

本当にこんな生活をしていました。

一昨日にこの地獄生活から抜け出しました。

これからも遅いかもしれませんが確実に更新します。

舞台でクロトス、ウリエルが愚痴を言っているその頃。

ちびっ子3人(リン、エル、グラム)はというと…


「…本当に我がここにいていいのか?」

「いいのよ。王女の私が許可したんだから。」


闘技場内の王族専用のバルコニーにグラムは招待されていた。

バルコニーには丸いテーブルが設置されており、そこにティニア、リン、エル、グラムが座っている。

前回のような王族が座るための豪華な椅子は撤去されていた。


「それに私達にも休暇を出しちゃっていいんですか?」

「…ここも関係者以外立ち入り禁止だから休暇中の私達は入れないはず。」


リン、エルは周りのメイドや兵士達の目を気にしながら聞く。

その問いにティニアはにこにこと自信満々で答えた。


「王女の私が許可します♪」


ティニアは王族の格好だがメイド2人は休暇中のために私服である。

清楚なワンピースのリンとボーイッシュな格好のエルはいきなりティニアに休暇を言い渡され、ここに連れ込まれた。

そこには鋲打ちのジャケットを着込み、手にチェーンの装飾品を巻いたグラムが落ち着きなさそうにテーブル席に座っていた。

ちなみにその服のコーディネートはクロトスの趣味。

傍目にはかっこいい美少女というグラムの服装はグラム本人も気に入っている。

しかし、ウリエルはグラムにかわいい系の服を着て欲しいと思っている。

ウリエルは何度かフリフリのシルクのドレスやワンピース等を着せようとしたがグラムは拒否した。

見た目を気にしないグラムにとってはフリフリの動きにくい服よりもクロトスが勧める若い男性が着るような服の方が丈夫で動きやすい。

ウリエルにしてもクロトスの勧める男物の服をグラムが着ると意外と似合う所かボーイッシュな雰囲気が逆に色っぽく、明らかに自分が勧める服よりも似合うために強くは言えない。

しかし、用意した服はいつか着せようとこっそり隠してあるウリエル。

主人が選んだ服を着たグラムは選手関係者席で観戦しようと思っていたところに老執事経由でここに招待された。

そのため、今は4人で紅茶を飲みながら試合が始まるのを待っている。


「…もしかして、寂しかったんですか?」


皆で紅茶を飲みながらクッキーを食べている最中にリンがボソッと口に出す。

その言葉にクッキーを取ろうとしたティニアの動きが逆再生のように戻り、小さく、恥ずかしそうに頷いた。


「パパもママも今日は執務で来れないっていうから……そのぅ…ねぇ?」


恥ずかしそうに問いかけるティニアに苦笑するメイド2人。

グラムはその光景を見て、内心微笑む。

年齢で言ったらグラムはこの3人の数百倍生きている。

その人生の中で他者との交流というものはほとんどなかった。

特にこのような温かいものは皆無であった。

ある人に出会うまでは…。


「そういえば、グラムさんとおにいちゃんはどういう関係なの?」


突然、エルがグラムに聞く。


「あっ、私も前から気になってた。」


その問いにティニアも反応する。

突然のようにやってきたウリエルとグラム。

ウリエルはクロトスの友人と自分のことを説明していたがグラムに関しては何も聞いていない。


「主と我か?」

「…やっぱり主従関係?」


面を食らうグラムにリンは疑問を投げかける。

グラムがクロトスを『主』と呼ぶためにそう思ったのであろう。


「我と主の関係か…。」


グラムは考えるが明確な答えは思いつかない。

しかし、それだと目の前でグラムの答えを聞き洩らさまいとものすご〜く注目している3人は納得しないだろうとグラムは考える。

そのためにできるだけ言語化して伝えなければならない。


【主従】=主により秘密と言われているので却下。

【友人】=それだけでは足りないような気がする。

【家族】=将来は側室、できれば正室を狙うつもりだが今は違う。

【道具】=主はそう思っていないらしい。


しばらく考えてグラムの中で1番近そうな答えを言った。


「明確にこれだと言えるものは無いが…あえて言うなら色々な意味で『剣』であろうな。」

「『剣』っていうと…用心棒?」


グラムの言葉をティニアはそう解釈した。

ティニアが昔読んだ物語に用心棒が自分のことを依頼人を守る『剣』であると例えた場面があったのを思い出したからだ。

グラムは少しだけ考えるとティニアの言葉を肯定する。


「守護するという意味では間違いではないが…我は主の『剣』として主と共にある。太古より武器は持ち主の願いを叶えるための道具として存在する。大事な者を守るために、欲しい者を奪うために。我は主のあらゆる願いを叶える『剣』。立ちはだかるものを斬り、なぎ倒し、ねじ伏せる。それが契約…いや、我自身の望みでもあるからな。」


そう言って一息つくためにグラムは紅茶を飲む。

グラムの真剣な言葉に3人が息を飲む。


「…クロにぃの望みって?」

「我からは言えん。主の口から聞くんだな。」


リンの問いにグラムは答えられない。

資格が無いからだ。

3人はクロトスの正体を知らない。

クロトスは恐れているからだ。

正体を知った3人がどのような反応をするかを。

この3人はそのクロトスの恐怖を拭い去るような『   』が無い。

その『   』が無い限り、クロトスは3人に語らないだろう。

だから、グラムも語らない。

主の意思を守るのも『剣』の役目である。


「他の答えられる問いにだったら答えよう。これでも主との付き合いは長いからな。」

「本当!?」


グラムの言葉にエルが喜びを露わにする。

リンやティニアも目を輝かせる。

それを見て、普段めったに笑わないグラムもつられてうっすらと微笑む。


「ああ。」


グラムは思う。

だから3人が『   』を得るまでにこの心地よい場所を守る。

『剣』として、『友』としてのグラムの意思で。


「え〜と、…リンちゃん!何を聞こうか!?」

「…迷う。王女様は?」

「あ〜、早くしないと試合が始まる!」


3人が慌てて何を質問しようか考えているとバルコニーにショートカットのメイドがトレイに飲み物を持って現れた。


「失礼いたします。お飲み物をお持ち……なんで貴様らがここにいる!?」

「やばっ!」


突然のメイアの出現にリンとエルは顔をしかめる。

メイアは先日のパーティーでクロトスにノックアウトされてから機嫌が悪い。

ちなみにパーティーの一件は城内では有名である。

日頃の恨みと称してとあるちびっ子双子メイドがあらゆる場所に広めたからだ。

もちろんティニアも知っており、クロトスに剣を向けたメイアにきつい言葉を浴びせる。


「メイア。お客様の前で私に恥をかかさないで欲しいわね。」

「もっ、申し訳ございません、王女様。」


王女の前で醜態をさらしたことに気づいたメイアは慌てて頭を下げる。

ティニアはせっかくの質問タイムを邪魔されたことで機嫌が悪い。


「彼女らは休暇中であり、私の客人としてここに招待しています。何か問題がありますか?」

「…いえ、なんでもありません。」


頭を下げているが目はこの忙しい時に王女と紅茶を悠々と飲んでいるリン、エルを睨んでいる。


「わかったら下がりなさい。」

「かしこまりました。」


踵を下げて戻ろうとするメイア。

内心では休暇が終わったらこき使ってやろうと心に決めた。


「あ〜、メイア?」


メイアが出て行こうとした寸前にティニアの呼び止められた。

ギクッと動きを止め、内心を悟られないように笑顔で振り向く。


「い、いかがなされましたか?」

「その鼻はどうしたの?」


笑顔が引きつった。

1番触れて欲しくなかった場所にクリーンヒットした。

メイアの鼻周辺は赤く腫れ、一文字のミミズ腫れが出来ている。

それを隠すためにマスクをしているがそれでも注意深く見れば気づいてしまう。

前回のパーティーでクロトスに蹴りつけられたトレイの痕が腫れているのである。

恥ずかしくて休みたかったが忙しい時期でもあり、自身のプライドのためにマスクでなんとか隠して仕事をしている。


「少々風邪気味で…。」

「おにいちゃんに襲い掛かって秒殺されたときの痕が恥ずかしいだけでしょう?」

「クッ!」


誤魔化そうとしたらその場にいたエルにばらされた。

ちなみにエルの言葉にその一件を知らないグラムの紅茶を飲もうとする手が止まる。


「どうゆうことかしら?」


事情は知っているがメイアに恥をかかせようとわざと聞くティニア。

ティニアは初めてこの話を聞いた時は処刑しようかと考えたほどだ。

色々と問題があるのでリン、エルが止めたが…。


「この前のパーティーでおにいちゃんに注意されたメイアさんが逆上しておにいちゃんに襲い掛かったら返り討ちにあったんです。」

「…無様。」


ティニアの質問にエルが答え、リンがさらにボソッと貶す。

言い方は引っかかるが間違っていないだけに言い返せないメイアは羞恥と怒りで顔を真っ赤にする。


「本当なのかしら、メイア?」


ティニアは誰が見ても内心は怒っているとわかる笑みを浮かべてメイアに聞く。

もちろんメイアにもそれはわかった。

しかし、ここでメイアは勘違いをする。

ティニアは『クロトスを攻撃した』ことに怒っている。

しかし、メイアは王女は『たかが選手1人に武装メイド部隊隊長が負けた』ことに怒っていると思った。

だからこそ地雷を踏んでしまった。


「あの時は油断していただけです!あんな屑などに私が遅れを取るはずがない!第一、町で喫茶店を営んでいるような軟弱な者が大会に出ている事自体がおかしいんです。1回戦は棄権者が多数出たためにまぐれで勝ったみたいですし、あのオルガとかいう化け物に勝ったのも相手が見掛け倒しかあいつとグルだったに決まっています。今度会った時はあいつの首を切り取ってあいつの喫茶店に飾ってやりますよ!」


空気が凍った。

バルコニーの警備をしていた兵士達でさえわかる。

わからないのは地雷を踏んだメイドのみ。

ティニアはこのメイドの処分を考える。

できるだけ屈辱的なものを、いや、肉体を痛めつける拷問器具が城の倉庫にあった気がする。

そのようなことを頭の中で考えている。

エルはリンにアイコンタクトを送る。

リンはそれに頷き、右手を袖の中に引っ込める。

再び手を出すとリンの右手にはガントレットが装着されていた。

それも様々なギミックが備われているであろう精巧で緻密な造りがされている。

あと数秒もすれば後先考えずに攻撃していたであろう。

ティニアもそれを止めはしないだろう。

その前にグラムが動いた。


「おい。」

「なんだ、小娘?」

「主の侮辱は許さんぞ。」

「何だ、あいつの知り合いか?部外者は失せな。子どもが来る場所じゃないぞ。それとも、あの屑の前にお前を叩きのめそうか?」


いささか興奮していたのであろう。

王女の前ということも忘れ、目の前の者が王女の客と言うことにも気づかず、近くにいる兵士でさえもわかるほどの凶悪な殺気を放っている者を目の前にしていることにも気づいてはいない。


「…万死の値する。貴様がこの世界に存在していることを害と判断する。」

「何を言って……ひぃっ!?」


メイアは見た。

グラムの瞳が赤く染まっていた。

何処かおぞましく、美しく、醜悪な、血の色。

角度的にティニアとリン、エルには見えないだろう。

兵士達は先ほどのグラムの殺気に当てられて目を逸らしているか閉じている。

見ているのはメイアのみ。

恐怖に怯えるメイアだが目をそらすことはできない。

そこでメイアの意識は途切れる。

いや、正確には失われた。


「メイア?」


様子がおかしいと思ったティニアがメイアに問いかけても返事は返ってこない。

怯えた表情で立ったまま固まっていた。


「気絶するほど疲れていたのであろう。そこの兵士、メイアを運んで!」

「はいっ!」


そのまま兵士に担がれてメイアは運ばれていった。

メイアは担がれても石像のように微動だにとも動かなかった。


「…いい機会だから首にしましょう。いくら剣の実力があってもあの性格は問題有りすぎるわ。」

「賛成です。メイド仲間からも前々から要望はありましたし。」


ティニアの発言にエルが賛同する。

メイアが問題を起こしたことはこれが初めてではない。

城でも色々と問題を起こす厄介者である。


「ごめんなさいね。王女としてお詫びするわ。」


ティニアはグラムに頭を下げる。


「そなたが悪いわけではない。気にするな。それよりも試合が始まるぞ。」

「「本当!?」」


ティニアとエルは試合を見るためにあわてて目線を舞台に移す。

しかし、リンは2人に気づかれないようにグラムに耳打ちをする。


「…メイアさんに『呪』をかけませんでしたか?」


グラムはリンが見ただけで気づいたことに驚き、一瞬だけ眼を見開くがすぐに平静を取り戻す。


「主には秘密だぞ。」

「…言いません。彼女にはどうせスパイ容疑もかかっていましたし。」

「…リンは何者だ?」


ただのメイドが一発で呪をかけたことを見抜き、裏の内部事情を知っているものなのか。

問われたリンはただ微笑んだ。


「…それ、そっくりそのままお返しします。」


言い返されたグラムも微笑み返す。


「答えは『秘密』だ。」

「…私も『秘密』です。」

「では、主の味方か?」

「……グラムさんは自分を『剣』と言いましたね?」


少し悩んだリンがそう問いかける。


「それがどうした。」

「…『剣』が貴方なら私は何にもなりません。ただ、クロにぃのずっと傍にいます。『剣』よりも近く、『友』よりも親密に、『恋人』よりも愛されたい。」


グラムは意表を突かれた。

比較的無口のリンがこれだけ喋ることができたこともそうだが自分の主人にそれだけの感情を持っていたことに。


「…誓えるか?」

「…クロにぃとの絆にかけて。」


グラムの真剣な表情にリンは偽りのない眼で答える。


「主に代わって礼を言う。…ありがとう。」

「…負けませんから。」


リンはそれだけを答えた。

グラムはそれを何に対して言っているのかすぐにわかった。


「…我もだ。」

「リンちゃん、グラムさん。始まるよ〜♪」


のん気なエルの呼び声に2人はささやかな笑顔で答え、お互いが好意を寄せる相手の戦いを見に行った。


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