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神のパートナー

先ほどの出来事から落ち着いたところで一息入れるために皆に新しい飲み物を出すクロトス。


「えっと、助っ人の話…だったわよね。」

「…そう…ですね。」


ティニアとリンは何事も無かったかのように振舞おうとするが顔は未だに赤い。

とりあえず、周りの者はそれに合わせてあげた。


「じゃあ、私が出る♪」

「「却下!」」

「ぶぅ〜。」


エルの出場希望の意見をティニアとリンがバッサリと断ち切る。

2人はエルがある程度の戦闘訓練は受けていることは知っている。

しかし、それでも大会に出場できるほどのレベルではない。

というよりもあきらかに2人には他の理由があるのだが…


「「(クロトス(クロにぃ)と一緒に戦うのは私っ!)」」


2人はお互いを牽制し合うかのように目から火花を散らす。

拒否されて頬が膨れるエルはクロトスに上目使いでねだる。


「おにいちゃん〜♪」

「ダ〜メ。それに相手はもう決まってるし。」


ちょっとかわいいと思ってしまったが我慢して断るクロトス。

そう言ってクロトスはカウンター席に目を向ける。

そこには優雅にコーヒーを飲むウェイトレス。


「ウリエルさんなの?」

「…エッ?」


今気が付いたかのようにウリエルはコーヒーから視線を上げる。


「ウリエル殿が助っ人なのか?」

「聞いてないわよ?」

「今言った。」


グラムとウリエルの言葉をさらりと返す。

ニヤリと笑うクロトスにウリエルは淹れたての熱いコーヒーをクロトスの顔にかけたくなるが勿体無いのでなんとか我慢する。

その代わりにウリエルは笑顔で殺気を発しながらクロトスを視線で射抜く。


「お前だったら楽勝だろ。」


その視線を無視し、さも当然のようにウリエルに言う。


「女性に戦わせようとする男の人ってどうかと思うけど?」


ウリエルの皮肉をクロトスはそれがどうしたと言わんばかりな態度で返す。


「んなもん知るか。大体そういうのはか弱くて怪我しそうな女性に対してだ。素手でそこら中の男共を血の海にできる奴には必要ない。」


ウリエルの笑顔が若干引きつる。


「貴方だってそんな事簡単でしょう?大会だって貴方1人で十分じゃないの?」


徐々にヒートアップしていくクロトスとウリエルの言い合いにティニアは慌てて止める。


「ストップ!クロトス!ウリエルさんを大会出場させるなんて危ないわよ!」


ティニアの言葉にウリエルの動きがピタッと止まる。


「…クロにぃの助っ人は私。ウリねぇは応援して。」


リンのささやかな主張にウリエルの整った顔に青筋が出来る。


「ウリエルおねえちゃんも落ち着いて。おねえちゃんがか弱いのはわかってるから。」



ぶちんっっっ!!!


ティニア、リン、エルの何気ない一言でウリエルの何かが切れた。


「私が…人間相手に危ない?…弱い?代わりが子ども?……ふふっ♪」


近くにいたクロトスとグラムにのみ聞こえるような小さな声でぶつぶつと呟くウリエル。

クロトスとグラムは怪しく禍々しいオーラを放つウリエルから逃げ出したい気持ちを何とか抑える。

今までの経験上、この状態のウリエルの前で下手に動くと場合によっては血を見る。


「…出るわ、その大会。」

「危険で…うぷっ!」


ティニアが止めようとするがその言葉を言い終える前に一瞬にしてクロトスとグラムがカウンターからティニアの横に移動して、その口を手で塞ぐ。

ティニアとリン、エルはあまりの速さに反応すら出来なかった。

ウリエルはコーヒーを見ながらぶつぶつと何かを言っている。


「頼むからこれ以上は危険だからあいつを刺激するな。」


クロトスの小声ながら必死の言葉にうなずく一同。

しかし、好奇心旺盛なエルはクロトスに聞く。


「おにいちゃん、……ちなみに、言ったらどうなるの?」


恐る恐る聞くとクロトスは恐怖、グラムは苦笑いで答える。


「……あの状態のウリエルに余計な事を言ったとある奴は……内臓をぶちまけた。」

「その後で主は毎回ウリエル殿をなだめるのに苦労してる。ある時は殴られ、蹴られ、泣き付かれ、燃やされ……。」

「…冗談?」


2人の話にリンが冗談と思ったがクロトスが首を横に振る。


「俺の目の前で殺りやがったんだぞ。だから、命が惜しかったからよけいな事を言うな。」

「「「了解。」」」


さすがに笑い話では無いと悟った3人は命を守るために了承した。

その証拠に先ほどティニアの口を押さえていた2人の手は恐怖で震え、かすかに汗ばんでいた。


「言っとくがあいつにこれから『弱い』は禁句だ。死にたくなかったら言うな。」

「貴方も…余計な事は言わない方が身のためよ?」


耳元で聞こえるウリエルの声に体がビクッと硬直するクロトス。

錆び付いた機械のように軋みをあげながらゆっくりと振り向くとウリエルはカウンター席からは動いていない。

視線だけはクロトスの方に向いている。

それなのに5人は尋常じゃないプレッシャーで指1本動かすことすらままならない。


「それ以上言うと……。」


プレッシャーがさらに増大した。

窓が、壁が、喫茶店中がそのプレッシャーガタガタと震えていた。


「…わかった。それで、出るのか?」


クロトスが返事をすると同時に喫茶店内に充満していたプレッシャーは無くなった。

落ち着くためにもクロトスとグラムは元いた場所に戻ってコップの飲み物を飲む。

ティニアは今の出来事を忘れようと無言でケーキに手を伸ばし、エルとリンはパスタをもくもくと食べる。


「他に当てが無いんでしょう?しょうがないから出てあげるわ。」

「サンキュー♪」


ため息を吐きながらコーヒーを飲むウリエル。


「我が出ては駄目なのか?」


グラムが聞くとクロトスは若干悩む。


「お前の場合は肉弾戦しか駄目だぞ。」

「じゃあ、辞退しよう。肉弾戦だと胸が邪魔で戦いにくい。」


そう言って自分の胸に両手を当てる。

ウリエルは無言でグラムの頭を叩く。


「グラムさんってお胸大きいよね。」

「…姫様といい勝負。」

「リン。それは言わないで。」


メイド2人はグラムの胸をまじまじと見つめる。

ティニアはリンの言葉に若干落ち込む。


「どうやったら大きくなるの?」


エルの疑問にティニアはピクッと耳を大きくする。

リンも顔を赤くしながら真剣な表情で聞こうとする。


「これは主が大きくしたものだから我は知らん。」


喫茶店内の時が止まり、温度が数度下がったような錯覚が起きる。


「誤解を招く言い方をするな!」


いち早く立ち直ったクロトスは全力で反論する。


「この体は主が作ったものであろう?」

「間違ってはないが言い方が悪い!」


空気が冷え切った店内のテーブル席では燃えるようなオーラが放たれている。

チラッとクロトスがテーブル席を見ると3対の瞳がクロトスを射抜く。


「変態!」

「…ロリコン。」

「おにいちゃん…。」


クロトスは睨むティニアの言葉が心臓を抉り、無表情が逆に怖いリンの一言が精神を切り刻み、うっすら涙をためるエルの呼び声に大切ななにかが崩れ落ちる感じがした。


「ウリエル殿。我は何か間違って言ったか?」


よくわかっていないグラムはウリエルの服を引っ張って聞く。


「貴方……実はわざとやってない?」


グラムの疑問に苦笑いを浮かべるのが精一杯であった。


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