神とメイドとの乱闘騒ぎ
そろそろ30話の番外編を考え出さないと…。
番外1はウリエルとグラム。
番外2は王と王妃と間接的にメイド2人。
………ティニアとクロトスのデートにしようかしら?
「…まだやってたのか。」
クロトスが小皿に料理を取り終えて元の場所へと戻ってくると未だにレイとメイアは火花を散らし、エルと伯爵はお互いの呼び名から昔の事について言い争っていた。
「前回の大会の時だって――――っ!」
「……先に食べてるかな。」
エルが珍しく怒鳴っているがクロトスは気にせずに料理を頬張る。
さすがに王国主催だけあって味は良い。
「白ガキだって俺のおやつを――――っ!」
「…うまい!良い野菜使ってるな〜。」
いつの間にか呼び方が変わっていたがクロトスは皿に乗っている料理のおいしさに頬を緩ませる。
特に料理に使われている野菜の味は絶品であった。
「6年前だっけ?貴方が隣国で――――。」
「これは隠し味に…果物の果汁を入れてるな。」
ステージではレイがメイアの過去の失敗談を語る。
クロトスは全神経を使って、料理の味を盗むことに没頭する。
喫茶店で同じ料理を出すと値段が高すぎるので参考にして違う料理に生かしたい。
「それだったら貴方だって――――!」
「……ごちそうさまっと。さてと…。」
メイアが言い返し始めたと同じくしてクロトスは皿の上の料理を食べつくした。
空の皿をテーブルに置いて、周りを見渡す。
会場にいたはずのほとんどの選手は酒に酔いつぶれていた。
武装メイド部隊もただのメイドとなって酔いつぶれた選手に毛布をかけている。
「「「「―――――ッッ!!」」」」
「……【万物創造 《水》】。」
言い争っている4人の上から滝のように【創造】した水を落とす。
ステージ上の2人は言い争いに夢中だったために避けることもできずにステージから流された。
エルと伯爵もびしょ濡れとなって、滝の勢いに負けて尻餅をついていた。
会場中の床もクロトスが【創造】した水で水浸しとなり、酔いつぶれた選手が慌てて起きだす。
床は拳ほどの深さまで水が溢れかえる。
「いい加減に進めてくれないか?明日の喫茶店の準備があるから早く帰りたいんだけど。」
いつのまにかテーブルの上に立っているクロトスはレイと伯爵に言った。
クロトスが周りを見ると他に数人の選手がテーブルの上に立ち、水に濡れるのを避けていた。
他の選手は会場が一瞬で水浸しになったためにほとんどの者がびしょ濡れである。
つまり、テーブルに立っている者はその一瞬で判断してテーブルに登って水を避けたのである。
クロトスはその選手の顔を覚える。
その者達が強者と判断したために。
「貴様ッ!」
会場の隅に流されていたメイアは立ち上がってレイピアを抜き、クロトスに詰め寄る。
クロトスはチラッとメイアを見たが興味なさそうに視線を外し、レイを見る。
「酔いつぶれている奴だっているんだからさっさと用件を済ませてくれないか?特別ルールの説明を受けてないんだが。」
「―ッ、降りて来い!」
無視されたメイアはテーブルに立つクロトスに向けて、剣の先を向ける。
エルは頭を押さえながらメイアに告げる。
「メイアさん、怪我しちゃうからやめてよ!」
「エル、貴様も貴様だ!仕事をさぼってたのを見ていたぞ。だいたい、こいつの怪我の心配などする必要などない!」
「そうじゃなくて、怪我をするのは……!」
「うるさいっ!」
メイアはエルの忠告を無視してクロトスに襲い掛かる。
メイアはテーブルの上のクロトスの左足をレイピアで貫こうとした。
普通の者であれば痛みも無く、貫かれたであろう。
クロトスはため息を吐き、貫かれる瞬間に左足を上げて、メイアのレイピアを踏みつける。
メイアはすかさずレイピアを引こうとするがそうする前に意識を失う。
クロトスがさきほど置いた皿をメイアの額に向けて右足で蹴ったのだ。
額に皿の縁の後を残して、床に崩れ落ちそうになる。
クロトスは一瞬でテーブルから降りてメイアを支えて、床に崩れ落ちるのを防ぐ。
そして、駆け寄ってきた武装メイド部隊にメイアを渡した。
メイドは複雑そうな表情で一礼をしてメイアを抱えて会場から出て行った。
「…怖いのか優しいのか良く分からないわね。」
「早くしないと次はレイさんの番ですよ。」
ボソッと洩らすレイに忠告したのはいつのまにか横にいるエルであった。
「それと、おにいちゃんは優しいの♪」
なぜかご機嫌のエルはレイの言葉を訂正する。
「それじゃあ、ご機嫌を損なわせないためにも(私の身の安全のためにも…)早く終わらしましょうか。」
心の声が聞こえた気がしたエルだがレイは軽くドレスを絞ってステージに立つ。
「特別ルールは……というよりもルールの改変ね。それはルールの緩和!殺し、急所攻撃etcの大部分の制約を自由とし、助っ人も1人だけ認めます。他のことについては本部に問い合わせてください。以上で解散。」
レイは逃げるように会場から出て行く。
一瞬の静寂の後に再び怒号が会場を埋め尽くした。