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神とウェイトレス

卒業準備で忙しくなりました。

更新待ってくれていた人はごめんなさい。

…そんな人はいるのかな?

「ひ〜め〜さ〜ま〜!!」


城に響き渡る年老いた声。

年老いた執事が追いかけているのはこの国の王女。


「ジュニアール!貴方は年寄りの癖に元気良すぎよ!」

「このジュニアール!まだまだ若いもんには負けませんよ!」


実に3時間弱。

この2人は城内をとてつもないスピードで走り回っていた。

すでに一緒に執事と共に王女を追いかけていた兵士達は力尽きていた。


「ティニア様!いい加減にお部屋にお戻りくださいませ!お勉強の時間はとっくに過ぎておりますぞ!」

「私は忙しいのよ!」


城内の通路の曲がり角をドリフトの如く煙をあげながら突っ走る2人。

2人は通った道はもはやボロボロである。


「いつもいつもお城を抜け出して、嘆かわしい!」

「私の勝手でしょうよ!」


ティニアは前方に飾られた花瓶を後ろへ投げる。


「甘い!」


ジュニアールは左手の袖口から出した短刀を右手で掴み花瓶を音も無く真っ二つにする。

さらに左手の袖口をティニアに向かって振ると手裏剣が幾重にも発射される。


「無駄よ!」


ティニアは壁を蹴って上に駆け上り、天窓を突き破る。

手裏剣はそのまま突き当たりの壁に突き刺さる。

青筋を浮かべたティニアは服に付いた細かいガラスなどを払い、天窓からジュニアールを怒りの混じった視線で見下ろす。


「私に当たったらどうするつもりよ!?」

「そのような柔な鍛え方をした覚えはないですぞ。痺れ薬を塗ったので当たり所によっては死にはしませんぞ。」

「殺したら意味ないでしょう!?」

「……みねうちだから大丈夫じゃよ。」

「その手裏剣は刃を落としてないじゃない!」


当たったら確実に……であろう。

痺れ薬も痛みもなくあの世へ行ける手助けにしかならない。


「…ジュニアール。いい加減にあきらめたら?護身のための戦闘訓練では負けっぱなしだけど体力と足の速さは私のほうが上よ。」

「確かに現役の傭兵だった時代よりは身体能力は落ちましたが…」


ジュニアールは袖から出した鉤爪付きのロープをティニアのいる天窓に引っ掛ける。


「経験と知識なら負けませんぞ!」

「どれだけ隠し持ってるのよ!?」


ロープをものすごい速さで登る姿はとても老人とは思えない。

ジュニアールは元傭兵で先代の国王の時代から仕えている。

幼少の頃よりティニアに護身術を教えてきた先生でもある。


「今投降するなら勉強時間を8時間増やすだけにしておきますぞ。」

「多すぎよ!そんなに勉強したら死んじゃうわよ!?」

「昔から相手が死ぬ一歩手前を見極めるのは得意ですから安心してください。」

「できるわけないでしょ〜!!」


屋根に登って来たジュニアールにツッコミを入れながら走って逃げる。

ジュニアールは袖口から飛針を無数に飛ばしてその姿を追う。

無数に放たれる飛針はティニアへと向かうがその姿を捉えることはなく、その全てが屋根に突き刺さり、あるいは屋根の下へと落ちていく。

身をひねり、動きに緩急をつけて避けるがついにティニアは屋根の端に追い詰められる。

飛び移れる場所も無く、飛び降りるには高すぎる。

前方には袖をティニアに向ける執事。


「もう逃げられませんぞ。」

「そのセリフって悪役みたいよ。」

「確かに個人的に善行より悪行の方が好きですが?」


ニヤリと笑う執事は実に不気味に見えたティニア。


「そもそも普通の執事は王女を武器で攻撃しないわよ。」

「私だって本当はこんな事をしたくはないのですが王女様のためを思って心を鬼にして泣く泣く…。」

「…その割には日々武器が凶悪になっているわよ?」

「最近は逃げる王女様を仕留めることが数少ない老人の趣味ですからね。」

「悪趣味にも程があるわよ!?付き合ってられないわ!」


そう言ってティニアは屋根から飛び降りた。

ジュニアールがあわてて駆け寄り、下を覗き込むとティニアは空中を飛んでいた。

良く見ると城の外壁から城外にかけて細いワイヤーが張られていた。

それも目を凝らさなければ見えないほどの極細のワイヤーの上をティニアは滑っている。

ティニアの靴は特注でワイヤーどころかナイフでも切れる事は無い。

それもジュニアールがティニアに足技主体の格闘術を教えたためにナイフ持ちの相手とも戦えるようにとティニア自身が鍛冶屋に作らせたものである。

ティニアはそのおかげで難なく城外へと消えていった。


「今日も逃げられたわい…。弟子の成長を喜ぶべきか嘆くべきか…。」


ため息を吐きながら天窓へと戻る。

フッと思い直してもう一度ワイヤーを見る。


「王女様にはワイヤーを用意する時間は無いはずじゃが?…協力者は……帰ったらお仕置きじゃな。」


ジュニアールの脳裏には王女と小さなメイド2人の処罰を考えながら天窓をを潜り、廊下に降り立ったが追跡でボロボロになった廊下を見た。


「その前に…わしがメイド長のお仕置きから生きて帰る事が先じゃな。」


ため息を吐くジュニアールの前方からはドシドシと恰幅の良いメイド長が般若の表情でこちらに向かっていた。


………

……


「ごめんなさい、待たせたわね。」

「王女様♪」

「…前回より脱出タイムが長いですね。」


クロトスの喫茶店の前ではメイド2人が待っていた。

元気いっぱいの黄色いワンピースを着たエルと毎回のティニアが城から脱出するタイムを計り、メモしている薄い水色のエルと同じワンピースを着るリン。

噂ではティニアの脱出タイムを予想する賭けが城内の秘密のブームらしい。

ちなみに王様も参加しているとか。


「本当にありがとうね、2人とも。おかげで今回もジュニアールから逃げられたわ。」

「お礼はおにいちゃんが作ったケーキの奢りですからね♪」

「わかっているわよ。…でも、リンはどうして協力してくれたの?いつもだったら私が勉強さぼるのを注意するのに。」

「…あの爺さんが細かい事をネチネチと……コホンッ……察してください。」

「クスクスッ…わかったわ。」


どうやらジュニアールに怒られた仕返しのようだ。

そういえば朝に他のメイドからリンが花瓶の水を取り替え忘れたことでジュニアールに怒られていたと聞いたのをティニアは思い出した。


「そういえばどうだった、アルバイトの件?」


リンはティニアの質問に浮かない表情で首を横に振る。


「そう…。」


ティニアは城のメイド等にクロトスの喫茶店を手伝ってはもらえないかと訪ねたが大会期間中は皆忙しいらしく断られた。

今日だって3人とも色々と仕事があったためにここに来たのは夕方になってしまった。


「2人とも。考えても仕方ないですし、入りましょう♪」


エルは2人を急かすように今にも涎を垂らしそうな表情で2人の袖を引っ張る。

リンは勢い良く扉を開き、ドアに付けられたベルが響く。


「いらっしゃいませ〜!」

「「「……へっ!?」」」


そこにはウェイトレスの格好をしたいるはずの無いウェイトレスがいた。

驚きもあったが3人はその女性に見とれていた。

長いサラサラな黒髪に吸い込まれそうな漆黒の瞳。

その鋭い目は見ているだけで吸い込まれそうである。

赤を基調としたウェイトレスの制服は女性のスタイルの良さを惜しげもなく際立たせる。


「3名様ですか?」

「…あっ、はい。」

「かしこまりました。どうぞ、こちらの席へ。」


3人は案内されるがままに席へと案内される。

3人は顔を合わせるが誰もその女性を知らないようだ。


「失礼します。」


そう言ってテーブルに冷えたお冷を置いたのは先ほどとは違うウェイトレス。

肩までかかった白銀の髪の無表情の少女だ。

リンとエルと同じくらいの年に見えるが胸が比べ物にならなかった。

双子であるがリンよりエルのほうが若干大きいのだがそれでも小ぶりな方である。

この年ではそれぐらいが普通だがこの少女はレベルの桁が違った。

ティニアが自分と比べたほどである。

本人の名誉のためにどちらが大きいかは秘密にしておこう。


「ご注文がお決まりになりましたら………ウリエル殿、注文が決まったらどうするのであったかな?」

「私達を呼んでもらうのよ。『ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい』で良いの。」

「了承した。そういうことだ。決まったら呼べ。」

「グラム、ちゃんとやりなさい!」

「我はこの方が喋りやすいのだ。」

「これも貴方の勉強よ。…ごめんなさいね。この子は世間知らずなところがあるから。」


そう言って頭を下げる長身のウェイトレス。


「いっ、いえ。構いません!…あ、あのぅ?」

「何かしら?」

「おにいちゃんはどうしたんですか?」


慌てて質問しようとしたティニアだが先にエルに質問される。

いつもならカウンターにいるクロトスが今はいないようだ。


「おにいちゃんって貴方の兄弟?」

「…クロにぃはこの店のマスター。」


首を傾げる黒髪のウェイトレス。


「あの、この店の主人のクロトスさんはいらっしゃいますか?」

「あら。この店にクロトスさんという方はいませんよ?」


一瞬、その言葉が理解できなかった。


「ウリエル殿。主のことではないのか?」

「あ〜、ねぇ?貴方達の言っているクロトスさんって蒼色の髪で赤いバンダナを頭に巻いている人?」

「あ、はい。そうです。最近はバンダナを巻いてないですけど。」


最初にクロトスに会った時は頭にバンダナを巻いていた事を思い出すティニア。

最近は巻いている所を見ていないが。


「もしかして…貴方がティニアさん?」

「えっ!そうですけど…。」

「じゃあ、貴方達がリンちゃんとエルちゃん?」


そう言って2人を見る。


「そうで〜す♪」


エルは元気良く返事をし、リンは頷く。


「あら、話は彼から聞いています。私はウリエルと言います。彼とは昔からの友人です。」


そう言って微笑みながら会釈する。


「あ、はい。私はティニア=セヴィオールと言います。この国の王女をしております。」

「メイドのエルです。リンちゃんとは双子なのです。」

「…リンです。」


そう言って慌てながらも挨拶に慣れているティニアは落ち着きを取り戻しながら挨拶する。

エルは無邪気に、リンは警戒しながらも挨拶を交わす。


「ほら。貴方も挨拶しなさい。」


そう言って先ほどの少女を呼ぶ。

少女はトコトコと歩いてくる。


「我はグラムと言う。以後、お見知りおきを。」


そう言って恭しくスカートの端を持って挨拶する。

その姿にため息を吐くウリエル。


「貴方は喋りが固すぎるわよ。その姿のときはもう少し女の子っぽく喋りなさい。」

「長年この口調なのだから突然変えろと言われても難儀だぞ。」


無表情の顔をウリエルに向けて言い返す。


「似合わないし、そんなの可愛くないわよ。」

「女が可愛くするのは男の種子を得るためだろう?我には必要ない。」

「貴方のその変な知識は何処から得てるのよ!?」


言い争うを2人に着いていけない3人はただその様子を眺めている。

その様子に気が付いたウリエルは咳をして誤魔化すウリエル。


「彼ならコーヒー豆が切れたからって仕入れに行ったわよ。」

「あ、そうなんですか。」

「ウリエル殿。この娘達が主の女達か?」


その言葉にウリエル、ティニアは噴き出し、リンは顔を赤くし、エルは理解していないために首を傾げる。


「なっ、なななななななあ!?」

「なんてこと言うのよ!?」


ティニアは言葉が口から出ず、ウリエルは顔を赤くしながら叱る。


「ウリエル殿が正室としたらこれで側室は5人だな。跡継ぎには心配ないな。」

「「「「「なぁっ!?」」」」」


グラムを除く5人が驚きの声と多種多様な表情を浮かべる。

顔が赤くなる者が2人、想像したのか顔を俯かせる者、頭を掻いて照れる者。

本人の名誉のために誰の事かは明かさないようにしよう。


「え〜と、正室とか側室って…おにいちゃんって偉い人なの?」

「「そこなの!?」」


エルのずれた質問にティニアとウリエルがすかさずつっこみを入れる。

ちなみにリンは想像(妄想)で真っ赤になって頭から煙が出ている。


「知らないのか?主が何者なのかを?」


うなずく2人。


「おにいちゃんは昔の事は何も言わないから…。」


寂しそうに言うエル。

ティニアも悲しそうな表情を浮かべる。

ウリエルは優しそうな表情でフワッとエルを抱きしめる。

驚くエルの顔の目の前でウリエルは幾分悲しみを交えた微笑みを見せる。


「私達もあの人が何者かは言う事はできないけど…貴方達にならいつか話してくれるはずよ。だから、あの人が話す決心が付くまで待ってあげて。あの人は貴方達を大切に思ってるわ。」

「本当?」

「ええ。昨日、貴方達の話をあの人が話してくれたの。その時の表情が楽しそうで…優しくて…ちょっとだけ妬いちゃった♪」


ペロッと舌を出すウリエルに明るい表情を取り戻すエル。


「だから、信じて待ってあげて。」


キュッと抱きしめる力を強くするウリエルをエルは抱きしめる。


「最初から信じてるよ。だって、私達のおにいちゃんだもん♪」

「ありがとう。」


抱きしめあう2人を見守るティニア。

その時、店内に来客を告げるベルが鳴る。


「ただい…まぁ……あっ?」


帰ってきたクロトスが見たのは抱きしめあうエルとウリエル。

ティニアは呆然とし、リンは未だに妄想中で顔を赤くしている。

この状況を見てクロトスは……


「……失礼しました。」


扉を閉めようとしたらいつの間にかウリエルが扉を押さえていた。


「…何しているの?」


ウリエルが睨みつけるとクロトスはイタズラを思いついたような笑顔で言った。


「ウリエルがロリコンだったなんて知らなかったよ。俺はそういうのに偏見はないから安心しろ。」

「っ〜、そんな訳ないでしょう!」

「他にどう想像しろと?」


抱きしめあう美女と美少女。

実はティニアもこっそりと心の中で同意していた。


「そもそも、あんたが悪いんでしょう!」

「なぜに!?」

「ちょっと、こっちに来なさい!」


手を掴まれて店の奥に引きずられるクロトス。

店の奥に連れて行かれたクロトスはウリエルと2人でひそひそと小声で話す。


「…どこまで話したの?」

「何を?」

「貴方の正体よ。」


言われて若干躊躇するクロトス。


「…何も話していない。偽名を名乗っている。」

「なんで?あの子達なら大丈夫じゃないの?」

「………。」


黙り込むクロトスにウリエルが1つの可能性を聞く。


「怖いの?拒絶されるのが。」


ビクッと震える。


「それとも、神王として見られるのが嫌?」

「…どっちもだ。」

「あの子達なら大丈夫そうじゃないの?」

「…こっちの世界には神話があるんだ。」

「神話ぐらいどの世界にもあるでしょう?」

「この世界では神王が出てくる。しかも、世界の救世主として称えられている。」

「それは……。」


確かにそれでは言いにくいかもしれない。

彼女らにとっては自分は神様と言ってるに等しい。

普通は信じないし、人によってはそれだけではすまない。


「だから、俺はこの世界では『クロトス』として生きていこうと思ったんだ。」

「それでも、私はあの子達なら…。」

「…わかってるよ。」


クロトスはウリエルに背を向けて店に戻ろうとする。


「決心がついたら……俺が話すよ。きっと、何時の日か…。」

「あまり待たせちゃ駄目よ。待たせすぎると余計に悲しませちゃうから。」


クロトスは返事をせずに店へと戻っていった。


「本当に…不器用なんだから。」


ため息は静寂に消えていった。

グラムの事は伏線なので間違いではありません。

今後の話で説明します。

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